(関連目次)→医療事故安全調査委員会 各学会の反応
(投稿:by 僻地の産科医)
医師法21条を凌駕する(かもしれない)新法が
実はいま審議中であることは、私は知りませんでした。
またその件については、またお伝えしますねo(^-^)o ..。*♡
2008年06月02日
民主党参議院議員・鈴木寛氏に聞く
“医療事故調”の「鈴木試案」と厚労省の過失
「患者救済」「再発防止」「医師法21条」を
独立して考えれば答えは出る
聞き手・橋本佳子(m3.com編集長)
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080602_2.html
厚生労働省は、診療関連死の死因究明などを行う組織「医療安全調査委員会」設置の検討を進めており、この4月に「第三次試案」をまとめた。しかし、多数寄せられたパブリックコメントには反対意見も多く、現時点では着地点がみえない。民主党参議院議員の鈴木寛氏は、「厚労省は政策決定過程で『過失』を犯している」と手厳しく批判した上で、「患者救済、再発防止、医師法21条の見直しの三元連立方程式を解く案はある」と語る。鈴木氏の考える「試案」を聞いた。(2008年5月30日にインタビュー)
1986年東京大学法学部卒、通商産業省に入省。99年退職し、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス環境情報学部助教授に就任。2001年から参議院議員、現在は2期目。中央大学客員教授なども務める。
――先生の考える「試案」とはどのようなものなのでしょうか。
一議員として、またこれまで公共政策の研究・実践に携わってきた立場として、「医療安全調査委員会」(“医療事故調”)の一連の議論を見てきました。
患者側と医療者ともに、診療関連死の死因究明などを行う組織の必要性という点では、一致しているのです。にもかかわらず、後述するように、厚生労働省の政策立案者としての技術のなさによって、本来解けるはずの「三元連立方程式」が迷宮入りしてしまっています。これにより、議論の過程で患者側と医療者の対立構造が生じてしまったことは問題でしょう。
「三元連立方程式」とは、患者救済、再発防止、医師法21条の見直しという、3つの目的を達成する方程式です。
――患者側と医療者側が、「医療安全調査委員会」に期待する役割には多少違いがあるとお考えですか。
医療事故に遭った患者やその家族が、「医療安全調査委員会」の設置を求める一番の理由は、「いったい何があったのか」、つまり事故の真相を究明してほしい、十分に納得がいくまで説明してほしいという思いでしょう。現在、患者サイドは解決手段がないので、やむを得ず警察に駆け込んでいるのであって、医療者が逮捕・立件されるのを望んでいるわけではないと思います。
一方、医療者、特に医師が一番問題視しているのは、「異状死」の届け出を定めた医師法21条です。届け出により、警察が入り、医療事故が刑事事件化することへの懸念から萎縮医療が生じています。このため、医療者は刑事当局が医療現場に介入する際のルールを明確化してほしいと思っています。
さらに医療事故の再発防止は、患者側と医療者に共通した願いだと思います。
――どうすれば、「三元連立方程式」を解くことができるでしょうか。
それぞれの目的に合った解決手段を考えればいいのです。患者の救済と医師法21条の問題と、再発防止は別個に考える、つまり別組織で対応する必要があります。再発防止については、現在行われている日本医療機能評価機構の事業を拡充すればいいわけです。
――では、患者の救済と医師法21条の問題の解決策は。
医師法21条を改正し、「死亡診断書」「死体検案書」「死産証書」を発行できない事例を届け出の対象とします。つまり、死因が不詳の死については検案書を発行せず、警察に届け出るようにします。それと同時に、虚偽の診断・検案書作成に対しては、厳罰化・重罰化します。
医師法21条が問題なのは、「死体を検案して異状が認められるときは、届け出を行う」としている点です。これは「主観的構成要件」であり、解釈が多岐にわたるため、医療現場に混乱が生じています。ですから診断書・検案書の発行という「実行行為」、つまりは「客観的構成要件」にする必要があるわけです。
もちろん、医療者側が死亡診断などを発行しても、それに患者側が納得できない場合もあります。そのようなケースに対応するために、
(1)患者側は、医療機関内に原因究明委員会の設置を要求できる
(2)医学的・科学的原因究明のための第三者機関として「医療安全調査委員会」を設置し、患者側あるいは医療機関が原因究明を依頼できる
(3)裁判外紛争処理機関(ADR)の設置――などの患者救済策を実施します。
さらに、厚労省の第三次試案では、「医療安全調査委員会」は、「故意や重大な過失、診療録等の改ざん・隠蔽などの事例」については捜査機関に通知するとしていますが、「重大な過失」は含めず、「診療録等の改ざん・隠蔽、故意事例」に限定します。
――日本医療機能評価機構の事業の拡充とは。
現在、同機構は、「医療事故情報収集等事業」を実施しています。現在、報告義務があるのは、特定機能病院や国立病院機構の病院など、一部に限られます。これを全病院に広げます。事業を拡充するには、人も予算もかかるため、その手当ても必要です。
――医療側には、業務上過失致死罪に問われることへの懸念もあります。中には医療事故の「刑事免責」を求める声もありますが。
現時点では、難しいと思います。患者側の刑事告発権を縛ることはできないでしょうし、そもそも明確に立法しなければ縛ることはできないと思います。仮に将来、刑事免責を考えるならば、例えばまず「医療上重過失致死罪」などを新設・運用し、国民の理解・納得が得られた後に、業務上過失致死罪の適用について議論するというプロセスが必要なのではないでしょうか。
――ところで、先生は、「医療安全調査委員会」をめぐる議論のプロセスは、従来の政策立案過程とは異なると指摘されています。
まさに医療政策の立案過程における、「熟議の民主主義」の最初のケースになるのではないでしょうか。従来、政策は「お上が作るもの」であり、所与のものとして現場の人間はいかに自己最適化を図るかを考えていた。ところが今回はそれから脱して、政策過程から現場の人がかかわったからです。
従来は、まず厚労省の事務局が原案を作り、日本医師会をはじめ、医療関係団体が主要メンバーとなる委員会を構成し、そこで議論されるのが一般的でした。しかし、メンバー自体、事務当局が決定する上、短時間の会議では本格的な議論を行うことはできず、結果的に委員会は形式的に原案を承認する場にすぎませんでした。最近はパブリックコメントを求めるようになりましたが、これらが政策に反映されることもありませんでした。こうした「官僚内閣制」が何十年も続いてきたわけです。
一方、今回は、多くの関係者が議論に加わり、たくさんの人が昨年10月の第二次試案やこの4月の第三次試案にパブリックコメントを出しました。学会や自主開催のシンポジウム、さらにはマスメディアあるいは医療専門メディアなど、多様な場で、まじめかつ本格的な議論が展開されました。これは、厚労省の事務局、検討会の座長のおかげであるとも言え、敬意を表してもいいと思います。反対意見などが出ても、途中で議論を打ち切り、検討会で強硬採決することも可能だったわけですが、それをしなかったからです。
――それでも、厚労省に問題があると。
厚労省の姿勢自体は評価しましたが、やはり当局の政策技術上の無理解、専門的知見の欠如は否めません。これは、
(1)2005年のWHO医療安全システムに関するガイドライン(World Alliance for Patient Safety- WHO Draft Guidelines for Adverse Event Reporting and Learning Systems、「医療事故(診療関連死)の報告者は、報告をしたことにより刑罰から免責されなければならない」などと定めている)
(2)2004年の日本医師会の「医師の職業倫理指針」(「医療事故の報告について、過失や事故を報告したことにより不利益処分がなされないように制度設計する必要がある」などと定めている)
(3)安全品質管理マネジメントの基本原則(TQC/TQMのための“カイゼン”運動は、失敗・不備を制裁すると成り立たない、など)
などに対する「無理解」とも言えます。
例えば、先ほどもお話しましたが、医師法21条については、医療現場に混乱が生じないよう、「主観的構成要件」から「客観的構成要件」に変更する必要があるわけです。それにもかかわらず、厚労省の第三次試案では、「診療関連死」「重大な過失」などの新たな「主観的構成要件」を導入し、診療関連死の届け出の義務化・厳罰化、さらには警察への通知のトリガーになる制度を創設しようとしています。これでは、医師の不安を二乗三乗に増幅するだけです。
厚生官僚は、確かにまじめに、誠実に取り組んでいます。しかし、政策立案者に求められる「標準的技術水準」に達していないのです。今の医療界で言うなら、これは「過失」に相当するのではないでしょうか。
――6月5日には日本医学会がこの件で会議を開催するなど、まだ議論は続きます。今後、どんな形で意見が集約されるとお考えでしょうか。
この問題に対しては、様々な方が発言されています。一個人として、純粋に日本の医療を良くしたいという思いから意見を言うのか、あるいは何らかの会や組織の代表者としてなのか――。各人がどんな立場で、発言・行動するかにかかっているのではないでしょうか。
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