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(投稿:by 僻地の産科医)
周産期医学 2008年6月号からですo(^-^)o ..。*♡
特集は周産期脳障害の原因とその予防
この記事を上げたら、夕方には、先々週の「日本胎児治療学会」での胎児診断を受けられたお母様方の抄録集(関係があるから!)をあげたかったのですけれど、昨日今日と子供の行事のお陰でなにも手につきません(;;)。
胎児治療学会報告までいけるかどうか、わからないけれど、
せっかく用意したのであげさせていただきます!
夕方までに記事化できるようだったら、それでもあげたいです(>▽<)!!
(できなかったらごめんなさい!)
周産期脳障害が予測される症例への告知
高田 哲
(周産期医学 vol.38 N0.6 2008-6 p769-773)
はじめに
周産期医療の進歩によって多くの子どもたちが救命されるようになってきた。しかしながら,救命はできたものの重篤な神経学的後障害を残す例も少なくない。頭部超音波検査やMRI検査の普及によって,出生後早期より神経学的予後をある程度予測できるようになってきた。このような場面に直面してどのように家族に状況を説明するかについて,戸惑うこともしばしば経験する。医療者からの「告知」は,家族自身が子どもの状態を受け止め,子どものもっている可能性を十分に理解するために極めて重要な役割をもっている。周産期のトラブルを巡る訴訟が頻発する状況から,医師の説明は過剰なまでに防御的なものになりがちである。 しかし,説明を受ける家族の気持ちを理解し、宗族とともに子どもの発達を支えるためにできる限りのことを行うという共感的な姿勢が大切である。本稿では,まず「告知」を行う際にぜひとも知っておくべき心理学的な基本を概説し,次に「告知」の具体的な手順と意義について述べていきたい。なお、「告知」という言葉には,断定的な響きがある。子どもの発達には,まだまだ予見できない要素があるので,「現在の状況と予後に関する説明」と考えるほうが妥当かもしれない。
障害受容へのプロセス
1.家族が子どもの問題を受容するプロセス
家族が子どものありのままの姿を肯定的に受け入れた状態を「受容」と呼んでいる。一般に人は,突然に悲しい出来事に出会った場合,その事実を受容していくために一連の心理経過をとることが知られている。これは汗喪(悲しみ)の作業(grieving process)」と呼ばれており,①・ショック(驚き・困惑)→②否定→③怒りと悲しみ→④容認→⑤積極的受け入れと再起,という一連の流れから成り立っている(図1)。
これらの心理過程を通過するスピードは出来事の種類や個人の生活背景,そして周囲からの支援によって大きく異なる。ここでは,生まれてくる子どもに寄せていたイメージを一度壊す(なくしてしまう),そして新しいイメージを作り上げ,そこから出発するという作業が必要となってくる。家族に障害を告げる時には,医療者は家族の悲しみの気持ちをしっかりと受けとめ,一緒に悲しみつつも,「新しい事態に協力して立ち向かっていく」という積極的な方向に向かうようにサポートしなくてはならない。また,受容の過程は必ずしも直線的には進まない。揺れ動く家族の心を理解する必要がある。
2.周産期における母親の状況
周産期脳障害のハイリスクグループである早期産児では,多くの場合,母親には切迫早産,前期破水,妊娠高血圧症などの合併症が存在する。母親は,子どもの神経学的予後に対する不安と同時に自分自身の健康に対する不安に向かわなくてはならない。出生体重600 g未満で生まれた子どもの母親3人に,子どもが1歳を迎えた時点で出産時の気持ちをインタビューしたことがある。3人の母親は,いずれも破水や妊娠高血圧症候群の悪化のため緊急入院となり,慌しい中で出産が始まっていた。突然に予期せぬ分娩と直面することになり,母親たちは「自分自身の生命に対する不安」と「生まれてくる子どもの生命予後や発達予後に対する不安」が入り混じった複雑な心境を経験していた。「子どもが生まれた時には,意識もおぼろげな状態でした。自分の身体がどうなっていくのかが怖くて,子どものことを思いやる余裕さえもなかった。それを今思うと申し訳なくて」と深い後悔と自責の念をもち続けている母親もみられた。家族に周産期の脳障害について説明する時には,母親が障害そのものを自らの責任と感じることのないように十分に配慮しなくてはならない。
3.父親と母親における受容の違い
我が子の障害を受容する過程には,障害の種類や重症度などの子ども側の要因とともに親の要因(性格,不安傾向,障害に関する理解の程度),社会的要因(社会的支援の程度)などさまざまな要因が影響する。一方,医師から子どもの状態を告げられた時の気持ちは母親と父親で大きく異なることが指摘されている。一般に母親は子どもの将来についてより悲硯的にとらえがちであり,父親は現実対応型である。我々が自助グループの協力を得て,ダウン症先の父親・母親65組を対象に行った調査でも,父親に比べて母親のほうが子どもの障害についての受容に時間を要し,また,告知を受けた後に「信じられない」,「ショック」などの気持ちを有意に強くもっていた5)(表,図2)。
先天的な要因をもつダウン症先例と周産期脳障害のような後天的に発生したものとの違いはあるものの父親と母親の間には受け止め方の違いがあることを知っておく必要がある。一方,「子どもの受容を支えたもの」としては,父親,母親ともに「家族の存在」を上位にあげていた。しかし,母親では父親に比べて同じような経論をもつ仲間の存在をあげる割合が高かった(図3)。
男女差だけではなく個人の考え方の違いも大きいので,医療費は家族の考え方,価値観を十分に考慮して説明を行う必要がある。
告知の具体的な方法と注意点
1,対象者と告知の場所
家族に説明する時には,家族が安心して質問できるような静かで温かい雰囲気の閉鎖空間を用意する。ナースステーションや病室の片隅での説明は家族にさまざまな不安感と「大切にされていない」という印象を与える。また,説明には医師だけではなく,病棟看護師長や担当看護師も参加し,かかわるスタッフ全員が協力して家族を支える姿勢を示すことが大切である。家族にとって看護師は最も身近な相談相手である。医師と担当看護師などの医療スタッフ間で説明が異なっていると,家族は不安を抱くことが多い。一方,母親にとっては,夫とともに自分白身の母親からの支援が何よりも大きな支えとなっている。できれば祖父母も同席する場面で説明するほうがよいだろう。また,告知は必ず両親が一緒にいる時に行うのがよい。母親に不安を与えまいと父親だけに話した場合,「妻に重要なことを隠している」という父親の心理的葛藤が強くなりすぎ,自然な家族としての機能を阻害してしまうことがある。また,話を伝える時には,家族の中のキーパーソンが誰かということをしっかり把握しておくべきである。
2.告知時の内容
1)具体的・客観的な資料に基づいて話す
MRIや超音波検査所見など具体的な資料を実際にみせ,できる限り平明に話すことが大切である。まだ生まれていない赤ちゃんについて話す場合には,わかっていることとわかっていないことを明確にし,憶測で話すことは避けるっいたずらに過去の文献を紹介し,「~%に障害が残る」などと数値の羅列をするのは,家族にとって「非常に冷たい態度」,「責任逃れをしようとしている」と感じられる恐れがある。多くの家族は「医療者に信頼して任せるしかない」と考えている。「生まれてくる子どものために,スタッフも全力をつくすので,一緒に頑張りましょう」という姿勢を示すことが大切である。時には,不安感が身近な医療スタッフヘの攻撃として現れることがある。そのような場合にも,家族のおかれている心理状況を理解し,温かさと冷静さを失わない説明か重要である。
2)PVLの告知時期
最近では,子どもの症状が出現する前に,頭部超音波検査ではっきりとした両側性のcystic PVLを認めたり,MRI上で大脳基底核病変を認める場合もある。このような場合には,NICUへ入院中に両親に事実を正確に伝えるべきである。臨床症状が現れる前であっても,「退院後も定期的な受診が必要なこと」,「月齢を経るにつれて筋緊張が高まる可能性があり,リハビリテーションが必要となる場合もあること」を伝えておく。いつどのように告知(説明)するかは,両親との信頼関係,家族の社会的環境,支援体制などを考慮した上で決定すべきである。形態学的な異常の程度は子どもの臨床症状と必ずしも一致しない。臨床症状が明確でない時点では,「脳性麻痺」という言葉をあえて使用する必要はなく,「姿勢の異常を認めた場合には直ちに理学訓練などを始めるよう準備している」と伝えればよい。 しかしNICU入院中からリハビリテーションを行う場合には,「脳性麻痺」となるリスクが高いこと,異常な姿勢,運動パターンを防ぐためにリハビリテーションが必要なことを説明すべきである。
3)療育プランなど具体的な対処法を述べる
「自分たちにとってできることは何もない」という気持ちは,絶望感・無力感,さらに子どもへの否認につながる。ショックから積極的な受容へと行動を変えていく要素として「良い結果を生み出すために私たちにはとり得る手段がある」という気持ち(自己効力感)が大きな働きをもっている。障害がはっきりとしてきた時期には,今後の療育プランについて説明し,少しでもハンディが軽くなるようにスタッフも一緒に努力することを伝え,さらに家族ができることを具体的に示すのがよい。
4)カルテヘの記載とセカンドオピニオン
家族への説明事項は,そのつどカルテに簡潔に記載しておく。これらの記載は子どもの状態をまとめたりよ一貫した家族支援を行うために大変有用である。また、家族がほかの専門医の意見を求めた時には,積性的に紹介するのがよい。何人もの専門家の意見を聞いて家族自身の戸惑いが軽減し,肯定的な受容へと向かうことが多い。また,逆にセカンドオピニオンを求められた時には,客観的な立場から家族に丁寧に説明することが大切である。多くの場合,専門家の意見はそれほど変わらないし,治療に選択肢かおるならばそれを示すことも重要である。
おわりに
医師からの診断は,家族や周囲の人たちが子どもの状態を理解し,方向性を考えていくための第一歩である(図4)。患者・家族に正しく状態を伝えるコミュニケーション能力は今後,医師が身につけるべき基本能力と思われる。
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