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(投稿:by 僻地の産科医)
児童手当の拡充で出生率は上昇するか?
日経NetPlus 2008-07-23
http://netplus.nikkei.co.jp/nikkei/news/mhlw/mhlw/mhl080722.html
2007年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産むと推定される子どもの数)は1.34だった。前年を0.02上回ったが、出生数は108万9745人と約3000人減少し、少子化傾向は続いている。子育てのための経済的支援に対するニーズは大きいが、「児童手当などを増やせば子どもが増える」という裏付けもないのが実情。 児童手当について調べてみた。
日本経済新聞社が5月下旬に、未就学児を1人以上持つ全国の30代女性を対象にインターネット調査を実施した。理想とする子どもの人数と現実の子どもの人数に差があると答えた人は全体の約4割に上り、その459人が理想と現実の人数に差がある理由として最も多く挙げたのは「経済的に余裕がないから」だった。
全体では、理想の子どもの人数が平均2.38人だったのに対し、現実は平均1.62人。まだ授からないケースを含むものの、可能ならば2人目、3人目を産みたいと考えている母親がいることが分かった。また「出生率を上げたいならどんな支援を充実させるべきかと」の質問に対し、専業主婦(515人)は「児童手当の充実」(66%)、「出産育児一時金の増額」(35%)などの経済的支援を主に挙げた。
児童手当制度は1972年に始まった。初年度は3人目以降の子どもに中学校修了前まで月3000円を支給した。段階的に引き上げられ、75年に月5000円になった。その後は第2子以降に拡大する一方で、支給期間を小学校入学前に狭め、第2子は月2500円、第3子は月5000円とした。92年に第1子まで広げたが、対象年齢を3歳未満に絞るなどさらに支給期間を狭めた。同時に、第1子と第2子を月5000円、第3子以降を月1万円に引き上げて支給額は定着。制度導入からの20年間で改正されてはいるが、給付総額はおおむね年1500億円から2000億円程度で推移した。
■児童手当、07年度には1兆円超
2000年以降も支給額は同じ。一方で、支給対象年齢を00年に小学校入学前までに引き上げたほか、01年には親の所得制限を緩和したり、0 4年には小学校第3学年終了前に引き上げたりするなどの拡大が続いている。06年には支給期間を小学校修了前まで広げると同時に、所得制限もさらに緩和した。その結果、給付総額は06年度に8582億円(予算ベース)と00年度に比べ約3倍に膨らんでいる。
07年度の支給額は1兆267億円と初めて1兆円を超えた見通し(予算ベース)。07年4月から児童手当の乳幼児加算制度が始まったのが背景だ。これにより、第1子も第2子も3歳児未満は月5000円から一律、月1万円に引き上げられた。
■待機児童対策の拡充を求める声も
児童手当は00年以降、給付総額としては急増したが、出生率は05年に1.26に落ち込み、今年も流れが変わったとはいえない。内閣府の参事官として「新しい少子化対策」をまとめて乳幼児加算制度の導入に奔走した増田雅暢上智大教授は、「児童手当の拡充と出生率は無関係。児童手当は子育て家族の支援」と説明する。児童手当は「出生率対策というより、生活を安定させ、子どもが健全に育つための社会的支援」という位置付けだ。
もっとも「児童手当の給付を増やすことより、待機児童対策などに振り向けてほしいという声もある」(厚生労働省)。調査でも、フルタイム勤務する正社員(515人)が「育児と仕事の両立に役立つ」と答えた比率が9割を超えたのは、「在宅勤務」「短時間勤務」「残業の免除」「子育て手当」「1歳半を上回る育児休業制度」だった。
子育てをする母親には、専業主婦も働く女性もいる。少子化は女性だけが背負う問題でもない。増田教授は「どれか1つの施策が出生率を上げるのではなく、厚労省が進めてきた保育サービスの充実や、仕事と育児の両立支援はもちろん、男性の育児・家事参加、経済的支援、子どもを歓迎する社会全体の雰囲気づくりなど様々な取り組みが必要」としている。
《調査の方法》 1人以上の未就学児と同居している全国の30代女性を対象に5月下旬、ネット調査会社のマクロミルを通じて実施。フルタイム勤務の正社員515人と専業主婦515人の計1030人からの回答を集計した。
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