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(投稿:by 僻地の産科医)
日経メディカル7月号!
今月号が届きましたo(^-^)o ..。*♡
「刑事訴追、そのとき医師は…」
今日は最終話です(>▽<)!!!
刑事事件の経験を語る―③
納得かない鑑定でぬれぎぬ
「事故調」は絶対創設すべき
東京女子医科大学心臓血管外科講師 西田博氏
(Nikkei Medical 2008.7 p76-77)
にしだひろし氏
1979年愛媛大医学部卒、東京女子医大日本心臓血圧研究所外科入局。91年心臓血管外科講師。
事件の概要
2002年11月、アルバイト先の病院で休.日昼間の内科外来を担当していた西田博氏は、全身倦怠態と微熱を主訴とし、糖尿病の既往を有する70歳代男性を診察した。胸部×線検査では右肺に広範な浸潤影があり肺炎が疑われたため、抗菌薬を含む500mLの点滴2本を処方して入院させた。そして、夕方、勤務時間を終えて帰宅した。
ところが、その3時間後に患者は急変しご当直医の蘇生のかいなく、外来受診から8時間後に死亡。当直医の死亡診断は、西田氏の外来診断と同じ「重症肺炎」による急性心不全だった。
しかし、歩いて病院に行った患者が入院から6時間後に死亡したため遺族は納得せず、警察に告訴。さらに、司法解剖による死因の第一報は「肺水腫による心筋障害」という意味の通らない内容で、死亡診断書と異なっていた。このため、西田氏が外来の胸部X線検査で肺水腫を見逃した上、点滴治療で病状を悪化させ、患者を死亡させたという、同氏にとって不可解な嫌疑をかけられることになった。
4年後の06年秋、西田氏は被疑者となり、07年2月から10月までに警察(19回)と検察(1回)の取り調べを計20回受けた。
その結果、検察は、「嫌疑不十分(過失なし)」として西田氏を不起訴とした。この判定を不服とした遺族が再検討を申し入れた検察審査会も、予見義務、結果回避義務ともに違反はないと判断し、不起訴相当であるとした。
私はこの事件で、診察にミスがなかったと証明されて不起訴になりました。ですが、そのために要した時間とコストは膨大なものでした。
警察と検察の取り調べは、計20回にも上りました。さらに、専門家3人に意見書を書いてもらった費用や弁護料などは計約500万円。医賠責保険は刑事事件には適用されないので、これらはすべて自費でした。
論理的に破綻した鑑定書
今回の経験を通じて、医療行為による結果が刑事事件としてこじれる要因は3つあると感じました。
まず1つ目は、鑑定書の問題。この事件での鑑定書は、司法解剖をした法医学の教授が単独で書きました。この教授はインターン時代にしか臨床経験がありません。本来なら司法解剖所見のみ記せばいいと思いますが、私が診察時に撮影したレントゲン写真のあり得ない読影までしていました。しかも鑑定書の内容は、論理的に破綻したものでした。
例えば、死因について。「虚血性心筋損傷に伴う急性肺水腫と判断される。急性心筋損傷は糖尿病性の血管変性によりもたらされた心筋損傷による中枢性の急性肺水腫の悪化に伴うと考えられる」(原文)と、意味不明で堂々巡りした内容でした。レントゲン写真についても「バタフライ状の肺水腫の陰影がある」として)ましたが、刑事ですら取り調べの際、「どう見ても片肺にしか浸潤影がない」と本音を漏らす始末でした。
揚げ句の果て、頭部外傷などに続いて起こる肺水腫である「中枢性肺水腫」と、今回の事件の「心原性肺水腫」を混同して使っていたのです。
だが、警察は人を罪人にするのが仕事。捜査責任者の刑事課長は部下の声は聞かず、警察に都合の良い資料で私を追いつめようとしました。
では、なぜいい加減な鑑定書が作られるのか。それは、臨床経験の乏しい法医が単独で鑑定書をまとめるからでしょう。警察捜査と法医学のみによる真相究明では、事実に基づいた鑑定書は作成できないのです。このため、私は当たり前の無実を証明するために、専門家3人に意見書を書いてもらいました。
2つ目の問題は、警察の姿勢です。警察は病院の組織的な問題には目を向けず、一個人を罪に追い込もうとする。チーム医療が主流の中、1人に罪をかぶせるのはおかしなことですが、病院という組織を刑事事件で罰する法律はありません。
私の事案では、当直医や看護師への警察の聴取は最初から私に不利な証言を得る目的で行われました。当直医や看護師は自分が罪に問われたくない思いがあるので、警察の誘導に乗ったりうそをつきます。
つまり警察は、都合の良い証拠や証言で1つのストーリーを作り上げ、被疑者を罪に陥れようとします。
私は警察に何度も呼び出されましたが、疾病の一般知識を繰り返し説明させられ、講義をしているようなものでした。取り調べにへきえきして「なぜこんなに長くかかるのか」と尋ねると、警察は「先生が調書をしつこく直すからだ」と開き直りました。
調書は、検察が起訴・不起訴を決める資料になるほか、裁判の判断材料にも用いられます。このため、私は、発言の意図と少しでも違うところはすべて直しました。その上で納得したときだけ、サインしたのです。
死因究明の第三者機関必要
最後の要因は、遺族の感情。今回のように歩いて外来に来た親族が数時間後に亡くなれば、遺族は気が動転するのが普通。この際、医師は経緯の詳細を伝える必要があります。
私の事件では遺族への説明は、看取った当直医が約1時間行ったほか、私も、遺族が事故の1年後くらいに突然、大学の外来を訪れた際、正直に死因や処置内容を話しました。遺族は最初、患者さんを一度も診察しなかった当直医を非難しているようでしたが、警察が私を標的にした後はその対象が私に変わりました。
刑事事件に巻き込まれた医師には、大きな労力がかかります。これを避けるには、予期しない診療関連死を医療機関に全例届けさせて、死因を調べる第三者機関が絶対に必要です。これは、事件の当事者になった者でないと分からないでしょう。
現在、厚労省が創設を目指す「事故調」に対して医療関係者の反対意見が目立ちますが、私は設置には大いに賛成です。法医だけでなく臨床医や病理医なども加わる事故調が死因を調べれば、現在の鑑定書よりも格段に真実に近い報告書ができるでしょう。第三者機関が公明に調査し、公開すれば、患者や家族にも納得してもらえるはずです。
事故調の調査結果が捜査に使われて刑事事件が増えることを危惧する声がありますが、医療界が出した結論を警察がねじ曲げ、検察が医師個人を安易に起訴するとは思えません。そもそも、事故調ができても遺族の警察への告訴は妨げられません。その際にも事故調の調査を使ってもらった方が、今の警察の調べに任せるより利点は大きいはずです。
「医療は刑事責任を免責しろ」とか「医師法21条は廃止しろ」という主張だけでは、世間に受け入れられないでしょう。医療界が自主性を発揮して事故調を運営し、社会の信頼を得ることが先決だと思います。(談)
> そもそも、事故調ができても遺族の警察への告訴は妨げられません。その際にも事故調の調査を使ってもらった方が、今の警察の調べに任せるより利点は大きいはずです。
私もこの点は賛成で、事故調を民事刑事の裁判のための公的鑑定機関として利用すべきであると考えます。
トンデモ訴訟の影に、トンデモ鑑定・トンデモ協力医あり。正しい裁判を行うための必要条件として、正しい医学的意見を司法に持ち込むことを、制度的に保障しなければなりません。
特に、刑事事件においては、事故調の告発(「刑事事件相当」意見)無しには、警察は捜査に入れないし、検察は起訴できないこととすべきです。警察がテキトーに探してきた、どこかの医師と名の付く人の見解に依拠して起訴させるのではなく。
しかしそのためには、全ての刑事事件が事故調査を受けること、
つまり、事故調に届出がなされた案件ばかりでなく、遺族からの告訴なりによって警察が独自に事件を認知した場合についても、一旦事件を事故調に回付し、警察は事故調の結論を待って捜査に入ることとする制度でなければなりません。
それには刑事訴訟法の改正か、または特別法の制定を要します。
今出されている厚労省第三次試案とそれに基づく大綱も、民主党案も、警察の捜査に対して何ら法的制約をかけないしくみである点で、不十分です。
投稿情報: YUNYUN(弁護士) | 2008年7 月24日 (木) 22:14
結局、この亡くなった患者に肺水腫はあったのでしょうか??
投稿情報: 元臨床医 | 2008年7 月24日 (木) 23:08