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(投稿:by 僻地の産科医)
日経メディカル7月号!
今月号が届きましたo(^-^)o ..。*♡
「刑事訴追、そのとき医師は…」
刑事事件の経験を語る
今日は第2話です(>▽<)!!!
刑事事件の経験を語る-②
安全管理システムに欠陥
死因究明の前に世論形成
和歌山県立医科大学放射線医学教室准教授岸和史氏
(Nikkei Medical 2008.7 p74-75)
きしかずし氏
1990年和歌山県立医大医学研究科博士課程修了、95年同大放射線医学講座講師、2000年同大助教授。現在、同大准教授。
事件の概要
岸和史氏は2003年8月、下咽頭癌の患者に3次元放射線治療を計画し、1回2.5Gy(グレイ)を25回、計62.5Gyを処方する指示書を作った。放射線技師はこの照射を指示通り行った。次に岸氏は、2,5Gyx4回、計10Gyの追加指示書を作成。この際、治療計画装置では10Gy照射回数1回で計算し、一方、計算書のヘッダーのコメント欄には1回2.5Gyx4回で総線量10Gyである旨を記載署名してデータを送った。この指示は兼任の技師が受けた。
だが、事故発生時の現場では医師のコメントは読まれず、照射装置内のモニター値の設定時に安全を確認する二重計算もされなかった。加えて、二重計算結果などの確認用の端末は無効化されていた。慌しい勤務状況の中で指示を受けた兼任技師は、10Gy(4回分)のモニター値を4回行う手順書を作成。手順書に技師の署名はなかった。照射は2日にわたってこの手順書通りに実施されたが、3回目の照射の直前に担当ではない技師が偶然違いに気付き中止された。結果、標的の95%線量では予定より約11%多い量が照射された(過剰照射の定義は10%以上)。8ヵ月後の翌年5月、同大耳鼻咽喉科で治療中の患者は突然の下咽頭出血によって窒息死した。
事故後の調査では過剰照射は患者の死因とならなかったが、警察は07年1月、岸氏と技師4人を業務上過失致死容疑で書類送検した。地検は9月に全員を起訴猶予の不起訴処分とした。
今回の事故発生の直接的な要因は、
①私の治療計画装置への入力やコメントの方法に誤解される危険があった
②事故当日は兼任技師しかいなかった
③指示が誤解された状態で治療された
――の3点でしたが、構造的な背景には
④書類とデータを突き合わせた確認がされなかった
⑤技師が照射録に実際に照射した線量ではなく、医師の指示し
た線量を記載した
⑥指示内容を適切に照射するための作業手順書がなかった
⑦当初設けられていた安全システムが迂回されていた
(私は送検された後にこの事実を知った)
―などがありました。安全管理システムに欠陥が多数あったのです。
管理の欠如が問題に
事故発生以前には全国で同様の照射事故が頻発し、事態を重く見た放射線技術学会は管理指針や誤照射防止マニュアルを刊行していましたが、当病院ではこれらを備えていませんでした。また、医師は技師部門の手順に介入できませんでした。
一方、事故後に外部調査を行った医学放射線物理連絡協議会からは、技師の勤務体制の欠陥を指摘されました。当大学では技師の救急当直体制を維持する必要から、専任の放射線治療技師は1人しか置けず、あとは放射線診断部門と兼任の技師に日替わりで勤務させていました。このため、専門知識の要る放射線治療に従事させるには危険があった上、作業手順の文書化すらしていないありさまでした。また、事故が起きた1日目は専任技師が休みでした。
欧米ではシステムをすべて把握する責任者を置き、安全管理を徹底する体制の構築が義務付けられ、それに反した場合は、責任者が相応の処罰を受けます。私たちの治療部門には専任の統括責任者はなく、放射線診断部門に従属していました。
私たちは改善しなければならない課題をたくさん抱えたまま仕事をしていました。事故直後のわれわれの反省も不足していました。安全システムが迂回されていた事実は、医学放射線物理連絡協議会の聞き取り調査でも判明しなかったのです。
実は過剰な照射となった患者さんは今回で2人目でしたが、1人目は情報が共有されず私も知りませんでした。私には管理者でないという限界がありました。今回の事故を通して初めて状況が認識されたことに、言いようのない反省と無念を覚えます。私は亡くなった方への哀悼とすべての反省を永遠に抱えるでしょう。
事故の真の情報共有が大切
この事故後のプロセスを省みて痛切に感じたのは、真の情報を共有する大切さです。院内の事故調査委員会でも、非常に遅れて介入した外部機関の医学放射線物理連絡協議会も、患者さんの死因を過剰照射と決め付けたりはしていません。事故後、患者さんは当大学の耳鼻咽喉科で治療を受け、約8ヵ月後に亡くなっています。その間に低栄養状態や感染、咽頭の病変への処置などがあり、死因を断定できなかったのです。
それなのに、この事件は死因究明の着手前から過剰照射の問題として報道されました。早耳のマスコミは、病院側に事情を巧妙に尋ねてきます。これに平常心で正しく答えられる関係者は少なく、報道対応に慌てた病院の記者会見は、「過剰照射が死因」とする内容で報じられました。
このすぐ後、市の保健所員が聴取に来ました。会場はさながら私の糾弾会で、衆人環視の中、「人が1人死んでいるのに責任を取らないのか」と怒嗚られました。警察では、私が有罪である筋書きを示されました。「先生の指示ミスで事故が起きたことを全員認めている。あとは先生が認めれば終わるので調書に署名せよ」と言われました。つじつまが合わないと反論すると、「ならば殺人罪の被疑に切り替える」と言われ、底知れぬ恐怖を覚えました。自分の主張を残すには遺書しかないのかと。
一方、病院は遺族との示談に失敗して民事訴訟を起こされ、私にこの解決を命じました。病院側は死に体で、記者会見で死因を過剰放射としながらその因果関係が分かっておらず、まともな答弁書や意見書の見当もつかないありさまでした。
私の心中は患者・遺族寄りでした。患者さんに過剰照射をすぐ告げたのも私です。私は早く償えることを願い、解決の任務を受けました。その後、初めて見る病院の重要書類に驚きつつ真相を知りました。それらを基に、放射線治療では国内で最高の科学者に考えを尋ねて見解を文書にしていただき、短期間で和解できました。検察は起訴猶予の不起訴処分としましたが、私は亡くなった方と遺族に真摯な反省を誓いました。
事故が起きるとかん口令が敷かれて現場は隔離され、記者会見は事故の詳細を知らないトップが行い、死因究明の前に世論が形成されます。院内の委員会や警察の捜査は密室で行われ、情報は開示されません。
英国のビーツソン腫瘍センター(BOC)で起きた過剰照射事故では、調査官は責任者の安全管理の怠慢と情報への無関心を非難しました。真の情報の共有を目指して現場の当事者も積極的に取材を受け、組織もそれを認めるなど、コミュニケーションの方法と報道のあり方も変わるべきだと考えています。 (談)
岸です。真の情報を共有する大切さを伝えたくてこの取材に応じました。ここでご紹介していただき、また、伝えることが出来るなら幸いです。深く御礼申し上げます。
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何かご質問があればメールをください。
投稿情報: 岸 和史 | 2008年7 月22日 (火) 10:25
きゃあ(>▽<)!!!!
メールありがとうございます!!!
まさかご本人が見ていらっしゃるなんて、光栄です!!!
コメントありがとうございます!
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年7 月22日 (火) 12:49
岸先生に質問ですが、現在はシステムエラーは改善されたのでしょうか?
投稿情報: KK | 2008年7 月22日 (火) 14:10
事実と直面する勇気を持たれたことに心から敬意を表します。私は仕事柄、危険管理と危機管理について私の顧客に助言しますが、なかなか理解が困難なようです。そこに私は日本的な組織に存在する目に見えない、責任回避的行動律が存在しているように思っています。今、それをもっと分析しています。いずれ本に書きます。先生が書かれたことは非常に参考になります。
投稿情報: Tomishin | 2011年1 月 8日 (土) 13:16