(関連目次)→医療事故と刑事処分 目次 大野事件
(投稿:by 僻地の産科医)
相馬市というのは福島の大野病院のすぐ近くの辺りにあります。
地元の感覚はわからないけれど、海辺の方かな。
その地元の市長さんがだされたメールマガジンですo(^-^)o ..。*♡
ぜひぜひ読んでください!
「大野病院事件」
立谷秀清市長
相馬市長メールマガジン 2008/08/22号 No.157
http://www.city.soma.
8月20日、大野病院事件に無罪の判決が出た。全国の医師や福島県の医療関係者が、固唾を呑んで見守る中での明快な判決内容だったことに安堵している。もちろん亡くなられた方には本当にお気の毒だし、ご冥福を祈るしかないのだが、この事件の社会に及ぼした影響は余りにも大きかった。
「医療現場からの医師の立ち去り」という社会現象の象徴的な原因を作ってしまったからである。その影響は単に産婦人科医師の萎縮診療や、なり手不足に止まらなかった。医療現場での緊急事態で、生命の危機と戦う医師たちを震撼させたのである。
通常、医師たちは状況に応じて最善の努力をする。自分の判断に患者の生命がかかっているとしたら尚のこと、あらゆることを忘れて没頭するものだ。その極みが手術室である。私は外科医ではないので、メスの先端に全神経を込めた経験は無いのだが、内科医として、外科的処置を必要と診断した患者の手術には何度も立ち会ってきた。その度ごとに見てきた彼らの鬼神のような表情には、人の命に対する畏敬の気持ちと、ベストを尽くそうとする強い意志がみなぎっていた。
しかし手術台の上の患者が、教科書どおりの病態を示す例はほとんど無いという。人間の体で解剖の教科書のように臓器が整然と並んでいることなどあるはずもないし、まして患っている臓器が病理学の図譜のとおりに見えることも無い。それでも治療効果(つまりは救命)を信じて困難に立ち向かう医療行為は、結果が保証されない「挑戦」なのだ。
いま現場の医師たちの間で、この厳しい日々の挑戦に危機感を抱く傾向が出てきている。
ひと昔前は、家族と医師が手を取り合って手術の成功を喜んだものだが、今は違う。上手くいって当たり前、結果が悪ければ訴えられるのだから、放って置けば死ぬと分かっている患者に一縷の望みをかけて手術をしようなどというお人よしはもういない。出来るだけ事前のリスクを取り去っていても、人間の体は何時不測の事態が起こるとも限らないから、続けていれば何時かはババを引くことになるだろう。運の悪いことにならないうちに安全地帯に非難しておいたほうが無難だとして、立ち去った医師は、産婦人科、外科、小児科に多い。もちろん医学生たちも先輩医師たちの不幸な現実を教訓とするようになる。4年前から始まった臨床研修制度は、医学生たちに、鬼神になろうとする先輩医師たちの危険な人生を、自分たちは回避しようと考えさせるのに充分な時間を与えてしまった。比較的トラブルや訴訟の少ない皮膚科や、眼科の希望者が増えたのは、増え続けた訴訟と、進路決定までの教育期間を2年延ばした影響である。医師不足とは、医師の絶対数の減少をさすのではなく、救急医療や外科系医師などの命と直接向き合う医師の枯渇状態を言うのだ。
訴訟社会の不安に対しては、国家の経費負担による保険や弁護士のサポートといった、産婦人科を含めた外科系医師への護送船団を作る必要がある。報酬が見直されるべきも当然である。
しかし。今回の大野病院事件のような、結果が悪かったから刑事罰で逮捕というのは、マスコミの過大報道や、医師教育制度の変更による国民医療の環境悪化とは根本的に別問題だった。このまま手術室にいたら、いつの日かは逮捕されかねないという恐怖感を医師たちに与えたのだから。
判決理由にある「また、医療行為が患者の生命や身体に対する危険性があることは自明だし、そもそも医療行為の結果を正確に予測することは困難だ」この当たり前の理屈を証明するために費やした2年6ヶ月の加藤医師の苦労に思いを馳せると胸が熱くなる。この事件を民事とせずに刑事事件として逮捕拘留した段階で、全国の医師たちから抗議の声明がいっせいに挙がったが、医療の現場で働く立場としては当然だった。不可抗力による不幸な結果をいちいち犯罪にされたら医療は成り立たないのだから。
厳しい状況のなかで加藤医師は能く信念を貫いたと思う。もしも彼の精神力が途中で途切れたりしていたらと思うと背筋が寒くなる。おそらく日本の医療は挽回不可能な打撃を受けたに違いない。
重ねて言うが亡くなられた方には本当にお気の毒だった。加藤医師本人の忸怩たる思いも相当なものだったことは会見でうかがい知れた。しかし、その後ろ向きな気持ちと戦いつつも筋を通した彼の人格を、私は評価したいと思う。
いつも拝見させていただいています。また先生のバイタリティーと行動力に敬意いたします。
ところで民事事件には医賠責保険があります。これにより弁護士などの手配やアドバイスが受けられます。ところが刑事事件になると援助を受けにくく独力で対応しないといけなせん。
今回の大野事件は重大な案件だったため、全国の注目を浴び結果は良い方向にいきました。
しかし医学的に適当と思われても、刑事事件となり独力で戦っている先生も少なくないと思います。そこで医学的な刑事事件に対しても医賠責保険の様な制度は出来ないものでしょうか。
個人的にはこのような保険の必要性を感じますが、個人ではあまりに微力なためどうして良いかわかりません。無理とは思いますが何かがあっても良い気がします。
投稿情報: 一産婦人科医 | 2008年8 月26日 (火) 13:18
本当ですよね。刑事事件となると、突然自分での対応になって、業務上の嫌疑であるのに、病院弁護士さんもかかわってくれないという悲しさ(;;)。。。。
やっぱり仕事普通にしていて、刑事事件ってどうかと。どうしてもやってられなくてやめてしまう方々の気持ちは当然のような気がします。
だって毎日人は死んでいくのですもの。
(Gyneは少ない方ですが)
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年8 月26日 (火) 18:23