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(投稿:by 僻地の産科医)
できれば、本物の方を見てくださいo(^-^)o ..。*♡
動画も楽しめます!わーい、伊関先生と愛山先生です!
「地域医療は再生できるか
—崩壊の危機を再生の好機に—」
危機の自治体病院,まずミッションを明確にせよ!
MTpro 2008年7月28/29/30日
(1)http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0807/080716.html
(2)http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0807/080717.html
(3)http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0807/080718.html
全国の病院で病床休止,診療科閉鎖,さらには閉院が相次いでいる。千葉県では2004年4月の新医師臨床研修制度導入以降,今年(2008年)7月までに54病院の92診療科が廃止されたという。医師引き上げと経営悪化の悪循環に翻弄される自治体病院に,展望はあるか。
本鼎談では,「50年前から医療崩壊だった」という岩手県藤沢町で県の反対を押し切って町民病院を作り15年間黒字経営を続けている佐藤元美氏,旧・夕張市立総合病院(北海道)をはじめ全国の病院救済に引っ張りだこの伊関友伸氏,千葉県立東金病院院長の平井愛山氏に,自治体病院再生の道筋を語り合ってもらった。「自治体病院の使命は持続可能な地域医療を確立すること」,「医療者よ,白衣を脱いで街に出よ」,「住民をサポーターに巻き込め」といったメッセージが地域医療の現場に届くことを期待したい。
出席者(発言順)
千葉県立東金病院院長 平井 愛山氏(聞き手)
城西大学経営学部マネジメント総合学科准教授 伊関 友伸氏
国保藤沢町民病院(岩手県)事業管理者 佐藤 元美氏
15年間黒字の藤沢町民病院は医療危機時代のモデルケース
平井 今日は座談会シリーズ「地域医療は再生できるか」の第1回として,地域の自治体病院をテーマに取り上げ,佐藤元美先生,伊関友伸先生と知恵を絞っていきたいと思います。まず伊関先生から,自治体病院の危機とその背景を概観してください。
伊関 今,全国の自治体病院の多くが,厳しい経営状況にあります。これを私は2つの危機として整理しています。1つは財政危機です。国の診療報酬抑制,自治体病院独特の非効率体質による赤字増大で,一時借入金に依存する自治体病院が多数出ています。さらに深刻なのは,医師不足という危機です(表1)。一部の自治体病院では医師が激減,医師がゼロになった例もあります。背景には,2004年の新医師臨床研修制度導入以来の医局による医師供給システムの破綻があります。いずれも長年の矛盾が生み出した深刻な問題で,自治体病院の存在自体,大きな岐路に立たされていると言えます。
平井 その克服に向け,1つのモデルとなるのが,以前から厳しい状況でやってこられた岩手県藤沢町の国保藤沢町民病院の例ですね。
佐藤 藤沢町は,人口1万人弱の岩手県南端の町です。もともと県立藤沢病院がありましたが,医師不足が深刻化,赤字もあって1968年に廃止されました。その後,町に病院のない時代が25年間続いたのです。
平井 医療崩壊の先駆けですね。
佐藤 こうしたなか先代町長の佐藤守氏は,「病院がないために住民がふるさとで死ねないのは行政の敗北」と語り,病院作りを唯一の公約に掲げて立候補しました。県はこれに大反対だったのですが,住民の強い支持を受け当選しました。病院建設は町の最優先課題となりました。町長は医師探しに2年を費やし,諦めかけたときに私のところに話が来たのです。
1993年に病院ができて以来,町の財政の厳しさは承知のうえでしたから,黒字を出すことが最初からの優先課題で,なんとか15年間続けてきました。必死で住民や議員や職員と議論するうちに,気が付くと周りの病院が危機に瀕していたというのが正直なところですね。
首長や議員も重要なパートナー
平井 「生まれた町で死ねないのは行政の敗北だ」という町長の言葉,すごいですね。そういう気骨のある首長は全国にいるのでしょうか。
伊関 率直に言うと,首長自ら医療崩壊を起こしている自治体も多いのが現実ではないでしょうか。そして首長の背後には住民がいますが,最近はその住民の意識がモンスター化しています。病院や地域医療の問題より,自分のことしか頭にない。首長も議員も,住民に本当に必要なものと一時の感情的要求を区別せず,後者に迎合する例が目立ちます。
佐藤 僕は内科しかやったことがなかったので,病院長になるとき非常な恐怖を感じました。そこで,半年かけて地域医療の成功例と失敗例を分析し,失敗にはそれなりの理由があることを見つけました。1つは,時代が求めるレベルの医療を提供できなくなることです。もう1つは,政治との距離です。政治と反目しあうと長続きしないし,べったりでは政権交代のときに危うい。政治とは適切な距離を保つことが肝心です。
伊関 政治との関係はとても難しいですね。
佐藤 田舎で医療がうまくいかない理由など無数にあります。むしろ,「この町で医療が成功するとしたらどんなやり方だろうか」と,解決策を考えるべきです。そうすれば,首長とうまく付き合うべきだ,あの議員を説得しなくては,といった課題が見えてきます。僕が最初にやったのは町に出て「皆さんの選んだ町長がすごいから,僕もここで病院を作っているんですよ」と言うことでした。これは,選挙のある人には強烈なアピールになります。首長も議員も,地域での重要なパートナーとして大事に扱うべきです。
平井 医療崩壊は地域崩壊に直結することを,医療者から首長や行政に投げかけていく必要がありますね。
伊関 ただ,医師は診療で手いっぱいです。医療者と議員や首長をつなぐ存在,例えばNPOとか保健師,事務職員がつなぎ役を果たすことが今後の課題になると思います。
経営を損なう意思決定の遅さ,上意下達の行動原理,会計音痴
平井 経営を考えるときに,自治体病院の構造的な問題がありますね。
伊関 官僚組織の弊害が一番大きいですね。医療制度や診療報酬は頻繁に改訂されますが,それに戦略的に対応するには迅速な意思決定が必要です。役所の場合,例えば条例から変えねばならないなど素早い対応ができません。一方では,住民ニーズと無関係に豪華な建物を建てたり,無駄な医療機器を入れたりする。経営能力の欠如と言わざるをえない例が多数あります(図1)。
平井 なぜ,現場で働く医療者の声が反映されないのでしょうか。
伊関 役所の行動原理とは上意下達です。現場より本庁が偉く,本庁でも官房系セクションが偉い。そのなかで病院は末端の末端です。実際,私も経験しましたが,役所には現場の話を聞き過ぎると,予算が削れないといった雰囲気があります。これは,霞ヶ関の人達も同じでしょう。
佐藤 公的病院を運営する役人は,多くが予算はわかるが会計のわからない会計音痴です。会計(accounts)とは人の金を預かって仕事をし,結果はこうでした,と報告することです。説明責任(accountability)という派生語もありますね。だから,最初にこれだけの金を使って何を成し遂げるかという目的が明確でなければ,そもそも会計は成立しません。
伊関 役所では,前年予算が400万円で,今年も同額なら説明は不要です。もし800万に増やすと,その分の理由が必要となる。これがインクリメンタリズム(増分主義)という予算の考え方です。病院の目的といったことを考える習慣はないのです。
佐藤 予算主義で企業経営はできません。自治体病院も公的企業ですから,経常収支と資本的収支,つまり毎日の収支と将来のための投資を分け,どちらも黒字を続けないといけない。これが役所に理解されないのです。
伊関 各地の病院経営を見ていますが,将来の戦略を考えて投資しているところはまれです。医療収支率が99と優秀なある公立病院は,人海戦術でなんとか収支を合わせていて,看護師や医師は疲れきっていました。5年先に彼らが残っているかを考えると,不安になります。
自治体病院のミッションとは,持続可能な地域医療をつくること
平井 逆に,佐藤先生が15年間黒字を継続されたことが驚きですね。
佐藤 そこには,4つの具体的理由があります(表2)。第一に,住民の求める医療を提供したこと。第二は,安易に新しい設備を入れなかったこと。第三に,診療費の未納をなくしたこと。第四は,町民からの寄付の存在です。要約すれば,私たちの実践が,住民をサポーターに巻き込んだからと言えると思います。
平井 つまり,佐藤先生の言う経営の目的,自治体病院のミッションが藤沢町の町民に受け入れられたということですね。伊関先生は,そこに10年後も地域医療を持続させる戦略が不可欠だと指摘されました。結局,多くの自治体病院はミッションが不明確だったのでしょうか。
伊関 公立◯◯病院として存在することが目的で,地域でどういう医療が求められているか,真剣に考えてこなかった病院が多いと思います。
佐藤 私たちは近年,夕方から夜にかけて1人の患者に1時間をかけてじっくり話を聞く,健康増進外来を行っています。糖尿病患者の治療中断をなくすため,収支よりまず,自分たちが理想とする医療をやってみようと考えたのです。もちろん,すべての患者にできることではありませんが,こうした試みもあっていいのではないでしょうか。ちなみに,現在は黒字で,治療中断もゼロです。
平井 それはすごい。ミッションを明確化すれば,提供すべきサービスも見えてくるわけですね。
伊関 もう一つ,医療と福祉と健康づくりを一体化して考えなければだめだと思います。夕張市立総合病院が一つの典型です。ベッドが埋まらないので,社会的入院で埋める。すると単価が低いので,収益が悪化する。本来は,病床を減らし,代わりに老人保健施設や在宅医療支援,健康づくりに金をかけるべきだったのです。極端な話,病院自体が赤字でも,国保が黒字ならよいのですが,今はそれらがバラバラです。多くの地域では健康づくりと福祉はほとんど機能せず,患者が弱ってきたら病院に収容という形です。それでは,住民の安心にはつながりません。
「医療者よ,街に出よう!」
平井 次に,医師不足問題について話し合います。ずばり,医師不足解消に秘策はあるでしょうか。
伊関 全国で崩壊している病院は,方向性を見失っていて,医師には働きがいのない職場になっています。逆に,東金市や藤沢町のようなミッションの明確な病院には,職員も集まってくるのではないでしょうか。
佐藤 病院の責任者として毎年,綱渡りでしのいでいます。ただ僕は,若い人たちに,この病院の悪いところを見つけ,チームを作ってそこを改善してくださいと言っています。それで,ある人は在宅介護者の健診を行い,心身の健康が損なわれているからと交流会を発足させました。摂食・嚥下について国内留学して,当院のレベルを岩手県一にしてくれた人もいます。夕張で活躍中の村上智彦先生は,毎日夕方6時にヘルパー,看護師,医師が集まる5分間ミーティングを始めました。そんなふうに,若い人の意欲や向上心を後押しするよう心がけています。意欲的な医療者の集まる場所だ,とのシグナルを目に見える形で出すことが秘訣かもしれませんね。
平井 若手医師には,ステップアップの過程が見えることが必要です。まず,研修プログラムの充実が挙げられますし,ロールモデルとなる医師の存在も欠かせません。さらに,藤沢町には地域に医師を育てようという雰囲気がありますね。
佐藤 うちの医師に一番人気のある仕事は,訪問医療です。明るいうちに外に出て,患者家族とお茶を飲んだり話をするのがいいようです。
伊関 地域医療のやりがいを,実感できるからでしょう。
平井 医療者よ,白衣を脱いで街へ出よう!ですね。
佐藤 日本の医療を痩せ細らせた原因の1つは,診察室だけでものを見るようになったからだと考えています。診察室は密室です。密室の医療には,人間の自然な欲望を否定したり,コントロールできない感情を引き出してしまう,負の側面がある。医者と患者が病院の外で「先生,うちの孫と同い年だ」といった会話を交わせる場が必要なのです。
平井 対話の場に,患者が学び,医師が育つしかけがあるわけですね。
住民をサポーターにすれば自治体病院は生き残れる!
平井 先生の病院では,スタッフがどんどん街へ出て行っていますが,どんなきっかけがあったのですか。
佐藤 藤沢町では,病院を作ったとき,町の人々が非常に感激してくれました。ところが2年ほど経つと,苦情が殺到するようになりました。無診察投薬をしなかったからです。近隣の病院では普通にしていましたが,僕は一切やらなかったため,なんて頑固なやつだと批判されました。
僕は困り果て,住民に直接話そうと考えました。町の10か所でナイトスクールという説明会を開き(図2),「無診察投薬は基本的に法律違反だし,赤字の原因になる。こんなことを続けていると病院がつぶれる。忙しいのなら,私が行くから往診を受けてほしい」と言いました。すると「よくわかった」「前に県立病院がつぶれたことを繰り返したらダメだ」と,口々に言ってくれたのです。うそのように苦情もなくなりました。そして,その年から病院に寄付が集まるようになったのです。
平井 寄付が来るんですね。
佐藤 年間,数百万円の寄付が病院に寄せられています。住民は医療の受益者じゃない。地域医療を支える主役なんだ,ということをわかってもらえたからだと思います。
平井 そうですね。地域住民をサポーターとして巻き込むことが大事で,それに成功した病院が生き残れるんです。われわれも巡回市民講座などを開いて,病院からの情報発信を行うと同時に,地域や住民のなかに入っていくことを心がけています。
伊関 私は,医療崩壊を契機に住民がこの問題と向き合うことが,地域の民主主義の質を上げるかもしれないと言い続けています。佐藤先生の経験はその好例です。地域医療再生は,地域の再生,日本の再生に連なる大きなテーマで,すべての市民が真剣に考えるべき課題と言えます。
平井 佐藤先生は岩手は50年前から医療崩壊だったと言われました。先駆けて大変な苦労をされた分,われわれにも役立つ教訓をたくさん持っておられました。伊関先生からも中身の濃いお話をいただき,本当にありがとうございました。
貴重な資料を提示いただきありがとうございます。医師ではなく、見ることができずに残念に思っていました。
懇談の中では、公立病院改革ガイドラインに関する話題がなかったようですが、これからの、というか目先のことを考えると、避けて通れない問題です。国の押しつけではなく、「医療崩壊を契機に住民がこの問題に向き合う」こと、そして医療労働者、医療提供者といっしょに改善に踏み出すことではないかと思います。
投稿情報: 春が、来た | 2008年10 月 8日 (水) 08:37
結局、本当の所、困り果てるのは住民、車を持っている若い世代はいいけれど、診療所一つでも何とか残して欲しい住民だっている訳です。
働き手の医師のほうにも、あまりに働く病院の選択肢がないとつらいものがあります。
私は自分の希望で今は急性期病院で働いておりますけれど、急性期病院が集約化(産科の場合、かなり集約化されきっていて、そうでなければ大野事件と同じ一人医長等になるわけです)されてしまって、働き場所が本当に少なくなってしまって難しいです。そしてやはり単身赴任はつらいところですし、いつ死ぬか分からないほど働いて、単身赴任で寂しく死ぬのはいやです。(母親でもありますし)
あんまり余裕のないカツカツ病院の雰囲気の悪さったら!
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年10 月 8日 (水) 11:27
お疲れ様です。先生方が声をあげ、私たちも運動し、医師増員が現実のものになりつつあります。将来は(どれくらいのスパンでしょう、最低でも10年)きっと若手の産科医を数人指導されているのではないかと思います。
私は、とある県立病院の労組役員をしています。産科医の不足の中で、助産師外来等の話しができた昨年に、組合としての方向を以下のように決めました。どんなもんでしょうか。
(長文ですいません)
③ 助産師外来、院内助産システムについて
産婦人科医師を早急に確保し、安心、安全な出産、母子のいのちと健康を守ること。
医師確保が出来ず、当面する対応として、助産師外来、院内助産システムを選択する場合は、助産師の増員を行うとともに院内での協議を十分につくし、労働条件等については組合支部との協議を前提に、以下のことを遵守すること。
・ 助産師外来
産婦人科外来に助産師を配置し、専門性を確立すること
産婦人科医師の協力体制や同意などの信頼関係の基に設置すること
院内の協力体制を確立すること
異動を希望する助産師への対応をすること
助産師への再教育・研修への積極的な参加を当局の責任で行うこと
・ 院内助産システム
(上記の助産師外来の対応に加え)
常勤の産婦人科医師が勤務していること
より安全なお産のための助産師の勤務態勢等の検討をすること
異常時の救急体制を確立すること
院内助産システムで分娩する妊婦の基準を公開・周知すること
事故等の対応のために、第3者委員会の設置、必要な保険への加入、県民への周知、スーパーバイザーによるメンタルケアの実施をすること。
投稿情報: 春が、来た | 2008年10 月 9日 (木) 19:35