東京日和@元勤務医の日々さまよりおすすめの週刊誌です..。*♡ ぽち→
[衝撃の医療格差]今週の週刊ダイヤモンド
東京日和@元勤務医の日々 2007.04.02
http://blog.m3.com/TL/20070402/1
50頁もの医療格差特集で、さすがに読み応えあります。
患者が知らない病院経営の裏側
厚生労働省が仕掛ける 病院大淘汰時代の幕開け
(週刊ダイヤモンド2007/4/7 p50-52)
昨年から老人などの長期療養を中心とする病院がバタパタとつぶれている。厚生労働省が医療費削減の名の下に進める医療制度改革のためだ。この改草が病院握営に与える影響は計り知れない。
昨秋、東京都葛飾区のある病院がひっそりと幕を閉じた。その名は吉田機司病院。川柳作家としても知られる吉田機司氏が1937年に開業、永井荷風のかかりつけ病院として、地元では有名な病院だ。
ベッド数は128床。長期療養の老人介護を中心とした病院で、「下町のあかひげ先生」として親しまれていた。
ところが、昨年四月頃から病院の経営状態が急激に悪化する。診療行為ごとの価格實数X10円)、つまり診療報酬が大幅に削減されたためだ。
特に、比較的症状が安定し、医療行為の必要性が薄いとされる漫性期医療に対する点数が思い切り下げられたため、大半が慢性期の患者だった同病院の打撃は大きかった。再建を目指して依頼したコンサルティング会社が出した答えは、
「廃院してマンションにすべき」。
院長は病院の歴史に幕を下ろす決心をしたという。
昨年末から、療養型病院がバタバタとつぶれている。その原因は、こうした診療報酬改定などを柱とする医療制度改革。吉田機司病院は、その第一号だったのだ。
下図を見ていただきたい。これは昨年四月に発表された制度改革の概要と、病院に与える影響をまとめたものだ。これを見ると、いかに多くの病院が"冬の時代"を迎えているかがわかる。3.26%ダウンという過去最大の下げ幅となった診療報酬はもちろん、療養型病床を二三万床削減、そのうち介護保険の範囲である介護型病床は2021年3月までに全廃することが打ち出されるなど、特に療養型病院が狙い撃ちされている。
背景には、慢性期の患者は介護保険に任せ、医療保険は、救急や重症患者に24時間体制で高度な医療を施す急性期病院に特化させようという国の思惑がある。
今から10年前。高齢化社会を見据えて療養型病床を奨励した国の意向を受け、多くの病院が多額の借金までして転換を図った経緯があるだけに、療養型病院の幹部は扉子をはずされた」と憤りを隠さない。
だが、急性期の病院も安閑としてはいられない。診療報酬の点数に格差を設け、手厚い看護をとの名目で、看護師一人当たりの患者数を、これまでの一〇人から七人へと誘導しているからだ。すでに四万人強の看護師が不足しているという現状において、「立っているだけで給料を払うから来てくれ」と言って勧誘する国立の大学病院まで現れるなど、まさに看護師争奪戦の様相を呈している。
そうした流れが加速すれぱ、中小の病院は看護師を引き抜かれ、必然的にベッド数を削減するほかない。最悪の場合、廃院に追い込まれる病院が出る可能性さえある。
こうした改革が打ち出されてからまもなく一年。病.院は着実に滅少し始め、国の思惑は成果を収めているのだ。
富裕層に人気の聖路加も収支はトントン
医療を取り巻く環境は、ガラリと変わった。診療報酬の点数が下がり、整形外科や眼科などに特化した病院を除くと、いまや病院は儲かる商売ではなくなった。たとえば、富裕層に絶大な評価を受けている聖路加国際病院でさえ、経営は意外に厳しい。
本誌が入手した二〇〇三年三月期の収支計算書によれば、一七八億円あまりの医業収入に対し、医業支出が一七二億円と、収支はほぽトントン。所有している土地を不動産会社に貸している地代収入でどうにか収入をカバーしているような状態なのだ。聖路加でさえそんな状態なのだから、他は推して知るべし。全国の病院を対象としたアンケート調査病院経営実態調査」によれば、100床当たりの収支状況は〇五年が783万円の赤字。診療報酬改定後の〇六年はなんと1010万円まで赤字がふくらんでいる(表参照)。
赤字病院の割合も、〇二年から減少傾向にあったものの、やはり〇六年に70%台まで上昇してしまった(図参照)。
最大の重荷は人件費。給与費が医療費用の半分以上を占めている。「50%台ならまだいいほう。コンサルに入ると70~80%なんて病院はザラ。都立病院など100%を超え補助金で賄っている」(公認会計士)というから驚きだ。
患者がいくら増えても利益は上がらない。患者の支持を得るため、よい医師を集めようとすると人件費はふくらみ、経営を圧迫する。逆に人件費を抑えようと待遇を引き下げると、医師や看護師は別の病院へと逃げてしまう。いまや、病院経営はどうやっても儲からない構造的なジレンマを抱えているといえる。
「高度な医療サービスを提供すれぱするほど儲からないため、なにもしないほうが得策と考える病院も増える」とある大手病院の院長は危機感を募らせる。
療養型削滅の次は急性期に着手か
おまけに、院長は医師でなければならない。経営の素人である。それでも、これまでは診療報酬が右肩上がりできたため、放漫経営でもやってこられた。
「病院のカネは自分のモノという意識が強く、勝手に持ち出すなんて当たり前。事務長を派遣するなど面倒を見ていた銀行も、最近では見放し始めた」(都内の病院長)
また、昨年二百末には、「脳内革命」の著者、春山茂雄院長が経営する田園都市厚生病院が、ガン細胞を撮影するPETなど、高額の医療機器を購入した結果、資金繰りに窮して破産。このように「無計画な設備投資による破綻も数多く見られる」帝国データバンク)という。
だが、もはやそうしたのんきな経営をしている余裕はない。病院をさらなる窮地に追い込みかねない影が忍び寄っているからだ。
厚生労働省が、療養型病床の再編にメドがつき次第、今度は急性期病床の再編にも手をつけてくるという見方が濃厚なのだ。
現に、同省の医政局長がある会合で、「急性期病床はこれまで自由主義でやってきた。今後は見直しもありうる」と明言。療養型病床と同規模程度、つまり半分程度まで削減する意向を示唆しているというのだ。
また医療関係者のあいだでは今、さらに衝撃的な観測も流れている。
「現在9000近くある病院を3000まで滅らそうと厚労省は目論んでいる」という情報が駆け巡っているのだ。療養型病院を追い詰めたときと同じ。朝令暮改を得意とする厚労省の考えそうなことと、医療行政に詳しい医療関係者は語る。
昨年末、病院の数がとうとう9000を切り8920となった。しかし、これもまだ序の口。これから数年問で、さらなる減少は待ったなしの状況なのだ。まさに、"病院大淘汰時代〃の幕が切って落とされたといえる。
病院つぶしの医療行政では日本の医療は崩壊する
(週刊ダイヤモンド2007/4/7 p52)
医療費削減に躍起になっている厚生労働省の今の医療行政は、明らかに間違っている。急速な高齢化と医療の高度化によって、患者の要求が高まっているにもかかわらず、現在の政策は、医療費を削って病院をつぶそうというものだ。。時代錯誤もはなはだしい。
日本の国民一人当たりの医療費は、欧米諸国に比べ決して高くはない。患者一人当たりに直すと格段に低いのだ。国民皆保険ではないなどの違いはあるが、医療費が高い米国や英国が社会保障費をさらに充実させているにもかかわらず、なぜ日本はさらに削減しようとするのか。
厚労省は医療費を“コスト”としてしかとらえていないからだ。医療はあくまで社会インフラなのだ。充実させれぱ雇用の機会は生まれ、経済効果も生じてくる。
東京から二時間もかかる千葉県鴨川市の田舎でやっている当院でさえ、スタツフは総勢3000人。彼らが地元で消費行動を取れぱ、経済効果はおのずと大きくなる。どうしてそうした視点に立てないのだろうか。
これまでも厚労省は、机上で実態とかけ離れた数値目標を掲げてきた。その緒果、医師や看護師が圧倒的に足りない状況となった。
過酷を極める勤務、医療事故の問題……。現場の医師らは疲弊し、無カ感にさいなまれている。国立循環器病センターの集中治療室の医師全員が同時に退職するような、危機的な事態にまで至っているのだ。
医療は人が命。非常に多くの人的資源を必要とする産業だ。なのに病院つぶしに奔走すれぱ医師はさらに逃げ出し、完全に医療は崩壊する。
国の政策に翻弄されるだけでは明日はない。われわれは自分たちが本当にやりたい医療を追求していく。
たとえば南房総では、当院を中心とし急性期から在宅介護まですべて揃った、高齢者にとって住みやすい環境を整えた。しかも、昨年開設したKタワーは全室個室で、差額ベッド代も一万円程度。決してぜいたくではない。苦痛を抱える患者のプライバシーくらい守るべきと考えたからだ。日本における病棟の新たなスタンダードをつくっているのだ。(談)
努力しても報われない病院経営だか、まだ効率化の余地はある
(週刊ダイヤモンド2007/4/7 p62・63)
病院経営が厳しい背景には二つの問題がある。
一つは医療費が安いこと。日本の医療費は対GDP比で0ECD加盟国30ヵ国中21位(2004年)。決して高くはない。だから、病院の利益率は低い。だが、国民は日本の医療費が安いとは恩っていない。財源が余っているわけでもない。医療保険料を上げることについて、合意はなかなか得られないだろう。
社会主義的な医療報酬体制の下で、日本の病院は努力すればするほど報われない。そろそろ成果主義の導入が必要だ。たとえぱ、成果を上げた診療行為に適正な報酬が与えられる体系を構築する。日本では、こうすれればもっとレベルの高い医療が提供できる、それにはこのくらいのおカネが必要、という議論になかなかならない。これはお上が率先してやらないと。
ただ、病院経営にはまだ非効率な部分がある。これが二つ目の問題だ。院長はもともと医師である。出身の診療科のことはよくわかるが、それ以外の科についてはわかっていないことが多い。私が病院を訪れて驚くのは、病院全体を把握した人がいないこと。事術室の稼働率が低いですね」と私が指摘すると、院長は「え~」と驚く。
しかし、この世界に24年間身を置いているが、まだよく見えない部分がある。病院の効率的な業務運営のために、トータルで「見える化」をした人はいない。当局もそうした考え方はしていない。
諾外国では、すでに病院の評価がきちんとされている。英国では独立行政法人化したNHSトラスト病院旧国営病院)を対象に、手術の待ち時間や救急車のアクセス状況などの指標で順位づけをしている。それによって、補助金にも差をつけている。
混合診療も条件付きで導入すぺき
病院の「見える化」を進めるにはITを使うしかない。現在、86病院から提供してもらった56万件のデータを基に、治療成績と財務データの両面から病院の比較調査を行っている。わかってきたことは①わが国の病院では医療の標準化が進んでいない、②スタツフが多いからといって必ずしも医療の質が高くはないということ、である。
よい医療の実現のため、私は病院だけではなく患者にとっても努力するものが報われるシステムの構築をお上に提案したい。まず、予防医療に経済的なインセンティプを与えることである。体に悪いことはわかっていても、やめられない人は多い。たとえば、肺ガンの危険因子であるタバコには「医療目的税」を課し、医療費の財源に充てる。メタボリック対策として、やせたら税金を安くする。要は心臓を治す前に肥満を直せということだ。また、日本では保険がきかないものが一つでも入っていると、検査や診察料など本来保険がぎく部分も全額自由診療になってしまう。保険のきかない最新の治療や抗ガン剤治療を受けると、すべて自由診療になってしまうため、おカネがなくて治療を断念せざるを得ない人たちも多い。
日本の医療保険制度は「保険」か「自費」かという二者択一で、いわゆる「混合診療」が認められていない。だが、これも医療の質の向上に努力している病院には、ある一定の条件の下で認めてはどうだろうか。
格差を助長するという意見はあるが、利用するか否かは医療機関の選択に任せてはどうか。県民所得の低い地方の医療機関はおそらく選択しないだろう。医療の世界も努カするものが報われる社会にするために、お上が果たすべき役割は大きい。
コメント