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(投稿:by 僻地の産科医)
今月号のメディカル朝日が届きましたo(^-^)o ..。*♡
2008年6月1日発行
インタビューが村上医師でしたo(^-^)o ..。*♡
なんだかこういう方のお話ってわくわくしますね。
いろんな示唆に富んでいる気がします。
ぜひぜひご一読を!
超高齢社会の医療モデルを示したい
――夕張・地域医療再建の切り札として
(Medical ASAH1 2008 June p19-22)
村上智彦さん
医療法人財団 タ張希望の杜理事長
むらかみ ともひこ 1961年、北海道生まれ。 86年、北海道薬科大学大学院修士課程修了。 87年、金沢医科大学に入学。 93年、同大学を卒業後、自治医科大学地域医療学教室に入局。南伊豆町国立湊病院、岩手県藤沢町民病院などを経て、2000年、北海道瀬棚町(現せたな町)国保医科診療所長。 06年、新潟県湯沢町保健医療センター勤務に。同年12月から夕張市立総合病院(当時)勤務。 07年より現職。
2007年3月、かつて炭坑の町として栄華を誇った北海道夕張市は財政難から破綻し、財政再建団体へと転落した。夕張炭鉱病院から市が引き継いだ夕張市立総合病院も、同年4月から規模を縮小、公設民営の19床の有床診療所(後に介護老人保健施設を併設)として再スタートを切った。再建の切り札として請われて着任した村上智彦医師は、道内の瀬棚町診療所長時代に積極的に予防医療に取り組み、全国初の肺炎球菌ワクチン公費助成などに辣腕を振るった。新体制で1年が経過した今、この間の成果を踏まえての課題や抱負を伺った。
――1年経過した手応えはいかがでしょうか。
村上 想定内でした。住民は破綻を受け入れて、想像以上によく気が付いてくれます。医療機関の規模が縮小されても、自分たちが健康づくりをやればいいという人は、実は大勢います。糖尿病でもコントロールの良い人が多く、血圧も落ちついている人が大半です。
ところが、行政の人たちは相変わらず、「前はこうだった。前は良かった」と過去の栄光にしがみついています。
かつて市立病院は171床あり、「医療の後退」だと報道されていますが、とんでもない勘違いです。入院患者は既に20人以下で、患者さんの8~9割は、医療の必要度が低い「区分1]。要するに介護の必要な人が社会的入院をしていたというのが実態でした。しかも、2人だけの医師で救急と透析と外来と病棟を担当しており、労働基準法に違反した非常識なことでした。
病院は救急患者をすべて受けていましたが、実際には、重症者はほとんどおらず、住民の言う「救急」とは「コンビニ受診」のことでした。
診療所になっても、機能は落ちていません。医師は3人になって、決まった医師がきちんと診るようになり、訪問診療も増えているので、むしろ質は上がっています。多くの患者さんは安心されて一生懸命やっています。
やる気のある職員が残った
――公設民営の成果が出ましたね。
村上 病院の職員はいったん全員解雇され、一部が再雇用されました。ここが役場と大きく違う点です。かつて夕張市は全国的にも給与水準が高く、准看護師さんで手当を含めると年収1000万円近い人もいました。給与が3割カットになって「かわいそうだ」と報じられましたが、札幌市民の平均年収でさえ400万円台なのです。
ともあれ、当院に残ったのは、本当にやる気のある人たちです。
――1年間の収支はどうですか。
村上 医業収入だけを見れば黒字です。ただし、全体の収入のうち12~13%が暖房光熱費として支出されます。これだけの経費をかけても成り立つ商売というのはスーパー銭湯か温泉ぐらいで、このままでは潰れます。医療機器も10年もメンテナンスをしていないのですぐ壊れ、何千万円もの負債があります。
公的医療機関ですから、市の怠慢から生じた修復費や管理維持費の一部は、財政再建計画で予算化して応分に負担してくれるよう交渉しています。
――コンビニ受診は改まりましたか。
村上 激減しました。夜間当直帯で、1週間通して数人です。「皆さんが行っている病院に責任を持って受けてもらってください」と呼びかけました。僕らも、かかりつけ医として診ている患者さんには24時間責任を持ちます。
以前は、市の救急車の出動は年間800件ほどで、1人で100回以上使っていた人もいました。1回の出動に3万~4万円の経費がかかりますから「無駄づかいをやめましょう」と、消防隊からも僕からも広報をしました。
僕は職員に、住民の「ニーズ(needs)]と「ウォンツ(wants)」をちゃんと区別しましょうと言っています。皆さんがニーズと言うのは、実はウォンツです。
「医療とは住民の安心のために
あるのではない、命を守るためにある」
と、断言しています。救急車が使えないばかりに心筋梗塞で死亡する人を出さないよう、邪魔をする人がいれば排除しなければなりません。
今の医療崩壊は、ウォンツに対して医療側が過剰に応えてきたため、“患者様”が権利を勘違いした結果として生じています。医療は社会保障であり、健康づくりをして、かつ納税の義務を果たした人に権利があります。介護も保険料を納めるだけではダメで、介護保険法には「加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進につとめる……」(第4条)という条文があります。一般病院の当直医というのは病棟を守るためにいるのであって、外来で時間外の急患を受けるためではない。当たり前のことを普通にやらなければダメです。日本の医師数はOECD加盟30カ国中27位(人口1000人当たり2.0人)で、根本的に過ちがあるところに、決まりを守らないから崩壊するのです。
夕張こそは日本の縮図
――自治体破綻でも高齢化率でも、夕張市は日本の近未来のようです。
村上 夕張は日本の縮図です。人口が1万2000人で、借金が600億を数十億上回る、高齢化率は4割強です。日本全体では人口1億2000万人で国債発行額が600兆円。高齢化率は現在のところ20%超ですが、2050年には40%に達します。日本の規模が1万分の1になったのが夕張で、1人当たり約600万円の借金を抱えているという意味では同じです。このままいけば日本は潰れるということです。
――先駆けて、立ち直るモデルをつくりたいということですね。
村上 夕張市は真っ先に手を挙げて潰れました。ナンバーワンでオンリーワンです。高齢化率も日本一の市です。超高齢化した限界自治体(高齢化率が50%以上で、財政維持が困難な自治体のこと)では、お金をかけない医療をやらなければ成り立たないというモデルが示せます。
方法はごく簡単で、高齢者に働いてもらう以外にはありません。高齢者をさっさと定年退職させ、病人をつくって、高度先端医療という幻想を与え、生活習慣病をどんどん垂れ流している今のやり方では無理です。高齢者には死ぬまで働いてもらうのです。
当院には、消防署のOBでボイラー技士資格も持つ70代の職員が働いています。年金暮らしなので給料は抑えられますし、やる気もあります。こういう高齢者たちにゲートボールをする代わりに仕事をしてもらえば、医療費も介護費もかからず、税収も増えます。高齢者を雇用して元気に働ける環境づくりに特化すれば、都市部で定年を迎えた人も呼べるでしょう。
夕張市には箱物が多くあり、都市部の人が楽しめるコンテンツも豊富です。新千歳空港から1時間、温泉は出る、歴史はある、標高300mでスキー場もあります。ホテルがあり、夕張メロンがあります。何よりも環境が良く、例えば杉の木は1本もありません。人の健康に一番大事である安全な食材と環境がそろっているのです。
「病院がないと健康が保てない」などと言うのは、洗脳されているからです。かつて全国一脳卒中が多かった長野県は、それを克服して日本一の長寿県になりました。一方、病院ばかり建てていたのが北海道です。病院が充実していると、住民は健康づくりをしません。喫煙率が日本一高いのも、医療費が一番高いのも北海道です。健康になれる、医療費が安くなる素質を一番持ちながら、環境を生かしていません。
医療ではなく町づくりをしに来た
――ヘルスツーリズムにも取り組まれていますね。
村上 夕張には医療をしに来たのではなく、町づくりに来ていると皆に公言しています。町づくりでお客さんを呼ぶには、自治体のインフラとして、警察、消防、医療機関が必要です。
2007年10月には「メタボビートキャンプin夕張]を実施しました。地元の医療機関や企業と大学とがリンクして、環境を生かした新しいコンテンツをつくろうという試みで、もともとは北海道大学の西村孝司教授(免疫学)の発案です。
メタボキャンプなら、健診は僕らがやる。運動療法として石炭の露天掘りをして、掘った石炭を使って野外で調理をしてもらい、温泉に入ります。北大の温泉医学の教授に入浴を指導してもらい、地元の安全な食材を使ってカロリーを抑えたヘルシーメニューづくりには、管理栄養士が参加します。初回は14人の参加がありました。3月には同様に「スギ花粉北海道リトリートツアー」を実施しました。
医療機関はツアー自体は収益にはつながりませんが、夕張の良さが分かる都会の観光客が増えてくれれば、雇用もできて、町は潤うでしょう。
――北海道への思い入れが強いですね。
村上 僕は北海道の僻地の生まれで医療過疎地で育ち、かつては北海道が嫌いで仕方がありませんでした。自治医大の医局に入って本州に出て、初めて北海道の良さに気付きました。ごみごみした都市部で満員電車に揺られるのが健康な生活だとは思えません。
夕張は一つのモデルです。北海道全体でも、工場を誘致するということではなく、もっと環境を考えてお客さんや雇用を生まなければダメです。地球温暖化が道めば、本州では四季がなくなるでしょうから、道州制で北海道は独立して、東京を見返すぐらいの意気込みでやりたいと思っています。
身の丈に合った自治体病院改革
――自治体病院をめぐる環境は厳しいですね。
村上 自治体病院が潰れる一番の原因は、自分のことしか考えず、住民のほうを見ていないからです。行政では、前任者の否定になるので、改善はできても改革はできません。破綻した町こそは改革ができるチャンスだと思って、ここに来ました。お金がないので、□も出せないはずです。
住民の健康を守る目的で昨秋、インフルエンザの予防接種を受けましょう、かかりつけ医を持ちましょうというようなチラシを自前でつくりました。開設者は市長であり公的医療機関なので、このチラシを市の広報に挟んでほしいとお願いしたところ、総務課長からは、当院への利益誘導になるから配れないという回答でした。話が市長のところまで届いているのかと記者会見を開いて強く抗議をしたところ、それからあまり□を挟んでこなくなりました。
――人件費も負担ですね。
村上 自治体病院の経営が苦しいのは、人件費が高いからです。民間では人件費率は5割程度で、7割を超えるような病院は成り立ちません。
自治体病院も権利ばかり主張しないで身の丈に合ったコストにして、サービスを良くしなければ潰れます。給料も「仕組みだから」と言っているだけではダメです。仕組みを変えないと破綻するというのは、夕張が証明しています。民間並みに下げろとは言いませんが、せめて給料分は働かないと。
ただし、公的医療機関は黒字である必要はないと思っています。瀬棚町診療所時代に試算したところ、専門職を24時間張り付けて維持していくには住民1人当たり約1万円が必要で、「年間3000万円の赤字になります」と住民に宣言しました。予防活動に努めた結果、実際の年間赤字額は740万円で済み、大幅な医療費削減になりました。不採算なことをやるのですから、黒字にはできません。住民自身がお金を出したくないのならやめるべきです。安全保障費の個人負担は、日本は他の先進国と比べて必ずしも高いわけではありません。
頑張った人が報われる給与体系
――ここの給与は誰が決めますか。
村上 医療経営の専門家を雇い、過去の資料や道内医療機関の人件費をすべて調べてもらい、ちょっと上乗せして決めました。決して安いわけではありません。ただ、ある年代で昇給が止まり、頑張った者が報われる成果主義を入れました。例えば准看さんも年功だけで昇給し続けることはありませんが、ケアマネジャーなどの資格を取れば、給与は上がり、年末のボーナスも出ます。当直も基本科を抑え、夜間に受けた急患の人数に応じて、看護師にも医師にも手当を上乗せしています。今は副院長はいませんが、医師以外から起用したいと患っています。
こうしたことは前からしたいと思っていましたが、自分か公務員の時には首長には逆らえず、仕組みを変えられませんでした。
――医師も順調に集まりましたね。
村上 医師の定員は3人ですが、10人以上の応募者がありました。10月からは4人になります。その人は15年目の医師で、給料はいいから、とにかくここで働きたいという人です。人件費が払えないのでいったんお断りしたうえで、地域医療をやりたい人の人件費を何とかなりませんかと、道に対して持ちかけたくらいです。
学べるもの、やるべきことをはっきり示すと、医師は来るのです。北海道庁では地域医療の充実策を掲げ、道職員として5人の医師を募果募集していますが、1年たって1人も確保できていません。派遣先も分からず、誰でも良いからきてほしいというようなところには、医師は行きません。
――ここで何が学べますか。
村上 第一に町づくりです。それから、超高齢社会への医療。僕はプライマリケアの認定医なので、幅広いジェネラリストになる能力を身に着けられます。病院経営のプロから経営手法を学べます。在宅医療の立ち上げ方からかかわれ、地域包括ケアを学べます。何よりもキャリアになります。夕張で仕事をした経験は、どこの病院に移ってもマイナスにはならないでしょう。
医局の押し付けではなく、都市部出身で脂が乗っている30代の医師たちが、きれいな空気と安全な食物があるところでの子育てを兼ねて、数年ずつ交代で学びながら医療をしてくれれば、双方がハッピーです。
社会企業家として次世代を育成
――いつまでここにいる予定ですか。
村上 10年いると公言しています。10年間で後輩を育て、ここを実績にして、次の地域の立て直しに行きます。夕張モデルを構築できなかったら、多分どこかの離島にでも行って、借金を返すためにひっそりと医療をしているでしょう。ここの立ち上げのために、病院指定管理者としての信用だけでPPP(Public Private Partnership)融資制度を利用して、担保なしに1億円以上の借金をしていますから。
僕を「社会企業家」と呼ぶ人がいますが、超高齢社会の社会企業というのは、健康や環境がキーワードだと思うので、それを証明したいのです。最初は、何とかしたいという思いで赤ひげをやっていました。今でも赤ひげ的な面はありますが、個人ではなく仕組みとして医療を支えていかないと、次が続かないと強く思っています。
医学生、薬剤師、看護師……いろいろな人が研修に来てくれるようになりました。手間もかかりますが、次の世代を育てるのは僕らの仕事だと皆に言っています。それができなくなったら終わり。自分さえ良ければいいと、次の世代のことを考えないから、夕張が潰れたのです。公共の福祉は日本人の一番の美徳でした。少し回帰しませんかと言っているようなものです。
――本日はありがとうございました。
(聞き手 中居あさこ ジャーナリスト)
医療崩壊ー地域医療の崩壊は、今国民的な関心になっていると思いますが、わたしの知人の開業医の先生が最近、このテーマで執筆されています。
この本によると、その崩壊の主な責任は、医療行政の問題にあると指摘しています。つまり、医療費など年間2200億円削減のしわ寄せを、地域の医療現場に押しつけているとのことです。
このような、一開業の方々を含めて、現場の医療関係者から様々な議論が巻き起こってくることを期待したいところです。
『医は仁術か算術か―田舎医者モノ申す』(定塚甫著・社会批評社・1500円)
http://www.alpha-net.ne.jp/users2/shakai/top/80-9.htm
投稿情報: 堀口舞 | 2008年10 月 8日 (水) 14:40
大変興味深く読ませていただきました。
北海道夕張市が財政再建団体に転落したというニュースを聞いた当時はとてもびっくりしました。
そんな逆境の中、その中で頑張っている医師:村上氏のインタビューの言葉は重みがあってとても素晴らしいですね☆
私たちも仲間で現在の「医療崩壊」について調べていたのですが、調べれば調べるほど暗くなるばかりでした。そんな中でこのブログの内容に出会った時、新たな可能性が感じられてとても嬉しいです。
投稿情報: 倉橋利弘 | 2009年9 月12日 (土) 04:40
立派な理念と実践に感服いたしました。夕張に日本の医療モデルを築いて下さい。中医協の委員もしましたが、構造改革なしに医療の未来を語る事は大変難しいと考えていましたが、先生のお話で出来るところからコツコツとやるしかないと思い直しました。ご成功を祈っています。
投稿情報: 坂本昭文 | 2011年11 月14日 (月) 23:55