(関連目次)→医師のモチベーションの問題 勤務医のお給料の問題
(投稿:by 僻地の産科医)
前3回はこちらです!
「勤務医では刑事訴追のリスクを回避できず」 正当に仕事が評価されないのも退職の要因
理不尽な勤務実態、現場を無視した経営 様々な矛盾の下では働けず
私が勤務医を辞めたわけ◆Vol.4
「フリーで働くのは一時的な形態かもしれない」
病院に戻る選択肢もあり、行政動向にも左右される
司会・まとめ m3.com編集長橋本佳子
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080811_1.html
――ではA先生は、どれくらい前に病院側に退職の意向を伝えたのですか。
A先生 僕はけっこう時間をかけました。辞める5年くらい前から「いつか辞める日が来るだろう」と思っていました。でも決めたら上司には言わなくてはいけませんよね。僕の上司はとてもいい人だったので、「もし言うとしたら何て言えばいいんだろう、言いにくいだろうなあ」などとぼんやり考えていました。そして辞める3年ぐらい前のある日、些細なことかも知れませんが、個人的にはすごく腹立たしい出来事があり、突然僕の魔法が解けました。
1989年卒。長年、心臓血管外科医として勤務。2007年春、退職。内科外来や健診の仕事をしながら、開業を視野に入れ、勉強中。
それで即、辞意を表明したわけではなかったのですが、辞める2年ぐらい前のある日、突然上司から「お前そのうち辞めようと思っているんだって」と聞かれました。周囲には少しずつもらしていましたので耳に入っていたのでしょう。翌年の人事について、そろそろ話が出る時期でもありましたので、将来僕がいなくなるのであれば、今のうちに何とか手術のできる人材を確保しておかなければ、ということで確認したのだと思います。一瞬、ドキッとしましたが、そのとき既に僕の魔法は解けていましたので、「実は辞めようと思っています」とその場で即答しました。
その後、1年くらいして、つまり辞める1年前に医局の教授に話に行きました。
――もう医局に所属されていないのですか。
A先生 それがよく分からないんです(笑)。「医局員の証(あかし)」があるわけではないし、所属しているかどうかは口約束みたいなものですから。でも医局からは時々お知らせなどが来ますし、自分でも医局のメンバーだと思っています。正式にどうなのかはよく分かりませんが。
――「フリー」の医師になって、周囲の反応はいかがでしょうか。一番周囲の方に聞かれる質問は何ですか。
C先生 「どこで働いているのか」「どんな仕事をしているのか」について、よく聞かれますね。僕の場合、曜日によって仕事先が違うので、説明がやや複雑です。
A先生 確かにそうした質問はありますね。ただ、周囲の反応は思ったほどにはありませんでした。
――それは、フリーの形態で仕事をする医師が増えているからでしょうか。
C先生 確かに今は、僕たちのようにフリーで仕事をする医師が増えているように思います。一つには、開業がそんなに楽ではないことが知れ渡ってきた。またフリーで働く場合でも、他の業種とは異なり、医師の場合は専門性も高く、需要もあり、非常に恵まれている。こうした中途半端な働き方が許されるというか、可能な仕事です。だから今までのスタンダードだった開業の代わりに、一時的にフリーで働くという形態が増えているのだと思います。
――「フリー」という形態は、「一時的」なのでしょうか。
C先生 あれだけ長時間働き、当直もある勤務医よりも、フリーの医師の方が収入面で割がいいのは、どう考えたっておかしい。それは世の中が許さないでしょう。今は、時間外労働に対してきちんと手当を支払わないから、労働時間を短縮しようという流れになりません。仕事が増えても、無償で働く忙しい医師がさらに仕事量を増やして対応してきたわけです。こうした無償労働に頼って、無理に無理を重ねていたのでは、勤務環境改善へのフィードバックがかかりません。
しかし、次第に医師の勤務環境が問題視されるようになり、改善の動きもようやく出始めています。
1996年卒。消化器内科医。2007年春、退職。内視鏡検査や消化器内科の外来などを複数の病院で担当。
――C先生は、病院の勤務環境などが改善されれば、病院に戻る選択肢も考えているのでしょうか。
C先生 少なくても、僕はそうです。今の仕事の形態は、自ら好んでやっているわけではありません。実は勤務医時代と仕事の内容そのものは、さほど変わっていません。内視鏡検査や消化器を専門にした臨床は、開業では少しやりにくいと思います。ただ、「30時間連続勤務して当たり前」という病院には戻れませんが。
――C先生の場合、「今、一番やりたい仕事は何か」を考え、それが正当に評価されるのが、今の仕事の形態なのですね。A先生はどうでしょうか。
A先生 僕は将来的には開業を考えているので、勤務医に戻ることは考えていません。今、開業を視野にいろいろな勉強をしています。腹部エコーや心エコーを教わりに行ったり、整形外科や小児科の外来を見学しに行って、その場でいろいろ教えてもらったりしています。プライマリケアに関する雑誌を読んで幅広い知識を付けたり、漢方の勉強などもしていますが、これもなかなかおもしろいです。それから運動療法や代替医療なんかも結構おもしろいですよ。
――A先生はどんな形態の開業をお考えなのでしょうか。
A先生 基本は、循環器疾患を含めた内科一般ですが、なるべく幅広く診る診療所ですね。疾患に対する治療だけではなく、日々の健康管理にも着目し、食事療法、運動療法などもできる形にしたいです。今、食事と運動療法どちらが効果的か、自分で試しています。この7カ月間の食事療法で13~14kg減量しました。これも1つのキャリアアップだと思っています(笑)。
B先生 麻酔科医の場合は、開業するなら、ペインクリニックが一般的ですが、純粋な意味での手術麻酔での開業は、都道府県の社会保険事務所によって考え方が異なっていたり、煩雑なレセプト請求があるため、この形態が大きく普及するかどうかは判断が難しいです。ただ、今の私の形態は、今後もある程度は残っていくのでは、と思っています。例えば、「子育て中のため、週3日程度の勤務にとどめたい」という医師もいるわけです。こうした人は今まではアルバイトの形でやっていたわけですが、われわれのようにグループを組んでやる方が、医師にとっても病院と対等な形で仕事ができます。もちろん、グループを組むのを嫌い、一人でフリーの形で仕事をする医師もいるとは思いますが。
1995年卒。麻酔科医。約3年前に独立し、現在は複数の麻酔科医でグループを組み、複数の病院と契約する形で麻酔の仕事に従事。
――B先生たちのようにグループで仕事をするのは、今の時代のニーズに合っているのですね。
B先生 そうですね。少なくとも私たちはそう考えています。例えば、教育を担当する中堅医師がいない病院もあります。これは本来、われわれの世代が担うべきところでもあり、社会的な還元の意味で、教育にも携わっています。臨床もやり、教育に携わるのは、面白いやり方ではあると思います。
もっとも、医療制度が今後変わり、病院がセンター化、集約化していくようになると、事情は変わるかもしれません。今の日本は病院の数が多く、労働力が散逸している面が大きくあると思います。だから、われわれのような仕事へのニーズもある。手術麻酔を仕事にする場合、医療制度など行政の動きにも左右されます。しかしながら、麻酔科医は絶対数が不足していることから、当面、需要が減ることはないでしょう。
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