(関連目次)→医療事故安全調査委員会 各学会の反応
(投稿:by 僻地の産科医)
私の大好きな井上先生です(>▽<)!!!!
8月9日にお会いした時に、
「ブログでいつも取上げさせていただいてます!」
とご挨拶したら、「知ってる知ってるっ!!!」って。
「ご自分でブログやってるでしょっ!」
って先生ご自身が声かけられるんですって ..。*♡
これが悪いんだな(笑)。きっと。では、どうぞ。
弁護士だからわかる
「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」
に隠された意図
MTpro 記事 2008年8月14日掲載
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0808/080813.html
「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」の厚生労働省(厚労省)からの公表(2008年6月)を受け,各医師や学会などは問題点をパブリックコメントとして厚労省に提出したり,各学会のホームページ上で公式見解として公表したりしている。大綱案を弁護士が見ると,法律上の問題点に加え,表面からは見えない作成側の思惑も透けてくる。医療における医師の不当逮捕問題の本質は,医師法21条ではなく,世界保健機関(WHO)の医療安全に関するガイドライン(2005年)に逆行する,刑法の“業務上過失”を医療に適用することにあるという。
医師法21条問題
大綱案は,処罰の根拠を拡大し,医師から黙秘権を剥奪するもの
NPO法人「医療制度研究会」が8月9日に東京で開催した「医療制度研究会&意見交換」で,弁護士の井上清成氏は,厚労省の大綱案について解説した。今大綱案に至る道程で,多くの医師が声を挙げたのが,とにかく医師たちを目の前にある逮捕の危険から救うための方策の必要性である。そのため,医師法21条の修正が要望として出されることも多い。
では,病院の顧問弁護士も務める井上氏はこの点をどう見ているのか。同氏は,大綱案はむしろ実質的に医師法21条を拡大強化するものだと指摘する。
(1)検案医が病院管理者への医療事故死の報告をしないと,医師法21条により処罰の対象となること(大綱案第33)は従前通り。さらに,
(2)大臣による届け出命令,体制整備命令に従わなければやはり刑罰の処罰対象となる(同第32)。
つまり,「現在は医師法21条違反が問われるだけであったところが,この大綱案は二重処罰に拡大強化するものだ」というのである。
また,現状では憲法38条に基づき,医師の黙秘権は絶対的なものとして保障されている。医師法21条違反を問う犯罪捜査においてもそれは同様であった。ところが,今大綱案の第32(9)では,地方委員会の医療安全(事故)調査における,報告拒否,質問回答拒否については,大臣の報告命令,体制整備命令,報告命令,改善命令に従わなかった際,罰則の対象となることが明記されている。
さらに,犯罪捜査において,警察官に対し虚偽の報告・陳述その他の回答をしても,容疑者はなんらの法的責任を負っておらず,これは医師だからといって除外の対象にはなっていない。ところが,大綱案第30では,地方委員会の医療事故調査で,虚偽の報告をすると直ちに刑罰によって処罰されることになる。
つまり,大綱案の導入は「医師からの“実質的な黙秘権の剥奪”」になるというのだ。
同氏は「そもそも医療事故調査委員会設置の議論は医師法21条の脅威を除去すべく,警察への届け出から中立的第三者機関への届け出へと改めるべく始まったのに,結果として今大綱案は行政処分権限の拡大強化ばかりが目立っている」と指摘した。
医師法21条削除を提案する
民主党案は“コロンブスの卵“
なお,民主党が作成した対案(通称・患者支援法案)では,医師法21条そのものの削除を提案しており,違反に伴う罰則もなくしている。
井上氏は,ここで,かつて旧厚生省で作成された「医療法・医師法(歯科医師法)解」について紹介。そのなかで医師法21条の制度主旨が「死体又は死産児については,殺人,傷害致死,死体損壊,堕胎等の犯罪の痕跡を止めている場合があるので,司法警察上の便宜のために」と明記されていることからも,医師法21条が「犯罪捜査に協力する観点から」作成されていることは明らかと指摘する。
また,実際に医師が逮捕され問題になるのは,「事故隠し」などのケースではなく,福島県立大野病院事件のように,「過失がなく,当該医師も届け出る必要がない」と考えたような場合である。この点について,医師法21条が存在する限り,大綱案が求める大臣への届け出について,医師・医療機関が“必要性なし“と判断した場合は同じこと(逮捕)が繰り返される危険性があると指摘する。
現在,警察・検察により,拡大解釈がなされ,合理性も欠いている医師法21条について,削除を提案する民主党の対案について,同氏は「“コロンブスの卵“である」と評価した。
そのうえ,大綱案では,医療関連事故死について患者側などから警察に直接訴えがなされた場合についてはどうするか明示されていない。仮に医療安全調査委員会が設置されても,警察に直接訴え出られた場合,該当医師や医療機関から地方委員会に届け出がなされていなければどうなるのかが不明だ。
さらに,(1)警察は地方委員会の判断に従うため,訴えをいったん保留し,独自の捜査や逮捕を行わない(2)検察も捜査・起訴を控える―といった保障は何もなされていない状況である。大綱案を導入しても,医療訴訟の構造自体は大きくは変わらないと言えよう。
刑法の業務上過失(第209~211条)問題
―業務上過失の医療への適応を
医療側が追認していいのか
井上氏は,医療における医師の不当逮捕について攻略すべきポイントを城攻めにたとえ,「本丸は,刑法211条1項の業務上過失致死傷罪にある」と言う。現在,医療側は医療の業務上過失致死傷を公式に認めているわけではないが,大綱案を導入することで,これを追認することになると同氏は注意を喚起した。
大綱案第25では,地方委員会から警察への通知義務として,「標準的な医療から著しく逸脱した医療」を挙げているが,同氏は「刑法における業務上過失の争点となる“重大な過失”の部分を大綱案の“標準的な医療から著しく逸脱した医療”に置き換えていることで,刑法211条には直接手を入れず,犯罪自体は成立しているが,そのなかでも特に情状のよくない悪い犯情に絞る,つまり情状での限定的運用をするものである」と指摘する。
同氏は,民主党の対案はこの点について中・長期的視野に立ち,「大胆に現行法を立法で改めようとするものである」と言う。ただし民主党案がどういう方向を指向しているのか,今のところ,具体的には示されていない。
先進諸国に倣い,医療は対象外に
現在,多くの先進諸国では,WHOの医療安全に関するガイドライン(2005年)などに従い,医療過誤について医療従事者を刑罰の対象としないなど,個人を罰することよりも原因の究明とその対策に重きを置いている。井上氏が示した独自の改正法案“医療と犯罪の立法・運用の選択肢”の4つのプランのなかで同ガイドラインに最も近いのが以下の改正案である。
「医療に従い,緊急の場合その他正当な事由なくして,患者若しくはその親族に対し説明をせず,又は患者若しくはその親族の同意を得ず,身体への侵襲を伴う施術をした医師は,刑法に定める傷害の例による。診療録に虚偽に記載をした医師は,刑法に定める虚偽診断書作成の例による。」と故意犯については新設。その一方で,「医療に伴い,刑法211条1項の罪(業務上過失致死傷罪と重過失致死傷罪)若しくは刑法210条の罪(過失致死傷罪)又は刑法209条の罪(過失傷害罪)を犯した医師は,その刑を免除する。」とし,業務上過失については医師の免責を行うというものである。
なお,多くの医師が大綱案について指摘するのが「“標準的な医療から著しく逸脱した医療”の定義がないこと」であり,時代とともに変化する医療への解釈に厳密な絶対性を求めることは困難であることは世界中の医療者の共通認識と言えよう。WHOに加盟している先進諸国(日本も加盟している)などでは,医療訴訟を大観し,同ガイドラインに基づき現実に即した形で環境を整備している。
スウェーデンでは“無過失補償制度”導入で
医療過誤訴訟が著しく減少
井上氏は,次に医療訴訟に関して,スウェーデンにおける医療事故報告を義務としたマリア法と無過失補償制度の存在を紹介。無過失補償制度の患者保険機構の最高経営責任者が語るところによれば,「スウェーデンでは,無過失補償制度を導入することで医療過誤訴訟が著しく減少した」そうである。
ただし,同氏は,単に無過失補償制度を導入しただけでは,(患者側に)同時に損害賠償も認められるべきというインセンティブが発生し,訴訟が頻発する可能性があると指摘する。無過失補償制度による補償は一般に低額であり,損害賠償で認められる補償が高額で差異が大きいと訴訟の頻発傾向に拍車がかかるが,スウェーデンなど無過失補償制度が医療過誤訴訟の抑制にうまく機能している国では,医療訴訟で勝訴しても損害賠償による受け取り額は無過失補償制度の補償額と同額程度に収まるようになっており,訴訟のインセンティブ効果は抑えられているという。
第1次試案から大綱案に至るまで制度や法律の解釈について,厚労省はさまざまな記述を変更してきた。医療界内ではそれらについて意見が交錯し,大同できない状態だが,同氏はこうした厚労省の改変について「問題の本質に触れずに案を出して,それが駄目と言われれば言い方を変えるやり方」と述べ,“朝三暮四である”と評している。
上手すぎる!
本田先生も上手いけれど、やっぱり「弁論」で生きている法律家。
一つ一つの言葉が、きちんと厳密性を持ちながら、ちゃんと聴衆に伝わる言葉になっている。
テレビ屋は敗北しました。
投稿情報: ママサン | 2008年8 月16日 (土) 12:19
8月9日の…井上先生の講演レポートを作ろうとしてたんですが、
僻地の産科医センセのこの記事を読んじゃったら私は洋梨です〜(^^;)
ブログ、ここにリンク貼って終わりにしちゃおっかな〜。
>テレビ屋は敗北しました。
ママサ〜ン、心にもないことを…(笑)
洋食と和食を比べて勝敗は決められません。
どっちもおいしいっす。
投稿情報: つよぽん | 2008年8 月17日 (日) 18:07
実は私もちゃんと書こうと思ってたけど、
もうこれに敗れてやる気なし。。。(´・ω・`)
弁護士さんは弁が立ちますよね(笑)。
そのうえご本人が面白いし(>▽<)!!!
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年8 月17日 (日) 20:50