(関連目次)→医師のモチベーションの問題 勤務医のお給料の問題
(投稿:by 僻地の産科医)
前2回はこちらです!
「勤務医では刑事訴追のリスクを回避できず」 正当に仕事が評価されないのも退職の要因
私が勤務医を辞めたわけ◆Vol.3
「魔法が解けて、周囲が見えるようになった」
理不尽な勤務実態、現場を無視した経営…
様々な矛盾の下では働けず
司会・まとめ m3.com編集長橋本佳子
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080807_1.html
――「魔法が解けた」というのは興味深い表現ですね。それで周りが見えるようになったと。
C先生 本当にその通りです。今まで「魔法」がかかるように暗示をしていた。先日、ある病院の部長とメールしていたのですが、「今日は日曜日ですが、朝から術後管理をしています。でも時間外手当は付きません」とありました。でも違うんですよ。その人は部長なのですから。部長が改善を訴えなければ、下の医師の時間外手当も付きません。だから全然、気の毒だとも思いませんでした。「外科に医師が来ない」と文句を言っていますが、その先生が部長の椅子の価値を高めない限り、その椅子に座りたいなんて、誰も思わないわけです。僕が病院からいなくなったことによって、その病院で、できなくなった技術があります。結果的に僕が座っていた椅子は高まったのです。その反対に、技術を安売りし続けたら、椅子は高まりません。
――法外な給与を求めているのではなく、正当に評価してほしいと。
C先生 「魔法を解く」のは、僕らがやらなければいけない仕事です。いろいろな人に「今の制度はおかしいですよね」と訴えなければならない。本当に若い人は、初めから「魔法」にかかっていません。だから初めから、外科とか産婦人科などには進みません。
――最初から「魔法にかからない」世代とは。
C先生 今の臨床研修制度は、「魔法をかけることを破棄」する制度ですが、それ以前から魔法にかからない医師はいました。私の世代でも、バリバリ勉強して外科系に進むと思っていたら、専攻を決める際に、訴訟リスクが少ない科を選んだ人がいましたから。
――ではB先生が病院をやめた理由をお聞かせください。
B先生 お二人とほぼ同じです。
勤務していたのは自治体病院でしたが、手術麻酔以外にも、集中治療室などでの管理も行っていました。内視鏡などの普及で、ただでさえ手術時間は長時間化する傾向にあり、週80~90時間勤務は当たり前。その上、1次救急から3次救急までやっていたので、年間4000以上の麻酔症例のうち、15~20%は緊急の手術でした。
1995年卒。麻酔科医。約3年前に独立し、現在は複数の麻酔科医でグループを組み、複数の病院と契約する形で麻酔の仕事に従事。
麻酔科の規模は大きく、ある意味、病院の中核的な役割を担っていたのですが、病院側は口では評価していても、態度では評価してくれない。給与は上がらないどころか、据え置きか、少しずつ下がっていました。 にもかかわらず、議員などから圧力をかけられるのか、病院の「ウリ」を作りたいからか、移植など高度な手術を始めろという。さらに負担をかけるようなことをして、麻酔科だけでなく手術室で働く人数は据え置き。現場の意見に耳を傾け、それを反映させるシステムがない。それで給与は上がらない。
院長に直談判にいっても、理解は示してくれますが、「自治体が決めたことだから」と。自治体病院の院長には人事権はありますが、経営権はありません。仮に、院長が了承しても、すぐにそれが自治体レベルでひっくり返ってしまう。病院をよくしようという根本的な考えがなく、経営責任の所在も曖昧(あいまい)だと思いました。現状やそこで働くスタッフの思い、要求を無視して、管理者である自治体が勝手な経営をする。そのことに理解ができなかったのが辞めた一番の理由です。つまり、病院と対等な関係になりたかったのが、フリーになった動機です。
――三人の先生方に共通しているのは、国公立病院に勤務されていたということです。私立だったら、状況は異なっていたのでしょうか。
C先生 国公立病院では矛盾が顕在化しやすかっただけで、今の医療制度ではそう変わらないのではないでしょうか。ただ、国公立病院は、医師に無理を強いやすい。市民や県民には、「自分の病院」という意識がある。その病院がつぶれると他に病院がなくなってしまうケースも多く、ぎりぎりのところで、やっています。しかし、そこで何かが起きると、簡単に「ポン」と、「魔法が解ける」。そして医師は辞めてしまう。
――「病院を辞める」と決心した後は、スムーズに辞めることができたのでしょうか。それとも苦労されましたか。
C先生 以前から、「今の制度は、おかしいでしょう」と様々な場で訴えていたので、病院を辞めるときは、周囲は比較的理解してくれ、円満退職できました。勤務医を辞めたのは、後輩の先生方に、現状の矛盾を伝えたかったという意味もあります。 1年前には上の先生に、さらに半年前には所属医局の教授や院長に辞める意向を伝え、「次の手当てをするように」とお願いしました。もし今、病院を辞めることを考えている先生がいるなら、「早く言った方がいい」とアドバイスしますね。「(その科の崩壊の)引き金を引いた」と言われないようにすることは絶対に大事。筋を通せば、さほど問題にはならないと思います。今まで良好な関係を築いていたコメディカルの方からは、「辞めるのは困る」などと言われましたが。
B先生 今、一緒に仕事をしている同僚も同じ病院に勤務していたので、2人同時にやめることになり、大きな問題になったとは後で聞きました。自治体の上層部まで話が行ったと聞きました。半年前には退職を決心し、3カ月前に依願退職を申し出ました。 僕たち2人とも特殊で、卒後すぐに臨床研修病院に出たので、医局には所属していません。いろいろな根回しをする必要がなく、自分と病院との関係だけでしたので、事務手続き的には問題はありませんでした。
――C先生は医局には所属されていたのですか。
C先生 はい。教授にもアポイントを取って説明に行きましたが、すごく緊張しました。どう話そうかと。教授からは「次、何をやるんだ」と聞かれましたが、開業するわけではなく、「何も決めていません」と。ただ、その時にも、「僕がこの状況で働き続けるのは、今の状況をさらに悪化することにつながりかねない」ということは話しました。むしろ教授に現状を知ってもらう、いい機会にはなりましたが。
医局を辞めなくてもよかったのですが、それでは「ずるいかな」と思って辞めました。医局に所属していたら、「当直のない病院に行かせるから、辞めないでくれ」などとなりかねませんし、自分で病院を探す際にも、大学の看板を背負うことになるので。
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