(関連目次)→医療安全と勤労時間・労基法 勤務医のお給料の問題
(投稿:by 僻地の産科医)
最近、あちこちの病院で、
「年俸制」なる給与体系がとられているところが多いようです。
でもって、
「年俸制って時間外手当が出ないんですよね~」
と言われて泣き寝入りしている方々も多いみたい。
それは大きな間違いです。
特に医師のように、
残業時間、出勤時間、自分でコントロールができない人種には、
「年俸制」の概念そのものが適応にはなりにくいのですが、
(参考:滋賀県成人病センターの労基署適応と同じく)
年俸制といわれた方、
「時間外手当を◎時間(具体的に)含んでいます」
と最初から明示されていない場合には、
法廷時間(週40時間)超過分の時間外手当をもらうことができます。
Googleででも、「年俸制」「時間外手当」で引いていただければ
上からザザーッとこのようなサイトが出てきます(>▽<)!!!
年俸制における時間外手当
http://www.soumunomori.com/column/article/atc-885/
相談事例
http://www.roudoukyoku.go.jp/soudan/t-jirei.html
1 年俸制の適用労働者の範囲は
(問)
当社は年俸制を導入しようと考えているのですが、年俸制を適用する労働者はどのような範囲にするのが適切といえるでしょうか。
すべての従業員に適用することは不可能でしょうか。
(答)
年俸制は本来労働時間に関係なく、労働者の成果・業績に応じて賃金額を決定しようとする賃金制度です。しかしながら、労働基準法では労働時間の長さをとらえて規制をしていますので、年俸制を導入した場合にも、実際の労働時間が法定労働時間を超えれば、時間外手当を支払わなければならないことになります。
ただし、労働基準法では、管理監督者、機密事務取扱者については、労働時間に関する規制がありませんので、労働時間が法定時間を超えても割増賃金を支払う必要はないとされています。また、裁量労働制などのみなし労働時間制の場合には、実際の労働時間に関係なく、みなし時間に応じた年俸が設定されていればよいことになります。
年俸制は労働時間とそれに応じた賃金という制度となじまないものですから、年俸制を適用する労働者は上記の二つに該当する職種が適切であると思われます。一般職員に年俸制を適用することは不可能ではありませんが、年俸制を適用する場合、実際の労働時間が法定労働時間を超えれば、時間外手当を支払わなければなりません。
なお、割増賃金の支払を必要としない労働者であっても、労働時間の把握はする必要がありますので留意してください。
第21回 年俸制における時間外手当
http://www.nextone.jp/no050113/mg/mg02.html
年俸制と時間外割増賃金
http://www.e-somu.com/faq.asp?lv=co&CI=564
年俸制の場合も、法定労働時間を超えた労働等に対しては、労基法で決められた割増賃金の支払義務があります。ただし、割増賃金を年俸とは別枠で明示するようにし、定額で支払う方法は認められていないわけではありません。例えば、時間外労働が毎月ほぼ一定の場合に、あらかじめ算定した割増額を年俸とは別に定額残業代として支給することは、違法とはなりません。しかし、この場合にも、実際に行われた時間外労働に見合う割増額が、定額残業代を上回る場合には、その差額を支払わなければならないことに注意が必要です。
なお、年俸制をとる場合の割増賃金の算定基礎となる賃金は、年俸の月割額(通勤手当等の算定基礎から除外できる賃金以外の手当が年俸と別に支給される場合には、その手当を含む)となります。
ちなみに、
平成14年10月25日大阪地裁判決のシステムワークス事件が
年俸制で残業手当を支払わないとする旨の規定が違法とされたケース
です。
この判例は、知人に確認した所、
判決文は「労働判例」(産労総合研究所)第844号の79頁に登載されています。
経営法曹 (141) 号 (経営法曹会議) 2004年06月にも関連文書が載っているようです。
簡単に紹介すると下記の通りです。
【システムワークス事件:大阪地判平14.10.24】
年俸制は、1年間にわたる仕事の成果によって翌年度の賃金額を設定しようとする制度なので、労働時間の量(割増賃金)を問題とする必要のない管理監督者(労基法41条2号該当者、管理監督の地位にある者であって出退勤の時間を自らの判断で決められる労働者)や、専門業務型裁量労働制の適用対象者(労基法38条の3の該当者、労使協定を締結して所轄労基署長に届出を要す、医師や歯科医師には適用できない)、企画業務型裁量労働制の適用対象者(同38条の4の該当者、労使委員会を設置して全員一致の合意を得た上で所轄労基署長に届出を要す)に適した賃金制である。いいかえれば、年俸制それ自体は時間外労働の割増賃金(労基法37条)を免れさせる効果はもたず、管理監督者ないし裁量労働制の要件を満たさない限り、割増賃金の支払義務を免れないとされた。
またこちらのHPではこのように紹介されています。
個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ
(社会保険労務士・行政書士 田村事務所)
http://www.eonet.ne.jp/~tsr/sub446.html
また、年俸制の採用に際して、時間外労働手当を含めて月額賃金を決定し、就業規則上「時間外労働手当は支給しない」と定めていた場合でも、労基法37条の趣旨から、時間外労働を命じている以上、使用者は割増賃金を支払わなければならないとしたものがある。
この事件では、月額18万円で年間15ヵ月分を支給(7月と12月に各27万円(18万円×1.5)の賞与を支給) するとされていたが、裁判所は、その賞与分について、支給時期および支給額があらかじめ確定しているので、「臨時に支払われた賃金」または「1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金」( 労基法施行規則21条)には該当しないとして、割増賃金の算定基礎となる賃金に算入されると判断した。
(システムワークス事件 大阪地判平14.10.25 労判844‐79)。
同様に、時間外労働割増賃金、諸手当及び賞与を含めて年俸額300万円(毎月25万円支給)として雇用した労働者の割増賃金請求について、年俸制だから割増賃金を支払わなくてもよいというわけではなく、労基法37条の趣旨から、割増賃金部分が法定の額を下回っているかどうかが具体的に計算できないような方法による賃金の支払方法は無効であると判断したものがある。
(創栄コンサルタント事件 大阪地判平14.5.17 労判828‐14)。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の
データベースにも同じようなことが書いてあります。
(お偉いさんは、独立行政法人に弱いので、
プリントアウトして持っていくとしたら、
こちらの方がいいかもしれませんo(^-^)o ..。*♡)
http://www.jil.go.jp/kobetsu/book/12.html
ちなみに、これって
「判例に照らすまでもなく労基法違反なんで、
社労士試験の労基法科目での定番問題」
なんだそうです(-_-;)。。。
医者ってちょろいんだなぁ。。。。
ちなみに年俸制だと、給与制よりもいいことがあります(>▽<)!!
残業代の算出基準となる時間給が給与制より高いのです。
どういうことかというと、
通常の賃金体系は残業しないとすると、簡略すると
(年収) = (月収)x12ヶ月 + ボーナス
なのですが、年俸制だとすると(年収) = (年俸) なので、
(月収) = (年俸) ÷ 12ヶ月
で、計算されるので、単純に月収金額が高くなり、
結果、時間給が高くなります。
ちなみにいかほどの時間外手当がもらえるかというと、
使用者は、時間外労働(法定労働時間を超える労働)を行わせたときには通常の賃金の2割5分増し以上、法定の休日に休日労働を行わせたときには通常の賃金の3割5分増し以上の割増賃金を支払わなければならず、また、深夜労働(午後10時-午前5時)を行わせたときにも通常の賃金の2割 5分増し以上の割増賃金を支払わなければならない(労働基準法第37条)。
お心当たりの方は、まず事務さんにでも掛け合ってみてください。
(上のシステムワークス判決文に関しては、ちょっと調べてみますね)
ちなみに賃金未払いの時効は2年間です。お早めに。
関係ありませんが、年俸制の場合って
退職金が支払われないそうです。
こつこつ貯めないとだめですね。
だから時間外もガッツリとっておかねばだめです。
【参考ブログ】
勤務医のための労務管理
DrPoohの日記 2009-03-28
http://d.hatena.ne.jp/DrPooh/20090328
ついでのおまけですo(^-^)o ..。*♡
滋賀県病院事業庁を送検 残業代一部未払いの疑い
media jam 2009.3.28
http://mediajam.info/topic/845995?rss=true
滋賀県立成人病センター(守山市)の医師の残業代を規定より少なく算定したとして、大津労働基準監督署が労働基準法違反の疑いで、同センターを運営する県病院事業庁と幹部らを書類送検していたことが28日、大津労基署への取材で分かった。厚生労働省によると、残業代に関し公立病院が捜査を受けたのは異例。
大津労基署によると、2008年4月、管理職とされながら権限がなく、残業代が支払われない同センターの医師が「名ばかり管理職」だとして、事業庁に是正勧告した。事業庁は同センターなど県立3病院の管理職約40人を含む医師約100人の残業代などを、06年4月にさかのぼって算出。今年1月までに総額2億4000万円を支払った。また各院長ら約10人をあらためて管理職にした。
しかし、労基署が病院関係者から刑事告訴を受けて調べた結果、残業代の算定基礎から医師に毎月支払われる「初任給調整手当」を除外して計算していた疑いが強まった。不払い分は約3億5000万円に上るとみられる。
滋賀県病院事業庁を送検 残業代一部未払いの疑い
47news 2009年3月28日
http://www.47news.jp/CN/200903/CN2009032801000813.html
滋賀県立成人病センター(守山市)の医師の残業代を規定より少なく算定したとして、大津労働基準監督署が労働基準法違反の疑いで、同センターを運営する県病院事業庁と幹部らを書類送検していたことが28日、大津労基署への取材で分かった。
厚生労働省によると、残業代に関し公立病院が捜査を受けたのは異例。
大津労基署によると、2008年4月、管理職とされながら権限がなく、残業代が支払われない同センターの医師が「名ばかり管理職」だとして、事業庁に是正勧告した。事業庁は同センターなど県立3病院の管理職約40人を含む医師約100人の残業代などを、06年4月にさかのぼって算出。今年1月までに総額2億4000万円を支払った。また各院長ら約10人をあらためて管理職にした。
しかし、労基署が病院関係者から刑事告訴を受けて調べた結果、残業代の算定基礎から医師に毎月支払われる「初任給調整手当」を除外して計算していた疑いが強まった。不払い分は約3億5000万円に上るとみられる。
愛育病院の「指定返上」波紋広がる 医師不足と労基法の溝深く
MSN産経ニュース 2009年3月28日
(1)http://sankei.jp.msn.com/life/body/090328/bdy0903282137004-n1.htm
(2)http://sankei.jp.msn.com/life/body/090328/bdy0903282137004-n2.htm
リスクの高い妊婦を24時間体制で受け入れる「総合周産期母子医療センター」の指定を受けている愛育病院(東京都港区)が、指定返上を都に打診した問題について、波紋が広がっている。返上の理由は労働基準監督署から医師らを長時間働かせた労働基準法違反で是正勧告を受けたため。周産期医療の維持が、過酷な医師の勤務実態の上に成り立っていることを改めて浮き彫りにした格好で、病院側は「国が医師の労働環境を改善しないのに、労基法を守れというのには無理がある」と訴えている。
24日夕、愛育病院から都に一本の電話が入った。「総合周産期母子医療センターから地域周産期母子医療センターの指定に変更したい」。「総合」の指定返上をこう切り出した。都の基準では「総合」は新生児集中治療室(NICU)などを備え、24時間体制で複数の産科医が勤務することが必要。一方、「地域」では夜間、休日での複数医師勤務は求められていない。
同病院によると、15人の産科医のうち4人が子育てなどのため夜間勤務ができないという。三田労基署は17日、労働基準法に基づく労使協定を結ばず、医師に長時間労働をさせていたとして、是正を勧告。病院側は「各医師に法定の労働時間を守らせると、常勤医師1人を含む医師2人による当直は難しい」と判断したのだ。
「搬送調整など他病院が代わりを務めることは難しい」。都は26日、愛育病院に対して「総合」の指定継続を求めた。
愛育病院は、周産期医療のあり方などを検討する「都周産期医療協議会」のメンバーだ。都内の周産期医療体制について熟知しているだけに「指定返上」の打診は医療関係者の間でさまざまな憶測を呼んだ。
愛育病院の中林正雄院長は記者会見で、「産科医不足の中では国からの資金支援などがなければ、病院側も産科医の過酷な労働環境を改善することはできない。悪条件が改善されないのに労基法だけを守れというのは現実的ではない」と反発した。愛育病院側は現在、都の意向を受け、条件付きで指定継続を検討しているが、「社会全体で周産期医療のあり方について考えてほしい」(中林院長)と訴えている。
労働基準法に詳しい伊藤博義・宮城教育大名誉教授は「労働基準法を守れないほど長時間労働をしなければならない医療現場の実情に対し、行政側も自らの責任について考え、対応していく必要がある」と話した。
>関係ありませんが、年俸制の場合って
>退職金が支払われないそうです。
もともと、退職金を払う義務が労基法で定められている訳じゃありませんので、不正確です。
年俸制でも退職金を払って構いません。
単に労使合意で決めれば良いことです。
労:「年俸制だけれど、長く働くのだから、退職金を寄こせ!」
使:「それじゃあ、年俸をチョビット引き算して退職金積み立てに回すわね。」
労:「わーい!年俸制+退職金だ!」
昔の偉い人は、この有様を見て
朝 三 暮 四
と、言いました。(笑)
賃金の受け取り方の選択ですから、本来は年俸制でも、月給制でも同価値にならないとおかしいという発想が必要です。
投稿情報: Med_Law | 2009年3 月29日 (日) 21:09