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(投稿:by 僻地の産科医)
産婦人科治療 2008年7月号からですo(^-^)o..。*♡
特集はこれからのリプロ・ヘルス
日本の予防接種、だけでなく医療政策全体の問題が、
最後の一文に託されていて、
「本当にそのとおりだ~っ(>▽<)!!!!」
って叫んでしまいました。
日本という国は、本当に自分の国民を大事にしない国です。
予防接種については、私も現状に不満を感じています。
もっとみなさまも予防接種に関心を持ってください!
わが国の小児予防接種の現状と今後の課題
東京大学大学院医学系研突科
小児医学講座 講師
渡 辺 博
(産婦人科治療 vol.97 no.1-2008/7 p85-89)
日本の小児予防接種の現状
日本の小児対象の予防接種は現在,貧しい状態にある.問題点は3つあると思う.
①定期接種ワクチンの種類が少ない
②任意接種ワクチンも種類が少ない
③接種率が決してよくない
がそれである.いずれも問題は大きい.本稿では日本の予防接種の現状を概観し,次に海外の状況と対比することで現状を確認してみたい.
日本の小児予防接種スケジュール
現在の日本の小児対象定期接種スケジュールを図1に示す.製剤として5種類,ワクチンの種類としては,混合ワクチンを一つずつ数えて8種類である.それぞれのワクチンの意義を以下に述べる.
1.BCGワクチン
このワクチンの目的は,乳幼児の重症結核(粟粒結核や結核性髄膜炎)を予防することである.WHO・UNICEFはワクチンが受けられなくて結核で死亡する発展途上国の乳幼児を救うために援助を行い,すべての新生児が生後24時間以内にBCGワクチン接種を受けられるよう努力している.日本では6ヵ月未満の乳児を対象に定期接種が行われている.以前BCGワクチンには成人の結核の予防効果もあるとあると思われていたが,メタアナリシスの結果現在は疑問視されている.
2.DPT三種混合ワクチン
ジフテリア・百目咳・破傷風の混合ワクチンである.生後3ヵ月以降に3回、3~8週の間隔で各0.5ml接種し,その約1年収に1回0.5ml接種することで基礎免疫が完成する.追加免疫は11~13歳時にDTワクチンで1回,0.1mlの接種が行われる.
百日咳は最近成人の感染者が多く報告され問題となっている.乳児期での罹患のリスクは今も存在し,接種の必要性は高い.破傷風菌は国内の土壌中に広く存在し,深部に達する外傷時における罹患の危険性は今も存在する.ジフテリアは現在国内で発症を見ないが,これは乳幼児の高いワクチン接種率のおかげである.小児のワクチン接種率低下時にジフテリア流行発生の可能性が高いことは旧ソ連邦崩壊後のロシアなどにおけるジフテリア大流行の事例から明らかである.
3.ポリオワクチン
0~1歳頃に合計2回,経口生ワクチン接種が行われている.ポリオは世界的な根絶計画が進行中であるが,まだ達成されていない.疾患の重大性を考慮すれば、現時点でのワクチン接種は価値が高い.
4.麻疹風疹混合ワクチン
麻疹ワクチンと風疹ワクチンの混合ワクチンである.現在は1~2歳時と小学校入学前の1年間の計2回,各0.5mlの接種が定期接種として行われている.麻疹ワクチン,風疹ワクチンの2回接種は2006年に始まったばかりで,ほとんどの人は高々1回接種に止まっている.なるべく多くの人を短期間に2回接種済みにする目的で,2008年4月より中学校1年生と高校3年生を対象とした臨時の3期接種,4期接種が5年間の期限付きで開始された.
5.日本脳炎ワクチン
3歳前後に2回,1~4週間隔で各0.5ml接種し約1年後に1回0.5ml接種することで基礎免疫が完成する.追加免疫は9~12歳の間に1回、0.5mlを接種する.重症の急性散在性脳脊髄炎(ADEM)が1例発症したことに伴い,2005年6月より厚生労働省は「日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控え」を発表し現在に至っている.
日本の定期予防接種の開顕点
1.BCGワクチン
定期接種のなかでは比較的問題が少ないワクチンである.接種可能な期間が短いこと,BCGワクチン接種がDPT三種混合ワクチン接種開始時期を遅らせる要因となっていることが多少問題である.
BCGワクチンは定期接種の期間が生後6ヵ月未満と定められている.先天性免疫不全の児にBCGワクチンを接種すると重症化するので,その診断がつくまで待つ意味から,生後3ヵ月未満はBCGワクチン接種を控えることが勧められている.その結果,実質的なBCGワクチン接種期間は3ヵ月以降6ヵ月未満となった.この頃はちょうどDPTワクチンの接種時期と重なる.BCGワクチンは集団接種が行われる地域も多いことから,これを先に接種する傾向が強い.またBCGワクチン接種後は接種間隔を4週以上あける必要があるため,DPTワクチン1回目の接種が6ヵ月以降にずれ込むことも珍しくない状況になっている.
百日咳は年長児や成人の間での流行が問題になっていて,現在も感染のリスクが存在する.乳児期早期からのワクチン接種を促すようにしないと,今後乳児の百日咳罹患が問題となる可能性がある.日本ではワクチンの同時接種が実質的に禁止同然の状態となっていることもこの問題の解決を困難にしている.BCGワクチン接種の前に1~2回のDPTワクチン接種を済ませるよう指導する,あるいはBCGワクチンとDPT三種混合ワクチンの同時接種を容認していくことが,この問題の解決に有効と思われる.
2.DPT三種混合ワクチン
問題は2点ある.一つは前の項で述べた,接種開始年齢が全休に遅すぎる傾向がある問題、あと一つは現在の追加接種ワクチンに百日咳ワクチンが含まれていない問題である.接種開始年齢の問題はすでに述べたので,ここでは追加接種の問題を述べる.
近年成人層の百日咳罹患の報告加増加している.これは日本だけの現象ではなくアメリカ合衆国などでも同様の問題が発生している.原因についてはいろいろ言われているが、確かなところは不明である.アメリカでは乳児の高いDPTワクチン接種率にもかかわらず乳児の百日咳罹患がなくならない原因として、成人の百日咳患者からの感染が疑われている.これを減少させる目的で2007年より追加接種をTd二極混合ワクチンから、百日咳ワクチンを含むTdap三種混合ワクチンで行うようになった.日本でも今後,アメリカと同様の取り組みが必要となる可能性がある.
3.ポリオワクチン
世界的にはポリオ根絶計画が進行中である.当初2000年に達成の目標であったのが徐々に延長され現在に至っている.世界の根絶は未達成であるが、根絶地域は着実に拡大してきている.日本を含む多くの国ではすでに野生株ポリオの感染が途絶えて久しい.
日本では現在も生ポリオワクチンの接種が継続されている.生ポリオワクチンは大変優れたワクチンであるが,一つだけ欠点がある.それはワクチン関連麻痺性ポリオ(VAPP)と呼ばれる副反応である.ポリオワクチン内服役消化管内でワクチン株ウイルスに変異が起こり病原作を持ったウイルスが糞便中に排泄され,おもに被接種者の周囲(父親など)が麻疹性ポリオを発症するものである.発症頻度は稀であるが(400~500万人に1人),永続する麻疹という重大な後遺症の可能性があるため,この副反応は重大である.
野生株ポリオ流行が根絶された地域では,感染予防効果では生ワクチンに劣るものの,VAPPの危険のない不活化ポリオワクチンを生ワクチンの代わりに接種することが推奨されている.米国など欧米先進国ではすでに不活化ワクチンヘの転換が進んでいるが,わが国ではまだ開発の段階でめどが立っていない.
4.麻疹風疹混合ワクチン
問題は2点ある.接種率が不十分なことと,MMRワクチンが未導入なことである.日本国内における麻疹および風疹に対する免疫状態が不十分であることは,昨今の大学生など成入居を中心とした麻疹流行騒動や,現在も続いている先天性風疹症候群児の出生から明らかである.麻疹流行阻止のためには全年齢層で麻疹免疫保有率が95%以上となることが必須といわれている.しかしわが国では2006年3月まで麻疹ワクチン定期接種は1回のみの接種しか行われていなかった.その後やっと2回接種が始まったものの、2期接種の接種率はいまだほとんどの地域で95%に達していない.中学校,高等学校での3期,4期接種はたいへん結構なことである.しかし2期ですら接種率が十分でない現状を考えると,その接種率がどうなるか極めて気がかりである.
2006年4月より麻疹風疹混合(MR)ワクチンが導入されそれまでの単味麻疹ワクチン,風疹ワクチンに比べ利便性が向上したのだが、世界的には麻疹おたふくかぜ風疹混合(MMR)ワクチンが多くの国ですでに導入されている.日本ではおたふくかぜワクチンはいまだ任意接種の状態で取り残されていて,接種率も推定で25~30%と極めて低いのが現状である.
5.日本脳炎ワクチン
問題点はワクチン供給不足と長期化する「積極的勧奨差し控え処置」である.先にも述べたように2005年6月より厚生労働省は現行の日本脳炎ワクチンの積極的勧奨差し控えを実施レすでに2008年現在で3年が経過している.接種年齢に達した小児がほとんど日本脳炎ワクチン接種を受けなくなった結果,現行の日本脳炎ワクチン生産体制が縮小し,ワクチン不足の状況に陥り増産も不可能となってしまった.年々日本脳炎感受性者が約100万人ずつ増加していくのは気がかりである.開発中の培養細胞を使った日本脳炎ワクチンがいつ頃市場に出回るか現時点ではまだ不透明である.
世界の予防接種の現状
日本の小児対象の定期接種ワクチンの種類はここ30年間一つも増えていない.1978年に麻疹ワクチンが定期接種に導人されたのが最後である.いや、増えていないどころかインフルエンザワクチンは小児の定期接種から削除されてしまったので、1種類減っている.この間世界では小児対象の定期接種ワクチンの種類は着実に増加してきている.
図2は1975年以降の先進国と発展途上国における小児を対象とした定期接種ワクチンの種類の変化を示したものである.この図では1980年代後半以降,先進国と発展途上国との間で小児を対象とした定期接種ワクチンの種類較差が徐々に拡大してきている様子が示されている.わが国は本来このなかで先進国に含まれているべきであるが、現状はそうではない.現在の日本はこの図のスタートライン,1975年頃の先進国レベルでしかない(ただしムンプスワクチンは今も任意接種に止まっている).その後の1980年代後半のインフルエンサ菌b型(Hib)ワクチンとB型肝炎ワクチンの定期接種化、1990年代後半の水痘ワクチン定期接種化,2000年代前半の蛋白結合型の肺炎球菌ワクチンおよび髄膜炎菌ワクチン定則接種化はすべて乗り遅れている.わずかに無菌体型百日咳ワクチンのみ導入済みとなっている.この図でいえば日本は予防接種に関しては完全に発展途上国のレベルである.
先進国で定期接種化が進んでいるワクチンを表1にまとめた.すでにこれだけの種類で定期接種化か遅れているわけだが、その内の約半数は国内で販売すらされておらず,通常は入手も不可能というのが現状である.接種可能な任意接種ワクチンも当然のことながら接種率は低く,おたふくかぜや水痘は今も普通に流行している.
日本の小児の予防接種事情はこのように極めて貧困である.この遅れは中央で話が進まないことからきているのだが,その原因は複雑なようである.医療に回す予算が足りないことも一因なのであろうが,その一方で発展途上国への経済援助は行われ、おかけでワクチンが受けられる子どもも多いのであろう.国際援助は誠に結構であるが,ついでに日本の子どもたちにも援助がお願いできないものかと思う.ワクチンで確実に減らすことができることがわかっている予後不良なHib髄膜炎や喉頭蓋炎,子宮頸癌などが日本ではいまだに予防の手段がないという現状は,何ともやるせないものがある.
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