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(投稿:by 僻地の産科医)
医療の「テレビドラマ」は増えてます。
でも、「報道」が日本医療をダメにしている?
日経ビジネス オンライン 2008年10月30日
(1)http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20081027/175232/
(2)http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20081027/175232/?P=2
脳内出血を起こした東京都内の妊婦が、緊急時の受け入れ先になっている7つの病院をたらい回しにされて出産後に死亡した問題は、東京でも深刻な“産科医不足”が、起きていることを浮き彫りにしました。
■東京都内、7つの病院をたらい回しにされて死んだ
この“産科医不足”は、今の日本の医療制度が抱える大きな問題点を象徴しています。昼夜を問わぬ分娩に立ち会わねばならない産婦人科医の労働条件は非常に過酷です。激務のうえに高い訴訟率、少ない診療報酬、医学生の産婦人科離れなどの要因が重なり、慢性的な医師不足に陥っているのが現状です。
■圧倒的に足りないのに訴訟が多い産婦人科医
産科医師数は医師全体の約5%であるにもかかわらず、訴訟件数は約12%を占めています。示談・民事の損害賠償額は高額で、医師賠償責任保険を圧迫していると言われていて、病院内で起きた事故の賠償については、病院の責任において保険金で支払うことになりますが、個人の医師が訴えられることもあります。
帝王切開手術中に妊婦を死亡させたとして、手術を執刀した医師が業務上過失致死の疑いで2006年に逮捕された“福島県立大野病院産科医逮捕事件”は今年無罪判決が出ましたが、 地域に“新幹線の駅があっても分娩施設が無い”という現状で、産婦人科医不在地域の予備軍は現在も沢山あり、この事件の影響で産科医が逃げ出してしまうという事態はさらに深刻化しました。
小児科でも医師不足は深刻です。診療報酬が低く、若いうちからローリスク・ハイリターンを求める傾向にある若手医師から小児科は敬遠される傾向があり、医師総数は右肩上がりに増加している中で、小児科医師の割合は減少し、小児科のある病院数も減少してきています。
■小児救急医療のコンビニ化
小児科開業医師の職住分離が進み、夜間時間外は診てもらえないことが多いため、大学病院に、夜間に救急の患者さんが押し寄せてきている“小児救急医療のコンビニ化(24時間、気楽に受診できる)”が急速に進み、重症患者の診療に支障を来したり、過重労働から辞めていく小児科医が増加するという深刻な事態を引き起こしています。いわゆる、“燃え尽き症候群”に陥った小児科医は開業するか、小児救急の無い施設に転出し、残った医師の負担がさらに増えるという悪循環を引き起こしています。
このような現状を引き起こした原因のひとつが、2004年4月から国が導入した医師臨床研修制度だと言われています。以前は医師資格を得た後、2年間研修を積むことが努力義務だったものが、義務化したもので、幅広い分野の基本的臨床能力を習得することを目的とし、内科、外科、救急部門など研修を実施することを必修化しました。簡単に言うと自分が希望する科だけでなく、その他の全般的な診療ができるように、様々な科の研修を受けることが求められるようになったということです。
また、それまで新卒医師は、主に大学病院で研修していましたが、新制度で研修病院を選べるようになった結果、都会の民間病院などに人気が集中し、2年間新人医師が入って来なくなった大学病院では医師が不足して地域の病院から医師を引き揚げざるを得なくなり、医師派遣の役割を担えなくなってしまいました。これが、今非常に大きな問題になっている地域医療の“無医村問題”の原因にもなっています。
■正しく報道している?
このような、私たちの日々の暮らしにとても密接に関係する医療問題の本質については、メディアも正しく報道していく必要があると思うのですが、例えば“福島県立大野病院産科医逮捕事件”についての新聞の見出しは、以下のようなものでした。
「帝王切開のミスで死亡、医師逮捕 福島の県立病院」(産経新聞)
今年出た判決によると、医師側に過失は無く“帝王切開のミス”ではなかったということになります。2006年に逮捕された時点では“帝王切開のミス”の可能性はあったかもしれませんが、この断定的な見出しからするとそれは“誤報”ということになります。
そして、この“誤報”が社会にもたらす大きな影響をメディアは認識していたのでしょうか?この事件の報道のトーンにより多くの医学生に、産婦人科は非常にリスクが高いとのイメージを持たせてしまった可能性は大いにあります。実際に、この年の産科医の志望者は4割も減りました。
■正義の味方になりたがってないですか
また、この事件がきっかけで多くの病院で、重篤患者に対する“たらい回し”が起こる傾向が強まり、今回の脳内出血を起こした東京都内の妊婦の死亡問題に繋がっているとも考えられます。
医療現場における事故を、個人の責任に帰着させるようなメディアの報道姿勢は確かに“医療ミス”としてスキャンダルが大好きな読者、視聴者の関心を煽るには効果的かもしれません。“悪徳医師を断罪する正義の味方”になりたがるのが、日本のメディアの本質でもあります。しかし、その一方で、現場で必死に頑張っている医療従事者の方々に、医療事故のリスクを必要以上に恐怖訴求することになり、結果、人材不足、施設不足などを引き起こし、最後に不利益を被るのは我々国民一人ひとりなのです。 また、患者側も医療が高度化し、患者側の選択肢が増えている以上、インフォームドコンセントに基づき、患者自身、その家族はきちんと説明を受けて納得したうえで治療を受けることが必要となってきています。
■スキャンダルは要らないです
ワイドショーでスキャンダラスに騒ぎ立てるのでななく、“事件の本質は何だったのか? その事件が起こった背景は何だったのか?”をつき詰めて、正しい情報を提供していくことこそが、メディアの役割として重要なのです。
今医療現場で重大な問題になっている“モンスターペイシェント”もメディアが医療事故を大きく扱うようになり、患者の権利が声高に叫ばれ、病院で患者が“患者様”と呼ばれるようになった時期から増え始めたと言われています。
このような患者の存在が、過酷な労働環境の下、疲弊している医師をさらに追い詰め、結果として医師偏在や医師不足の原因となっていることを患者は認識すべきであり、患者サイドとしては求める医療サービスの限界を知る節度と、医療機関を選ぶ知恵が求められていることを知るべきです。
■「チーム・バチスタの栄光」「小児救命」「風のガーデン」
医療という公共性の高い領域では、メディアの果たす役割は非常に大きいと言わざるを得ません。そんな中で最近非常に気になるのが、病院を舞台としたテレビドラマが増えているという現象です。この秋のクールでも「チーム・バチスタの栄光」「小児救命」「風のガーデン」と3つもあります。夏のクールも「コード・ブルー―ドクターヘリ緊急救命」「Tomorrow」がありいずれも高視聴率でした。
中でもこのクールの「小児救命」は、小西真奈美扮する小児科医・青山宇宙が24時間体制の“青空こどもクリニック”を開業する物語で、番組のHPでも今の小児科医不足の現状を訴えています。しかし、このドラマが、視聴者にどんな影響を与えるかは未知数です。
例えばこのドラマを見た医学生が“やっぱり小児科は大変だからやめておこう”と考えるのか“こんな深刻な状況を自分が変えてやろう!”と思うのかは分かりません。小さい子供を持つお母さんたちの“24時間開いてる病院はやっぱり便利よね”という安易な期待が高まってしまう可能性もあるでしょう。
ドラマという領域では、マスメディアであるテレビの持つ大きな影響力は、まだまだ健在です。そんな中今まさに医療の分野におけるマスメディアが果たすべき本来の役割を考える時期にきています。
週間女性に、「たらいまわしで殺されない方法」という素敵過ぎる見出しがあったので、見てきました。
なんでも、「医師と仲良くなって、プライベートの携帯電話の番号を教えてもらうように」といった内容が書いてありましたので、ネタとしてお知らせいたします。
女性週刊誌に書いてあるやり方を真似する患者さんが出てしまうと、私も(一患者として)困るので、このコメントは非公開扱いにしてください。
投稿情報: う☆い | 2008年10 月31日 (金) 10:24
ああ、この程度なら構いません(笑)。
誰が携帯なんか患者さんに教えるものですか。
勤務医は勤務医であって、最初から友人の相談にはのりますが、その状況はどの職種とも同じく、友人の大切度合いによって扱いが違います。当たり前の話です。
ですから、患者→友人などというのは、
ホスト→恋人と同じくらい妄想なので、
バカじゃないの?と笑い飛ばす程度です(>▽<)!!
いや~しかし!
あほな記事ですね。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年11 月 1日 (土) 01:16
ちなみに、治療の契約は病院が患者と結んでいるものであって、勤務医はただの勤務医で患者さんとの間に何か契約があるわけではありません。
(開業医なら別)
ということで勘違いもはなはだしい。
なんかこんなこというとアレデスケレド、そんな低レベルで。。。まさか週刊女性の記者さん全員が
「お友達だから取材してあげる ..。*♡売上げアップよね!」
って勝手に記事がかけないのと同じことだと私は思うのに、何で医者とかだと勘違いするのかな?
でもって。自分の患者を“たらいまわし”にしないために、各病院の勤務医の携帯電話(友人)はちゃんとみんな大事にしています。でも出来ない時はできない。それはどこの世界でもできないものは出来ないし引き受けられないんです。
(通用する時ももちろんあります。それはたまたま受入れられるような状態の時です。)
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年11 月 1日 (土) 01:19