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(投稿:by 僻地の産科医)
JAMIC JOURNAL 2008年10月号
特集は開業医の条件~「する」「しない」を分けるもの
佐藤先生の新しい連載ですo(^-^)o ..。*♡
ご本人によると、第6回のご予定だとか!
下のほうに関連ニュースとして橋本編集長のニュースを上げました!
リヴァイアサンとの闘争
―正当な治療行為で冤罪にならないために―
第1回 冤罪事件経験者からの伝言
佐藤 一樹(綾瀬循環器病院 心臓血管外科)
(JAMIC JOURNAL 2008年10月号 p32)
「虚偽の報告書」で犯罪者扱い
私が「治療行為」に関わった東京女子医科大学付属病院での心臓手術後に、患者さんが亡くなりました。遺族の要請があり、調査を行った大学側は、明らかに科学的・医学的事実に反する報告書を作成し、私に責任を押し付けてきました。民事紛争の話し合い開始後、遺族がこの報告書をメディアに暴露したため大騒ぎとなり、さらに手術に関わった私と4人の医師が「業務上過失致死罪」で告訴(最終的には「被害届け」提出)され、警察は捜査を開始しました。その後、私が逮捕・勾留・起訴されました。結局、裁判では無罪判決を言い渡され冤罪は晴れました(検察側が控訴し、現在係属中)。
警察・検察の作文が署名・押印で"証拠の女王"に 富山県で発生した「無実の強姦事件」のように、悪名高き「自白調書」を基にした多数の冤罪事件が起こっています。警察が、論理的証拠もない最初の段階で「こいつが犯人だ」という心証を得ると、捜査官の努力方向は「真相の解明」ではなく、「有罪の立証」に向かいます。女子医大事件でも、任意捜査が進むにつれて刑事たちは「報告書」が誤っていることに気づいた様子でしたが、私を犯人扱いしました。「お前が一生懸命に心臓外科をやっているのは知っている。心臓の手術をたくさんしていれば、患者が死ぬ事だってあるだろう。一人くらい死なせたってなんだ。心臓外科医にとっては勲章だ。今回は『御免なさい』しちゃって、また一生懸命やればいいだろう」。警察は、話をしたこともなければ、同意したこともない「供述調書」という名の「警察製作文」を勝手に事前作成してその末尾に署名・押印(指印)させようとします。こんなものは、署名・押印がなければ単なる紙切れと同じですが、署名・押印した瞬間に裁判の"証拠の女王"に戴冠することになります。
「取調室の心理」
公務員である司法警察員(警察の捜査官:刑事)と検察官の業務は、人を法律上の犯罪者につくり上げることです。彼らは日常的に「職業的犯罪者」や「非合法の世界で生きる人」を相手にしていますから、ごく普通の市民である臨床現場の医師や若い看護師等の医療従事者の取調べで「供述調書」を作成することは「凄く楽だ」と嘯(うそぶ)いています。「警察の応接間」と彼らが呼ぶ狭い「取調室」のテーブル奥側に、一人でパイプ椅子に座らされ、唯一の出口であるドアの前に立ちふさがる北京五輪柔道100kg超級金メダリストの石井慧選手や元ボクシング世界チャンピオンのガッツ石松さんに似た複数の刑事に囲まれて、強い口調で10時間以上も叱責されて、毎日毎日、深夜になっても解放されない状況を想像してください。結局、医療従事者は納得いかない調書に署名・押印して帰宅するのです。ちなみに最高裁判所は、「1日20時間一睡もさせずに取り調べても、自白の強要にあたらない」と判示したことがあります。
新連載の目的「冤罪にならないために」
今回から6回にわたる連載では、私が開設しているブログ「『紫色の顔の友達を助けたい』東京女子医大、警察、検察、マスメディアの失当」において、カテゴリー「刑事事件 資料」で「⑩冤罪にならないための―任意事情聴取注意点―」(http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/post_bfc4.html)に書いたことをわかり易く説明しようと思います。正当な治療行為が行われたにもかかわらず、医療死亡事故が発生したことに関連して医師が「業務上過失致死罪」を犯した疑いをかけられた場合を想定し、警察・検察での「取り調べ」「事情聴取」「供述調書作成」に関する注意点を伝え、「冤罪」を回避することを目的としています。市民の手から財産や自由、場合によっては生命をも奪うこともある国家権力。その暴力装置といえる警察・検察は、犯罪者をつくり出すプロフェッションです。そんな現代の「リヴァイアサン」と闘争しなくてはならなくなった「一市民である医師」のための「戦略」を綴っていきたいと思っています。
もうひとつ、橋本編集長から(>▽<)!!!!
薬害肝炎問題に見た裁判の限界
M3.com 橋本編集長 2008/10/05
「薬害再発防止のためには、医療機関にどう情報が伝わり、どう対応したのか、という検証も必要なのではないか」
10月2日に開催された、厚生労働省の「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」の席上、委員の一人、大熊由紀子・国際医療福祉大学大学院教授からこんな指摘がありました。この発言の趣旨を説明する前に、この検討会について簡単にご説明します。
本検討会は、薬害肝炎訴訟全国弁護団と国との今年1月の「基本合意」を基に設置されました。第1回会議が開催されたのは5月23日。2日の会議は第5回でした。検討会の名称の通り、
(1) 薬害肝炎の検証、(2)再発防止のための体制構築
が目的です。本来なら、この(1)→(2)の順で議論すべきですが、(1)には時間がかかること、また医薬品の安全管理体制強化に向けた医薬品医療機器総合機構(PMDA)の予算確保のため、8月末の2009年度予算概算要求までに議論をまとめる必要があったため、(2)の一部が先に議論されました。意見調整は難航したものの、7月31日に中間報告がまとまっています(PDF455KB )。
2日の会議が、(1)に関する議論の初回です。下記のように、検証項目は多岐にわたります(資料は厚労省のホームページに掲載されています)。
検証1:薬害肝炎の発生及び拡大の経過と原因
検証2:薬害肝炎拡大の実態
検証3:薬害肝炎発生・拡大に関する薬務行政の動き
検証4:薬害肝炎の発生・拡大に関する医薬品供給事業者の動き
検証5:本件医薬品による肝炎感染の危険性及び肝炎の重篤性に関する知見の進展と医療現場への伝達状況
検証6:薬事・医療・感染症法令等、関連施策の内容・制定経緯とその問題点
検証7:諸外国との比較
検証8:再発防止(および被害回復)のための提言
薬害肝炎訴訟では既に幾つかの判決が出ており、「検証3、4、6」辺りは結構明らかになっています。残る項目のうち「検証6」が重要ということで、冒頭の発言につながるわけです。いくら行政や製薬企業が迅速に情報発信をしても、医療機関に確実に伝わり、それが徹底されなければ、薬害の再発防止にはつながらないという趣旨です。今年度末までに一定の検証を終える予定ですが、検証事項が膨大のため、来年度までの継続を望む声も上がりました。
さて、検討会を傍聴し、痛感したのは「裁判の限界」です。「過去の薬害事件で、本当の意味で原因究明された例はない。今回の検討会は、それができる画期的な舞台だと思う」(間宮清・財団法人いしずえ(サリドマイド福祉センター)事務局長)といった指摘がありました。薬害肝炎問題でも、他の薬害事件と同様、全国各地で裁判が起こされましたが、被告は国と製薬企業。つまり、両者の賠償責任を問うのが裁判なので、医療機関の役割などは基本的には検証の対象外です。
また現時点では薬害訴訟が完全に終結したとは言い切れません。2日の検討会でも、形式的とも言えますが、厚労省の事務担当者は、委員から一段後ろの席に座っていました。座長の寺野彰・独協医科大学学長は、「被告=厚生労働省(の職員)=が、ここ(検討会)に入るのはどうか思ったため」との説明です。
しかし、一番情報を持っているのは厚労省。薬害肝炎全国原告団とは、「薬害肝炎検証のため、国側が持っている資料は開示する」との合意がなされているそうですが、「厚労省が加わらないと、再発防止につながる議論はできない」(小野俊介・東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学講座准教授)といった意見が出されました。
さらには、「裁判は違法かどうか、ギリギリのところで争っている。しかし、違法にならないためにはどうすればいいかという低レベルではなく、あるべき薬務行政を検討すべき」(水口真寿美・弁護士)と、判例分析による再発防止策の検討にはおのずから限界があるとの指摘も。
医療事故の関連でも、民事・刑事裁判による真相究明の限界が指摘されています。薬害肝炎でもしかり、と言えるでしょう。
【ちょっと関連ブログ】
デバイスラグ:日本の医療機器メーカーは生き残れるか?
東京日和@元勤務医の日々 2008/10/06
http://skyteam.iza.ne.jp/blog/entry/743279/
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