(投稿:by 僻地の産科医)
臨床婦人科産科2008年09月号 ( Vol.62 No.9)からです!
特集は 妊産婦の薬物療法-あなたの処方は間違っていませんか
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正常妊娠に妊娠36週からNSTは必要なのか?
武久 徹
(臨婦産・62巻9号・2008年9月 p1233-1235)
はじめに
ある日,まったく知らない産科医から一通の手紙をいただいた.「正常妊娠に妊娠36週前後から全員にNSTを行うことが勧められているが,それを支持するエビデンスはあるのか?」という内容であった.インターネットを見てみると,最初に出てきた10の情報では,ほぼすべてが「妊娠36通前後で全例にNSTを行う」と記載されている.それ以上は見なかったが,同じような内容なのであろう.妊婦達はそれを標準の医療と信じるだろう.
この問題は,北米やヨーロッパでは25年以上前に結論が出ている問題なのだと思うが,これほど証拠に基づく医療が叫ばれているなかで,この戦略を支持する新たな証拠が出てきたのであろうか.
データは妊娠40~42週における胎児や新生児の罹患率と死亡率が徐々に増大していることを示している(BJOG105:169,1998)。したがって,分娩前胎児管理試験を行っても周産期死亡は減少しないというデータがあるにもかかわらず,過期妊娠では分娩前胎児管理試験を行うという管理方法が世界的に一般的に受け入れられている.
妊娠40週と42週の問で分娩前胎児管理試験を行ったら,周産期転帰が改善したことを示した無作為化研究はない(AJOG 158 : 259, 1988).また,正常妊娠に対して妊娠40通から42週までの間にルチーンに分娩前胎児管理試験をすることが,周産期転帰を改善することを示唆する十分な証拠も存在しない(The Cochrane Library,lssue 2,2004 / AJOG 159 : 550, 1988).以上は,米国産婦人科学会医療技術情報の適期妊娠の管理(ACOG Pract Bull. #55,2004)の記載である.
この問題に関する研究は主に20~25年前までに結論が出ているのであるが,そのなかのいくつかの研究を紹介する.
研究の内容
1.Freeman教授の講義
Freeman RK (米国:カリフォルニア大学アーバイン校産婦人科教授)の講義で,「NSTが胎児死亡を防ぐうえで有用かどうか?」を解説する際に,以下の4研究が紹介された(表1,2)
以上4つの無作為対照研究から,以下のように結論される.すなわち,NSTを行っても行わなくても,またNST結果が示されても示されなくても予後不良例は同じであるということである.報告された妊娠&新生児予後を考慮すると,NST単独検査の有用性は支持されないようである
2. Miyazakiの研究(Miyazaki FS. et al. AJOG 140:269,1981)
Miyazakiらは,7,680人の妊婦のなかの真の過期妊娠226人を対象に研究を行った.61人はNSTを施行する前に分娩になったので、165人中のNST結果が安心な結果であった125人が最終的には研究対象になった.その結果,安心な結果であったのに,10人の転帰不良(分娩開始前胎児死亡4例,分娩入院時に心配な胎児心拍数パターン4例,新生児死亡1例,脳損傷児1例)が確認された.結局、過期妊娠でNSTが安心な結果であったにもかかわらず,胎児が予後不良であった例が8%と高率であった.
3.1週間に1回のNSTの信頼度の低さ
(Boehm FH,et al. 0bstet Gynecol 67 : 566, 1986)
ヅァンダビルト大学(米国テネシー州)で行われた研究では,1週間に1回のNSTの信頼度の低さが報告された.Boehmらは,NSTを週に1回行った場合と週に2回行った場合,安心できる検査結果後の1,000人当たりの死産率を比較した.1週間に1回のNSTの場合は6土人,1週間に2回NSTを行った場合は1.9人であった.したがって,NSTを1週間に1回行って安心できる結果でも安心できないことを報告した.
4.予定日超過妊娠に対し妊娠41週から分娩前
胎児管理試験を行うのは早過ぎるのか?
(Guidetti DA, et al. AJOG 161 : 91, 1989)
ニューヨークのGuidettiらは,分娩終了が妊娠38~40週の群(A群:59例),妊娠40~41週の群(B群:139例),妊娠42週以降の群(C群:154例)の妊婦を対象にNSTと羊水量測定による分娩前分娩管理試験を1週間に2回行った場合の有用性を検討した.NSTは急性の胎児酸素小足を診断し,羊水量は慢性の胎児低酸素状態を診断する検査なので,子宮内胎児管理試験としては有川である.1987年の南カリフォルニアのグループから羊水指数(amniotic fluid index : AFI)が発表されて以来.分娩前胎児管理試験はNSTと羊水量測定が一般的になっている.
異常NST,または羊水過少症は人工的に遂娩とした.その結果,異常NST発現頻度,胎児状態悪化による帝王切開,新生児集中治療室収容率はともにA群に比べB群で有意に高率になった.妊娠41週と42道の間に分娩した妊婦の25%に異常NST結果.14%に羊水過少症がみられた.したがって,「正常妊婦でも妊娠41週から分娩前胎児観察試験を行うべきである」と報告した.
5.イスラエルの研究
Rosenらは,1987年から1989年の2年間に正常妊婦(単胎,頭位)に分娩予定日を超えた時点で道に1回NSTを行っても(その後は週2回,異常結果が出たときにはさらにcontraction stress testを施行),新生児予後改善はみられなかったと報告している.Rosenらは「正常妊婦に妊娠41周過ぎまでNSTを行わないという最近の管理方法は.今回の研究で支持された」と述べている(J Reprod Med 4O:135,1995).
6.NSTと羊水量推定を併用した場合:
それでも妊娠41週以前の検査開始は早過ぎる
(Bochner CJ,et al. AJOG 159:550,1988)
Bochnerらは,正常妊娠を対象に分娩予定日を7日遅れた時点でNSTと羊水量測定を開始した群(A群:396例),予定日を14日遅れた時点で分娩前胎児管理試験を開始した群(B群:352例),分娩前胎児管理試験を行わずに妊娠41週と妊娠42週の間で分娩した群(C群:1807例)を比較した。
その結果,周産期死亡率はA群0例,B群0例,C群3例(有意差なし.誘発分娩率はA群98例(24.7%)B群81例(23.0%),C群282例(15.6%)(有意差なし,アプガースコア低値(<7,@5分)はA群3例(0.8%)B群4例(1.1%),C群16例(0.9%)(有意差なし,胎児状態悪化による帝王切開はA群9例(2.3%),B群21例(5.9%)(有意差あり),C群60例(3.3%)であった.したがって.妊娠41週でNSTと羊水量測定による胎児管観察験を行っても,周産期死亡率を低下させるうえでは有効ではないが,胎児状態悪化による帝王切開率を減少させることができると述べている.
以上,しばしば引用される研究結果が示唆するように 週1回のNSTの信頼度がきわめて低いことから,特に正常妊娠で妊娠36週から妊婦全員に週に1回の妊婦検診ごとにNSTを行うという管理方針を支持する信頼できる証拠は存在しないということである.
なぜNST単独検査は信頼度が低いのか
NSTは胎児低酸素症がかなり進行しないと異常結果(非反応型)とならない.逆にいえば.異常という結果が出たら.胎児低酸素症はかなり進んでいる可能性がある.米目で約25年前に行われたアカゲザルの実験では,NST異常(一過性頻脈消失:非反応型NST)という結果が出てから.アカゲサルの胎仔が子宮内死亡するまで.早い例では約5時間以内に死亡した.
したがって.1980年代後期から,胎児に低酸素状態があるかないかを調べるときには,NST(急性の酸素不足を調べる)と羊水量測定(慢性の酸素不足を調べる)の組み合わせが採用されている.
むしろ,NST中に偶発的に出現した変動一過性徐脈や,散発的な遅発一過性徐脈に医師が過剰に反応して,無用な介入分娩が行われ,無用の帝王切開が増加しないのであろうか.そのような危惧がある。さらに毎回外来受診ごとに行われる検査料金の患者負担も問題である.さらに信頼できる証拠がないから,NSTをロウリスク妊娠に行わなかった医師に対し,偶然転帰不良例が発生したときに正常妊娠で妊娠36週以降にルチーンにNSTを行わなかった医師が標準以下の医療と責められなければよいのだが………
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