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(投稿:by 僻地の産科医)
今月の日医雑誌から!
特集は睡眠障害です。
でもコラムが面白かったのでつい(>▽<)!!!
夜寝る子は育つ
神山 潤
(日医雑誌第137巻・第7号/平成20(2008)年10月号 p1436)
入眠に一致する成長ホルモン分泌は,古来の格言「寝る子は育つ」の根拠としてよく知られている.しかし,夜更かしや徹夜をしても1日の成長ホルモンの分泌総量が影響を受けないことはあまり知られていない.成長ホルモン分泌量の観点のみからでは,「寝ないと育たない」とは言えない.しかし筆者はあえて「夜寝る子は育つ」と言いたい.
近年,夜の光がヒトに与える悪影響が次々と明らかになってきた.4つにまとめた.
①時差ぼけ:
大多数のヒトで,24時間よりも長い生体時計の周期は朝の受光で短縮するが,夜の受光では延長する.つまり夜の受光増加と朝の受光減少で,生体時計と地球時刻との同調が損なわれ,概日リズムを呈するさまざまな生理現象の相互関係が破綻し,不適切なときに眠気と不眠が生じ,疲労し、食欲や意欲が低下し,作業能率は低下し,活勤量が低下する.
②明るい夜:
明るい夜の悪影響は3つある.1つは前述した生体時計の位相後退で,2番目はメラトニンの分泌抑制だ.メラトニンには抗酸化作用,眠気をもたらす作用,性的成熟の抑制作用があり,1~5歳のころに生涯で最も分泌量が高まる.夜間暗期に分泌されるが,夜の光は分泌を抑制する.3番目は夜間の受光による生体時計の機能停止という最近の知見である.
③睡眠不足:
夜更かしでは睡眠時間が減る.睡眠時間を4~6時間に制限すると認知機能が低下し,約2週間でそのレベルは丸2日間徹夜したと同程度にまで低下する.急性の睡眠不足は耐糖能を低下させ,交感神経の緊張を高め,インフルエンザワクチンの抗体価上昇を阻害する.慢性の睡眠不足はインスリン抵抗性を高め,2型糖尿病や肥満の危険を高める.睡眠不足はさまざまな重大事故も引き起こす.
④運動不足:
夜更かし朝寝坊で時差ぼけ状態に陥ると,運動量が低下する.運動不足は肥満をもたらし,アルツハイマー病や慢性疲労症候群罹患の危険を高める.リズミカルな筋肉運動(歩行,咀嚼,呼吸)と朝の光はセロトニン系の活性を高めるが,セロトニン系の活性低下はイライラ感,攻撃性や衝動性の高まり,社会性の低下との関連が指摘されている.
日本は世界で唯一,週の労働時間が50時間を超える労働者の割合が25%を超える残業立国である.また日本人の睡眠時間は年々減少し,総務省はその結果を2007年11月「寝不足で懸命に働く日本人」とまとめた.しかし,2004年の世界銀行の調べでは日本の労働生産性は先進7か国で最下位,0ECDの平均をも下回っている.日本人は睡眠時間を削って残業をし、きわめて効率の悪い仕事をし,子どもたちと接する時間を放棄しているのではないだろうか.大人が自分の責任で夜更かしをして自らの心身の状態を損なうことをとやかく言う気はない.しかし,子どもたちは生活習慣を自ら形成することはできない.無肪備な子どもたちを自らの生活習慣に引き込んで,子どもたちの潜在能力をおとしめることだけはしてほしくない.
多様性,個人差は当然あろうが,朝の光を浴び,昼間に活勤し,夜の光を浴びないことで,ヒトはその潜在能力を最大限に活用できるようプログラムされている可能性が高い.値かに人智はすばらしい.また人は社会的な動物だ.しかしその前に,ヒトは24時間周期の地球で生かされている動物だという謙虚さを筆者は忘れたくない.生体時計の無視・軽視(夜更かし朝寝坊)は不都合な真実だ.今こそヒトは生体時計を考慮した生き方(biological dock-oriented life style)を模索するべきだ.
こうやま・じゆん:東京北社会保険病院院長.
昭和56年東京医科歯科大学医学部卒業.
主研究領域/小児科,臨床睡眠医学
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