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(投稿:by 僻地の産科医)
MMJ2008年10月号からo(^-^)o ..。*♡
医療の質を向上する方策 一実効性は? ①
沖縄県立中部病院内科
金城 紀与史
(MMJ October 2008 VOI.4 N0.10 p880)
従来の“出来高払い制”の医療保険では、医療の質向上やコスト抑制の効果には限界があると言われてきた。予防すべき合併症にも支払いがされるため、合併症予防のインセンティブは低い。高額な検査や治療で医師や医療機関は儲かるので適応か弱い症例にも施行しがちになる。
自然、コストは爆発的に増大するというわけである。一方、予防医学ヤ|隻性疾患の管理に対しての支払いが少なく、米国のプライマリケア医の多くが幻滅していることは前回(8月号)紹介した。米国では出来高払いの弱点を是正すべく、病院の医療成績の公表ならびに、金銭的インセンティブと成績を連動させたPay for performanceがいろいろな形で導入された。今回と次回では、これらの試みと実効性を紹介しようと思う。
病院や医師の成績を公表すれば医療の質が向上する。患者は成績のよい所に集まり、成績の悪い医師や病院は改善の努力をする。成績がよくならないところは市場原理で淘汰される、というわけである。 1989年以降、ニューヨーク州では病院と外科医ごとの冠動脈バイパス術の手術成績を、患者リスクを調整して発表するようになった。公表開始当初、成績のわるい病院がマスコミ報道されるなどし、州の保健当局の調査も行われた。いくつかの病院では心臓外科手術を一時中止して改善策を講じ、病院によっては心臓血管外科部長以下の新チームをリクルートしたり、年間手術件数の少ない外科医がバイパス術から撤退したりした。その結果、州全体のUスク調整術後死亡率は1989年から92年の問で41%低下したという。
このように、印象的な改善が達成された理由は何であろうか。手術件数が少ない外科医や病院は概して成績が悪かった。たまにしか手術を行わない外科医やそれを支えるチームは、件数が少ないために上達しにくい。症例が集まるところは径験に裏打ちされた実力が付きやすいし、チームワークがとりやすいというわけだ。実際1998年にニューヨーク州では、バイパス術全体の約70%以上が、年間500例以上手術件数のある病院で行われたという。ただし患者が成績のよい病院だけを選ぶようになったわけでもないようで、自宅からの近さや、「かかりつけである」などの理由で選ぶ部分が依然犬きいのだろうと推定されている。
改善されたのを冷ややかにみる意見もある。外科医や病院加害者のリスクを犬げさに報告することで、成績を見かけ上よくしたのではないか。手術成績を下げるような高リスク患者を忌避して、簡単で安全な症例ばかり手術するようになったのではないか。本当に手術を必要とする重症患者が手術を受けられない、逆説的現象を生んでいる、という批判もある。
ニューヨーク州での成果には色々な解釈があるものの、医療の質向上の画期的サクセスストーリ一として紹介されることが多い。州の循環器医師や心臓外科医のりーダーたちを巻き込んで構想されたこと、保健当局の政治的強い意志と支持があったことなどが、現在まで継続できている理由であるという指摘もある。ニューヨーク州以外でも手術成績を公表することを義務付ける、心筋梗塞・心不全・市中肺炎の入院治療の適切さを公表するなど、成績の公開という手法は広がってきている。医療の成績公開によって医療の質が本当に改善するのか、それとも単に医師や病院がデータを賢く公表するようになるだけなのか、今後も詳しい検討が必要となりそうだ。
参考
1.The Pitfalls of Linking DoctorsI Pay to Performance,
Sandeep Jauhar, New York Timesオンライン版9月8日
2.Achieving and Sustaining Improved Quality: Lessons From
New York State and Cardiac Surgery, Mark R. Chassin.
Health Affairs 2002; 21(4): 40.
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