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(投稿:by 僻地の産科医)
首都圏における小児科医不足
埼玉県西北部小児医療提供体制の課題
埼玉医科大学小児科教授 雨宮 伸
日医ニュース 第1131号 平成20年10月20日
http://www.med.or.jp/nichinews/n201020n.html
首都圏とはいえ,埼玉県西北部は典型的な小児科医不足の地域であり,病院小児科の閉鎖および縮小が続いている.そのため,埼玉医科大学病院においては,小児時間外診療の一次から三次までを一手に引き受けている.日本小児科学会が平成二十二年度を目標に認定を目指している地域小児科センター構想を,この地域に当てはめてみる.
小児科中核病院としての埼玉医科大学病院群(図)
埼玉医科大学病院群は,埼玉西北部三カ所で小児科中核病院を形成する.大学本部のある毛呂山町の埼玉医科大学病院小児科は,基本的に総合小児科であり,内分泌・糖尿病・代謝,先天代謝・遺伝,アレルギー,新生児・未熟児,血液・腫瘍などに専門専任スタッフがいる.後述する地域(救急+周産期)小児科センター機能を始めとして,小児高度先進医療や小児慢性患者の内科領域への円滑な移行などを含めた,大学病院内成育医療センターへの発展を進めている.
近接する日高市の国際医療センターでは,小児専門医は臓器別に特化している.川越市の総合医療センターの小児科は,総合周産期母子センターとして特色があり,一般小児科(小児救急)も担当している.
一方,埼玉西北部に存在してきた各病院小児科(図中枠なし)は,時間外一次診療や二次入院診療の対応は輪番制でも限定的である.埼玉医科大学病院小児科は,埼玉県のほぼ西半分の各診療圏を対象としており,十四歳以下人口は約十五万人である.
小児救急(時間外一次診療)の地域連携の試み
埼玉西北部の小児科医の不足は,小児科学会が提言する地域小児科センターへの対応にも重なる.つまり,地域小児科センターが提供する医療サービスでは,小児救急(高度救急救命は別)と周産期における小児科医の集約が課題となっている.都市型の埼玉県東部では,病院小児科のいくつかは地域小児科センターと認定され得る.
一方,埼玉西北部では,小児科医二十名程度の大学病院が地域小児救急一次からすべて兼務し,疲弊が増長されてきた.地域集約型小児時間外一次診療所を設置し,大学病院の二次診療から切り離すことが急務となった.しかし,この地域では小児科専門医は少なく,小児科標榜開業医の参加が不可欠である.
大学病院以外での小児時間外一次診療施設を設立する余裕がなかったので,大学病院内で一コマ四時間の時間外診療(準夜または日曜・休日の昼一コマ)を地域の医師にお願いした.報酬は,地域連携小児夜間・休日診察料を原資としている.しかし,深夜を含め残りの時間外一次診療は,大学病院勤務医が月約六回当直(時間外手当の適応なし)で二次救急/病棟と併せ対応している.
小児救急(時間外一次診療)における小児科専門医の必要性と勤務医の関与
埼玉医科大学病院小児科が,小児科学会による地域小児科センター構想の実務を完全に果たしているにもかかわらず,そこに勤務する小児科医の労働条件は,認定基準に遠く及ばない.ましてや,地域集約型小児時間外一次診療を分離出来ても,小児科専門医だけで遂行することは不可能である.小児科標榜開業医にとっても,二次診療施設(埼玉医科大学病院小児科)の勤務医のフォローが身近になければ,引き受けられない仕事である.二次診療への患者のトリアージも不可欠となる.管理運営主体を個別の病院とは切り離し,深夜帯を含めた地域集約型小児時間外一次診療を完成するには,勤務医の動員なしには成り立たない.勤務医と開業医が,同等な報酬と労働条件で参加する必要がある.
小児科勤務医の労働基準の改善と地域二次診療病院小児科の復活
以上,広域集約型小児時間外一次診療の課題を述べた.今回の複数医師会に跨る支援は一歩前進であり,埼玉県も地域集約型小児時間外一次診療への支援がわずかながら具体化してきた.今後,小児科学会の提言に沿った労働条件の改善には,管理運営主体(大学),複数医師会および県(または国)が,それぞれ責任分担を明確にした,採算ベースも含めた基盤整備が必須となる.小児科勤務医が少しでも労働基準法に近づいた環境で働ければ,地域小児医療の充実と小児科医の増加,各診療圏での地域密着型小規模二次診療病院小児科復活の意義も出てくる.
これらの条件を整えることは,小児科医としての資質も高めることになり,埼玉西北部には,若い小児科医が遣り甲斐を見出せる小児医療・保健の需要は十分ある.
地域小児科センターの労働基準の部分は、私も関与させていただきました
投稿情報: 江原朗 | 2008年10 月18日 (土) 20:46
労働環境に関する部分
http://jpsmodel.umin.jp/DOC/RegionalCenter080324.doc
VII-2 働く環境
【ねらい】疲弊した労働体制では適切なレベルの質と安全を伴った小児医療は提供できない。医療従事者のみならず、圏域の小児の健康を守るためにも快適に働ける環境整備が必要である。働く環境には単に勤務時間や給料などのみならず、医師の裁量権や個々の医師の状況も大きく関与するため、きめ細かい管理体制が整備されている必要がある。また管理者は産業医や社会保険労務士などの労務管理に関する専門家と積極的に連携して法規上の条件などにも精通している必要がある。
VII-2-1 労働時間
VII-2-1-1 時間外を含め週労働時間を最大58時間以内としている
• 時間外・休日・深夜の勤務は宿日直ではなく、通常の労働時間として算定されている(深夜の定義は、診療報酬上の午後10時から午前6時までではなく、労働基準法上の午後10時から午前5時までを指す)
• 宅直オンコール(自宅待機で外来患者や入院患者への迅速な対応が求められる状態)に関しても、時間外救急を行うことを前提とした場合には労働時間(手待時間)として算定されている(手待時間とは、単に作業に従事しない時間であり、労働から離れることが保障されている休憩時間とは異なる。昭和22年9月23日労働省通達、発基第17号)
• 圏域の医療・保健サービス(救急を含む)に出向して従事した時間も本院の労働時間として算定されている
解説:過労死認定基準である「時間外労働が月80時間を超えないこと」を念頭に(58-40時間/週)×30日÷7日=77.1時間 から提案した。したがって、これは最低限遵守すべき基準であり、可能な限り週40時間に近づけることが望ましい。(根拠:労働基準法、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日厚生労働省通達、基発第1063号))
VII-2-1-2 労働基準法第36条第1項に基づく「36協定」を締結している
解説:労働基準法32条により、週40時間を越えた労働は原則としてできない。しかし、労働基準法36条第1項の協定「36協定」を労使で締結することにより、労働時間を延長させることができる。この「36協定」を締結せずに週40時間を超える労働を行わせた場合には、労働基準法119条により、使用者が6箇月以下の懲役または30万円以下の罰金の刑事処分を受ける。なお、36協定における時間外労働の上限(変形労働時間制でない場合には、年360時間。1年単位の変形労働時間制では年320時間)は提示されるものの、労働省通達では、「延長時間が限度時間を超えている時間外労働協定も直ちに無効とはならない。」(基発第169号、平成11年3月31日)とされている。したがって、合法的に限度時間を超えた36協定の締結は不可能ではない。望ましいことではないが、週58時間(週の時間外労働18時間、つまり、年の時間外労働938時間)であっても36協定の締結は可能である。
VII-2-1-3 平均して週58時間以内とする場合(多忙時、週58時間を超える可能性がある場合)には、労働基準法第32条の2もしくは4に基づく変形労働時間制の協定を締結する
解説:変形労働時間制とは業務の繁閑や特殊性に応じて所定労働時間の配分等を工夫できる制度のことである。
VII-2-1-4 出勤・退勤時間が把握されている(タイムレコーダーなど)
VII-2-1-5 1回/年、労働時間の検証を行ない、上記基準を超える場合には早期に是正する体制がある
VII-2-2 時間外・休日・深夜勤務など
VII-2-2-1 (時間外+深夜)勤務と休日勤務の回数の合計は5回/月を超えない
• 変形労働時間制など年間での調整が可能であれば、一時的にこの限度を超えても良い。
VII-2-2-2 深夜勤務明けは帰宅を原則とする
解説:24時間の断眠により、運転免許停止処分に該当する血中アルコール濃度にある状況よりも集中力が低下することが知られている。
VII-2-3 休日の確保
VII-2-3-1 週に1日以上の休日を確保する(例外:変形労働時間制)
解説:労働時間と休日の原則
• 1日8時間以内、かつ、1週40時間以内/休日は週に1日以上
• (変形労働時間制・変形週休制(4週4日以上)の例外がある)
• 労働基準法は労働時間の限度を、原則として、1週40時間以内、かつ、1日8時間以内とし、休日を1週に1日以上与えることとしている。(労働基準法第32、35条)
VII-2-4 診療体制など
VII-2-4-1 医師の裁量の確保に努め、定期的に労働環境に対する満足度を調査し、向上を図っている
解説:働きがいや個々の医師の裁量権は労働環境の中でも最も重要な要素の一つである。圏域内、院内、科内にて積極的に一人一人の医師の働き甲斐を伸ばすような工夫が凝らされている必要がある。そのためにも能動的に各医師の労働環境への満足度を調査し、個人個人に合わせた満足度向上のために努力がされている必要がある。
VII-2-4-2 個人への過重な負担を防ぐため、複数主治医制・ローテイト勤務制などの対策を講じている
• 複数となることで責任体制が不明確にならないように注意すること
解説:ローテイト勤務制は昼間夜間等の時間的分担制、あるいは外来・病棟などの業務分担制を示す。
VII-2-5 外部からの応援医への対応
VII-2-5-1 当該医師の当該地域小児科センターでの勤務時間は、本務における労働時間に含めて算定する
解説:地域小児科センター医師のみが基準を守ることができる状態は不適切であると考えられる。
VII-2-6 小児科医師の給与
VII-2-6-1 時間外割増賃金の支払いが基準に沿ってなされている
• 時間外割増賃金の支払い(根拠:労働基準法第37条ほか)
平日の時間外では2割5分増以上
平日の午後10時から午前5時までは5割増以上
休日は3割5分増以上
休日の午後10時から午前5時までは6割増以上
VII-2-7 女性医師・妊産婦医師・パートタイム医師の処遇
VII-2-7-1 産休・育休(1年)の取得を保証している
VII-2-7-2 院内保育所もしくは提携保育所を確保している
VII-2-7-3 妊娠中~入学前のこどもの育児期間中は時間外・休日・深夜業務を免除している
投稿情報: 江原朗 | 2008年10 月19日 (日) 08:07
埼玉県(人口700万超)では県西部だけでなく、東京に隣接して人口の多い県南部や県東地区の深刻な小児科専門医の不足(と産婦人科専門医不足)による救急患者受け入れ困難の実情があり、数年前に重症の小児科患者の救急受け入れ先が決まらず救急車内で死亡する出来事がありました。
新聞でも取り上げられました。
その後、県立小児医療センターが、そういう患者の受け入れを始めるようになりましたが、ここも医師不足で厳しい状況に変化がありません。
埼玉出身の医師の多くが東京都内の病院に勤務していることや、もともとの小児科医数の不足などで、今後も見通しが暗いのでは?
投稿情報: 鶴亀松五郎 | 2008年10 月19日 (日) 10:44