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(投稿:by 僻地の産科医)
とりあえず今日発見できた大野ニュースですo(^-^)o ..。*♡
個人的な感想ですが、私自身もできることは今日一日、頑張ったつもりです。
明日からまた違う一日が始まりますが、
どうか控訴されませんように。。。。
福島県立大野病院事件 判決公判
ロハス・メディカルブログ 2008年08月20日
http://lohasmedical.jp/blog/2008/08/post_1339.php
地域の妊婦「みんな不安」 医師、現場復帰の思いも
中国新聞 '08/8/20
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200808200197.html
女性が出産直後に死亡、産婦人科医が逮捕された福島県立大野病院事件。患者の評判が良かった産科医は現場復帰を望む一方、女性の遺族は不信感を募らせる。医師不在となった地元の影響は深刻で「妊婦はみんな不安」との声も。関係者は二十日、さまざまな思いで判決を迎えた。産婦人科医の父を持ち、幼いころから同じ道を目指していた被告の加藤克彦かとう・かつひこ医師(40)。約千二百人の分娩ぶんべんに立ち会い、大野病院の一人医長として「丁寧」と評判も良かった。公判では遺族に謝罪した上で「できる限りのことはした」と無罪を主張。「また地域医療の一端を担いたい」と現場復帰への思いも吐露した。
「ちっちゃい手だね」。死亡した女性=当時(29)=は長女出産後に笑顔を見せたが、帰らぬ人に。三歳になった長女は長男(7)とともに女性の両親らと暮らす。長女誕生と女性死亡が重なった一日を「天国から地獄」と表現した両親らは公判を欠かさず傍聴した。父親は法廷で「大野病院でなかったら亡くさずに済んだ命。許さない」と涙ぐみ、女性の夫は「言い訳をしないでミスを受け止めてほしい」と加藤医師に注文した。
大野病院は産婦人科の休診が今も続き、ほかの診療科も医師の退職が相次いだ。
「里帰り出産を断念」「妊娠中の出血で百キロ近く離れた病院に搬送」。加藤医師の診察で出産した同県大熊町の女性(34)の周囲にはこんな話が絶えない。「早産などの時にどうしたらいいのか。みんな不安がっている」と女性はつぶやく。
福島県立病院の産婦人科も、医師不足のためすべて分娩ぶんべんの取り扱いを中止した。神奈川県とほぼ同じ面積を持つ南会津地方は、常勤の産婦人科医がいる病院が皆無になり「妊婦が山道のハンドルを握り、遠方の病院へ通うのは珍しくない」(病院関係者)という。
福島民報号外
http://www.minpo.jp/var/rev0/0015/2971/gougai20080820B.pdf
日本産科婦人科学会声明
http://www.jsog.or.jp/statement/statement_080820.html
福島県立大野病院事件についての福島地方裁判所の判決に対する声明
日本産科婦人科学会は亡くなられた患者様のご遺族と悲しみを共有し、患者様には心からの哀悼の念を捧げます。
この悲しい事件は、癒着胎盤という重篤な産科疾患において生じたものですが、当時、被告人が産婦人科専門医として行った医療の水準は高く、全く医療過誤と言うべきものではありません。癒着胎盤は極めて稀な疾患であり、診断も難しく、最善の治療が如何なるものであるかについての学術的議論は現在も学会で続けられております。
このたびの判決は、この様な重篤な疾患を扱う実地医療の困難さとそのリスクに理解を示した妥当な判決であり、これにより産科をはじめ多くの領域における昨今の萎縮医療の進行に歯止めのかかることが期待されるところであります。
日本産科婦人科学会は、今後も医学と医療の進歩のための研究を進めると共に、関係諸方面の協力も得て診療体制の更なる整備を行い、本件のように重篤な産科疾患においても、母児ともに救命できる医療の確立を目指して最大限の努力を続けてゆくことを、ここに表明致します。
本会は、今回の裁判による医療現場の混乱を一日も早く収束するよう、検察庁が本件判決に控訴しないことを強く要請するものであります。
平成20年8月20日
社団法人 日本産科婦人科学会 理事長 吉村 泰典
福島県立大野病院事件の福島地裁判決理由要旨
朝日新聞 2008年8月20日
(1)http://www.asahi.com/national/update/0820/TKY200808200207.html
(2)http://www.asahi.com/national/update/0820/TKY200808200207_01.html
福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性患者が死亡した事件で、福島地裁が言い渡した無罪判決の理由の要旨は次の通り。
【業務上過失致死】
●死因と行為との因果関係など
鑑定などによると、患者の死因は失血死で、被告の胎盤剥離(はくり)行為と死亡の間には因果関係が認められる。癒着胎盤を無理に剥(は)がすことが、大量出血を引き起こし、母胎死亡の原因となり得ることは、被告が所持していたものを含めた医学書に記載されており、剥離を継続すれば患者の生命に危機が及ぶおそれがあったことを予見する可能性はあった。胎盤剥離を中止して子宮摘出手術などに移行した場合に予想される出血量は、胎盤剥離を継続した場合と比較すれば相当少ないということは可能だから、結果回避可能性があったと理解するのが相当だ。
●医学的準則と胎盤剥離中止義務について
本件では、癒着胎盤の剥離を中止し、子宮摘出手術などに移行した具体的な臨床症例は検察官、被告側のいずれからも提示されず、法廷で証言した各医師も言及していない。 証言した医師のうち、C医師のみが検察官の主張と同趣旨の見解を述べている。だが、同医師は腫瘍(しゅよう)が専門で癒着胎盤の治療経験に乏しいこと、鑑定や証言は自分の直接の臨床経験に基づくものではなく、主として医学書などの文献に頼ったものであることからすれば、鑑定結果と証言内容を癒着胎盤に関する標準的な医療措置と理解することは相当でない。 他方、D医師、E医師の産科の臨床経験の豊富さ、専門知識の確かさは、その経歴のみならず、証言内容からもくみとることができ、少なくとも癒着胎盤に関する標準的な医療措置に関する証言は医療現場の実際をそのまま表現していると認められる。
そうすると、本件ではD、E両医師の証言などから「剥離を開始した後は、出血をしていても胎盤剥離を完了させ、子宮の収縮を期待するとともに止血操作を行い、それでもコントロールできない大量出血をする場合には子宮を摘出する」ということが、臨床上の標準的な医療措置と理解するのが相当だ。
検察官は癒着胎盤と認識した以上、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術などに移行することが医学的準則であり、被告には剥離を中止する義務があったと主張する。これは医学書の一部の見解に依拠したと評価することができるが、採用できない。
医師に医療措置上の行為義務を負わせ、その義務に反した者には刑罰を科する基準となり得る医学的準則は、臨床に携わる医師がその場面に直面した場合、ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じているといえる程度の一般性、通有性がなければならない。なぜなら、このように理解しなければ、医療措置と一部の医学書に記載されている内容に齟齬(そご)があるような場合に、医師は容易、迅速に治療法の選択ができなくなり、医療現場に混乱をもたらすことになり、刑罰が科される基準が不明確となるからだ。 この点について、検察官は一部の医学書やC医師の鑑定に依拠した準則を主張しているが、これが医師らに広く認識され、その準則に則した臨床例が多く存在するといった点に関する立証はされていない。
また、医療行為が患者の生命や身体に対する危険性があることは自明だし、そもそも医療行為の結果を正確に予測することは困難だ。医療行為を中止する義務があるとするためには、検察官が、当該行為が危険があるということだけでなく、当該行為を中止しない場合の危険性を具体的に明らかにしたうえで、より適切な方法が他にあることを立証しなければならず、このような立証を具体的に行うためには少なくとも相当数の根拠となる臨床症例の提示が必要不可欠だといえる。 しかし、検察官は主張を根拠づける臨床症例を何ら提示していない。被告が胎盤剥離を中止しなかった場合の具体的な危険性が証明されているとはいえない。
本件では、検察官が主張するような内容が医学的準則だったと認めることはできないし、具体的な危険性などを根拠に、胎盤剥離を中止すべき義務があったと認めることもできず、被告が従うべき注意義務の証明がない。
【医師法違反】
本件患者の死亡という結果は、癒着胎盤という疾病を原因とする、過失なき診療行為をもってしても避けられなかった結果といわざるを得ないから、医師法にいう異状がある場合に該当するということはできない。その余について検討するまでもなく、医師法違反の罪は成立しない。
傍聴には多くの医師の姿―大野病院事件判決
キャリアブレイン 2008年8月20日
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/17733.html
大野病院事件に対する医療界の注目度は高く、判決公判が開かれた福島地裁前には、25枚の傍聴券を求め、788人が列を作った。
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抽選に漏れた人たちの一部は、同地裁前で裁判を見守る。医療関係者の姿も多い。
午前10時に公判が始まって間もなく、マスコミ各社の記者が速報を送る様子から、見守る人たちにも「無罪」判決が知れ渡った。
神奈川県の川崎市立井田病院地域医療部長の鈴木厚医師は、無罪判決を聞き、「患者のために医師が行う本来の治療を本気ですることができる。医療者はこの判決を聞くまでは、腰が引けてしまって重症患者をほかの病院に送るなど、最善の治療を行うことから逃げざるを得なかった。今回は、彼が精一杯の治療を患者さんのために行ったことが不幸な結果になってしまった。しかし、この判決で、わたしたち医療者は勇気百倍になった。特に外科医療に携わる医師たちは、安心して医療ができるのではないか」と話す。
同じ神奈川県の総合高津中央病院の小笠原加奈子医師は、被告の加藤医師と同じ産婦人科医長。「産科医の目から見て、同じ地域や状況にあったとしたら、私でも患者さんを助けることはできないだろう。30分で決着がついて不幸な結果になる。家族への説明がなかったとの指摘もあるが、あの状況では手を放すことなどできない。これで逮捕されるのでは、わたしたちは医療を続けることはできない」と語った。
産婦人科勤務医の太田寛医師は、東京から傍聴に足を運んだ。「そもそも刑事事件になるような話ではなく、無罪判決は当然。産科に限らず、重篤な患者は救急などをしていれば目の前に来ることはある。今回のケースは本当に難しいケースで、悪質な医療過誤などとは同列に扱ってほしくない」と話す。さらに、「この事件の影響で、福島県立病院に産科がなくなってしまった。もし加藤医師に間違いがあるとすれば、たった一人で(福島県立大野病院の)産婦人科で働き続けたことではないだろうか。これは行政システムに踏み込まないといけない問題だ」と指摘した。
判決速報!加藤医師は無罪 - 大野病院事件
M3.com 橋本編集長 2008/08/20
http://mrkun.m3.com/DRRouterServlet?pageFrom=CONCIERGE&operation=submitRating&msgId=200808210032568898&mrId=ADM0000000&rating=5&points=5
帝王切開手術時に女性が死亡、手術を担当した福島県立大野病院の産婦人科医だった加藤克彦医師の刑事裁判の判決が8月20日、福島地裁であり、加藤医師は無罪となりました。検察は、業務上過失致死罪で禁固1年、医師法21条違反で罰金10万円を求刑していました(求刑の詳細は「検察の求刑は禁固1年、罰金10万円」をご参照ください)。
この事件は、2004年12月17日、帝王切開手術の既往がある前置胎盤の女性が、帝王切開手術時に死亡、執刀した加藤医師が業務上過失致死罪と、異状死の届け出を定めた医師法21条違反に問われていたものです。
「大野病院事件で加藤医師が有罪になったら、"医療崩壊"は加速する」と危惧されていた中での無罪判決に、多くの医療関係者は安堵されたことでしょう。なお、現時点で検察が控訴するかは未定です。
25枚の裁判の一般傍聴券を求めて並んだのは、実に788人。医療界、さらには世間の関心が非常に高いことがうかがえます。全国各地から、産婦人科医に限らず、多数の医師がここ福島に来ています。今日(20日)の午後には、加藤医師の弁護団などの記者会見が予定されているほか、日本産科婦人科学会などが声明を予定です。関係者の反響も含めて、詳細は逐次お届けします。
福島県立大野病院事件◆Vol.16
無罪の根拠は「胎盤剥離の中止義務なし」
「剥離中止し子宮摘出術に移行することは医学的準則ではない」
m3.com編集長 橋本佳子
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080820_1.html
帝王切開手術時に女性が死亡、手術を担当した福島県立大野病院の産婦人科医だった加藤克彦医師(40歳)が業務上過失致死罪と医師法21条違反に問われた裁判の判決が8月20日、福島地裁であった。鈴木信行裁判長は裁判の冒頭、「被告人は無罪」と述べた。検察の求刑は、業務上過失致死罪で禁固1年、医師法21条違反で罰金10万円だった。
この事件は、2004年12月17日、帝王切開手術の既往がある前置胎盤の女性が、帝王切開手術時に死亡、執刀した加藤医師が業務上過失致死罪と、異状死の届け出を定めた医師法21条違反に問われていた。
裁判の最大の争点は、「胎盤剥離が困難になった時点で剥離を中止して、子宮摘出術に移行する義務があったか否か」という点だ。この点について判決では、「子宮摘出術等に移行することが本件手術当時の医学的準則であったと認めることができない」などとし、加藤医師が胎盤剥離を継続したことは注意義務に反することではないとした。検察が控訴するか否かは現時点では未定。福島地裁には多数の報道陣が取材に訪れていた。
「結果の回避ができたか」が最大の争点
25の一般傍聴券を求めて並んだのは、788人に上った。初公判の13.4倍をはるかに上回った。公判は午前10時開廷、途中休憩を挟まずに午後0時20分まで続いた。
今回の無罪の論理構成は以下のようになる。
1.帝王切開手術時に大量出血があった
2.患者の死亡は出血性ショックによる失血死である
3.大量出血と失血死との間には因果関係がある
4.大量出血は胎盤剥離に伴うものである
5.加藤医師は、遅くても用手的剥離時に癒着胎盤を予見でき、胎盤剥離を継続すれば大量出血の可能性があることを予見できた
6.「大量出血回避のために、胎盤剥離を中止して子宮摘出術に切り替えるべき」というのは、当時の医学的準則としては認められない
1~5は、検察側の起訴事実を相当程度認めたことになる。「加藤医師の胎盤剥離行為と女性の死亡との間には因果関係が認められる」とされ、「癒着胎盤と大量出血が予見できた」という検察側の論理は認められた。
つまり、最大の争点は、「結果の回避ができたか」という点である。検察が「大量出血回避のために、胎盤剥離を中止して子宮摘出術に切り替えるべき」と主張しているのは、一部の医学書の記載や一人の鑑定人の意見である。しかし、この鑑定人も自らの経験に基づくものではないこと、さらには他の鑑定人から「剥離を中止して子宮摘出術に切り替えた臨床例」が提示されなかったことから、「剥離を中止して子宮摘出術に切り替える」ことは、「一般性や通用性を具備したものとまでは認められない」とした。
判決では、結論として以下のように述べている。
「本件において、検察官が主張するような、癒着胎盤であると認識した以上、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出術等に移行することが本件当時の医学的準則であったと認めることはできないし、本件において、被告人に、具体的な危険性の高さ等を根拠に、胎盤剥離を中止すべき義務があったと認めることもできない。したがって、事実経過において認定した被告人による胎盤剥離の継続が注意義務に反することにはならない」つまり、仮に検察が控訴する場合、控訴審で「剥離を中止して子宮摘出術に切り替えることが医学的準則である」ことを立証しなければならないことを意味する。
医師法21条に定める「異状」に該当せず
さらに、医師法21条についても無罪としたのは次のような理由からだ。同条が定める「異状」は、(1)警察官が犯罪捜査の端緒とする、(2)緊急に被害の拡大防止措置を講じるなど社会防衛を図ることを可能とする、という趣旨であるとした。
今回の場合は、「癒着胎盤という疾病を原因とする過失なき診療行為をもってしても避けられなかった結果を言わざるを得ず、医師法が定める『異状』に該当しない」とした。弁護側は医師法21条は憲法に抵触するなどと問題提起していたが、「その余については検討するまでもない」とした。
「弁護側の主張を受け止めてもらえたと評価している」
今日の判決について、関係者は以下のように述べている(詳細はそれぞれ後述)。
●主任弁護人の平岩敬一氏
わが国の臨床上、癒着胎盤という特殊な疾患において、胎盤剥離を始めたら完遂するというわれわれ弁護側の主張を受け入れてもらえたことは評価している。
●加藤医師の所属医局の福島県立医科大学産婦人科教授の佐藤章氏
これはもともとプラスマイナスから言えば、「負」のスタートであり、それをゼロに戻したようなもの。判決を聞いて「喜んだ」というより「ほっとした」というのが率直な感想だ。
●県病院事業管理者の茂田士郎氏
「県立大野病院の医療事故について」という声明を発表
県立大野病院において平成16年12月に発生した医療事故でお亡くなりになった患者様とその御遺族に対し、改めて心より哀悼の意を表します。
本日の判決は、これまで様々な観点から行われてきた審理の結果であると受け止めております。
県立病院としましては、引き続き医療の安全確保に努め、医療事故の再発防止に全力を尽くしたいと考えております。
●遺族(死亡した女性の父)
本日の判決は、被害者の父としては、残念な結果と受け止めるとともに、今後の医療界に不安を感じざるを得ない。
福島県立大野病院事件◆Vol.17
加藤医師が公判後、記者会見で心境を語る
「早く臨床に戻りたい」「被告人は無罪、という言葉が頭に残っている」
橋本佳子 m3.com編集長
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080820_2.html
「今後、地域医療の現場において患者さんにできることを私なりに精一杯やっていきたいと思います」
「被告人は無罪、という言葉が頭に残っていますので、検察、警察にはいろいろと言いたいことはありますが、今後制度が変わる可能性がありますし、僕のような立場にある人は作らないでほしいとは思います」
福島県立大野病院事件の判決後、加藤克彦医師は9人の弁護団とともに記者会見を開き、公判後の心情をこう述べた。
また、主任弁護人の平岩敬一氏は今日の判決について、「弁護団の評価としては、癒着胎盤という特殊な疾患についての標準的な医療は、用手剥離を開始したら、それを完遂し、子宮の収縮に期待し、さらに止血措置を行う。それでもなお、コントロールできない場合は子宮摘出を行うという弁護側の主張を、わが国の臨床医学の標準医療であることを全面的に認めた点では評価できる」と述べた。
また医師法21条については、「診療を受けている患者が当該疾病において死亡したような場合は、21条の『異状』の要件を欠くと言うべきであると、かなり踏み込んだ解釈をしている。これも今後の21条の解釈論議に大きな影響を与えるだろう」との見方をしている。
【加藤医師の冒頭のコメント】
患者さんに対して、信頼して受診していただいたのに、お亡くなりなるという最悪の結果になったこと、本当に申し訳なく思っています。また、ご家族の皆様には大変つらい思いをさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。本日、裁判所には真剣に審議されてきちんとしたご判断をしていただいたことに深く感謝を申し上げます。
突然の逮捕拘留から起訴、保釈、公判前請求手続き、公判、本日の判決まで、私にとってもとても長い2年6カ月が過ぎました。弁護士の先生方には、「普通の生活でいいんですよ」と言われましたが、何もできない、何もしたくない、悶々とした日々でした。今日の日を迎えることができましたのは、精神的に支えてくださったたくさんの方々のおかげです。この場をお借りしてお礼申し上げます。
拘留中に励ましの手紙、電報を送ってくださった皆様、接見禁止だったために保釈後に初めて拝読させていただきました。ありがとうございました。
各学会、全国各地の医師会の先生方におかれましては、医療現場が大変な状況であるにもかかわらず、様々な形で応援していただきましたことに深く感謝申し上げます。またインターネット等でご支援くださいました皆様、ありがとうございました。
何とか気持ちが途切れることなく、本日を迎えることができましたことは、私を支えてくださった皆様方のおかげであります。今後、地域医療の現場において患者さんにできることを私なりに精一杯やっていきたいと思います。本日は誠にありがとうございました。改めまして、患者さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
約50分にわたる会見は加藤医師に質問が集中
加藤医師と弁護団の記者会見は午後1時半から約50分間、行われた。質問は加藤医師本人に集中した。以下、会見を再現する。
質問:今後、どんな形で地域医療に携わっていくのか。
加藤医師:現在のところ白紙の状態です。早く働きたいとは思っています。
質問:手術前も含めて、遺族には十分な説明をしたのか。
加藤医師:普通のことをしていましたので、普通にきちんと話はしたつもりです。
平岩弁護士:補足しますと、カルテにも患者本人と患者の夫に対して、いかなる手術をするか説明したことを記載しています。本日の判決でも、この点についてそれなりに言及していたと思います。出血多量の場合には子宮摘出をする場合もあることなどの危険性については十分に告知していました。
質問:胎盤剥離を開始したら中止しなかった場合の危険性について、検察は立証し得なかったという判決だが。
平岩弁護士:裁判所が重きを置いたのは、用手剥離を中断して子宮摘出術に移行すべき注意義務があったという点。しかし、用手剥離を中断して子宮摘出術に移行すべきという臨床例について、一つも立証できていない。逆に用手剥離を開始したら、完遂させる例は具体的に挙がった。東北大学の岡村教授、宮崎大学の池ノ上教授、新潟大学のホームページに公表されている臨床例などは、すべて用手剥離を開始したら、完遂する例である。検察官は「用手剥離を中断して子宮摘出術に移行すべき」と言っているのであれば、こうした臨床例を出してくるのが、検察官の立証義務。それが一つもできていない。そこに重点があったように思います。
判決要旨の7ページになりますが、「子宮が収縮しない蓋然性の高さ、子宮が収縮しても出血が止まらない蓋然性の高さ、その場合に予想される出血量、容易になし得る他の止血行為の有無やその有効性などを、具体的に明らかにした上で、患者死亡の蓋然性の高さを立証しなければならない。そして、このような立証を具体的に行うためには、少なくとも、相当数の根拠となる臨床症例、あるいは対比すべき類似性のある臨床症例の提示が必要不可欠であるといえる」と言っています。この臨床症例については、一例も検察官は提示することができていない。逆に弁護側が主張するような臨床症例はたくさんある。だからそれがわが国の標準医療なんだと認定しているわけです。
質問:全国で産婦人科医が不足している中で、今回の事件が投げかけた波紋は大きいが、この辺りはどう考えているか。
加藤医師:現場の話を直接聞いているわけではないので、報道を聞いているだけです。報道も一部、偏っているのかもしれないし、何を信じていいか分からないので、働き始めて現場の声をお聞きして、そこから改めて感じると思います。現時点ではコメントをしようがありません。
平岩弁護士:加藤医師が起訴されたことにより、全国の医学会、医師会、多数の医師から抗議声明や加藤医師を支援するいろいろな意見が出されています。とりもなおさず、今回の裁判が産科医、危険な医療に携わる外科医療、救急医療などに非常に大きな影響を与えたことは皆さんも承知しているところだと思います。それが今回の無罪判決で、こうした悪影響が少しでも払拭されれば加藤医師が2年6カ月、大変な思いをしたことが、報われるとは言いませんが、無意味なものではなかったと考えられると思います。
質問:県の事故調査委員会では、「剥離を中断して、子宮摘出に進むべきだ」としているが、この報告書が出たときに違和感を覚えたのか。また今日の判決を聞いてあの報告書をどう思うか。
加藤医師:報告書が出た時点でやはり違和感があり、当時の事務長に話をしたが、諸々の事情から、「患者様の保障のため」ということを盾に何も言うことができない状態になってしまいました。報告書には県の病院局の意向も入っていると聞いていましたので、今日の日が終われば、病院局の方と話することができますし、調査委員会の先生方とも話をすることがあるかと思いますので、その時にまたいろいろな話をお聞きしたいとは考えています。
質問:「保障のため」というが、具体的に誰が言ったのか。
加藤医師:僕には事務長がそう話していました。実際に、本当にそうなのかは病院局や調査委員会の方と話して、お聞きしたいとは思っています。
平岩弁護士:事故調査委員会の報告書では、「癒着と分かった段階で、子宮摘出に移行すべき」という書き方がされている。そうれあれば、検察官は真っ先に調査委員会の報告書を「甲1号証」として提出するはずですが、証拠請求すらしていない。それは、証拠として出された場合には、弁護側から当然作成経緯について痛烈な反論が予想されると判断したからだと思います。このことは当初から弁護側が予想していて、冒頭陳述からそうした主張をしています。
質問:厚生労働省が医療安全調査委員会の設置を検討しているが、「第三者が死因究明に当たる」制度をどう思うか。
加藤医師:今日までこの裁判について考えてきたので、この辺りは話題としては耳に入ってきていましたが、自分としてもあまり考える時間は割かないように、裁判に集中していたという感じなので、あまりコメントはできません。
平岩弁護士:今の制度では、少なくても21条によって、医師が警察に届け出をする、すぐに医師と警察という関係になる。場合によれば、医師が被疑者という立場で警察の取り調べの対象になる。こうした制度はどう考えてもおかしいとは思います。今回の事件も、最初から専門的で、中立・公正な機関があり、そこで今回の医療行為が正当だったのか、あるいは過失があったのか、という検討をしていれば、加藤医師が起訴されることはなかったと思います。医療安全調査委員会は問題点も指摘されていますが、少なくても今のシステムには大きな欠陥がある。それが専門家のところで、まずスクリーニングをかけるということには大きな意味があると考えています。
質問:21条に関する判決が医療安全調査委員会の議論に影響を与えると思うか。
平岩弁護士:私はあまり影響を与えるとは思っていません。よく分析をしてみないと言えませんが。少なくても先ほどのように現在の制度には欠陥がある。仮に無罪判決があったとしても、制度そのものは存在しているわけですから、何らかのいい方向に改善されるのが望ましいとは思っています。
質問:地域医療の現場に戻りたいとのことですが、怖くはないか。
加藤医師:僕は医師なので、医師だから別に今まで普通のことをやってきたわけで、またまた元に戻るという印象しか、今のところないですけれども。実際、現場に戻ってみて、2年6カ月何もやっていなかったので、そうした意味ではちょっと不安はありますが。医師という仕事は好きですし、やってきたいとは思います。
質問:また同じような症例が来た場合にどう対応するか。
加藤医師:その場になってみないと、分かりません。どのような環境で働くかも、今は白紙ですので、お産のない病院で働くようになるかもしれないし、ちょっと分からないです。ただ、標準的な医療はします。
質問:全く同じ医療をするのか。
加藤医師:今回のことがきっかけで、搬送基準とか変わることがあるのかもしれないし、どの場になってみないとちょっと分からないです。
質問:公判の中で遺族の方が陳述される機会があったが、それをどう受け止めていたのか。
加藤医師:ご家族の話はもちろん、ぐさっと来ました。僕が反対側の立場だったらと考えると、飲む込むというか、何と言えばいいのか…。僕としては厳しかったですが、聞いてあげることしかできなかった…。
質問:平岩先生にお聞きするが、「21条の定義が曖昧」「憲法に違反している」との弁護側の主張に、判決では何も判断を示さなかったが。今回の判決の影響は。
平岩弁護士:基本的に、日本の裁判所は憲法判断はしたがらない。今回の場合には、憲法判断まで踏み込まなくても、十分に結論が出せたということ。それはやむを得ないと思っています。21条について、「診療を受けている患者が当該疾病で死亡した場合には、そもそも異状の要件を欠く」ということが明確になったわけですから、今までは21条の要件が非常に曖昧だったために、医師自身が混乱して、届け出をしなくていいものも届けていたものが多々あったと思います。しかし、これによって、「かなりのものが届け出をしなくてもいい」ことが明らかになったのではないか。その意味で評価できると申し上げました。しかし、相変わらず警察に届け出る21条自体は残っているわけですから、それはやはり改正をして、中立・公正な専門家機関に届け出をするという今の議論、医療安全調査委員会の基本的な枠組みについては今後も継続されるべきだろうと思います。
質問:「搬送基準が変わることがあるかもしれない」とはどんなことか。
加藤先生:よく分からないが、現場にドクターがいなければ、搬送をせざるを得ない状況が増えているわけですし、そうした意味で少しでもリスクがあれば送ってしまうという意味。前置胎盤だから搬送基準が変わるという意味ではなく、大きな意味でリスクがあればドクターが多いところに送るという、一般的な話です。
質問:当時、もしも搬送できる体制にあれば、やはり搬送をすべきだと思うか。
加藤先生:普通の前置胎盤ですので、隣の双葉厚生病院でもあのような症例ではやっていたので、送らないですけど。
質問:医療と業務上過失致死罪を適用するのはそぐわないと思うか、また先ほど「遺族の言葉がぐさっときた」と言ったが、どういう意味か。
加藤先生:「そぐわない」というか、今後、僕のような人は出てほしくない、という意味ではそぐわないと思います。偉い方々がいろいろなことを考えて、いろいろな制度を立ち上げようとなさっているわけで、医療現場に出てみて実感するのかなと思います。
また「ぐさっと来た」というのは、何と言えばいいのでしょうか…。「分かっていただけなかった」という意味ではなく、「患者さんのご家族の声として生涯忘れられないようなインパクトのある言葉だった」という意味です。
質問:具体的にはどんな言葉か。
加藤先生:弟さんの「(女性が)お子さんをあやす顔が忘れられない」とか、お父さんが「大人なんだから、きちんとした罰を受けてほしい」といった言葉です。
質問:医療事故を刑事裁判で裁かれることを実際に経験されて、どう感じたか。改めて検察、警察の捜査をどう感じているのか。
加藤医師:やはり2年6カ月は結構長かった。いやな2年6カ月でしたので、こうした期間を先生方には体験してほしくないというのがあります。また今は「被告人は無罪」という言葉が頭に残っていますので、検察、警察にはいろいろと言いたいことはありますけれども、今後制度が変わる可能性がありますし、僕のような立場になるような人は作らないでほしいとは思います。
質問:「被告人は無罪」という言葉を聞いた瞬間の気持ちは。
加藤医師:ほっとしました。ほっとして「分かっていただけてよかった」と感じました。
質問:裁判所の前でタクシーを降りた際、「ほっー」と息を吐いたようだったが。
加藤医師:いまさらじたばたしても、という思いがあり、少し緊張していましたので、深呼吸をしていたのかもしれません。
質問:遺族が「事実を知りたい」と言っているが、説明がうまくいったと思うか。
加藤医師:僕は説明ができていたと思います。ただ、僕みたいな若造の話では、納得していただけないのかなというものもありますが、僕としては普通に話したつもりです。
帝王切開で29歳失血死、医師に無罪判決…福島地裁
読売新聞 2008年8月20日
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080820-OYT1T00212.htm
福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開手術を受けた女性(当時29歳)が死亡した事件で、業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の罪に問われた産婦人科医、加藤克彦被告(40)の判決が20日、福島地裁であった。鈴木信行裁判長は、「標準的な医療措置で、過失は認められない」として無罪(求刑・禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。
医療界からは、医師の逮捕に対して反発の声が上がり、元々勤務が過酷とされる産科医離れが進むなど波紋を広げたとして注目された。
判決によると、加藤被告は04年12月17日に女性の帝王切開手術を執刀。子宮に癒着した胎盤をはがした際に大量出血が起き、女性は失血死した。子どもは無事だった。鈴木裁判長は、胎盤をはがしたことと死亡との因果関係を認め、「手でこれ以上胎盤をはがせないと判断した時点で、はく離を続ければ大量出血の恐れがあると予見できた」と、検察側の主張を認めた。
だが、はく離を途中でやめて子宮摘出手術に移り、大量出血を回避すべきだったとする検察側の主張については、「最後まではがすのが標準的な医療措置」として、結果を回避する注意義務はなかったと判断。さらに、「女性は(難症例の)癒着胎盤という疾病で、過失のない診療行為でも死亡という結果は避けられなかった」として、医師法違反についても「異状死ではなく、届け出義務はない」とした。検察側は「胎盤の癒着は広範囲で相当深く、はがし続ければ大量出血し、生命に危険が及ぶ」と指摘。弁護側は「胎盤をはがしている最中の出血量は最大555ミリ・リットルで、大量出血の予見可能性はなかった。はがし始めたら最後まで行うのが臨床の実践。標準的な医療行為だった」と主張した。
産科医は、04年ごろから減少が顕著となり、加藤被告の逮捕・起訴後は、医師の産科離れにさらに拍車がかかったとされる。日本産科婦人科学会は「故意や悪意のない医療行為に個人の刑事責任を問うのは疑問」とする見解を表明。国は「医療安全調査委員会(仮称)」の設置を検討している。
福島・帝王切開手術女性死亡事件 「標準的な医療措置」と産婦人科医に無罪判決
FNN 2008年8月20日
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00139012.html
2004年に福島の県立病院で帝王切開手術を受けた女性が、まれな胎盤の疾患の措置で大量出血を起こし死亡した事件で、福島地裁は20日、「医師の対応は標準的な医療措置だった」などとして、執刀医に無罪判決を言い渡した。
この事件は、通常の医療行為における医師の判断にまで捜査当局が踏み込んだとして注目された。
産科医不足を加速させたと言われる中、地裁前には多くの医療関係者の姿があった。
産婦人科医は「これがもし有罪なら、毎日の診療はできない」、「これ(逮捕)を契機に、日本の周産期医療そのものが崩れてしまったと思う。無罪になって、これで止まるのかなと思う」などと語った。
判決後、加藤克彦医師(40)は「(判決を聞いた時)ほっとしました。わかっていただけてよかったと感じました。働きたい、早く働きたいです」と語った。
死亡した女性の父・渡辺好男さんは「父として残念な結果と受け止めるとともに、今後の医療界に不安を感じざるを得ない」と語った。
そして、舛添厚労相は「われわれとしては、こういうことをふまえたうえで、これからの事故調査のあり方を含め、きちんと粛々と検討を続けていきたい」と述べた。
今後の医療界について、渡辺さんは「医療側に変わってもらいたい。原因を追及して、防止策を立ててもらいたい」と語った。
福島・帝王切開手術女性死亡事件 業務上過失致死などに問われた産婦人科医に無罪判決
FNN 2008年8月20日
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00138996.html
2004年に福島県の県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性が死亡した事件の裁判で、業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医に無罪が言い渡された。
全国の医療関係者などが注目しているため、福島地方裁判所には、朝から多くの報道陣が詰めかけた。
午前11寺半現在も裁判は続いているが、無罪判決の理由については、まだ話は至っていない。
無罪判決を受けた加藤克彦医師(40)は、それまでの緊張が解け、ほっとしたように見えた。
手術中の医師の判断をめぐって、過失があったかどうかを問う今回の裁判の行方は、全国の医療界から注目されていた。
午前8時には、福島地方裁判所に25席の傍聴券を求め、多くの人が行列を作った。その列は最終的には788人になり、裁判所の敷地内いっぱいに行列を作った。
そして傍聴希望者の中には、たくさんの医療関係者の姿も見られた。
そのうちの1人は、「無罪判決によって医療崩壊を食い止めることができた」と話していた。
この事件は2004年12月、福島・大熊町にある県立大野病院で、帝王切開手術を受けた当時29歳の女性が死亡したもの。
女性は、癒着胎盤という珍しい症例で、死因は、子宮から胎盤をはがす際の大量出血だった。
女性の父親は「何でこういうふうになったの。何の医療事故でもないよ、医療ミスでもないよ。ただの説明だけで、納得できなかったですね」と語った。
警察は、執刀した加藤克彦医師を業務上過失致死などの容疑で逮捕した。
一方、医師の逮捕という事態に、日本産婦人科学会をはじめとした医療界は猛反発した。
日本産婦人科学会は、会見で「全国的な産婦人科医不足という現在の医療体制の問題点に深く根ざしており、献身的に過重な負担に耐えてきた医師個人の責任を追及するにはそぐわない部分があります」と話していた。
裁判では、検察側は「加藤医師が適切な処置を怠った」として、禁固1年、罰金10万円を求刑。
弁護側は、「最善を尽くした」として無罪を主張していた。
この事件をきっかけに、全国で産婦人科医をはじめとした医師不足が注目された。
また、医師の裁量権をめぐって、刑事責任を問われることになれば、医師が萎縮(いしゅく)してしまうといった声が上がっていた。
それだけに、今回の無罪判決が今後の医療界にどんな影響を及ぼすのか注目される。
判決理由の説明は、昼の休廷を挟んで午後も続くことになっている。
無罪の加藤医師が会見「ほっとした」 大野病院事件
産経新聞 2008年8月20日
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/171570/
無罪判決を受けた加藤克彦医師(40)は20日午後、福島市内で記者会見し、「ほっとした」と胸の内を率直に語り、「今後は、地域医療の現場で患者にできることを精いっぱいやっていきたい」と、現場復帰の意思を明らかにした。
加藤医師は会見の冒頭、涙を浮かべながら、死亡した女性に「信頼して受診してもらったのに、亡くなるという最悪の結果になり、申し訳ありませんでした」と謝罪した。加藤医師は逮捕からの月日を「何もしたくないという日々。長く嫌な2年6カ月だった」と振り返った。無罪判決については「裁判所にしっかりした判断をしていただいた」と少し表情を緩ませ、「今後は僕のような人が出ないことを祈りたい」と語った。さらに、「子供をあやす顔が忘れられない」「きちんとした罰を受けてほしい」と公判で意見陳述した遺族の言葉にも触れ、「グサッときた。生涯忘れられない言葉」と神妙な面持ちで話した。主任弁護人の平岩敬一弁護士は判決を評価するとともに、「医師に不安が広まったことや、産科医の減少といった悪影響がなくなればいい」と話した。
大野病院事件「妥当な判決」 日産婦学会が声明
産経新聞 2008年8月20日
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/living/171427/
福島地裁の無罪判決を受け、日本産科婦人科学会の吉村泰典理事長は20日昼、記者会見し「実地医療の困難さとリスクに理解を示した妥当な判決」と判決を評価。「控訴しないことを強く要請する」と、検察側に控訴断念を求めた。
争点となった癒着胎盤について吉村理事長は「極めてまれな疾患であり、診断も難しく、最善の治療についての学術的議論は現在も学会で続けられている」とし、加藤克彦被告に対しては「専門医としていった医療の水準は高く、まったく医療過誤と言うべきものではない」と、同学会の声明を読み上げた。
同学会医療問題ワーキンググループ委員長を務める岡井崇理事は「今回のケースは逮捕する理由がなかった。たとえ患者への説明が不十分だったとしても、医師に刑事罰を与えることにはつながらない。医療を知らない警察が最初に捜査を行ったことが問題。まず、専門家が第三者機関を設けて調査すべきだと事件を通じて率直に感じた」と訴えた。
無罪判決に産科医、身じろぎせず 遺族は涙
産経新聞 2008年8月20日
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/171411/
手術中の判断をめぐり、執刀医の刑事責任が問われた福島県大熊町の県立大野病院で発生した妊婦死亡事件。病院の調査委員会が報告書を作成し調査を終えた後の逮捕・起訴に医療界からは「通常の医療行為で逮捕されれば現場が萎縮(いしゅく)する」などと強い反発の声があがっていた。全国で産科医の不足や過酷な労働状況が指摘される中、福島地裁が下したのは、医師の裁量を認めた「無罪」判決。法廷内ではさまざまな感情が渦巻いた。午前10時過ぎにダークグレーのスーツを着て入廷した加藤被告。裁判官に向かって一礼をした後、傍聴席の被害者家族が座っている方向に向け、深く頭を下げた。鈴木信行裁判長に名前などを確認されている間は、緊張からか、せわしなく両手を動かしていたが、「無罪」の主文が言い渡されると、身じろぎせず聞き入った。
加藤被告は女性が死亡した後も大野病院ただ一人の産婦人科医として勤務し、平成18年2月18日の逮捕時にも、約10人の入院患者と20~30人の外来患者を抱えていた。妻も第一子の出産間近で、加藤被告は自分で子供を取り上げる予定だったという。
しかし逮捕で状況は一変。妻の出産に立ち会えず、患者のケアも不可能になった。保釈後も現場に復帰せず、休職を続けていた。
主任弁護人の平岩敬一弁護士は加藤被告の近況について「謹慎に近い状態で、医学博士の学位を取るために自宅で研究を続けていた」と話す。今年5月に開かれた最終弁論では、加藤被告は「もし再び医師として働けるなら、もう一度地域医療の一端を担いたい」と希望を述べていた。
一方、被害者女性の家族もまた、「無罪」を言い渡した裁判官を見据えながら判決に聞き入った。女性の父親は、祈るような形で手を組み合わせたまま、唇をかみしめ、判決理由に耳を傾けた。
女性の父親や夫は1月の意見陳述で「この事件で、閉鎖的だった医療界が国民の関心の的になった。事件が開かれた医療のあり方や臨床の実態を考えるきっかけになることを願う」と希望した。同時に、「幼くして母を失った子供を見るとふびんになる」「夜中、突然目が覚めるという状態が続いている」「わが家の生活から笑顔が事件以来、無くなってしまった」などと、事件後に家族の生活が様変わりした苦しみを吐露し、加藤被告に対して厳罰を望んでいた。
判決の朗読が始まって5分ほど経った後、うつむいた父親が突然涙をこぼし始めた。感情を抑えられない様子で、ハンカチを取り出しては、涙を何度もぬぐっていた。
帝王切開死亡、医師に無罪 福島地裁判決、現場裁量認める
中日新聞 2008年8月20日
http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2008082002000320.html
福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が手術中に死亡した事件で、業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(40)=休職中=に、福島地裁(鈴木信行裁判長)は20日「標準的な医療措置で過失はなかった」として無罪判決(求刑禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。
故意や明白なミスでなく通常の医療行為で医師が逮捕、起訴された事件は医療界の猛反発を招き、全国的な産科医不足に拍車を掛けたとされる。現場の実態や医師の裁量を重視した判決は、医療過誤をめぐる刑事責任追及の在り方や医療界にも影響を与えそうだ。公判では、子宮に胎盤が癒着した極めて珍しい症例に対し、胎盤をはがす「はく離」を被告が続けた判断の是非が最大の争点となった。
検察側は医学書の記述を根拠に「直ちに子宮摘出に移行すべきだった」と主張したが、鈴木裁判長は「医療現場でほとんどの医師が従う程度の一般性がなければ刑罰を科す基準とはならない」と判断。「現場と食い違う医学書の基準を適用すれば医師が治療法を選べなくなる」と指摘した。さらに「手術中に癒着胎盤を認識した時点で、大量出血の恐れを予見できた」と予見可能性は認めた上で「はく離すれば血管の収縮で止血が期待できる」と妥当性を認めた。
癒着の程度や位置関係をめぐる検察側の鑑定結果について判決は「疑問がある」と信用性を否定。「医学書や鑑定内容を根拠づける症例をなんら立証しなかった」と検察側を批判した。
加藤被告は「異状死」なのに24時間以内に警察に届けなかったとして医師法違反罪にも問われたが、判決は「死亡は避けられない結果で報告義務はない」とした。
判決によると、加藤被告は04年12月17日、女性の帝王切開手術を執刀。クーパー(手術用はさみ)で癒着した胎盤をはがし、女性は大量出血によるショックで失血死した。
◆判決の骨子
▽被告の加藤克彦医師は無罪
▽子宮に癒着した胎盤のはく離を継続したことは標準的な医療措置
▽胎盤はく離を中止する義務はなかった
▽被告が警察に報告しなかったことは医師法違反罪に当たらない
帝王切開で死亡 医師無罪判決
NHK 2008年8月20日
http://www.nhk.or.jp/news/t10013603541000.html
4年前、福島県立大野病院で行われた帝王切開手術で、無理な処置で女性を死亡させたとして、業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科の医師に、福島地方裁判所は「処置は医療現場で行われていた標準的なものだった」として無罪を言い渡しました。
福島県大熊町にある県立大野病院の産婦人科の医師、加藤克彦被告(40)は、4年前の平成16年12月に当時29歳の女性に帝王切開手術を行った際、子宮に癒着していた胎盤を無理にはがして大量出血で女性を死亡させたなどとして、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われていました。裁判で、検察側が禁固1年、罰金10万円を求刑したのに対し、弁護側は「処置は適切だった」と無罪を主張していました。20日の判決で、福島地方裁判所の鈴木信行裁判長は「医療行為で刑罰を科すのはほとんどの医師が従っているような一般的な医学的基準に反した場合」との判断を示しました。そのうえで、今回のケースについては「出血のおそれが予測でき、ほかの処置を取ることも可能ではあったが、複数の医師の証言から胎盤をはがすのを途中でやめることは医療現場では一般的とは言えず、続けたのは標準的な医療措置だった。中止しなければならない具体的な危険性があったとも言えず、刑事責任は問えない」として無罪を言い渡しました。判決を受けて、亡くなった女性の父親の渡辺好男さんは「被害者の父として残念な結果です。真実を知りたくて病院で何が起こったのかを追及してきましたが、裁判になったことでわかったこともあり、自分としては成果があったと思います。娘が戻ってくるわけではありませんが、判決のとおり大量出血のおそれがあることを予測できた可能性があるのならば、これからの医療界で生かし再発防止に努めてもらいたいです」と話しました。また、加藤医師に対しては「病院で何があったのか十分に説明してほしい」と話しています。一方、判決のあと記者会見した加藤医師は「亡くなった女性に信頼していただいていたのに申し訳なく思っています。ご家族に対しては大変つらい思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした。裁判所には、きちんとした判断をしていただき、深く感謝しています」と述べて一礼しました。そのうえで「突然の逮捕から2年6か月、何もできない、何もしたくない、もんもんとした日々でした。判決はたくさんの人に支えられたおかげだと思います。今後は地域医療に貢献できるよう、また医師として精いっぱい働きたい」と話しました。判決を受けて、舛添厚生労働大臣は記者団に対し「行政の長として、個々の司法判断にコメントはできないが、厚生労働省としては今回の判決も参考にしたうえで、医師の声や真実を知りたいと願う家族の声のバランスを取りながら、今後の事故調査のあり方を検討してきたい」と述べました。そのうえで舛添大臣は、医療事故が起きた場合に死因や診療内容などを調査する権限を持つ第三者機関の設置について「よい形で事故の原因究明ができる委員会を作るために、党派を超えて国会で議論し案をまとめていきたい」と述べ、法案化を目指す考えを示しました。
「帝王切開死」医師に無罪
福島地裁判決 胎盤の大量出血、回避義務認めず
読売新聞 2008年8月20日
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20080820-OYT8T00445.htm
福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開手術を受けた女性(当時29歳)が死亡した事件で、業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の罪に問われた産婦人科医、加藤克彦被告(40)の判決が20日、福島地裁であった。
鈴木信行裁判長は、「標準的な医療措置で、過失は認められない」として無罪(求刑・禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。医療界からは、医師の逮捕に対して反発の声が上がり、元々勤務が過酷とされる産科医離れが進むなど波紋を広げたとして注目された。
判決によると、加藤被告は04年12月17日に女性の帝王切開手術を執刀。子宮に癒着した胎盤をはがした際に大量出血が起き、女性は失血死した。子どもは無事だった。鈴木裁判長は、胎盤をはがしたことと死亡との因果関係を認め、「手でこれ以上胎盤をはがせないと判断した時点で、はく離を続ければ大量出血の恐れがあると予見できた」と、検察側の主張を認めた。だが、はく離を途中でやめて子宮摘出手術に移り、大量出血を回避すべきだったとする検察側の主張については、「最後まではがすのが標準的な医療措置」として、結果を回避する注意義務はなかったと判断。さらに、「女性は(難症例の)癒着胎盤という疾病で、過失のない診療行為でも死亡という結果は避けられなかった」として、医師法違反についても「異状死ではなく、届け出義務はない」とした。検察側は「胎盤の癒着は広範囲で相当深く、はがし続ければ大量出血し、生命に危険が及ぶ」と指摘。弁護側は「胎盤をはがしている最中の出血量は最大555ミリ・リットルで、大量出血の予見可能性はなかった。はがし始めたら最後まで行うのが臨床の実践。標準的な医療行為だった」と主張した。
産科医は、04年ごろから減少が顕著となり、加藤被告の逮捕・起訴後は、医師の産科離れにさらに拍車がかかったとされる。日本産科婦人科学会は「故意や悪意のない医療行為に個人の刑事責任を問うのは疑問」とする見解を表明。国は「医療安全調査委員会(仮称)」の設置を検討している。
癒着胎盤 胎盤の一部または全部が子宮の内壁と強く癒着し、出産後に子宮が収縮しても自然にはがれない疾患。加藤被告の弁護団によると、発症頻度は出産1万件に2、3例という。大野病院で死亡した女性のように帝王切開の経験があり、さらに胎盤が子宮口をふさいでいる場合、発症リスクが高まるとされる。
[解説]逮捕の衝撃 産科医離れ
無罪判決を受け、日本産科婦人科学会が歓迎する声明を出すなど、医療界は安堵(あんど)している。
執刀医逮捕は、医療界に衝撃を与えた。読売新聞が2007年秋に行った調査では、06年4月以降に出産の取り扱いを休止した病院は全国で少なくとも127か所に上り、1年半で約1割減った。リスクの高い患者が、拠点病院に紹介される傾向も強まった。
判決は、医療にリスクが伴うことを強調。医師の過失を問うには「より適切な方法が他にあることを具体的に立証しなければならない」と高いハードルを課した。とは言え、「医療行為による事故で刑事責任を問うべきでない」とする〈医師側の論理〉にお墨付きを与えたわけではない。遺族は病院側の説明に不信感を募らせている。公判では、助産師が被告に態勢の整った病院で手術するよう勧めたり、先輩医師が手術の危険性を指摘したりした事実が明らかになった。
医療界は患者の声に耳を傾け、より安全・安心な医療の確立に向け、冷静な議論をする必要がある。
医療界挙げて被告の医師支援…帝王切開死判決
読売新聞 2008年8月20日
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080820-OYT1T00414.htm
帝王切開手術で女性(当時29歳)を失血死させたなどとして、業務上過失致死罪などに問われた加藤克彦医師(40)に20日、無罪を言い渡した福島地裁判決──今回の公判では、産科の臨床医の権威が弁護側証人として出廷するなど、医療界挙げて被告を支援する形になった。
背景には、1999年に東京都内の病院で起きた点滴ミス隠し事件などを契機に広がった医療不信の中で、難症例を扱った医師が逮捕され、深刻な医師不足を招いている現状への危機感がある。医療不信の広がりは、横浜市大病院で2人の患者を取り違えて手術した事件と、都立広尾病院で誤って主婦に消毒液を点滴して死亡させ、ミスを隠そうとした事件が99年に相次いで起きたことが契機になった。
以後、遺族の処罰感情などを背景に捜査機関が医師個人の責任を問うケースが急増。2002年には東京慈恵医科大付属青戸病院で、経験のない医師3人が難度の高い腹腔(ふくくう)鏡下手術を行って患者を死亡させる事件も起きた。警察庁によると、警察から検察への送致件数は、99年の10件から00年は24件に増え、06年には98件になった。捜査とは別に、厚生労働省は05年9月、病理解剖学などの医療関係者と法律家で構成される医療版「事故調査委員会」を4都府県でスタートさせた。
こうした状況の中、06年2月に加藤克彦医師が逮捕された。その直後から日本産科婦人科学会など100近い団体が抗議声明を出したのは、「わが国の刑事裁判史上かつてない」(弁護側)状況だった。
事件で問われたのは、女性の胎盤に対する処置。女性は胎盤が通常より低い位置にある「前置胎盤」で、産道につながる子宮口を完全に覆っていた。さらに「癒着胎盤」を起こし、胎盤を無理にはがすと大量出血する恐れがあった。癒着胎盤の処置を巡り、公判では「子宮摘出に移るべきだった」とする検察側と、「最後まではがすのが標準的な医療」とする弁護側が激しい応酬を繰り広げた。
弁護側は、周産期医療の権威とされる池ノ上克(つよむ)・宮崎大医学部長と岡村州博(くにひろ)・東北大教授を証人に呼んだ。2人は「被告の処置に間違いはない」と述べた。これに対し、検察側の立証は押され気味となった。検察側証人の田中憲一・新潟大教授は「はがすのが難しくなった時点で、直ちに子宮摘出に移るべき」と証言したものの、どの時点で子宮摘出を決断するかについては、「そこは医師の判断」と断言を避けた。
福島県立大野病院事件裁判 速報1
注目の判決は「無罪」
MTpro 記事 2008年8月20日掲載
(1)http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0808/080818.html
(2)http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0808/080819.html
(3)http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0808/080820.html
(4)http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0808/080821.html
注目の判決は無罪―。今日8月20日,福島地裁で福島県立大野病院事件の判決公判が行われ,鈴木信行裁判長は被告の加藤克彦氏に対し,「無罪」を言い渡した。
傍聴券は30倍以上の競争率
10時の開廷を前に,福島地裁には早朝から傍聴券を求める長蛇の列ができた。一般傍聴席25席に対し,列に並んだのは788人。30倍以上の競争率となった列のなかには無罪判決を確信する医療関係者の姿も数多く見られた。
同裁判は,2004年12月に大野病院で行われた帝王切開手術において患者が出血死した医療事故について,執刀医の加藤氏が業務上過失致死と医師法21条(異状死の届け出義務)違反の罪に問われていたもの。1年4か月の間に14回の審理が行われ,検察は禁固1年,罰金10万円を求刑,弁護側は無罪を主張していた。
日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会の声明
今日の福島県立大野病院事件の無罪判決を受けて,さきほど日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会がそれぞれ声明を発表した。
無罪判決を評価
両学会ともに,今回福島地裁が下した加藤氏に対する無罪判決が妥当であると評価。
日本産科婦人科学会では検察が本件の控訴をしないように呼びかけたほか,日本産婦人科医会では,「新たな死因究明制度における原因究明と再発予防に向けた取り組み」の法制化に向け,医療の管理を刑事司法ではなく,専門家集団である医師が行う仕組みの構築を全面的に支援していきたいとしている。
両学会の声明全文は学会ホームページで閲覧できる。
・社団法人日本産科婦人科学会:http://www.jsog.or.jp/
・社団法人日本産婦人科医会:http://www.jaog.or.jp/
判決要旨の一部を紹介
今回の公判で,検察側は加藤氏の業務上過失致死ならびに医師法21条違反を主張していたが,いずれの訴えも退けられた。
今日8月20日の公判終了後に配布された判決要旨から,ごく一部だが,抜粋して内容を紹介する。
「診療中の患者が診療を受けている当該疾病で死亡した場合は異状死に当たらない」
まず,業務上過失致死について,検察側は被告に医療措置の妥当性・相当性,結果を回避するための措置として胎盤剥離行為を中止,子宮摘出手術に移行すべき義務があったと主張していた。
今回の判決で,裁判長はまず検察側の提出した鑑定結果・証言内容を,臨床経験や専門知識に乏しく,医学書に依拠するところが大きいとして,「臨床における癒着胎盤に関する標準的な医療措置」と理解するに当たらないとした。また,臨床医の医療措置上の行為義務ならびにその義務に反した場合,刑罰を科す基準となりうる医学的準則を「当該科目の臨床に携わる医師が,当該場面に直面した場合に,ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じているといえる程度の,一般性あるいは通有性を具備したものでなければならない」と述べている。
胎盤剥離の中止義務に関する主張については「医療行為が身体に対する侵襲を伴うものである以上,患者の生命や身体に対する危険性があることは自明であるし,そもそも医療行為の結果を正確に予測することは困難である」と踏み込んだ見解を示している。さらに,胎盤剥離を中止しなかった場合の危険性に対する具体的な証明がなかったとして,業務上過失致死の訴えを退けた。
一方,医療界でもその取り扱いについて議論が続いている医師法21条への違反があったかどうかについて裁判長は,医師法21条における異状死は「同条が,警察官が犯罪捜査の端緒を得ることを容易にするほか,警察官が緊急に被害の拡大防止措置を講ずるなどして社会防衛を図ることを可能にしようとした趣旨の規定」と指摘。そして,本件に対しては「法医学的にみて,普通と異なる状態で死亡していると認められる状態であることを意味すると解されるから,診療中の患者が,診療を受けている当該疾病によって死亡したような場合は,そもそも同条にいう異状の要件を欠くというべき」として,医師法21条違反に当たらないとの見解を示し,同じく検察側の主張は退けられた格好となった。
「地域医療の現場に戻りたい」―無罪判決獲得の加藤氏語る
「今後,地域医療の現場において,患者さんにできることを私なりに精一杯やっていきたい」。無罪判決を獲得して,記者会見に臨んだ被告の加藤克彦氏は2年半遠ざかっている臨床の場に復帰したいとの意思を明らかにした。
「不安はあるが,医師という仕事が好き」
8月20日10時に始まった判決公判は約2時間で終了。加藤氏は13時30分から記者会見に臨んだ。
同氏はまず,被害者に対して「最悪の結果になり,本当に申し訳なく思っています」,「ご冥福をお祈りします」,遺族に対しては「大変つらい思いをさせてしまい,誠に申し訳ありませんでした」と,あらためて謝罪の言葉を重ねた。
さらに,適正な判断をした裁判所や,これまで支援・激励を続けてきた医療関係者などに対し感謝の気持ちを述べた後,冒頭の言葉で臨床復帰を希望している気持ちを表現した。
また,記者団からの「現場に戻ることは怖くないか」との質問に対しては,「私は医師なので・・・」と口ごもりながら答えた同氏。言葉をあらためたうえで,久しぶりに臨床の場に立つことへの不安は確かにあるが,「医師という仕事が好きなので,続けていきたい」とやや力を込めて語った。
今回の判決が医療崩壊を食い止めるきっかけになるかどうかは,現時点では判断の分かれるところだろう。「普通の診療をしてきたつもり」という同氏は,今後,自身のような逮捕,起訴という苦い経験をほかの医師に味わってほしくないと述べた。そのために,医療制度や運用基準の見直しを進めてほしい―言葉少なな発言の端々から,強いメッセージが伝わってきた。
「福島県立大野病院事件」第一審判決に関する緊急アンケート
https://research.medical-tribune.co.jp/a.php?act=info_form
大野病院事件きょう判決
朝日新聞 2008年08月20日
http://mytown.asahi.com/fukushima/news.php?k_id=07000000808200005
産婦人科の医師が業務上過失致死などに問われた県立大野病院事件の判決が20日、福島地裁で言い渡される。事件から3年8カ月、裁判が始まって1年7カ月。帝王切開手術後に大量出血で亡くなった女性(当時29)の遺族は、「最善の医療が行われたのか」という疑問が解けないまま、判決の日を迎える。
-女性の父、心境-
手術があった04年12月17日。女性の父親、渡辺好男さん(58)は今も、その日を思い出すのがつらい。危険なお産になるとは全く思っていなかった。加藤克彦医師(40)に「万全の態勢をとる」と言われ、100パーセント信頼していた。
妻に「生まれたら連絡を」と言って出勤した。午後3時半ごろ、携帯に「生まれたよ」と電話があった。仕事の後、午後6時ごろ、病院に着いた。しかし、孫は新生児室にいるのに娘は手術室から戻っていない。看護師に聞くと「先生に確認します」。しばらくして「先生からお話があります」とナースステーション奥の部屋に通された。姿を見せた加藤医師は、最初に「娘さんが亡くなりました」。思わず「何!」と叫んだ。
渡辺さんは、病院の記録や癒着胎盤に関する資料などを集めた。病院からの説明は事故当日の夜から計5回。5回目は05年3月、県が設置した事故調査委員会の報告書に基づいて行われた。癒着胎盤の無理な剥離(はく・り)▽対応する医師の不足▽輸血対応の遅れなど、「万全の態勢」とはほど遠い内容だった。しかし遺族側への聞き取りはなく、「おざなりな結論だ」と感じた。
05年9月。病院の事務長が「示談を含めた話をしたい」と自宅を訪れた。「何も解明されていないのに」と思った渡辺さんは、娘が手術前に受けた検査機器の資料を持ってきてほしいと頼んだ。だが病院側から連絡がないまま、翌年2月、加藤医師は逮捕された。
裁判になって初めて知った事実は多い。「他の病院で手術した方がいい」と助言した助産師がいたこと、先輩医師が、加藤医師に手術の危険性をアドバイスしていたこと、大量出血後、連絡を受けて手術室に入った院長が、他の医師の応援を提案したこと……。しかし、医師の過失の有無を争う検察と弁護側の論争は、胎盤をはがしたことの是非に集中した。「引き返す機会は何度もあったのに、なぜ突き進んだのか」という疑問への答えがないまま、裁判は今年5月、結審した。
医師が逮捕されたことに対する医療界挙げての抗議に、渡辺さんは戸惑う。「十分なことをしてくれたなら責めようと思わない。反省すべき点があったなら、きちんと説明してほしいだけだ」。遺族が刑事事件にすることを望んだわけではないのに、「医療崩壊」を招いた元凶のようにも言われた。
紙袋いっぱいに集めた医療関係の資料を読み込んできた。「私に事件の決着はない」と渡辺さんは言う。「医師と患者の双方を不幸な事故から守るためにも、娘の事故の徹底的な検証と、リスクのあるお産の指針づくりを行政と医療界に求めていきたい」
医師、遺族 重苦しく 「無罪」に思いめぐる
河北新報 2008年8月20日
http://www.kahoku.co.jp/news/2008/08/20080820t63044.htm
「被告人は無罪」。20日午前10時すぎ、福島県立大野病院事件の判決公判が開かれた福島地裁1号法廷に鈴木信行裁判長の声が響いた瞬間も、業務上過失致死罪などに問われた加藤克彦医師(40)は直立のまま、前を見据え続けた。手術中の措置をめぐり産科医の刑事責任が問われた医療界注視の事件。地裁の外で判決を待った医師の支援者らには喜びが広がったが、死亡した女性患者=当時(29)=の遺族は傍聴席でハンカチを手に目をぬぐった。明暗が分かれた法廷を重苦しい空気が包んだ。
濃いグレーのスーツに赤系のネクタイ姿で法廷に現れた加藤医師。冒頭の主文言い渡しを聞き、被告席に戻った後も表情をほとんど変えず、背筋を伸ばしたまま判決理由の朗読に聞き入った。午後零時20分に言い渡しが終わり閉廷すると、遺族に一礼して法廷を後にした。
事件をめぐっては、医療界から「医師の産科離れなど、医療崩壊を加速させた」と厳しい批判の声が上がった。関心の高さを反映し、この日は25の一般傍聴席を求め、788人が抽選の列に並んだ。
地裁の外に無罪の知らせが伝わると、加藤医師の元患者らの中には「ほんとに良かった」と泣き出す人も。千葉県から訪れた男性医師(45)は「安心した。逮捕が行き過ぎだったと思う。医師側も異変があれば事実と向き合い、患者側に理解してもらう努力が必要だろう」と話した。
真相究明を待ち望んだ遺族には厳しい判決となった。血圧低下や出血量の増大など、つらい手術経過の事実認定が読み上げられていくと、女性患者の父親はうつむきながら耳を傾けていた。
大野病院事件 被告の医師に無罪判決
FCT 2008年08月20日
http://www.fct.co.jp/news/#200808203173827
県立大野病院で、帝王切開で出産した女性が手術中に死亡し、執刀した医師が業務上過失致死などの罪に問われていた裁判です。
きょうの判決で、福島地方裁判所は、被告の医師に無罪判決を言い渡しました。
無罪判決を受けたのは、大野病院の産婦人科医、加藤克彦被告40歳です。
加藤被告は、2004年12月、当時29歳の女性の帝王切開の手術をした際、無理にゆ着した胎盤を引き剥がして大量出血を引き起こし、死亡させたとして、「業務上過失致死」などの罪に問われていました。
この裁判は、現職の医師が逮捕、起訴されたことから、医療界が強く反発するなど、全国からも注目を集め、裁判所には、25枚の傍聴券を求めて788人が列を作りました。
きょうの判決公判で、福島地方裁判所の鈴木信行裁判長は、争点となっていたゆ着した胎盤の処置について、「大量出血の可能性は予測できたが、胎盤をはがした行為は、当時の医療水準に照らせば妥当」などと、被告・弁護側の主張をほぼ認め、加藤被告に無罪の判決を言い渡しました。
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