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(投稿:by 僻地の産科医)
8月20日が判決です(>▽<)!!!
それまでずっとトップに置かせていただきます ..。*♡
大野事件の判決日、福島に集まりましょう!!!
大野病院事件 産科以外も影響
「医師逮捕」が投げかけた波紋
福島県立大野病院事件 「医療刑事事件の変節点」
随時、更新していきますので、チェックしてみてください。
延べ80時間、加藤医師本人を含め15人が法廷に
計14回に及んだ公判を振り返る(1)
橋本佳子m3.com編集長 2008年08月15日
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080815_2.html
来週8月20日、福島地裁で福島県立大野病院事件の判決が言い渡される。本事件は、2004年12月17日、帝王切開手術時に女性が死亡したもので、同病院の産婦人科医だった加藤克彦医師が業務上過失致死罪と、異状死の届け出を定めた医師法21条違反に問われていた事件だ。検察側は、業務上過失致死罪で禁固1年、医師法21違反で罰金10万円をそれぞれ求刑した(「検察の求刑は禁固1年、罰金10万円」、「被告は医師の社会的信頼を低下させた」を参照)。これに対して弁護側はあくまで無罪を主張している(「「無罪」と最終弁論で弁護側が改めて主張」、「安易な刑事介入を牽制する弁論を展開」を参照)。
2006年2月18日の加藤医師の逮捕により、産婦人科関係者だけではなく、医療界全体に大きな衝撃が走った。その後、各学会・医療団体が抗議の声明を出したことは、まだ記憶に新しいところだ。医療事故が刑事事件に発展することへの懸念が、今に至る“医療崩壊”につながっている(『「医師逮捕」が投げかけた波紋』、『「医療の変節点」と重要視される理由』を参照)。
2007年1月16日から、2008年5月16日の最終弁論まで、計14回の公判を傍聴した立場から、その経過を振り返ってみる。各公判は、以下の日時で開催された。
【福島県立大野病院事件の公判経過】 (時間は概算)
第1回公判(2007年1月26日)
・午前10時~午後4時(途中休憩は約1時間)
・一般傍聴席26席/傍聴席を求めて並んだ人(以下、行列者)349人
・起訴状朗読、冒頭陳述(検察側、加藤医師)、加藤医師への尋問
第2回公判(2007年2月23日)
・午前10時~午後4時半(途中休憩は約50分)
・一般傍聴席23席/行列者120人
・検察側証人尋問:緊急時に備え応援要請していた双葉厚生病院の産婦人科医と、本件で手術助手を務めた外科医
第3回公判(2007年3月16日)
・午前10時~午後6時10分(途中休憩は1時間強)
・一般傍聴席23席/行列者119人
・検察側証人尋問:本件の手術に携わった助産師と麻酔科医
第4回公判(2007年4月27日)
・午前10時~午後4時半(途中休憩は約1時間強)
・一般傍聴席23席/行列者78人
・検察側証人尋問:本件の手術に携わった看護師、大野病院の院長
第5回公判(2007年5月25日)
・午前10時~午後6時(途中休憩は1時間強)
・一般傍聴席23席/行列者84人
・検察側証人尋問:鑑定医(患者の死亡直後の病理検査や鑑定などを実施した病理医)
第6回公判(2007年7月20日)
・午前10時~午後4時半(途中休憩は約1時間15分)
・一般傍聴席15席/行列者90人
・検察側証人尋問:鑑定医(検察側の鑑定を実施した産婦人科医)
第7回公判(2007年8月31日)
・午前9時半~午後7時(途中休憩は約1時間40分)
・一般傍聴席15席/行列者121人
・弁護側証人尋問:加藤医師
第8回公判(2007年9月28日)
・午前10時20分~午後7時半(途中休憩は約1時間30分)
・一般傍聴席27席/行列者66人
・弁護側証人尋問:胎盤病理を専門とする医師
第9回公判(2007年10月26日)
・午前10時~午後4時20分(途中休憩は約1時間30分)
・一般傍聴席27席/行列者63人
・弁護側証人尋問:周産期医療の第一人者
第10回公判(2007年11月30日)
・午前9時30分~午後4時(途中休憩は約1時間25分)
・一般傍聴席27席/行列者54人
・弁護側証人尋問:周産期医療の第一人者
第11回公判(2007年12月21日)
・午前10時~午後3時(途中休憩は約1時間)
・一般傍聴席25席/行列者63人
・加藤医師本人への尋問
第12回公判(2008年1月25日)
・午前11時~午後2時すぎ(途中休憩は1時間10分)
・一般傍聴席25席/行列者64人
・死亡した女性の夫、父親、弟の意見陳述
第13回公判(2008年3月21日)
・午後1時30分~午後6時20分(途中休憩は10分)
・一般傍聴席27席/行列者171人
・論告求刑
第14回公判(2008年5月16日)
・午前10時~午後4時40分(途中休憩は約1時間20分)
・一般傍聴席27席/行列者162人
・最終弁論
以上のように、証人尋問を受けたのは、11人。そのほか、加藤医師本人(「異状死の届け出はしなくていい」、「墓前で自然な気持ちで土下座した」を参照)、遺族3人(「警察関係者に感謝申し上げたい」を参照)、計15人が法廷に立った。11人の内訳は、本件の手術の関係者、鑑定人、周産期医療や胎盤病理の専門家。加藤医師は医師法21条違反に問われているが、弁護側が同条に詳しい法学者の証人尋問を求めたが、認められなかった。 公判の時間は、計約80時間に及んだ。最も長かったのは、加藤医師への尋問が行われた、昨年8月の第7回公判だ。また、第13回の論告求刑で検察側が読み上げた「論告要旨」は160ページ超、第14回の「弁論要旨」は157ページに及ぶものだった。
本裁判は、3人の裁判官が担当しているが、昨年4月には裁判長が、また今年4月には右陪席(中央に座る裁判長から見て右)の裁判官がそれぞれ交代している。一方、検察側も昨年春と今年春に何人か入れ替わっている。
検察側、弁護側の主張は最後まで平行線のまま
計14回に及んだ公判を振り返る(2)
橋本佳子m3.com編集長 2008年08月15日
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080818_1.html
「昨年1月の初公判における冒頭陳述をもう一回聞いたようなもの」。
今年3月の論告求刑時、計14回の公判を継続して傍聴していた、ある医師が思わずこうもらした(第13回公判「検察の求刑は禁固1年、罰金10万円」を参照)。
検察側、加藤医師・弁護側、遺族の、それぞれの主張や事件への思いなどは、最後まで変わらなかった――。これが、2007年1月以降、計14回に及んだ、福島県立大野病院事件の公判を傍聴した感想だ。
死亡した女性は、帝王切開手術の既往がある前置胎盤の女性で、2004年12月17日、帝王切開手術時に出血を来し、死亡した。被告の加藤克彦医師は、業務上過失致死罪と医師法21条違反に問われている。
検察は初公判時、業務上過失致死罪については、
(1)帝王切開手術前の検査時、遅くても胎盤と子宮を用手的に剥離する際に、癒着胎盤であることを認識し、大量出血の危険を予見できた
(2)用手的剥離が困難になった時点で剥離を中止して、子宮摘出術に切り替える義務があったが、それを怠り、大量出血を招いた
(3)死因は出血死であり、加藤医師の行為との因果関係がある――などと主張した。また、医師法21条違反については、異状死の届け出を怠ったとしている。この検察の主張は論告求刑時も変わっていない。
一方、弁護側は、これらを否定し、一貫して加藤医師の無罪を主張している。また、加藤医師は、初公判時、起訴事実を否定したが、「忸怩(じくじ)たる思いがあり、(死亡した女性の)ご冥福を心からお祈りします」と述べた。その後の証人尋問や今年5月の最終弁論時にも同様に、遺族へのお悔やみの言葉を繰り返し述べている(第11回公判「墓前で自然な気持ちで土下座した」、第14回公判「「無罪」と最終弁論で弁護側が改めて主張」を参照)。
一般的に刑事裁判では、公権力による捜査が行われることから、民事裁判と比べて、「いったい何があったのか、その真実が明らかになる」と考えられているが、今回の場合は当てはまらないようだ。遺族は、計14回の公判を傍聴し、約80時間に及んだ検察、弁護側のやり取りを聞いていた。それでもなお、「真実が明らかになった」とは受け止めておらず、加藤医師の責任追及を求める気持ちは変わっていない(第12回公判「警察関係者に感謝申し上げたい」を参照)。
「剥離を中断し子宮摘出術に切り替えるべきだったか」
が最大の争点
公判では、証人尋問を受けた医師が、加藤医師の起訴前の事情聴取時などとは異なる発言をする場面が何度か見られた。しかし、検察側の主張は変わることはなく、弁護側の主張とは平行線をたどったままだった。
裁判の最大の争点は、前述の(2)の「癒着胎盤であることを認識した場合、胎盤剥離を中止して、子宮摘出術に切り替える義務があったか否か」という点だ。
この争点を因数分解すれば、(1)子宮摘出術に切り替えることができたか、(2)子宮摘出術に切り替えれば、大量出血を防ぐことが可能だったか、(3)胎盤剥離を完遂したことが大量出血をもたらしたのか、(4)大量出血と死亡との間には因果関係があるのか――ということになる。
以下が、検察側、弁護側それぞれの主張だ。
【検察側の主張】(2008年3月21日の論告求刑、「検察の求刑は禁固1年、罰金10万円」 「被告は医師の社会的信頼を低下させた」)
(1)について
手術時の女性の体位は子宮摘出術が容易な「砕石位」であり、女性の全身状態など、医学的観点から子宮摘出術が可能な状況にあり、術前の説明で「内容は不十分ながらも手術の危険性を説明し、子宮摘出術の同意を得ていた」などと主張。
(2)について
用手的剥離できない癒着胎盤をクーパーで無理に剥離したために、子宮内壁の動脈が子宮内壁に向けて開放された状態になり、子宮後壁下部からの出血が急増したと主張。
(3)について
胎盤娩出(午後2時50分)後の午後2時55分ころまでの総出血量は、5000mLに達していた。
(4)について
死因は、胎盤剥離を無理に継続したことによる大量出血であり、加藤医師の胎盤剥離行為と死亡との間には因果関係がある。
検察側が依拠した証拠
本件手術の麻酔記録、医学書類、病理鑑定医(第5回公判で証人尋問を受けた病理医)、検察側鑑定医(第6回公判で証人尋問を受けた婦人科腫瘍の専門家)など(弁護側の証人の意見については、「日本産婦人科学会などが本事件への抗議声明を出している状況下では、中立性・正確性に疑問がある」などとしている)。
【弁護側の主張】(2008年5月16日の最終弁論、「「無罪」と最終弁論で弁護側が改めて主張」「安易な刑事介入を牽制する弁論を展開」)
(1)(2)について
胎盤剥離を完遂すれば子宮収縮により止血が期待できる、剥離を中断しても出血は止まらない、剥離を完遂した方が子宮を摘出しやすいことなどから、「胎盤剥離をいったん開始したら完遂するのが、わが国の臨床医学の実践における医療水準」であり、加藤医師の行為は「医学的な合理性がある」と主張。
(3)について
胎盤胎盤娩出(午後2時50分)後の午後2時52~53分ころまでの総出血量は、2555mLであり、胎盤剥離中の出血は最大でも555mL。
(4)について
死亡原因として羊水塞栓の可能性があり、出血の原因として産科DICの発症が考えられ、大量出血と死亡との因果関係には疑問の余地がある。
弁護側が依拠した証拠
麻酔記録、医学書類(検察の医学書の解釈は、「誤解もしくは曲解」していると主張)、弁護側証人(胎盤病理や周産期医療の第一人者=第8回、9回、10回の公判で証人尋問を受けた医師。検察側の病理鑑定医などと比較して、経験・実績から極めて信頼性・信用性が高いと主張)。
胎盤剥離時の出血量という「数字」も一致せず
加藤医師の医療行為の妥当性はもちろん、(3)の出血量という一見客観的に把握できる数字ですら、検察側と弁護側の主張は一致していない。(3)の客観的証拠として、「麻酔記録」に記載されているのは、「午後2時52~53分ころまでの総出血量は、2555mL」という事実のみ。しかし、検察は「出血があった時期と出血量が麻酔記録に記載された時期との間に間隔が生じることが避けられないこと」「輸血用製剤を手術室に持っていった助産師が『5000mL出てます』と聞いたこと」「加藤医師が、当日夜記載した記録で、『この辺りでbleeding 5000mLぐらいか』と記載したこと」などを指摘し、「胎盤剥離後までに5000mLの大量出血があった」と主張している。
要は、依拠する証拠およびその解釈によって、主張が異なるのである。果たして裁判所は、いかなる証拠の信憑性を重んじ、判断するのだろうか。
大野病院事件をめぐる5つの誤解・疑問を考察
計14回に及んだ公判を振り返る(3)
橋本佳子m3.com編集長 2008年08月15日
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080818_2.html
2006年2月18日の加藤克彦医師の逮捕、翌3月10日の起訴、そして2007年1月26日の初公判以降、福島県立大野病院事件は一般紙やテレビをはじめ、様々なメディアで取り上げられてきた。ネット時代にあって、各種情報が瞬時に伝わり、事件に関する議論が深まった一方で、中には事実とは異なる解釈がされているケースもある。さらに、計14回にわたった公判を傍聴し、疑問に思う部分もあった。今回はこれらについて考察してみる。
その1●「加藤医師の逮捕は、医師法21条がきっかけではない」
「福島県立大野病院事件の発端は、医師法21条に基づき、異状死の届け出をしなかったことにある」との見方が医療界にある。
確かに、加藤医師は、業務上過失致死罪に加えて、医師法21条違反でも起訴されている。しかし、加藤医師の捜査の発端となったのは、2005年3月22日に「県立大野病院医療事故調査委員会」がまとめた、「県立大野病院医療事故について」と題する報告書だ。ここに、「出血は子宮摘出に進むべきところを、癒着胎盤を剥離し止血に進んだためである。胎盤剥離操作は十分な血液の到着を待ってから行うべきであった」 などと、加藤医師に過失があったと受け取られかねない記載がある。しかし、報告書は医師法21条に基づく届け出には言及していない。つまり、業務上過失致死容疑で捜査が開始されたのであり、医師法21条違反はその捜査の過程で浮上したものと見るのが妥当だ。 2007年6月27日に開催された、厚生労働省の「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」で、警察庁刑事局刑事企画課長はこう述べている(下記は、当日の議事録から引用)。
「(平成9年以降、ここ10年間で)医師法21条に基づいて届け出なかったから事件になったというのは7件ありますが、これはすべていわゆる業務上過失致死が付いています。どちらかというと医師法21条は変な言い方ですが、当然過失致死等で立件にふさわしい案件に合わせて、21条の届出がなされていなかったから立件しているのだということで、届け出なかったゆえに、そのことをもって立件しているという21条だけのケースは1件もありません」
つまり、「医師法21条違反だけで立件することはない」と述べているのである。確かに、今の医師法21条をめぐっては様々な問題があり、今の“医療事故調”をめぐる議論に発展している。しかし、医師法21条だけを改正しても問題は解決しない。同時並行的に、「どんな医療行為に対して業務上過失致死罪を適用するか」、この点を議論しないと、医療事故が刑事事件に発展する懸念は払拭できず、“医療崩壊”を食い止めることもできない。
その2●「なぜ公判で医師法21条について、ほとんど議論されなかったか」
前述のように、加藤医師は医師法21条違反で起訴されている。しかし、加藤医師本人(第11回公判「異状死の届け出はしなくていい」を参照)と、大野病院の院長がそれぞれ当時の様子を語り、また弁護団が最終弁論で医師法21条違反はないことを主張した以外は(「第14回公判「無罪」と最終弁論で弁護側が改めて主張」を参照)、ほとんど21条が取り上げられることがなかった。
医師法21条をめぐっては、1994年が日本法医学会がガイドラインを出して以降、各学会、さらには厚生労働省が解釈を出しているが、見解は一致しておらず、医療現場に混乱が生じている。加藤医師の弁護団は、医師法21条に詳しい法学者の証人尋問を求めたものの、理由は不明だが、認められなかった。このため、弁護団はこの法学者の「意見書」の形で証拠提出しているが、証拠採用されていない。
その3●「なぜ院内事故調査報告は証拠採用されなかったか」
「その1」で言及した通り、加藤医師の逮捕は、2005年3月の「県立大野病院医療事故調査委員会」の報告書が発端となっている。この延長線上で考えれば、検察側は、この報告書の証拠採用を求めるはずだが、実際にはされていない。この報告書は、本文部分4ページ(A4判)に、表紙と目次、「用語集」が付いた体裁で、計3回の議論を経てまとめられている。
注目すべきは、「今回の事例は、前1回帝王切開、後璧付着の前置胎盤であった妊婦が…」としている点だ。この点が検察の主張と、実は異なる。「後壁付着」の場合、「前壁付着」と比べて、子宮と胎盤が癒着(癒着胎盤)しているかを、帝王切開手術前の検査などで診断するのは難しい。検察は「前壁」に癒着があったと主張し、術前、遅くても用手的剥離をした時点で癒着胎盤の予見が可能だったとしている。
なお、福島県立医科大学産婦人科教授の佐藤章氏は以前、「この報告書を見たとき、ミスがあったと受け取られかねない記載があるため、表現の訂正を求めたが、県は認めなかった」と語っている。この報告書は、示談金を支払うことを想定してまとめられたものとされ、医療側に問題がある内容でないと、示談金の支払いに支障が出ると県は判断したものと思われる。
その4●「加藤医師は、外来患者さんの前で逮捕されたのではない」
「加藤医師は外来診療中に逮捕された」と解釈している人がいるが、実際にはそうではない。加藤医師が逮捕・起訴以降、公の場でコメントしたのは、初公判の直後に開かれた記者会見の席上のみだが、ここで本人自身がこの点を否定している。
2005年3月の「県立大野病院医療事故調査委員会」の報告書以降、加藤医師は数回、警察に事情を聞かれていた。2006年2月18日の逮捕当日の3~4日前に、警察から家宅捜索に入る旨の連絡があった。当日、家宅捜索後、「警察で話を聞く」と言われ、加藤医師は警察署に同行した。警察署の取調室に入った後、突然、逮捕状が読み上げられたという。
「逮捕」は、証拠隠滅や海外逃亡の恐れなどがある場合に行われるのが一般的。今回の場合、既にカルテなどは押収され、加藤医師は数回取り調べを受けていた。書類送検ではなく、なぜ「逮捕」されたのかを疑問視する向きは多い。
その5●「遺族は告訴していない」
近年、「医療事故に遭った遺族が警察に訴える」というケースが見られる。しかし、大野病院事件の場合は、前述のように、警察の捜査の発端は、「県立大野病院医療事故調査委員会」の報告書であり、遺族が告訴したわけではない。なお、遺族への示談金は、現時点ではまだ支払われてない。
もっとも、帝王切開手術で死亡した女性の遺族が、今回の経過に納得しているわけではない。今年1月25日に開催された第12回公判で、女性の夫、父親、弟がそれぞれ意見を述べた(「警察関係者に感謝申し上げたい」を参照)。警察や検察に対する感謝の意を述べた上で、加藤医師の責任追及、事故の真相究明を求めている。
福島大野病院事故:20日判決 医師の裁量どう判断
毎日新聞 2008年8月18日
http://mainichi.jp/select/science/news/20080819k0000m040116000c.html
福島県立大野病院(大熊町)で04年、帝王切開手術を受けていた女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(40)=休職中=の判決が20日、福島地裁(鈴木信行裁判長)で言い渡される。手術中の判断を巡り医師が逮捕・起訴された異例のケースで、全国の医療関係者が「医師の裁量に捜査機関が介入している」と反発する中、司法の判断が注目される。
加藤医師は04年12月17日、帝王切開手術中、はがせば大量出血するおそれのある「癒着胎盤」と認識しながら子宮摘出手術などに移行せず、クーパー(手術用はさみ)で胎盤を剥離(はくり)して女性を失血死させ、医師法が規定する警察署への異状死体の届け出をしなかったとして起訴された。
検察側は「基礎的な知見による基本的な注意義務に著しく違反し悪質」と禁固1年、罰金10万円を求刑。弁護側は「施術に過誤はなく、臨床医学の水準に即して可能な限りの医療を尽くした」と無罪を主張している。女性は発生率0.01%とされる極めて症例の少ない癒着胎盤だったが、「胎盤剥離を中止し子宮摘出手術等に移行すべきだったか」が最大の争点。
検察側は「癒着胎盤と分かった時点で剥離を中止すべきだった」と主張。弁護側は、胎盤剥離後の子宮収縮による止血効果などを挙げ「胎盤剥離を完了するのが医療現場の裁量として合理的」と反論した。
単純な医療ミスでなく、手術中の「医師の裁量」が刑事責任を問われ、日本医学会が「結果責任だけをもって犯罪行為とし医療に介入している」と声明を出すなど、全国の医療団体が反発している。
用語解説「医師法21条」
キャリアブレイン 2008年8月18日
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/17688.html
医師法21条で、医師は「死体または妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」とされており、違反すると「50万円以下の罰金」が科せられる。しかし、医師法21条をめぐっては、▽憲法31条(適正手続の保障)に違反するのではないか▽憲法38条第1項(黙秘権)に違反しないか―など、憲法違反の疑いがあることが指摘されている。
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医師法21条は、明治時代の医師法の規定を受け継いでおり、立法の趣旨は「司法警察上の便宜」とされている。例えば、何者かに刃物で刺された被害者が病院に運ばれて死亡した場合などに犯人の逃亡や事件の拡大を防止するため、警察への協力義務を定めた規定とされている。このような立法趣旨から、「異状」の解釈については、診療行為に関連しない死亡(他殺による死体など)に限定する考えもある。しかし、警察や裁判実務は医師の診療行為に関連して死亡した場合も広く「異状死」に含めるという考えを採用している。
最高裁判所は2004年4月、都立広尾病院の担当医師らに対し、医師法21条違反の有罪判決を下した。その年の12月に福島県立大野病院で帝王切開した20歳代の女性が死亡した事件(大野病院事件)では、担当医師が業務上過失致死と医師法21条違反の疑いで逮捕、起訴された。
大野病院事件で弁護側は、医師法21条の憲法違反(31条、38条)を主張している。憲法に違反する法律は無効であるため、憲法違反の主張が認められれば、医師法21条違反の問題は生じない。同事件の公判は今年5月16日に福島地裁で結審し、8月20日に判決が言い渡される。
1.憲法31条(適正手続の保障)違反か
あいまいで不明確な法律で処罰することは国民の自由を奪うことになるため、憲法31条によって無効とされる。憲法31条は、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命もしくは自由を奪はれ、またはその他の刑罰を科せられない」と規定しており、刑罰法規が明確であることを求めている。これは、「明確性の原則」や「漠然性故に無効の法理」といわれる。これまでに刑罰法規の明確性が問題となった事件は多く、「交通秩序を維持すること」(徳島市公安条例事件)、「淫行」(福岡県青少年保護育成条例違反事件)などの文言をめぐって、憲法31条に違反するかどうかが争われた。しかし、最高裁はいずれも違憲の判断を下していない。
2.憲法38条第1項(黙秘権)違反か
憲法38条1項は、「何人も,自己に不利益な供述を強要されない」と規定し、黙秘権(自己負罪拒否特権)を保障している。医師法21条の「異状死」の解釈として、医療ミスによって死亡した場合も含めるとすると、このような「診療関連死」を警察に届け出ることは、自己に不利な証拠をわざわざ「自白」することになる。このため、医師法21条は「自己に不利益な供述を拒否する権利」を基本的人権として保障した憲法38条1項に違反する恐れがあるとの批判もある。
3.「異状」と「過失」は関連するか
「異状」の有無について、死体の外表から客観的に判断すべきか、それとも「異状死」を招いた「過失」と関連付けるかが問題となっている。「過失があれば異状死」で、「過失がなければ異状死ではない」など、業務上過失致死罪の成否と医師法21条の「異状」の解釈とを関連付ける解釈方法に対して批判もある。
大野病院事件で弁護側は、「本件患者の死体には客観的に異状が認められない」と主張している。「異状」の判断が、医師らの過失の有無とは関係なく、死体の外表から客観的に判断されるならば、医師法21条に違反する可能性は低いとの指摘もある。
また、客観的に死体の外表を検査した結果として「異状」という判断が下された場合であっても、医師法21条の主観的構成要件(故意)を欠くという解釈もあり得る。院内の安全管理マニュアルに従っていたことなどを考慮して、「異状性の認識はなかった」と認められれば、医師法21条違反にはならない。
刑法学者など法律関係者は、個々の刑罰法規を「構成要件」と呼び、これを「客観面」と「主観面」に分ける。例えば、「人を殺した者」を処罰することを定めた刑法199条の構成要件の客観面には、「人を殺す行為」や「死亡した結果」などがあり、これら「構成要件の客観面」を満たさなければ、「構成要件の主観面」(故意や過失)の判断に入ることなく、犯罪は不成立になるとされる。
このように、多くの犯罪構成要件は客観面と主観面に分けられる。しかし、医師法21条は「異状があると認めたとき」と規定しており、客観面と主観面の切り分けが難しい。このため、「診断書や検案書を発行しなかったとき」と規定するなど、構成要件の客観面を明確にするように変更すべきとの意見もある。
大野病院事件、医学生も敏感 東北・意識調査
河北新報 2008年8月16日
http://www.kahoku.co.jp/news/2008/08/20080816t73023.htm
福島県立大野病院で2004年、帝王切開中の妊婦が失血死し、産婦人科医が業務上過失致死罪などに問われた事件の裁判に絡み、東北の医学生の多くは、医療事故で刑事責任などを問われることが産婦人科などの医師不足に影響すると感じていることが、河北新報社が実施した医学生の意識調査で分かった。進路として産婦人科を敬遠する理由も訴訟リスクなどが挙げられ、事件が産科医療に暗い影を落としている実態が浮き彫りになった。調査は7月中旬から下旬にかけて、東北6県の4大学医学部、2医大の1―6年生を対象に聞き取りなどで実施し、49人から回答を得た。回答者の性別は男性29人、女性20人だった。
医師の逮捕については、4割近い19人が「医師に刑事責任はない」と答え、「逮捕の判断は妥当」(2人)と「書類送検や在宅起訴にとどめるべきだった」(15人)の合計を上回った。
医療事故が事件や訴訟に発展する可能性が医師不足に及ぼす影響は半数以上の26人が「大いにある」と回答。「少しは」(22人)を合わせると、ほぼ全員が影響を認めた。医師や病院と患者間のトラブルが増えた原因(一部複数回答)は、23人が「センセーショナルな報道の影響」を挙げ、次いで「患者や家族の権利意識の高まり」(19人)。「説明不足など医師・病院側の対応」は12人だった。
志望する診療科は産婦人科が7人。産婦人科、小児科など医師不足が深刻な診療科を希望しない理由は「訴訟が多く、劣悪な環境に身を投じる勇気がない」(秋田大3年・男性)「訴訟リスクや過剰労働で仕事をしても報われない」(福島県立医大6年・男性)などの意見が上がった。
[大野病院事件]福島県立大野病院(大熊町)で2004年12月17日、帝王切開手術を受けた癒着胎盤の女性=当時(29)=が胎盤剥離(はくり)の過程で大量出血して死亡。福島県警は06年2月、執刀した加藤克彦医師(40)を業務上過失致死などの容疑で逮捕、福島地検が翌3月に起訴した。裁判では、医師の処置に伴う出血の予見可否などが主な争点となった。検察側は禁固1年、罰金10万円を求刑し、弁護側は無罪を主張。判決は20日、福島地裁で言い渡される。
産科志望、強い捜査批判 東北の医学生調査
河北新報 2008年8月16日
http://www.kahoku.co.jp/news/2008/08/20080816t73022.htm
産婦人科医が刑事責任を問われた福島県立大野病院事件の判決を前に、河北新報社が東北の医学生を対象に実施した意識調査では、産婦人科医を目指す学生はほかの診療科の志望者に比べ、捜査側への批判が強い傾向が浮かび上がった。将来の産科医療の担い手として事件を切実に受け止め、医師不足に及ぼす影響の見方にも差が表れた。回答した49人の医学生のうち、産婦人科志望は7人。医師の逮捕には、うち5人が「医師に刑事責任はない」と答えた。産婦人科以外か未定という42人では3割程度だった。
理由は「手術中は予測できないことが起こる。すべてを医師の責任とする判断はおかしい」(弘前大6年)「症例は極めて珍しく、医師は1人勤務だったなど、すべての状況を加味して判断すべきではないか」(東北大6年)など。
「分からない」と回答した秋田大6年の学生も「仮に、事前にリスクをよく説明し、家族の同意が得られていたのであれば、医師だけの過失を問うのはひどい」と意見を寄せた。
「お産は病気ではない」と言われるが、分娩(ぶんべん)時の急変もあり得る産科医療の現場は生と死が隣り合う。こうした医療の特性や体制の不備に言及し、捜査に疑問を投げ掛ける意見が目立った。
訴訟リスクや刑事責任を問われる可能性が産婦人科などの医師不足に与える影響は「大いにある」が1人で、「少しはある」が5人。ほかの診療科を志望する学生は「大いにある」が25人と6割を占めた。全回答者の中で唯一、「あまり影響していない」と答えたのも産婦人科医を希望する学生。「訴訟が多いことに関しては、気を付けなければいけないと自覚しているが、リスクで志望先を選ぶわけではない」と理由を説明した。
「大野病院事件」、あす一審判決
キャリアブレイン 2008年8月19日
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/17716.html
福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性が2004年に死亡した事件で、業務上過失致死と医師法21条に基づく異状死の届け出違反の罪に問われている当時の産婦人科医長、加藤克彦被告に対する判決公判が8月20日、福島地裁で開かれる。この事件では、検察側が禁固1年、罰金10万円を求刑したのに対し、弁護側は一貫して無罪を主張している。
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大野病院事件が結審、8月20日に判決
業務上過失致死をめぐって公判では、▽出血などの予見可能性▽出血が始まった後も胎盤の剥離(はくり)を続けたことの妥当性―などが争点になっている。
検察側は、胎盤が子宮に癒着していることを認識していたため、胎盤剥離を継続すれば、「胎盤剥離面から大量に出血し、被害者の死亡につながりかねない大量出血が生じる可能性を予見できた」と主張。出血があった時点で胎盤剥離から子宮摘出手術などに移行し、「大量出血による被害者の生命の危険を未然に回避すべき注意義務があった」とした。
さらに、死体に異状があると認めたのに警察に届け出なかったとして、医師法21条違反も主張した。
これに対して弁護側は、出血量が増大していないため、胎盤剥離を継続することで大量出血するとの予見があったとは「到底いえない」と主張。出血後に子宮摘出手術などに移行すべきだったとの検察側の主張にも、「臨床の実践にはそのような施術例は一例もなく、胎盤の剥離を中止することは非現実的な処置」などと真っ向から反論した。医師法違反についても、届け出対象に該当しないことなどを理由に無罪を主張している。「大野病院事件」では、通常の診療行為を行っていた医師が逮捕・起訴されたことに対し、医療団体や医学系学会が相次いで抗議声明を出すなど、医療界の注目を集めている。
判決を受けて20日午後には、「福島大野事件が地域産科医療にもたらした影響を考える会実行委員会」が福島市内でシンポジウムを開くほか、全国医師連盟が記者会見を予定している。また、日本医師会や日本産科婦人科学会も声明を出す。
大野病院医療事故:産科医処置あす判決 過失致死の刑事責任問えるか /福島
毎日新聞 2008年8月19日
http://mainichi.jp/area/fukushima/news/20080819ddlk07040167000c.html
◇双方主張真っ向対立
県立大野病院(大熊町)で04年に起きた帝王切開手術中の医療死亡事故の公判は20日午前10時から、福島地裁(鈴木信行裁判長)1号法廷で判決が言い渡される。業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(40)=休職中=の処置に刑事責任は問えるのか。「医療崩壊」が叫ばれる中、全国の医療関係者を中心に注目が集まっている。これまで14回の公判では、検察側、被告側双方の鑑定医や手術に立ち会った医師、助産師ら計11人が証言に立った。
検察側鑑定医の田中憲一・新潟大教授(産科医)は「強固な癒着があればはく離しない方が安全。胎盤を手ではがせなかった時点で子宮を摘出すべきだった」と証言した。一方、弁護側鑑定医の周産期医療専門の産科医3人は「(自分でも)同じことをした」「胎盤はく離は早いほど良く、処置は一般的で間違いない」などと加藤医師の処置の妥当性を指摘、双方の主張は真っ向から対立している。加藤医師は「最悪の結果になったことに本当に申し訳なく思ってる」と意見陳述した。一般傍聴は25席で、20日午前8時50分~9時15分に整理券が配布され、抽選が行われる。
◇地域産科医療への影響でシンポ開催 福島市ホテルで実行委の主催
また同日午後1時から、全国の医師や一般市民が参加するシンポジウムが、福島市太田町のホテル「福島グリーンパレス」で開かれる。判決を受けて、医療界への今後の影響や地域医療のあり方などを、医師や弁護士らのパネリストが議論し、参加者からも意見を求める。「福島大野事件が地域産科医療にもたらした影響を考える会実行委員会」の主催で、参加費は1000円。問い合わせは実行委メンバーの内科医、松村有子さん(080・7031・3032)。
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◆公判での主な証言や発言◆(カッコ内は開廷日、肩書は当時)
加藤医師が応援を依頼していた別の病院の産科医(07年2月23日)
「はく離を始めたら完了する。子宮が収縮し止血できる」
手術に立ち会った麻酔科医(3月16日)
「ミスと呼べるようなことがあったか疑問」
手術に立ち会った助産師(同)
「うちの病院で対応できるのか不安だった」
大野病院の院長(4月27日)
「(県の事故調査委員会の調査を受け)やってはいけないことをやってしまったのではないかと思った」
検察側鑑定医の田中憲一・新潟大教授(7月20日)
「胎盤を手ではがせなかった時点で子宮を摘出すべきだった」
加藤医師(8月31日)
「出血も血圧も脈拍も安定していたので、はく離を中断しようとは思わなかった」
弁護側鑑定医の岡村州博・東北大大学院教授(10月26日)
「はく離に必要であればクーパー(手術用はさみ)を使わざるを得ない。(私も)同じようなことをしたと思う」
弁護側鑑定医の池ノ上克・宮崎大医学部長(11月30日)
「はく離は早いほど良い。処置は一般的で間違いない」
加藤医師(12月21日)
「クーパーを使って胎盤をはがすのを見たことがなかったので少し迷った」
亡くなった女性の夫(08年1月25日)
「(今回の出産は)天国から地獄だった。(加藤医師に)責任をとってほしい」
加藤医師(5月16日)
「できる限りのことは一生懸命行ったが、非常に悲しく、悔しい思い」
帝王切開死、20日判決…「医師の裁量」に司法判断
読売新聞 2008年8月19日
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20080819-OYT8T00240.htm
福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開手術で女性(当時29歳)を失血死させたなどとして、業務上過失致死罪などに問われた産婦人科医、加藤克彦被告(40)の判決が20日、福島地裁で言い渡される。
禁固1年、罰金10万円を求刑した検察側に対し、弁護側は無罪を主張。加藤被告の逮捕、起訴を巡り、医療現場からは「捜査が医師の裁量にまで踏み込み、医師の産科離れを加速させた」とする反発が大きく、司法判断が注目される。
検察側の論告によると、加藤被告は04年12月17日、帝王切開手術で、子宮に癒着した胎盤を無理にはがして大量出血を起こして約4時間後に女性を失血死させたとされる。死亡を警察に届け出なかったとして医師法違反にも問われた。子どもは無事に生まれた。
女性は胎盤の一部が子宮に癒着する難症例だった。争点は、〈1〉胎盤をはがした際に死に至るほどの大量出血を予見できたか〈2〉胎盤をはがすのをやめて子宮摘出に移り、大量出血を回避する注意義務があったか――など。検察側は、「漫然と胎盤をはがし続け、生命の危険回避を怠った」と指摘。弁護側は「標準的な医療を行った医師に過失はなく、失血死とも言い切れない。検察側はわが国の医療水準を超える注意義務を課している」と反論している。
20日に大野病院事件判決/福島地裁
福島放送 2008年8月19日
http://www.kfb.co.jp/news/index.cgi?n=200808190
大熊町の県立大野病院で平成16年、帝王切開手術中に女性患者=当時(29)=を死亡させたとして、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた大熊町下野上、産科医加藤克彦被告(40)の判決公判は20日午前10時から、福島地裁(鈴木信行裁判長)で開かれる。検察側は禁固1年、罰金10万円を求刑。加藤被告ら弁護側は無罪を主張している。判決は医師の医療行為に刑事罰を求めた事件として全国の医療界などが注目している。
事件をめぐっては、日本産科婦人科学会など多くの医療団体が逮捕、起訴を不当とする声明を発表した。産科医不足に拍車を掛けたとの指摘もある。癒着胎盤という数千例に1例とされる希少症例への対処法が最大の争点。医師が遺体に異状を認めた際に警察署への届け出義務を課した医師法21条の適否についても、事件を契機として議論を呼んでいる。
胎盤剥離継続どう判断 大野病院事件あす判決
河北新報 2008年8月19日
http://www.kahoku.co.jp/news/2008/08/20080819t63024.htm
福島県立大野病院(大熊町)で2004年、帝王切開中に子宮に癒着した胎盤の剥離(はくり)を続けた判断の誤りから女性患者=当時(29)=を失血死させたとして、業務上過失致死罪などに問われた産婦人科医加藤克彦被告(40)の判決が20日、福島地裁(鈴木信行裁判長)で言い渡される。弁護側は「過失はない」と無罪を主張し、医学界も逮捕時から反対声明を出すなど反発した事件の判決では、極めてまれな症例での医師の施術の評価が焦点だ。
最大の争点は、胎盤の剥離を続けた判断の正否。検察側は「継続すれば命に危険が及ぶ状況に至っても漫然と剥離を続けた。直ちに中断して子宮摘出に移るべきだった」と過失を指摘。弁護側は「剥離を始めたら最後まで続けるのが妥当」などとした周産期医療研究者の証言を基に、「検察側主張は非現実的で机上の空論」と反論した。
大量出血の予見可能性では、検察側が「被告は手術前に子宮摘出の可能性も考えており、十分予見できた」としたのに対し、弁護側は「被告は手術前と手術中に慎重な処置を繰り返しており、予見不可能だった」と主張した。
胎盤剥離にクーパー(医療用はさみ)を使ったことも争点。検察側は当初「大量出血の原因」と指摘したが、論告では過失から外し「クーパーを使わなければならないほど癒着していた」と剥離継続の誤りを示す論拠に挙げた。弁護側は「使うと剥離が早く済み、子宮筋層も傷付けない」と妥当性を強調した。加藤被告は「異状死」を警察に届けなかった医師法違反にも問われた。検察側は禁固1年、罰金10万円を求刑している。
起訴状によると、加藤被告は04年12月17日、女性の帝王切開手術で胎盤と子宮の癒着を確認し、剥離を開始。継続すれば大量出血すると予見できる状況になっても剥離を続け、女性を失血死させた。異状死の届け出もしなかった。
問われた産科医 大野病院事件20日判決 上
医師のスクラム 危機感背景に被告擁護
2008年8月17日(日) 河北新報
帝王切開手術中の判断ミスで妊婦を失血死させたとして、福島県立大野病院の産婦人科医加藤克彦被告(40)が業務上過失致死罪などに問われた事件の判決が20日、福島地裁で言い渡される。日常起こり得る事故で医師が逮捕、起訴された事件は医療界を震撼させ、全国の医師たちが被告支援でスクラムを組んだ。医療事故の真相究明はどう進めていけばよいのか―。判決を前に、さまざまな論議を呼び起こした事件から浮かび上がったものを追った。
ネット上で批判
「大野事件のケースで逮捕されるのでは、怖くてお産を扱えない」。加藤被告が逮捕されて以来、産科医の多くがそう訴える。福島県立医大のベテラン教授は「事件以降、産科の開業医は訴訟を恐れ、処置が難しい患者は大病院に回す動きを強めた。受け入れる側はパンク寸前だ」と明かす。
医療界の強い危機感は、公判に表れた。周産期医療の大物研究者が次々に弁護側証人として出廷し、加藤被告を擁護した。一方の検察側は最後まで、周産期の専門家を証人に立てられなかった。
インターネット上にある医療関係のホームページやブログも、事件化を肯定する意見はほとんど見られない。「加藤被告の無罪を信じ支援します」と記されたボールペンを医療従事者が職場で使い、結束を強める運動もブログから広まった。
遺族らに中傷も
ネット上の医師らの反発は警察、検察批判にとどまらず、遺族らに対する誹謗(ひぼう)中傷にも及んだ。県立医大のベテラン教授は「医療は患者あっての仕事。患者や遺族を無責任に批判するのは筋違いだ」と自制を促す。
被告支援で一枚岩になった医療界の動きを疑問視する医師もいる。金沢大病院の打出喜義講師(産婦人科)は、事件の詳細が伝わる前から多くの医師が結束して抗議したことに「自分の家族が被害者だったら、詳細も分からない状況で医師を擁護できるだろうか」と自問。「ハイリスクの帝王切開を予見していたのなら、応援を要請すべきだった。刑事過失といえるかどうかは別として、予定された手術にもかかわらず準備不足だった」との見方を示す。
元検察官の田代則春弁護士(東京)は、医療事件では結束して被告を守り、捜査機関を寄せ付けようとしない医学会の姿勢を捜査側の立場で見てきた。大野病院の事故が事件化され、「高い専門性を盾に刑事立件に抵抗する医学界の体質があらためて鮮明になった」とみる。
真相究明どこへ
一方で、検察の捜査にも「困難な医療事件で、主張に沿ってしっかり証言してくれる専門家を用意できなかったのは準備不足。被告を逮捕したことで医療界に余計に衝撃を広げたのも、慎重さを欠いたと言わざるを得ない」と厳しく指摘する。
事件は、産科医の過酷な勤務実態も浮き彫りにした。医師たちがスクラムを組んだのも、「明日はわが身」と思わせる厳しい現実があるからだ。ただ、被告の無罪を勝ち取ろうとするあまり、その強固な「壁」は真相究明さえも阻んではいなかったか。結果は間もなく示される。
【大野病院事件】
2004年12月17日、福島県立大野病院(大熊町)で帝王切開手術を受けた癒着胎盤の女性=当時(29)=が胎盤剥離(はくり)の過程で大量出血を起こし死亡した。福島県警は06年2月、執刀した加藤克彦医師((40)が大量出血の危険を予見できる状況になっても子宮摘出に移行せず胎盤剥離を続けたとして、業務上過失致死容疑などで逮捕。福島地検は翌月に起訴した。
Q 大野病院事件をどう考えますか?
○「結果論では医療ミスと言えるだろうが、(逮捕という形で)刑事責任を問うと、ますます産科医が減る」(弘前大3年・男性)
○「過失が確定しない段階での逮捕は刑事罰以上に社会的な制裁となり、現場を萎縮させる」(岩手医大5年・男性)
○「故意でないものに対し、司法が医師の責任を追及できるか疑問。手術や医療はマニュアル通りにいかない」(東北大6年・男性)
○「非常にまれな症例で、医師が一人勤務だったことを考慮すれば、子の件での逮捕は不可能」(秋田大6年・女性)
○「医師の判断に対して、その手術に立ち会っていない第三者には判断しかねる問題だと思う」(福島県立医大6年・女性)
○「医師の過失の可能性は否めず、真相を究明するためにも、(医師の逮捕は)妥当だったと感じる」(福島県立医大1年・男性)
執刀医の判断争点 大野病院帝王切開死20日判決/福島
読売新聞 2008年8月16日
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/fukushima/news/20080816-OYT8T00002.htm
大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開手術で女性(当時29歳)を失血死させたなどとして、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反罪に問われた産婦人科医、加藤克彦被告(40)の判決が20日、福島地裁で言い渡される。加藤被告の判断と処置は、医療水準からみて妥当だったのか、それとも注意義務違反に当たるのか。逮捕が、全国の産科医不足を加速させたとも言われる医療界注目の公判の主な争点を整理する。
女性は、胎盤が通常より低い位置にある「前置胎盤」で、産道につながる内子宮口を完全に覆っていた=図=ため、帝王切開が必要だった。さらに通常は胎児が子宮から出た後、子宮の収縮に伴って自然にはがれる胎盤の一部が、子宮と癒着するまれな疾患で難症例だった。
論告によると、加藤被告は04年12月、この胎盤を手やクーパー(手術用ハサミ)で無理にはがして大量出血を招き、女性を死亡させたうえ、異状死だったにもかからわず、届け出を怠ったとして禁固1年、罰金10万円を求刑された。
◆癒着の部位と程度
業務上過失致死罪の成立には、胎盤をはがせば死亡するほどの大量出血を招くことを予測できたという予見可能性と、大量出血による死亡を回避すべき義務を怠ったという事実認定が必要だ。予見可能性の前提になるのが、胎盤の癒着の部位と程度。一般に癒着が広く深いほど、大量出血する可能性が高くなる。女性の子宮の前壁(腹側)には帝王切開で第1子を産んだ際の傷跡があり、前置胎盤のため、胎盤がこの傷跡にかかりやすく癒着しやすいリスクがあった。
検察側は、胎盤は傷跡にかかっており、加藤被告も手術前にその可能性を認識していたと指摘。県立医大の病理医が行った子宮の鑑定結果などから、「胎盤は前壁から後壁(背側)にかけて広く癒着していた」と主張。程度についても「相当深かった」とした。一方、弁護側は、大阪府立母子保健総合医療センター検査科主任部長の「癒着は子宮後壁の一部だけ」という証言から、前回の帝王切開時の傷跡との癒着を否定し、程度も浅かったとした。主任部長の鑑定経験の豊富さも強調した。
◆大量出血の可能性
「強い癒着を認識したのだから、胎盤をはがし続ければ死亡につながりかねない大量出血を生じる可能性を予見できた」。検察側は癒着の深さなどを前提に、そう主張する。可能性を認識した時点については、「遅くとも右手を子宮と胎盤の間に入れて手ではがした時点」とし、胎盤を無理にはがしたことで、直後の総出血量が5000ミリ・リットル以上に達したと主張した。弁護側は、帝王切開では、胎盤が一見して強く癒着している場合を除き、手ではがし始めるのが通常の処置であり、この時点で大量出血を予見していないことは明らかと指摘。胎盤をはがしている最中の出血量も最大555ミリ・リットルに過ぎず、大量出血はその後に起きたもので、血液が固まりにくくなる疾患を発症した可能性などがあるとした。
◆結果回避義務
子宮と胎盤の癒着を巡る主張が異なる中、最大の争点となっているのは「癒着を認識した時点で胎盤をはがすのをやめ、子宮の摘出に移る義務があったかどうか」。執刀医の判断、処置そのものの妥当性が問われている。
検察側は、加藤被告の自宅から押収した医学書に「無理にはがすのは危険」との記載があったことや、証人の新潟大大学院教授が「はがすのが難しくなった時点で、直ちに子宮摘出に移るべき」と証言したことなどを根拠に、クーパーを使って胎盤をはがし続けた行為を「産科医としての基本的注意義務に著しく違反し、過失は重大」と指弾した。
一方、弁護側は「胎盤をはがし終えることで子宮が収縮し、止血が期待できる」と説明。「いったんはがし始めたら完了するのが、標準的な医療行為」と繰り返し主張した。証言台に立った周産期医療の権威の宮崎大医学部長や東北大大学院教授も「間違いは何もない」などと述べた。また、弁護側は、途中で子宮摘出に移ったケースは公判で1例も示されていないと検察側の主張に疑問を投げかけた。
◆医師法違反
医師法21条は、医師が死体を検案して異状を認めた時は、24時間以内に警察署に届け出ることを義務づけている。
東京都立広尾病院の点滴ミス隠し事件の最高裁判決(04年)で、医療ミスを警察に届け出なければならないことは明確になったが、何をもって「異状」と判断するかの定義は難しい。検察側は、加藤被告の過失を原因とする失血死であり、異状死は明らかと主張する。
一方、過失を否定する弁護側は加藤被告がそもそも異状を認識しておらず、客観的にも異状死に当たらないと指摘した。また、旧厚生省の指針などは施設長(院長)が届け出るとしており、届け出なかったのは院長の判断とも主張した。ただ、公判では医師法違反罪を巡る審理には多くの時間が割かれず、議論は深まらなかった。
今回の判決が注目されるのは、医師が逮捕された事件だったこともある。ミス隠しなど悪質なケースでの逮捕は過去にもあったが、県の事故調査委員会の原因調査も終わり、事故から1年以上も経過しての逮捕だったため、医師団体からは抗議声明が相次いだ。
多くの医師が「最善を尽くして逮捕されるなら、手術ができなくなる」と受け止め、2004年ごろから顕著になっていた産科医の減少に拍車をかけたと言われる。元もと産科は、他の診療科に比べて訴訟リスクが高く、昼夜を問わない呼び出しなどで勤務も過酷だ。事件後、各地の病院で産科が閉鎖され、医療機関が難しいお産を避ける傾向も強まった。厚生労働省では、捜査機関とは別の第三者が原因究明を行う「医療安全調査委員会(仮称)」の創設を目指しており、判決はこの議論の行方にも影響を与えるとみられる。
解説・大野事件について
医療界注目の判決、20日に 国民医療にも影響?
日経ブロードバンドニュース 2008年8月16日
http://www.nikkei.co.jp/bb/index.html
なぜ医療界の関心が高いのか
妊婦は癒着胎盤という胎盤と子宮が癒着している難しい状況だったのを、無理に引き剥がそうとして大量出血し死亡したというのが警察・検察側の主張だが、癒着胎盤は事前の診断が難しく、対応も難しいと医学会では認識されている。医療側から見ると、医師は一生懸命患者を救おうとして、結果的に不幸な事態となったわけで、最善を尽くしたにもかかわらず逮捕され、有罪となるのではやっていられないとの憤懣が渦巻いているため、判決への注目が高まっている。
医療過誤裁判は今までにも多いが
患者取り違えとか医療側の明らかなミスでなく、通常の正当な医療行為をして罪に問われるのかという怒りや驚きが医療側にあることが一つ。さらに最近の医師不足で特に産科医などは激務に追われている状況がある。当直明けにそのまま通常勤務というのが珍しくないのにかかわらず、医師、特に勤務医は給料など待遇もよくない。献身的に働いてそれで、罪になるという状況は許せないというのが医師側の言い分だ。
医療事故原因を解明するための調査組織設立の話もある
医療安全調査委員会だが、これは大野病院事件を契機に設置の動きが早まったという経緯がある。しかし、厚労省が出してきた案では、医師が通常の医療行為をしていて刑事責任を問われるという懸念がぬぐえないとして医療界に反発が多くて発足のメドは立っていない。この判決次第ではさらに設置が遅れることも考えられる。
判決の国民への影響は?
有罪判決が出れば、お産を取りやめると主張する医師もおり、難しい手術を嫌がる病院が増えるなど、影響は相当あるだろう。ただ医療事故には被害者もいて、遺族らは原因究明、再発防止を願っている。医療行為中の事故は全部免責と簡単に片付けることもできない。医療は患者と医師の双方でできあがっているものだけに、一方に偏るのではなく、公平な透明な制度をつくっていきたい。
産婦人科医に20日判決=出産女性死亡、過失が争点-福島地裁
時事通信 2008年8月16日
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2008081600244
福島県立大野病院で2004年、帝王切開手術で出産した女性=当時(29)=が大量出血して死亡した事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(40)の判決が20日、福島地裁(鈴木信行裁判長)である。検察側は「医師として過失は重大」としたが、弁護側は「大量出血は予見不可能で処置は適切だった」と無罪を訴えており、主張は真っ向から対立している。
手術時の判断をめぐり、執刀医の刑事責任が問われた裁判は医療界に大きな波紋を呼んだ。被告の措置は「過失」か「通常の医療行為」か。地裁の判断が注目される。
最大の争点は、被告が帝王切開後に「癒着胎盤」を子宮からはく離した際、大量出血を予見できたかと処置を続けたことの是非だ。
検察側は「はく離を続ければ命に危険が及ぶと予見できたのに漫然と継続した」と強調。はく離をやめ、子宮摘出で大量出血を防げたとして、禁固1年、罰金10万円を求刑した。
弁護側は継続措置について、「医療現場での医師の裁量として合理的かつ適切」と反論。子宮摘出は非現実的と批判した。
8.9 夏期研修会 その2(野村麻実氏)(つよぽんの避難所)
大野病院事件20日に判決 過失か、通常の医療行為か 医療界に影響必至
産経新聞 2008.8.16
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/080816/trl0808161952000-n1.htm
福島県大熊町の県立大野病院で平成16年、帝王切開手術を受けた女性=当時(29)=が死亡した事件で、業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の罪に問われた産婦人科医、加藤克彦被告(40)の判決公判が20日、福島地裁(鈴木信行裁判長)で開かれる。検察側は「過失は明白」などとして禁固1年、罰金10万円を求刑。一方、弁護側は「処置は適切だった」と無罪を訴えており、主張は真っ向から対立している。
手術時の判断をめぐり、執刀医の刑事責任が問われたこの事件は、逮捕・起訴が多くの医療関係者の反発を招いたほか、第三者の立場で医療死亡事故を究明する“医療版事故調”設置の議論を加速させる要因にもなった。判決が今後の医療界に大きな影響を与えるのは必至だ。起訴状などによると、加藤被告は平成16年12月17日、「癒着胎盤」だった女性の帝王切開手術を執刀。子供が生まれた後、子宮に癒着した胎盤をはがし続け、大量出血で女性を死亡させた。また、死亡を24時間以内に警察署に届けなかった。
主な争点は、胎盤の剥離(はくり)は適切だったのかや、届け出なかったことが医師法違反に該当するか-など。
検察側は、「剥離を中止して子宮を摘出すべきだったのに、無理に続けて失血死させた。過失は明白」と主張。
一方、弁護側は「剥離を始めれば、完了させて子宮の収縮による止血作用を期待するのが産科医の常識。臨床現場では、検察が主張するような措置を取った例は一例もない」と述べ、検察側主張は机上の空論だと批判した。また、異状死を届けなかった医師法違反については、検察側は「事故後、自分の過失で失血死させた可能性を被告自身が述べており、異状死と認識していたことは明らか」とした。これに対し、弁護側は「被告は異状死と認識していなかった。また、上司と相談して、届け出なくてよいと指示されていた」などと反論している。
帝王切開死亡で20日判決、医師の責任どう判断 大野病院事件
日本経済新聞 2008年8月17日
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20080817AT1G1602816082008.html
福島県立大野病院(福島県大熊町)で2004年、帝王切開手術を受けた女性(当時29)が死亡した事件で、業務上過失致死罪などに問われた執刀医、加藤克彦被告(40)に対する判決が20日、福島地裁で言い渡される。大量出血の予見可能性などを巡り、被告側と検察側は激しく対立。深刻な医師不足の中、医療界は「さらなる萎縮を招く」と反発を強めており、司法が医療をいかに裁くか注目される。
起訴状によると、加藤被告は04年12月、女性の帝王切開の手術をした際、胎盤の癒着で大量出血する可能性があり、生命の危険を回避する義務があったにもかかわらず、癒着した胎盤を漫然とはがし、大量出血で死亡させた、とされる。また、警察への異状死の届け出を怠ったとして、医師法違反の罪でも起訴されている。
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