(関連目次)→大野事件
(投稿:by 僻地の産科医)
過去の記事ですが。
全てが集約されている記事だと私はおもいます(>▽<)!!!
第2弾!大野病院事件に関する記事です!
福島県立大野病院事件◆Vol.2
「医療の変節点」と重要視される理由
現場の医師が、学会が、そしてメディアが動く
橋本佳子 m3.com編集長 2007年11月29日
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/071129_1.html
福島県立大野病院事件は、日本の医療の変節点となる事件だと言っていい。一つの事象の歴史的評価は、時とともにおのずから変わるものだが、現時点では以下のような理由が挙げられよう。
医療ガバナンスが大きく変化
第一は、医療のガバナンスのあり方が変わってきたことだ。前回の「『医師逮捕』が投げかけた波紋」で紹介したように、医療事故を刑事事件として扱うことに対して危機感を抱き、まず現場の医師が、そして様々な学会・医療関係団体が動いた。相次いで抗議声明を出し、政治にも働きかけた。ここで重要なのは、インターネットや電子メールを通じてこの事件の情報が瞬時に、しかも克明に伝わったという事実だ。
以前なら、医療事故が起こっても、新聞やテレビでしか情報を得られなかった。ところが大野病院事件では、各団体のホームページや個人のブログ、メーリングリストなどで多くの情報が瞬時に流れ、事の重大さが現場の医師に伝わり、そして学会・団体幹部の共通認識となり、行動へと駆り立てたのだ。IT(情報技術)時代になり、「情報」の入手と伝達が容易になり、現場の意見を集約しやすくなった象徴的な事例だろう。従来、医療には行政主導、あるいは医師会や学会という団体主導で物事が動くのが一般的だったが、現場の医師が動き、その声が集約され、行政ではなく政治に直接働きかけるという手法は、今後ますます盛んになっていくと思われる。
マスメディアも「医療叩き」から変化
第二は、テレビや一般紙に代表されるマスメディアの医療事故に関する報道のあり方が変わってきたことだ。「医療事故の報道は、1999年1月の横浜市立大で起きた『患者取り違え事件』以降、活発になってきた」と指摘する医療関係者は多い。この事件は、同じ日に心臓手術と肺の手術が予定されており、手術室での患者の受け渡しの際に取り違えたため、心臓手術予定の患者には肺手術が、肺手術予定の患者には心臓手術が行われたものだ。
続く1999年2月には都立広尾病院事件(患者に消毒液を誤投与した事件)が起き、以降、「医療過誤」「医療ミス」といった言葉が紙面に載るようになった。確かに、それ以後、年々活発化する報道が、医療に対する国民の関心を高めたという、「功」の部分は大きい。だが一方で、「罪」もある。医療には不確実性が伴う。医療「事故」と、医療「過誤」は違う。ベストを尽くしても、患者の死など避けられない不幸な事態は生じる。これは医療者なら誰でも実感していることだろう。それをすべて「過誤」、つまり医師などに過失があるかのような報道は、医療への国民の不信感を高め、昨今の「医療崩壊」という事態を招いた。
ところが、大野病院事件以降、こうした「医療叩き」から、少しずつ報道の風向きが変わり始めている。「医療事故」という冷静な報道が増えてきたという印象を受ける。叩き続けていたら、本当に医療は崩壊してしまうという認識が生まれてきたのだろうか。
“医療事故調”問題に発展
第三は、“医療事故調”の議論に拍車をかけた点だ(「混迷する"医療事故調"の行方」に関連記事)。多くの医療関係者が大野病院事件を問題視するのは、この事件が業務上過失致死罪で起訴されるという刑事事件に発展したからだ。
医療事故で患者が予期せずに死亡した場合、多くの遺族が一番に抱くのは「いったい何が起こったのか、なぜ死亡したのかを知りたい」という思い。こうした死因の究明には、まず当該病院が行うのが一般的だろう。しかし、死因が不明な場合、あるいは死因が分かっても患者側が納得しない場合、現状では民事・刑事事件として扱わざるを得ない。つまり、患者側は、民事訴訟を起こすか、警察に届け出ることになる。医療機関側、患者側の双方にとって、民事・刑事事件は高いハードルで、精神的・身体的苦労が伴い、費用も、そして時間もかかる。また医療事故が刑事事件に発展することへの懸念から、「危険な医療行為は避ける」という萎縮医療を招くという問題もある。
このため数年前から、死因を究明する第三者機関の設置が議論されており、日本内科学会や日本外科学会などを主体となり、現在、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」が行われている。そのほか、裁判によらず、医療機関と患者側との紛争を解決するための組織である「ADR(裁判外紛争処理機関)」の設置、また産科医療分野では、出産時の医療事故について、医師の過失の有無を問わず金銭補償を行う「無過失保障制度」が議論されてきた。
こうした現状にあって、突然、厚生労働省が今年4月に設置したのが、「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」。詳細は、「混迷する"医療事故調"の行方」に譲るが、死因究明から民事・刑事・行政処分につなげるという構想に発展している。
図らずも進む産科医療の集約化
最後に、産科医療の集約化が、図らずも進みつつあることが挙げられる。数年前から「産科医不足」が社会問題になっているが、「産婦人科医一人体制」の施設も多く、緊急分娩への対応なども含め、24時間一人でカバーしなければならず、過重労働を強いられていた医師も多い。そこで、その解決策の一つとされていたのが、分娩施設の集約化だ。
大野病院事件は、前置胎盤を伴うハイリスク分娩の症例だった。「事件以降、周辺の医療機関からの前置胎盤などの患者の紹介が増えた」。大学病院をはじめ、基幹病院の産婦人科医はこう口をそろえる。その結果、大学病院の産婦人科医がその分、過重労働を強いられるなど問題はあるが、周産期医療体制を再編する契機になったのは確かだ。
コメント