(投稿:by 僻地の産科医)
あ、そうそう。明日、ちょっと用事があってお出かけしております。
記事はまた、ゆっくり。そう、天王山!
明日はお休みか、気合があるとすれば記事を上げます!
ニュースゼロの映像もどうぞ ..。*♡
日本テレビ「NEWS ZERO」8月12日放送の特集(動画あり)
全国の医師たちが固唾を呑んで見守る裁判が
来週判決を迎える。
4年前福島県立大野病院で出産の際に
妊婦の女性が亡くなり、産婦人科医が逮捕された。
この逮捕は医療界に大きな衝撃を与え、
実は医師不足を加速させたとすら言われている。
なぜ注目を集めているのだろうか?
AERA 2008年8月25日号 増大号
特価:390円 (税込み)
産科医が見守る「大野病院事件」判決
事件が残した医療萎縮
産科医が見守る「大野病院事件」判決
事件が残した医療萎縮
『できるかぎりのことはした』。
そう話す産科医が逮捕・起訴された。
医師たちを萎縮させた事件が、判決を迎える。
編集部 田村栄治
(AERA 2008.8.25 p72-74)
逮捕――。
帝王切開手術中の桑原仁医師の脳裏に一瞬、その2文字が浮かんだ。今年1月、前置胎盤の妊婦のお産で出血が2300ccに達し、ショック状態寸前になったときのことだ。
熊本市で産婦人科医院を開業してから29年間で、赤ちゃん約1万3000人を取り上げてきた。「診察が確実」「患者への説明が丁寧」という同業者の推薦を受け、本誌別冊「日本の家庭医」でも紹介されている。
結局、輸血と子宮摘出で母子ともに一命を取り留めた。
「しかし、ちょっと悪い方に行っていたら、私も逮捕されていたかもしれない。こんな恐怖を感じるようになったのは、あの事件以来です」
ベテラン医師も脅える
大ベテラン産婦人科医でさえ脅えるようになった「あの事件」とは、福島県立大野病院(同県大熊町)で帝王切開手術中に産婦が死亡し、産婦人科医が逮捕・起訴された「大野病院事件」だ。福島地裁で13回の公判を経て、20日に判決が言い渡される。
同病院の産婦人科を1人で担っていた医師、加藤克彦被告(40)が、Aさん(当時29)の第2子のお産を担当したのは2004年12月。胎盤が子宮口にかかり、自然分娩が困難な前置胎盤と予め診断していた。開腹して10分後には女児を取り上げたが、へその緒でつながった胎盤が取り出せない。子宮に癒着する癒着胎盤だった。右手ではがしにかかると、手前は簡単にはがれたが、奥は取れなかった。
裁判の焦点になったのはここからだ。
医師は、刃先が丸いはさみを使って癒着部分をそぎ、胎盤を取り出した。胎盤には無数の血管がめぐっているため、はがれるときに出血があるが、多くの場合、子宮が収縮し止血される。しかしAさんの出血はおさまらなかった。
医師は出血を断つため、輸血用血液製剤の到着を待って子宮を摘出。手術は完了したが心臓の動きが乱れ、Aさんは帰らぬ人となった。取り出されたばかりの長女の手をやさしくつかみ、
「ちっちやい手だね」と言ったのが最後の言葉だった。
功名心はやった起訴か
約3ヵ月後に出された県の事故報告書が医師のミスを認めたことで状況は一変した。捜査に乗り出した福島県警は、癒着に気づいた時点で胎盤をはがすのをやめ、子宮摘出に移るべきで、それを怠ったと判断。任意で事情聴取をしていた富岡署で、医師を逮捕した。福島地検は、医師を業務上過失致死と医師法(異状死等届け出義務)違反の罪で起訴した。
検察の見解は、2人の産婦人科医の証言に基づいている。だが実は、一人は妊娠後期から新生児早期までの「周産期」が専門ではなく、癒着胎盤の手術経験もない。もう一人も専門は腫瘍で、胎盤について専門的な研究をしたことはなかった。
これに対し、弁護側の証人となった産婦人科医3人は、周産期や胎盤が専門だった。証人も含め、医師側はいったん剥離にかかったら中断せず、胎盤をはがし終えたうえで止血を図るのは一般的な施術で、「最善を尽くした」と主張した。
主任弁護人・平岩敬一弁護士は、
「検察は起訴前に、適切な専門家の話を聞くべきだった,胎盤剥離をやめて子宮摘出をすべきだったと主張するが、そうした実例を1件も示せていない。功名心にはやった起訴としか考えられない」と強調する。
通常の医療行為で逮捕
左のチャートにもあるように、お産をめぐる事故は後を絶たない。他の手術同様、お産も100%安全ではなく、04~06年は平均で年55人の妊産婦が死亡している。
大野事件の衝撃は、これまで過失と判断されても書類送検ですむケースが多いなか、現役医師に手錠がかけられた、ということだった。
逮捕後まもなく、診療科を超えた医師19人が、医師の支援グループを発足。「この件が逮捕に相当するのであれば、通常の医療業務を行っている医師からも相当数が逮捕される」「危険性をともなう手術など積極的な治療が不可能となり、医療のレベルは低下の一途をたどる」などとする抗議声明を作成し、インターネットで医師の署名を募ったところ、2日あまりで約800人分が集まった。
日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は連名で、
「全国的な産婦人科医不足の問題に深く根ざしており、献身的に過重な負担に耐えてきた医師個人の責任を追及するにはそぐわない」と声明を出した。日本医師会をはじめ、多くの医師会や学会も刑事訴追に反対を表明した。
手術の概要を知った産婦人科医には、「自分もこのケースだったら、同じ処置をした」と感じた人が少なくなかった。医師たちには、「通常の医療行為をしていて逮捕された」という思いが広がった。
現場の士気が落ちた
日本の産科医療の崩壊はこの事件から始まったわけではない。24時間待機の過酷な勤務や高い訴訟リスクを抱え、産科医は10年ほど前から減少に転じていた。だが、大野事件がギリギリの状態で踏ん張っていた産科医たちを萎縮させてしまったのは間違いない。
医師の逮捕が、Aさんが死亡した手術から1年以上経ってからだったことから、「見せしめ」だったと感じた人もいる。
日本産科婦人科学会を代表し、海野信也北里人医学部教授は、全国に約3000あるというお産施設への波紋についてこう話す。
「現場の士気がむちゃくちゃ落ちた。前置胎盤や双子のお産など、かつては自分のところでしていた手術を、『ハイリスクだから』と大学に紹介する病院が増えた。リスクに向き合わず、回避する傾向が顕著になった」
都内の病院に勤務していた、海野教授の知人の産婦人科医は、
「こんな危険な仕事は続けられない」と言って病院を辞職。危険度の低い処置だけをするアルバイト医に転じたという。
お産施設の減少も進んだ。大野病院がある福島県では、06年には31病院が分娩を取り扱っていたが、08年には21病院に。医師の逮捕後、県立医大が「帝王切開手術などを1人医師体制で続けるのは限界」として、県立病院への医師派遣を止めたことなどが影響した。同様の現象は全国的にみられる。
いま大野病院の明るく、開放感のある待合室には妊婦の姿も、赤ん坊の姿もない。逮捕翌月から産婦人科の担当医の欄には休診の札がかかったままだ。
遺族は真実を知りたい
誰もが自分の中の「正しい」を信じ、その結果、一人の医師が逮捕された。多くの産科医が徒労感にさいなまれ、日本から産む場所が消えつつある。
大野事件とは何だったのか。
たとえ判決が出ても、その問いへの明確な答えは出ないかもしれない。そう思いながら、亡くなったAさんの遺族を訪ねた。待ち合わせた場所に現れたAさんの父、渡辺好男さん(58)は、娘の遺影を手にしていた。
「遺族としてはとにかく、どういう状況で何かあったのか、真実が知りたい。警察が介入したことで、救われた面があるのです」
Aさんの死後、手術に立ち会った看護師の話を聞きたいと何度言っても、「忙しくて余裕がない」と相手にされなかった。裁判で初めて看護師たちの話を聞き、お産の経験が50人ぐらいの看護師が立ち会っていたことや、癒着部分には男の人の手にあるような血管がめぐっていたこともわかった。裁判にならなければ、娘の死んだ様子を知らないままだった、という。
「医療の良心を守る市民の会」代表で、1999年に東京都立広尾病院の看護師が誤って消毒液を注射した事件で妻(当時58)を亡くした永井裕之さん(67)はこう話す。
「ただでさえ弱い立場にいる被害者が真相を知ろうとしても、あまりにも多くの困難がある」
妻の事件では、看護師や主治医、院長らが被告となった刑事裁判で、はじめて誤注射の詳細が明らかになったという。
「現状では、警察が捜査しなければ、事実がうやむやになる場合がある」
亡くなったAさんの夫は公判で、
「先生から手術の経過を説明されても、とても納得できる内容ではありませんでした」と不信感を露にした。
父親の渡辺さんも、都合の悪いことは話さないでおこうという病院側の姿勢を感じたという。
検察は、起訴するかどうかを判断するとき、被害感情の強弱や、和解の成否も勘案する。情報開示や十分な説明によって医師が患者側の信頼を得ることは、刑事訴追を減らすことにつながるとも考えられる。
医師の変化を求める声は、「内側」からもあがっている。新葛飾病院(車尽都葛飾区)の清水陽一院長は、
「事故を認めるのは恐い。しかし、医療者は患者さんの命を奪うこともあるわけだから、覚悟を決めて正直にすべての情報を出すことが大事だ。きちんと説明すれば、裁判になることはほとんどない」と強調する。
自律機能見せられれば
都内私立大医学部の麻酔科教授は、医療界全体の透明性と自律性の低さが、捜査機関の介入につながっているとみる。
「医師が問題を起こしたとき、例えば免許停止などの処分をし、自律機能を見せられれば、国民から信頼される職能団体になる。その機能がないため、刑法が透明性を高める役割を果たしてしまっている。医療界として、自律的な懲戒制度が必要だ」
現在、厚生労働省が中心となり、医療版の事故調査委員会(仮称・医療安全調査委員会)の設置が検討されている。医療事故が起きたとき、専門家である医師たちを中心に原因究明をし、再発防止につなげるのが狙いだ。患者・遺族側の団体には、真相解明に役立つとして早期の設置を望む声が強いが、医師には反対意見も少なくない。警察に通知する機能をもたせているためだ。
20日の判決でもし無罪となったら、医療版事故調の設置が遠のくとの指摘もある。「無罪判決で、今後の刑事訴追の可能性が弱まれば、医師はリスクのある機関の設立に猛反対する」と見られるからだ。
逆に有罪だった場合――。
日本産科婦人科学芸の海野北里大教授が次のように話す。
「産婦人科医にとっては、自分たちの仕事を否定されるようなもの。医療が提供できなくなる」
全国の産科医は固唾を呑んで判決を見守っている。
同僚の依頼で勤務を交代しまして、明日は休みとなりました。で、福島にボールペンを握って出かけることにしました。
無罪判決が出ることを信じています。
ところで あ、あの、大淀と最初のところに書いてありますが、大野の間違いですよね?
投稿情報: ばあば | 2008年8 月20日 (水) 01:33