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(投稿:by 僻地の産科医)
これは今後裁判に関わる「鑑定医」にも求められていくことなのではないでしょうか?
「医療関連死の調査分析に係る研究班」主任研究者・山口徹氏に聞く
「誤りであった」などの言葉の使用に注意
「診療行為に関連した死亡調査分析モデル事業」のマニュアル案を作成
橋本佳子 m3.com編集長 2008年08月15日
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080815_1.html
厚生労働科学研究費補助金による医療安全・医療技術評価総合研究事業の「医療関連死の調査分析に係る研究」はこのほど、「診療行為に関連した死亡調査分析モデル事業」のためのマニュアル(案)をまとめた。同モデル事業は、2005年9月から日本内科学会などが実施しているもの。現在、厚労省は診療関連死の死因調査などを行う第三者組織、“医療事故調”の設置に向けた検討を進めている。どんな制度が創設されるにせよ、その基礎となるマニュアル(案)でもある。主任研究者である虎の門病院(東京都港区)院長の山口徹氏に、マニュアル(案)作成の狙いやモデル事業の現状を聞いた。(2008年7月29日にインタビュー)
「医療関連死の調査分析に係る研究」の主任研究者の山口徹氏(虎の門病院院長)。
――このほどマニュアル(案)をまとめられた経緯をお教えください。
私は2005年9月からスタートした、日本内科学会などによる「診療行為に関連した死亡調査分析モデル事業」の中央事務局長を務めています。モデル事業を通じて分かったことの一つに、「医療の専門家が集まってもなお、診療行為の医学的評価を的確にできるわけではない」ことが上げられます。
――「的確に医学的評価ができない」のはなぜでしょうか。
モデル事業は、診療行為に関連して死亡した事例について、死因究明、診療行為の医学的評価、再発防止策の提言などを行うものです。死因そのものは、実は比較的同定できることが多いのです。解剖を実施しなくても、臨床経過などから、「出血性ショックで死亡した」などと分かるケースが大半です。
その一方、難しいのは、死亡に関係すると思われる診療行為の医学的評価です。医師、医療者は症例検討などを日常的に行っていますので、レトロスペクティブに物事を見ることには慣れていますが、「この時点でどうだったのか」という見方には慣れていません。
その診療行為を行った時点で見た場合に、当該行為を選択し、実施したことが適切であったかという評価と、再発防止に向けてどのような対応をすれば死亡を回避できたかという評価は、別の問題です。「あの時、輸血の準備をしていれば、死亡しなかったかもしれない」ということと、「あの時、輸血を準備しておくべきだった」というのは異なる見方、次元の話です。両者を混同すると、再発防止策として報告書に記載した場合、それを「ミスがあったのではないか」と受け取られかねません。
また、「こうしていれば死亡を避けることができたかもしれない」と推論で書いてしまうと、あたかも「この方法を取らなかったことがミスである」と受け取られかねません。その行為を行った時点で取るべき治療法は、施設の人員や医療機器などの体制、平日か日曜日の夜かなど時間帯をはじめとする様々な要因に左右されるので、行為の妥当性は個別に判断する必要があります。
モデル事業では、報告書の書式は定めていたのですが、その書き方に関するマニュアルを定めていませんでした。今、モデル事業は8地域で実施していましたが、報告書はそれぞれ独自の視点で作成しています。診療関連死の死因究明などを行う第三者機関の制度化をにらみ、ある程度、評価の視点を統一していく必要があると考え、マニュアル(案)を作成しました。
――マニュアル(案)の構成をお教えください。
(1)解剖調査のマニュアル(案)
(2)評価に携わる医師等のための評価の視点・判断基準マニュアル(案)
(3)調整看護師の標準業務マニュアル(案)
という構成になっています。
このうち、(2)において、前述のような診療行為の分析・評価の視点や報告書の書き方などについてまとめています。また、言葉の使い方の重要性にも言及しています。報告書を書く際、何気なく、「(医療者の行為が)誤りであった」「落ち度があった」「問題がある」などと書いてしまいがちです。しかし、こうした表現は、法的な立場から見れば、医療者への法的責任の断定しかねない文言なので、注意を促しています。
このマニュアルは、院内調査を行う際にも使えるものなので、参考にしてほしいと思っています。
――ところで、モデル事業の実施地域や症例数はあまり増えていません。
先ほどお話した通り、現在、8地域で行っており、6月20日の時点で70例の事例を受け付け、うち54例の評価が終了しています。
症例数が少ない理由の一つに、体制作りに時間がかかったことが挙げられます。例えば、東京都では約1年かかりました。現在、モデル事業の専従者として、常勤の看護師2人と非常勤の看護師1人を置いています。事例の受付、分析・評価に当たる関係者の調整、遺族への説明までの流れを考えると、常勤の看護師が継続して対応する必要があるからです。 実施地域が限られているのは、法医学者の数の不足が原因です。モデル事業では、解剖担当医(病理医、法医)、臨床医という3人による解剖を前提としています。
なお、東京都などでは、ここに来てやや受付件数が減っています。モデル事業の対象となるのは、医師法21条の異状死の届け出対象にならない事例です。つまり明らかな医療過誤などはないが、患者が病院の説明に納得しない事例などが対象です。モデル事業に死因調査を依頼する際には、病院側が協力して資料などを提出するほか、院内調査を自ら行うことが前提になります。必然的にある程度の規模で、体制が整っている病院が対象になりますが、こうした病院は体制の充実が進み、自ら対応できるようになり、患者との関係がこじれることが少なくなってきたのではないでしょうか。
――モデル事業の体制を改めてお教えください。
地域によって違いますが、東京の場合、医師は計7人がかかわります。解剖に臨床医、病理医、法医の3人、臨床分野の専門医2人、内科学会と外科学会の代表者1人ずつという構成です。そのほか、例えば、麻酔が問題になれば、適宜、麻酔科医に意見を聞きます。さらに看護師や弁護士もかかわっています。普段のやり取りは、電子メールで行いますが、2~3回は全員が集まり、会議を開催します。東京では、これまで延べで500人以上の医師がかかわったのではないでしょうか。しかし、大半の医師は1回のみで、なかなか経験の蓄積がなされません。したがって、前述したように、分析・評価の考え方がなかなか浸透せず、マニュアルが必要になっていました。
――モデル事業では、7人の医師がかかわっていることになります。将来、診療関連死の第三者機関を創設した場合、この体制でできるのでしょうか。
モデル事業はベストな体制でやっていると言えます。制度化する際には、全国どこでも実施できる、現実性のある体制を考えていく必要があると思っています。
例えば、中核となる常勤の医師を各都道府県に1~2人を置きます。一定の研修を受けていただき、基本的な考えを理解し、知識を身につけていただき、事業を進めていくのが妥当ではないでしょうか。こうした中核医師がいれば、7人もの医師がかかわらずに実施できると思います。
――そのほかモデル事業から浮かび上がった課題があれば、お教えください。
今、モデル事業は「明らかに過誤がある」「過誤が強く疑われる」事例については検討していません。 これらの事例について、死因を医学的に調査することは可能ですが、「なぜそれが起こったか」、そこまで踏み込んだ議論は容易ではありません。例えば、何らかの薬を誤投与した場合、病院のシステム上の問題かもしれません。医療安全の専門家を入れた検証まではモデル事業ではやっていませんので、制度化する際にはこうした視点での分析・評価のノウハウも蓄積する必要があります。
もっとも、医師法21条がある以上、現行では「明らかに過誤がある」といった事例をモデル事業で扱うことはできません。つまり制度化するには、法律を作り、その下でのモデル事業を2~3年実施する必要があるでしょう。つまり、第三者機関の創設といっても、時間がかかるものなので、早急に議論を進めていく必要があると考えています。
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