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(投稿:by 僻地の産科医)
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医療の法律処方箋――第17回 厚労省案vs民主党案その2
業務上過失致死傷罪は追認が改正か
井上清成弁護士
(MMJ 2008 vol.4 N0.8 p708-709)
業務上過失致死傷罪と医療
前回(医師法21条関係)に引き続き、「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」(厚労省案)と「通称・患者支援法案」(民主党案)につき比較検討したい。今回のテーマは、業務上過失致死傷罪(刑法211条1頂前段)の取り扱いである。
現行の実務では、業務上過失致死傷罪が医療にも適用されることは、医療も業務である以上、当然のこととされてきた。しかし、これまで、重過失に限らず軽過失まで罪に問われてよいのかという基本問題、そもそも医療に過失犯罪を問うことがよいのかという根本問題は、何ら議論されたことがない。現行法を前提とした解釈論は今は不要である。あるべき医療政策論、法政策論の論議こそが必要な時であろう。
運用か立運用か立法か
厚労省案は、現行法には手を入れない。現行法はそれとして追認しつつ、悪い犯情(悪い犯罪の情状。犯罪自体は成立している中で、特に情状のよくない事例)のものに限足しようとする。情状の悪いものに、実際上、運用で縛りをかけようとした。法改正は難しいから運用を改善しようとするものであろう。
民主党案は、大胆に現行法を立法で改めようとする。ただし、今すぐにではない。中・長期的課題としてである。「医原音による自律的処罰制度の進捗状況などを勘案しつつ、刑法における故意罪と過失罪のあり方や業務上過失敗死傷罪などについて諸外国の法制度などを参考に検討し、必要があれば見直す」と明示した。
一見すると、大きく対立しているようにも読めるが、実は、この点ではもしかすると大きな対立はないのかもしれない。もしも厚労省案に「中・長期的課題」という留保が加われば、それだけで「現行法の追認」ではなくなるからである。厚労省案の真意を確かめたいところではあろう。
中・長期的課題
医療における過失犯罪の問題について、考え得る選択肢を表のように整理してみた。選択肢1が厚労省案である。民主党案が選択肢2~4のいずれを指向しているかは必ずしも明らかではない。しかし、ニュアンスとしては、故意犯に限定し過失犯を除外するという選択肢4のようにも思う。
選択肢1は、現行法を追認し、情状の面で限定的な運用を試みようとする厚労雀案である。
選択肢2は選択肢1の厚労省案②の「標準的な医療から著しく逸脱した医療]を「重大な過失」に置き換え、現行法の業務上過矢数死傷罪を除外し、重過失致死傷罪に限定しようとした。ただ、「重大な過失」の中身を具体例をもって具体的に詰める必要があろう。
選択肢3は、現行法の自動車事故の加重類型である危険運転数死傷罪を参考にした新たな犯罪類型のアイテアである。過失犯に故意犯を合体させて,故意犯部分(「標準的な医療を殊更に無視」「重大な生命又は身体の危険を生じさせる方法」)によって過失犯の限定を図るうとした。危険医療致死傷罪は、故意犯と過失犯の結合形態である。言々の結合犯を案出しうるが、1つの立法例の案として参考になろう。
選択肢4は、すべて過失犯を除外するものであり、最も徹底している。そもそも医療の過失犯は処罰に値しないと割0切っていて、きわめて先進的であり、世界的標準に近い。ただ、証拠隠滅などの反倫理的故意行為を網羅し、厳罰に処そうとする。完全な故意犯限足型であり、十分な議論のうえで、医療に固有の法律を創設する必要があるであろう。
まずは、いずれの選択肢の方向を指向していくべきか、厚労省に十分な情報開示をさせつつ、医療者で十分な議論を重ねることが望まれる。
医療と犯罪の立法・運用の選択肢〈法案と私案の概要〉
【選択肢1】現行法追認、情状での限定的運用
(刑法211条1項前段、業務上過失致死傷罪)
「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁銀又は500万円以下の罰金に処する」
(厚労省案・第25・警察への通知)
「②標準的な医療から著しく逸脱した医療に起因する死亡又は死産の疑いがある場合、③当該医療事故死に係る事実を隠ぺいする目的で関係物件を隠滅レ偽造し、又は変造した疑いがある場合。類似の医療事故を過失により繰り返し発生させた疑いがある場合その他これに準ずべき重大な非行の疑いがある場合」
【選択肢2】現行法改正、重過失致死傷罪に限定
(刑法211条1項後段、重過失致死傷罪)
「重大な過失により人を死傷させた者も、(業務上過失致死傷罪と)同様とする」
(改正私案、重過失に立法的に限定)
「医療に伴い、刑法211条1項前段の罪(業務上過失致死傷罪)を犯した医師は、その刑を免除する。但し、同項後段の罪(重過失致死傷罪)の定めの適用を妨げない」
【選択肢3】現行法改正、危険医療致死傷罪に限定
(改正私案、危険医療致死傷罪を新設)
「標準的な医療を殊更に無視レかつ、重大な生命又は身体の危険を生じさせる方法で患者を診療し、よって患者を死傷させた医師は、5年以下の懲役若しくは禁鋼又は100万円以下の罰金に処する」
(改正私案、現行法の過失犯を除外)
「医療に伴い、刑法211条1項の罪(業務上過失致死傷罪と重過失致死傷罪)若しくは刑法210条の罪(過失致死罪)又は刑法209条の罪(過失傷害罪)を犯した医師は、その刑を免除する」
【選択肢4】現行法改正、故意犯に限定
(改正私案、故意犯を新設)
「医療に伴い、緊急の場合その他正当な事由なくして、患者若しくはその親族に対し説明をせず、又は患者若しくはその親族の同意を得ず、身体への侵襲を伴う施術をした医師は、刑法に定める傷害の例による。診療録に虚偽の記載をした医師は、刑法に定める虚偽診断書作成の例による」
(改正私案、現行法の過失犯を除外)
「……選択肢3の該当部分と同じにつき、省略」
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