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(投稿:by 僻地の産科医)
女性の論文と、男性の論文o(^-^)o ..。*♡
珍しい取り合わせです(笑)。
海外の主要医学誌から
HRTは閉経後女性の胆嚢疾患リスク
を高めるが投与法などで差も
Medical Tribune 2008年8月14日(VOL.41 NO.33) p.61
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M41330616&year=2008
ホルモン補充療法(HRT)が閉経後女性の胆嚢疾患のリスクを大幅に高めること,また,そのリスクは投与法や投与量により差があることを示す英国での大規模前向きコホート研究の結果が,BMJの8月2日号に発表された。
この研究は,1996〜2001年に国民医療制度(NHS)乳がんスクリーニングセンターを受診した閉経後女性約100万人を対象に,HRTと胆嚢疾患による入院との関連を調べたもの。
平均6.1年の追跡で1万9,889人が胆嚢疾患で入院,うち1万7,190人が胆嚢摘出術を受けていた。HRT歴のない女性と比較して,HRTを施行している女性は胆嚢疾患による入院リスクが1.64倍高かった。しかし,その相対リスクは投与法によって異なり,経口HRTの1.74に対して経皮HRTでは1.17と大幅に低かった。
経口HRTでは,ウマ・エストロゲンはエストラジオールより胆嚢疾患のリスクが若干高く,エストロゲンの高用量使用は低用量と比較してよりリスクが高かった。胆嚢疾患のリスクは,HRT中止後,時間の経過とともに低下した。
胆嚢摘出術の結果も類似しており,5年間の100人当たりの胆嚢摘出のための入院率はHRT歴のない群が1.1,経皮HRT群が1.3,経口HRT群が2.0であった。この研究ではまた,経皮HRTは経口HRTと比較して140人に1人の割合で胆嚢摘出術を減らせることが示唆された。
Liu B, et al. BMJ 2008; 337: a386.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez/18617493
閉経後10年以上の女性に対するHRT実施は
健康関連QOLを改善
MTpro 記事 2008年8月25日掲載
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/0808/080825.html
ホルモン補充療法(HRT)の意義については,2002年に発表されたWHI(Women's Health Initiative)以来,リスクとベネフィットに関する多くの議論が行われてきた。オーストラリア・アデレード大学産婦人科のAlastair MacLennan氏らは,閉経後かなりの年数がたっている女性に対するHRT実施により,健康関連QOL(HRQOL)が改善する可能性を報告した(BMJ 2008 ; 337: a1190)。
ほてり,寝汗,関節・筋肉痛などが有意に改善
今回の報告は1999年から開始されたが,2002年,WHIのHRT施行群の乳がんリスク増加による早期中止を受けて,症例登録と短期間の追跡のみで中止されたWISDOM(Women's International Study of long Duration Oestrogen after Menopause)試験を解析したもの。英国,オーストラリア・ニュージーランドから登録された閉経後10年以上経過している,子宮を有する50~69歳の健康女性5,692例が参加していた。
登録後,結合型エストロゲン0.625mg/メドロキシプロゲステロン酢酸塩2.5または5.0mgの合剤によるHRT群,またはプラセボ群にランダム化割り付けされ,治療開始から1年時点のHRQOLが解析された。最終的にHRT群1,043例,プラセボ群1,087例が解析対象となり,HRQOLと精神的幸福度のほか,閉経による情緒・身体面の変化,抑うつ症状などに関する調査が行われた。
治療開始から1年時点で,ほてり(HRT群9% vs プラセボ群25%),寝汗(14% vs 23%),関節・筋肉痛(57% vs 63%),不眠(35% vs 41%),腟乾燥感(14% vs 19%)においてHRT群でプラセボ群に比べ,有意な改善が見られた(いずれもP<0.001)。一方,乳房の圧痛(16% vs 7%),腟帯下(14% vs 5%)は,プラセボ群よりもHRT群で有意に多く認められた。また,抑うつ症状や全体QOLについては両群間で有意な差はなかった。
MacLennan氏らは今回の結果から,HRTガイドラインが見直されるべきと述べており,HRT実施により見られたHRQOL上のベネフィットと心血管疾患や静脈血栓症,乳がんのリスクの重みを十分考慮すべきだとしながらも,更年期症状に悩まされている多くの女性にとって重要な知見と評価している。
また,同じく最近報告された閉経後の高齢女性を対象にメドロキシプロゲステロン酢酸塩単独によるHRT治療の効果を検討した大規模ランダム化比較試験(LIFT試験,N Engl J Med 2008; 359: 697-708)からは,HRTで骨粗鬆症による骨折や浸潤性乳がんなどのリスクが減少する一方,70歳以上の女性では脳卒中リスクが増加することが明らかになった。
国際閉経学会が声明「HRTは“one-size fits all”の治療法ではない」
WISDOM試験に関して,国際閉経学会では「更年期以後,長期間が経過したほてり症状のない女性においても,HRTにより睡眠,性機能や関節痛などに明らかな改善が見られた」とコメント。更年期症状に悩まされQOLを改善したい女性は,HRTの実施について主治医とぜひ話し合って欲しい,とその内容を高く評価する声明を発表している。
HRTは,同学会がLIFT試験で示した声明文のなかの一文「過去に実施された主要試験の結果が示しているように,HRTはフリーサイズの治療法ではない(HRT is not a “one-size fits all” solution)」の通り,一律に実施の是非が判断できる性質のものではなく,個人の詳細なプロフィールに合わせたベネフィットとリスクの判断や処方が必要な治療法と言えるのかもしれない。
北澤京子の「医学論文を斬る」
ホルモン補充療法が女性のQOLに与える影響
日経メディカルオンライン 2008. 9. 1
(1)http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/kitazawa/200809/507653.html
(2)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/kitazawa/200809/507653_2.html
(3)http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/blog/kitazawa/200809/507653_3.html
テストステロン補充療法 さほどの効果認められず
Medical Tribune 2008年8月14日(VOL.41 NO.33) p.65
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/article/view?perpage=1&order=1&page=0&id=M41330652&year=2008
〔ニューヨーク〕ユトレヒト大学医療センター(オランダ・ユトレヒト)老年医学科のMarielle H. Emmelot-Vonk博士らは,血中テストステロン値が低い健康な高齢男性に対して,6か月間にわたり適度のテストステロン補充療法(TRT)を施行した結果,健康上,機能上,認知上の能力を示す複数の指標にさほどの便益は認められなかったとJAMA(2008; 299: 39-52)に発表した。
骨密度や認知能の向上見られず
Emmelot-Vonk博士らは,テストステロン値が13.7nmol/L(394.8ng/dL)未満の健康な高齢男性237人(60〜80歳)を登録し,ランダム化二重盲検比較試験を行った。この試験を終了したのは207人であった。
テストステロン群には,testosterone undecenoate 80mgを1日2回経口投与した。コンプライアンスは良好で,被験者の90%以上が薬剤またはプラセボを80%以上服用した。
その結果,TRTにより,総体脂肪量と体脂肪率が有意に減少した。TRT群では総除脂肪体重はプラセボ群に比べて有意に上昇したが, BMIや超音波により測定された内臓脂肪量はTRT群とプラセボ群の間で有意差は見られなかった。
身体組成が変化したにもかかわらず,機能的運動性,骨密度(BMD),認知能に対する便益の向上は見られなかった。また,両群の間に等尺性握力,等尺性下肢伸筋力などの検査を扱ったStanford Hamilton Assessment Questionnaireではスコアの有意な変化は見られなかった。
一方,プラセボ群に比べてTRT群で総コレステロール(TC)値とHDLコレステロール(HDL-C)値は有意に減少し,TC/HDL-C比が有意に増加した。トリグリセライド値とLDLコレステロール値は,TRT群では有意に変化しなかった。
血糖値とインスリン値は,TRT群に比べてプラセボ群で有意な増加が見られた。また,インスリン感受性については,定量的インスリン感受性検査指数(QUICKI)がプラセボ群で有意に減少した。一方,指数によって検討したインスリン抵抗性もプラセボ群で有意に増加した。
メタボリックシンドロームは両群で増加
TRT群ではメタボリックシンドロームは34.5%(試験開始前)から 47.8%(6か月後)に増加した。また,プラセボ群でも30.9%から35.5%に増 加し,その割合はTRT群より低かったが,有意差はなかった(P=0.07)。TRT群における増加は,特にHDL-C値の減少が原因であった。
SF-36(Short-Form Health 36 Survey)とQuestions on Life Satisfaction Modulesにより計測したQOLは,TRT群とプラセボ群の間で有意差は見られなかった。しかし,TRTによりホルモン関連のQOL調査のサブグループでは改善が見られた。
8種類の異なる測定器具で計測した認知能力は,両群とも改善したが有意差は見られなかった。
今回の研究では,TRTの安全性についてはあまり言及されていない。テストステロンが潜在的な前立腺がんを刺激することを示すものは見られず,血清PSA,前立腺の体積,排尿症状への全体的影響は認められなかったが,同博士らは研究期間が6か月にすぎなかったため,安全性の確立にはさらに大規模な試験が必要であるとし,今回のデータで確認することは差し控えている。
しかし,被験者の1例は肝機能検査値が正常値の3倍以上に達したため投与を中止したが,TRT中止後,肝機能は正常に回復した。
細目の評価を期待
全体的に,有害事象の発生数や種類は,TRT群とプラセボ群の間で有意差は見られなかった。
ほかにもTRTの影響が観察された。TRT群の男性でクレアチニン値が増加したが,統計学的にはボーダーライン上であった。また,TRTの最初の3か月間,ヘモグロビン値とヘマトクリット値は,プラセボ群に比べてTRT群で有意に増加した。その後もこの増加は安定していた。
Emmelot-Vonk博士らは,今回の知見が理解されれば,多くの細目について評価されるようになるとしている。例えば,登録された男性の71%はテストステロン値が12.0nmol/L未満であった。このような患者は,通常の基準ではテストステロン欠乏症とされる可能性がある。TRTによる短期的な効果が認められたこれまでの研究は,同様のテストステロン値を採用している。しかし,今回の調査対象の男性の大部分には,重大な既往症は見られなかった。
同博士らは,6か月間という研究期間について,TRT期間としては比較的短いが,他の複数の研究ではこれまでより短い期間で治療効果が示されている。さらに,同博士らはTRTの有効性を示すために長期間を費やす必要がある要因は,BMDのみであったとみなしている。
これまでの研究とも一貫性
研究終了時には,TC値はTRT群では試験開始前のレベルにとどまり,プラセボ群ではわずかに上昇した。TRT群において,研究終了時の血清テストステロン値の増加が見られないことは,testosterone undecenoateカプセルの経口投与で見られる効果として知られているため,他の研究データとも一貫性があるとしている。
研究終了時のテストステロン値は増加しなかったとはいえ,さまざまな研究でtestosterone undecenoateは薬理学的特性上,ほとんど24時間テストステロン値を上昇させることが示されていることから,循環ホルモンのレベルは変化し,有意な生理学的変化が生じる。
興味深いことに,今回の研究ではヘマトクリット値の上昇は統計学的に有意ではなく,体脂肪量の減少と除脂肪体重の増加は統計学的に有意であったが,この点は血清テストステロン値の増加を報告したこれまでの研究と同様であった。これらの結果を示した研究では,ホルモン投与として筋肉内注射または皮下注射によりテストステロンを投与している。
Emmelot-Vonk博士は,この研究を計画した際に,より安定したテストステロン値を示すパッチとゲルはオランダでは入手できなかったとしている。
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