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(投稿:by 僻地の産科医)
産科と婦人科2008年8月号からo(^-^)o ..。*♡
特集は胎児発育異常をめぐる諸問題
で、おもしろい症例報告があったのでもって来ました。
子宮筋腫、なかなか油断ならないですね!!
閉経後急激に増大した28.9 kgに及ぶ
巨大子宮筋腫の1例
千葉市立青葉病院産婦人科
錦見 恭子 大見 健二 西脇 哲二 岩崎 秀昭
(産科と婦人科・2008年・8号(97)p1025-1029)
はじめに
子宮筋腫は女性生殖器に発生する腫瘤のうちで最も頻度が高い.女性ホルモンによって増生するため、生殖年齢の女性に多くみられる.一般的に閉経後は縮小する場合が多い.
今回われわれは、閉経後16年経った後,急激に増大した28.9kgに及ぶ巨大子宮筋腫の1例を経験したので報告する.
症 例
症例 66歳女性.3経妊1経産,閉経50歳
現病歴 数年前より腹部腫瘤を自覚していたが、2ヵ月前より急激に増大し,食事摂取不能,立位困難となったため当科受診となった.
現症 154 cm, 64 kg. 腹部は著明に膨隆し歩行できず、体位変換も不能であった。腹囲は138 cmであった.Sp02は97~98%であった.初診時の血液検査では白血球数9.4×103/μL,CRP:1.7 mg/dLと軽度の炎症所見を認めた.またLDH:445 IU/L、CA 125:82.9 U/mLであった(表1).
CTにて腹部に42×40×30cmの内部不整な巨大腫癌を認め、腸管は圧排されていた(図1).下痢,嘔吐が類同にあったため,柿渋を行った.また体位変換不能なため膀胱カテーテルを留置した.閉経後,急激に増大した腫瘍であること、腫瘤マーカーが高値であることより,悪性卵巣腫癌の疑いにて手術となった.Dダイマー高値であったが,CT所見では血栓を認めなかったため,間欠的下肢マッサージ器の装着と弾性ストッキングの着用にて血栓症予防を行った.
手術所見
左側臥位にてTh 10/11 に硬膜外チューブを挿入したのち,左側臥位のままcrash inductionにて全身麻酔を導入した.仰臥位に体位変換し循環動態が安定していることを確認して手術を開始した(図2).
下腹部正中切開にて開腹した.開腹創直下に腫瘍を認め,腫瘍に約1cmの切開を入れて内容液をゆっくり吸引した.のち腫瘤表面の切開を拡大し,壊死物質を用手的に摘出した.内容液は茶褐色で,壊死物質とあわせると24,410 gであった.腫瘍周囲に癩者がないことを確認し,腹壁上に出したところ,腫瘤は子宮から発生したものであり,両側付属器は正常であることがわかった。腹式単純子宮全摘術+両側付属器切除術を施行した.摘出した子宮と付属器は4,500 g,計28,910 gであった.腹水は認めなかった.手術時間は2時間2分,出血量は内容液と一節になり正確な量は測定できなかったが少量であった.
術後経過
腫瘍内容吸引後より血圧低下が持続するため,抜管せずにICUに入室となった.十分な補液と昇圧剤投与により血圧を維持した(図3).
術後1目目に抜管し呼吸状態は安定,術後2日目に一般病棟へ転棟となった.その後の経過は順調であった.下肢の筋力低下により歩行が困難であったため歩行器を使用してリハビリを行い,19日目に退院した.術後14ヵ月経過し,順調である.術直後35 kgであった体重が54 kg まで増加し日常生活問題なく過ごしている.
病理所見
肉眼的に子宮体部は30 cm 大で,腫瘍は体部後壁右よりにあり,比較的境界明瞭であった.腫瘍は単房性の大きな嚢胞状で内腔には壊死物質がみられた.子宮内膜は萎縮しており年齢相応であった.子宮頸部は正常であった(図4).
顕微鏡学的には,腫瘤の大部分は粘液様の変性であり,細胞成分に乏しかった.そのなかに異型の乏しい視棒状の棒を有する紡錘形細胞が束状に増殖し錯綜あるいは渦巻状構造がみられる部分があった.以上の所見より変性平滑筋腫の診断となった(図5).
考 察
本症例は28.9kgの巨大な子宮筋腫であった.これまでの報告の中で,わが国で最も重かったのは1907年に小川らが報告した32.6 kg, 2番目は大田らが1980年に報告した32.0kgで,本症例は3番目となる.わが国での報告において20 kg以上の重量であった巨大子宮筋腫を表2に示す.子宮筋腫の増生には女性ホルモンが関与しており、生殖年齢に多い.表の中でも多くは30~40歳代であるが,本症例は閉経後であり、もっとも高齢であった.閉経後,急激に大きくなった例は本症例以外に報告はない.
子宮筋腫には、浮腫,硝子変性,石灰化,粘液変性,嚢胞状変性,類粘液様変性,液状変性などの多彩な変性所見がみられることがある.本症例の子宮筋腫は類粘液様変性,液状変性が強く,液体成分と壊死物質あわせて24,410 g と腫瘍重量の約8割を占めた.2ヵ月で急激に増大したというのは,急激な変性が起こり液体成分と壊死物質が増加した可能性がある.表に示した巨大子宮筋腫においても硝子変性,嚢胞変性,粘液変性等がみられるが,本症例ぼど液状変性が著明であった症例はない.
巨大子宮筋腫の周術期は厳重な管理が必要である.術前には赤血球増加症,深部静脈血栓症などをスクリーニングする必要がある.また腫瘍による胸腔圧迫,肺活量の減少のため,呼吸機能を評価する必要があるべ術中は大量出血の可能性や腫瘍摘出後の腹腔内圧の急激な低下による循環系の虚脱に注意が必要である.突然腹腔内圧が下がり,静脈還流量が減ることにより,Bezold-Jarisch reflex を起こして心停止する可能性もあるので注意が必要である.術後は循環動態だけでなく呼吸状態も管理が必要で,再膨張性肺水腫に注意する.また巨大な腫瘍により長期に運動制限があった場合は廃用性萎縮をきたしているため,術後のリハビリが必要である.
本症例は液体成分が多く腫瘤内容を緩徐に摘出することができたため,腹腔内圧の急激な変化をきたすことはなかった.それでも腫瘤摘出術後は血圧が低下し集中治療室でのコントロールが必要であった.
子宮筋腫は病理診断でも鬼門です。侮れません。
投稿情報: 元臨床医 | 2008年9 月 8日 (月) 23:20
そうなんですよね(>▽<)!!!
「うー微妙なんです~(;;)。。。」
と病理医ご本人から直接電話(←ここが重要)がかかってくると、うーん。。。。なんて話そう。。。と悩みます。
でも病理は、相談システムがきちんと確立しているみたいで、時間をかけるとあらゆる方々にご相談できるようなイメージを持っています!
(いつもありがとうございます)
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年9 月 8日 (月) 23:34
正直言って、びっくりしました。
子宮筋腫ってこんなにでかくなるケースもあるのですね。人間の体って不思議です。
子宮筋腫持ちである自分としては、色々と覚悟を決めておいた方がいいみたいだな と思いましたです。
投稿情報: ばあば | 2008年9 月 9日 (火) 01:14
アメリカでは50キロのケースもあったという、(ここまでくると、論文は「ね~ね~きいてよっ(>▽<)!!!この前の手術さ~こんなんだったの!」という井戸端的においが漂ってきますが(笑)。)論文をみかけました。
いまのところ50キロが最高くらいなんじゃないかな~とおもいます!
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年9 月 9日 (火) 01:50
50キロ!!!
人間は時として とてつもないものを身の内にこさえてしまうものですねぇ。
私の体重より重い……
どのくらいの期間で50キロまで育ててしまったのか、当事者の談話を聞きたくなってしまいますね。
人間って色々進退窮まらないと行動できないことはあるものだけど、50キロ…… 感慨深い話です。教えて下さってありがとうございますです。
投稿情報: ばあば | 2008年9 月 9日 (火) 08:39