(関連目次)→なぜ産科医は減っているのか 産科崩壊特集!
(投稿:by 僻地の産科医)
今週のAERAからですo(^-^)o ..。*♡
AERA 2008年7月7日増大号
発売日:2008年6月30日
特集は「産めない国ニッポン」
女性 2人目はもう産めない
収入高いほどほしくない
貧困 開設1年「赤ちゃんポスト」子捨て親の事情
現場 横浜産科次々閉院
「お産難民」大量発生
出産集中でがん手術2カ月待ち
雇用 ハケンは一人も産むなという最悪環境
医療 医療崩壊は国策で誘導された
今日は、海堂先生の対談から(>▽<)!!!
海堂先生、がんばっていらっしゃいます!!
>若者が入ってこないのは、
>10年やっていける職場に見えないからです。
その通りです。
私たち中堅でさえ (だからこそ?)
来年やっていけるのか、半年後はどうか、先が見えません。
ではどうぞ ..。*♡
産科医が消える
過剰な攻撃を受け、産科医が現場を去っていく。
産科に未来はあるのか。現場からの提言を。
医療崩壊は国策で誘導された
(Asahi Shimbun Weekly AERA 2008.7.7 p35-36)
森田 産科医療の現場では「お産難民」の問題が深刻です。最近は過疎地に限らず都市部でも分娩施設が確保できず、妊娠の診断と同時に予約しないと分娩できなかったり、病院近くのホテルで陣痛を待ったりする状況です。ハイリスクのお産には高度医療施設が必要なのに、搬送を依頼しても満床だと断られる、「高度な分娩施設におけるお産難民」も発生しています。
日本では「お産は安全」というイメージがありますが、現実には2005年の統計で62人もの妊婦が亡くなっている。トラブルが起こると、医師側のミスであってもなくてもたらい回しや判断ミスと騒がれ、医療訴訟も増える。現役の産科医としては、攻撃的な人々やメディアとのギャップをすごく感じます。
リスペクトなくなった
海堂 「うまくいって当たり前」と思われるのは産科医の宿命で、うまくいかなければスケープゴートにされやすい。メディアは極端な事例しか報道せず、人々の感情を増幅し、2、3年前には産科医が袋叩きに遭いました。福島県で妊婦が大量出血で死亡し、手術を担当した産科医が逮捕された事件が象徴的です。われわれ医師は暗闇の中を手探りで進んでいるのに、医療現場を知らない人たちは感情的になる。
森田 あの事件でメディアが騒ぎ、産科医たちが現場を去りました。おそらくあの事件がなければ、産科医療はこんな騒ぎにはなっていなかったと思います。ただ、福島などいくつかの事例で産科医を攻撃していたメディアの姿勢はこの1、2年で随分変わりました。妊婦健診を受けない危険性や、「モンスターペイシェント」の実態など、医療側に立った報道も増えています。
海堂 医療を攻撃し続けた結果、現場でギリギリのところで支えてきた人たちが放り出し始め、医療の地盤が崩れたということに、ようやくメディアも気づいたのでしょうか。
森田 若い人が産科を志望しなくなっただけでなく、現役の産科医もリスクの少ない不妊クリニックなどに転向し、2割の病院がお産の扱いを止めました。
今までの医師が疲弊しながらも頑張り続けてきたことが、若い世代に引き継がれていません。
海堂 それだけでなく、若い世代は、社会から医師に対するリスペクトがなくなったことに反応しているのです。われわれの世代は医療費の高騰などで叩かれましたが、そのぶん余裕があって、社会に還元しようという使命を感じられた。でも今は医療費削減が錦の御旗。お金を出さないのはリスペクトしていないということです。ならば楽に生きたいと思う。医師も一市民として適切に反応したのです。
若者が入ってこないのは、10年やっていける職場に見えないからです。
今、自分の身を守って安全なところに行くのは悪いことでしょうか。先日、あるテレビ番組で若手医師の意見を聞いたコメンテーターが、「自分のことしか考えていないですね」と言ったんですが、それはおかしい。若者が自分の未来を考えるのは当たり前で、自分のことが確立されて初めて世の中をよくしようという意欲が出てくると思います。
集約化と偏在化の矛盾
森田 私は産科医にはもう少し、未来があると思っています。いくらつらい仕事でも、魅力ややり甲斐、医者冥利は他の診療科に比べて格別です。不妊治療、出生前診断、代理母出産という倫理的な側面にまで踏み込む重要な領域でもあります。
海堂 病棟で唯一明るいのが産科ですから、みんな行きたい気持ちはあるはずです。逆説的ですが、現場の医師が産科に未来があるとおっしゃるなら、粛々と続けていれば自然に改善するはず。でも現実は違う。組織のグランドデザインが悪いために希望者が減っている。
森田 同じ考えです。私は産科医療の崩壊を食い止めるため著書で七つの提言をしたのですが、まとめると三つ。一つ目は、現場のりーダーが中心となって業務を「効率化」し、医師の疲弊を回避すること。具体的には分娩施設の集約化や、複数の医師が時間交代で診るチーム医療制の確立などで、医師の負担だけでなく見逃しも減ります。
海堂 提言では「集約化」を「偏在化の解消」と同時に挙げられていましたが、この二つは矛盾しているので、共存させる限りかじを切れないですよ。
森田 集約化が偏在化につながるのは事実でしょうね。集約化で勤務状況が改善すれば、医師の絶対数が確保され、長期的な視点では偏在化にもメスが入れられると考えています。
海堂 集約化すると必ず官僚が入り、事務が膨大になるので「効率化」に逆行します。東京に1、2ヵ所のモデル施設ができたとしても地方は救えません。
森田 確かに偏在化を解消するのは最大の難問ですね。官僚の力や財源力も惜りなければ解消できないとも思っています。提言の二つ目は“機能する”総合周産期母子医療センターの設置です。現在、ほとんどの都道府県に周産期センターが設置されましたが、経営のため正常産も扱うから満床になる。産科病棟およびNICU(新生児集中治療室)の空床を確保する財源を得られれば、重症の妊婦や低出生体重児をすぐ搬送できる。
海堂 国がいくら周産期センターを作っても解決にはならない、ハコモノよりもベッドを空けることだと、現場の医師はわかっている。官僚任せにするのでなく、現場レベルでシステムを作って回していくしかない。
森田 提言の三つ目は、産科医の絶対数の増加です。私の提言の一つ目、二つ目の歯車が合えば、この問題も徐々に解決されると考えます。先日、厚生労働省がようやく医師不足を認め、医師数増加へと方針転換するようですが、時間がかかるうえに、診療科ごとの定員を確保するにはもっと踏み込んだ改革も必要でしょう。
女性医師が諦める出産
海堂 本当に実効性のある対応を行う気があるのかどうか、注意深く見守る必要があります。
国がその気になれば医師の増員はすぐできるはずです。裁判員制度導入のために、法科大学院を作って弁護士を増員するのですから。ただ、医師は口伝えによる連続性で育ちます。今は後輩を教育するゆとりすらなく、築き上げてきた医療の伝統が継続性をなくしつつある、これこそ医療の崩壊です。おっしやった個々の提言は正しいのですが、一つの箱に入れると収まりきらないジグソーパズルになってしまう。ですから僕は一回、壊れてしまったほうがいいと思います。現状で永らえたとしても延命に過ぎない。一度リセットが必要です。
森田 ただ現場の産科医としては、「お産難民」が深刻化する事態に手をこまねいているわけにはいきません。だから今できることとして、私の病院では女性医師の働き方の改善に取り組んでいます。30代40代の産科医の過半数が女性医師。多くの病院の勤務体制では彼女たちは自分の出産と育児のために離職せざるを得ない。24時間の託児所整備や勤務体制の改革が急務です。
海堂 現場レベルの改善は必要ですが、焼け石に水かもしれません。そもそも医療崩壊は国策で誘導されたのです。医師数は減り、医療費は削減。身銭を切ってでも患者を助ける医師は国の宝なのに、その良心でさえ侵食されている。
森田 日本産科婦人科学会が昨年、「産科救急医療対策の整備」などの陳情書を舛添要一厚生労働大臣に提出しました。具体的には分娩施設の集約化や過重労働に対する「相応の処遇」です。
分娩を扱った医師に1万円の手当を出したり、他科より年収を150万円増額したりする病院もある。そうでもしないと現場はもたないとの判断でしょう。
小学3年から医学教育
海堂 でも産科医だけを特別扱いしていいのでしょうか。産科は最先端かつ重要な領域ですが、一領域に過ぎない。2020年には外科の新人志望率がゼロになるとのデータもあり、産科より深刻です。ちなみに解剖の領域では、解剖率は2%に落ち込んでいるので、僕は代替案としてオートプシー・イメージング(死亡時画像病理診断)を推進しています。産科も外科も代替試案でやっていくしかないと思うんです。
森田 産科における代替試案とは、たとえば妊婦への指導なのでしょうか。確かに産科は予防医学なので、妊婦教育を徹底化する意義は大きいですね。そうすることで正常産も多くなる。
海堂 小学校3、4年から理科の半分くらいを医学教育にするといいでしょう。英単語を覚えるより、自分の体を知ることのほうが人間として当たり前ですよね。「傷の治り方やなぜ膿むのか」がわかれば、自分である程度けがを治せる。それが結果的には医療現場の軽減につながります。
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