(関連目次)→産科医療の現実 目次 医療政策 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
文献をいただきましたo(^-^)o ..。*♡
江原先生、いつもありがとうございます!!!!
分娩を取り扱う病院の減少―都道府県ごとの解析
江原 朗
北海道大学大学院医学研究科予防医学講座公衆衛生学分野客員研究員
(日本医事新報 No.4370(2008年1月26日)p86-88)
http://pediatrics.news.coocan.jp/my_paper/sinpo2008_4370.pdf
全国で病院産婦人科の閉鎖が報じられ、高い訴訟率、昼夜ない勤務などが背景にあるといわれている。しかし、高リスク妊娠においては、分娩を取り扱う病院の存在は不可欠である。そこで、分娩を取り扱う病院数の変遷と産婦人科・産科医師当たりの出生数を都道府県別に解析することにした。
1 平成8〜17年に分娩取扱い病院は23%減少
平成8年から17年にかけて、分娩を取り扱う一般病院(精神病院以外の病院)の数は、1720施設から1321施設へと23%減少した1)。このうち、産婦人科・産科が30%を超えて減少している都道府県は、岩手、宮城、茨城、群馬、愛知、岡山、高知、福岡、大分の9県である(図1)。なお、分娩を取り扱う診療所も8年の2271施設から17年の1612施設へと約30%減少している1)。
2 分娩取扱い病院が30%以上減少した県でも、病院当たり出生数が全国平均を下回るとはいえない
上記9県における病院1施設当たりの出生数1) 2)を表1に示す(17年)。全国平均は1施設当たり413人である。
大分、岡山、高知、福岡、岩手の5県では全国平均を下回っているが、群馬、宮城、愛知、茨城の4県では全国平均を上回っている。なお、病院当たりの出生数が茨城県を上回っているのは、千葉、東京、大阪、神奈川、埼玉の5都県だけである。
3 高知、岩手、茨城の3県では30%を超える病院が分娩の取扱いをやめているが、病院の産婦人科・産科医師当たりの出生数は全国平均を超えている
病院に勤務する産婦人科・産科医師3)(主たる診療科が産婦人科または産科である医師、16年12月31日現在)1人当たりの出生数を表2に示す。全国平均は医師1人当たり90人である。
高知、岩手、茨城の3県では、全国平均を上回る値を示している。なお、全国で茨城県の値を上回っているのは、神奈川(医師1人当たり122人)、埼玉(同134人)の2県に過ぎない。
4 地方の医療崩壊だけではない、都市周辺の産科医療も危険である
岩手、岡山、高知、福岡、大分といった地方では、多くの病院が分娩の取扱いを中止し、社会問題化している。しかし、茨城、愛知といった大都市およびその周辺部における産科医療の縮小も同様に深刻である。
関東地方における病院出生数は全国の35・0%を占めているが、産婦人科・産科医師数も全国の32・4%を占める。同様に、東海地方では全国の10・3%の出生に対して10・4%、近畿地方では全国の17・6%の出生に対して16・5%の産婦人科・産科医師がいる。両者の比率はほぼ等しい。一方、県別に見ると、愛知県では出生数と産婦人科・産科医師数の比率が全国の5・6%対5・6%と等しいが、茨城県では全国の2・6%対2・0%と、出生数に対して産婦人科・産科医師数が2割以上足りない。
出生数に対して分娩を取り扱う病院や医師が足りないことは、母体と児の健康上問題である。17年の周産期死亡率は、低いほうから数えて茨城県は17位、妊産婦死亡率は34位である2)。現時点では、これらの健康指標は全国の中程ではあるが、今後これらの指標が悪化する可能性も否定できない。
もし勤務医の勤務が過重であるなら、医師数を増やす必要がある。ハイリスクの出産では、産婦人科・産科だけではなく、小児科、麻酔科といった他科の医師がいる病院でなければ対処が難しい。したがって、分娩を取り扱う病院を確保することは、母体および胎児の健康を守るために不可欠なことである。
出生数が少ない地方においては、産婦人科・産科医師不足の問題は集約化により解決できる。出産時に拠点都市に宿泊すれば、利便性は落ちるものの、施設での出産は可能である。しかし、都市近郊での産婦人科・産科医師の不足問題は絶対数の不足であり、医師数を増やさない限り、解決はしない。
地方に医師を派遣することが議論されているが、逆に都市近郊に医師を集中させることも必要である。地方での医師不足の問題の解決だけではなく、大都市近郊の多くのお産難民を救う手立てが求められる。
□■□文 献□■□
1)厚生労働省統計情報部:医療施設調査,平成8~17年.
2)厚生労働省統計情報部:人口動態調査,平成17年.
3)厚生労働省統計情報部:医師歯科医師薬剤師調査,平成16年.
コメント