(関連目次)→大野事件
(投稿:by 僻地の産科医)
m3.comの新星、村山みのり記者のレポートでお届けしますo(^-^)o ..。*♡
なお、このレポート以外も
傍聴記がそろそろ出始めています(>▽<)!!!
(↑行ったのに楽しててごめんなさい)
健康、病気なし、医者いらず
8.20、福島のシンポジウム
(0)http://kenkoubyoukinashi.blog36.fc2.com/blog-entry-353.html
(1)http://kenkoubyoukinashi.blog36.fc2.com/blog-entry-354.html
(2)http://kenkoubyoukinashi.blog36.fc2.com/blog-entry-355.html
(3)http://kenkoubyoukinashi.blog36.fc2.com/blog-entry-356.html
紫色の顔色の友達を助けたい
「大野病院事件 無罪判決 前夜、当日、シンポジウム」
http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/post_35f3.html
つよぽんの避難所
8月20日、福島レポート
http://tsyosh.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/post_aa2f.html
最終的にまとめる予定です!
他の記事はこちら!
こんなにも多彩な人々が加藤克彦氏の無罪を信じていた―判決直後にシンポジウム
あと新潟日報にも載ったそうです!
「産科医療の危機に理解を」
新潟日報 2008年9月1日夕刊
▽「被告人は無罪」―。8月20日午前10時、福島地裁。全国注視の刑事裁判の判決は、法廷に入りきらなかった医師らにもすぐに伝わった。手術中の患者の死亡をめぐり、産婦人科医が被告とされた福島県立大野病院事件。ちょうど地裁玄関前で、医師らの輪の中にいた。喜ぶ人はいなかった。声という声もなく、携帯で淡々と結果だけを知人に伝える姿が目立った
▽事件では29歳の女性が帝王切開で出産後、手術中に失血死で亡くなった。医師逮捕で全国的に産科医療の現場が萎縮した。無罪とはいえ、重苦しい空気が漂った。医師らが判決後に現地でシンポジウムを開いた。どう住民とともにお産の場を守っていくか、話題はその一点に尽きた。主催したのは30代の女性医師。過労に苦しみ、家庭も崩壊しかかり、うつになって休職中の身。それでも現状を変えようと開催にこぎ着けた。
▽「みんな好きで産婦人科医をやってきた。事件を機に、現場を離れた人もつらかっただろう。どうか産婦人科医を温かい目で見守ってください」。その医師は切々と訴えた。医療者と住民が手を携え、知恵を出し合わなければ、産科医療の危機は乗り越えられないところまで来ている。一人でも多くの人に、現場の声に耳を傾けてもらえるよう願っている。
シンポジウム
『福島大野事件が地域産科
医療にもたらした影響を考える』
m3.com編集部 村山みのり
vol.1) http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080821_2.html
vol.2) http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080822_2.html
vol.3) http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080826_1.html
「福島県の産科標榜科数は15.3%減」
8月20日、福島県立大野病院事件で加藤克彦医師への無罪判決が下り、裁判が終了した直後の午後1時から、福島駅近くの福島グリーンパレスで、シンポジウム『福島大野事件が地域産科医療にもたらした影響を考える』が開催された。パネリストは、呼びかけ人である国立病院機構名古屋医療センター産婦人科の医師・野村麻実氏をはじめ、ロハスメディア代表・川口恭氏など7人。会場には150人ほどの医師や医療関係者などが集まった。
野村氏は、同シンポジウムを判決の日に開催した理由について、「有罪か無罪か分からない状態で、どれだけの社会的影響を及ぼしたかということを、一度検証してみなければいけない大きな事件だと思っていた」と説明し、次のように述べた。
「母体死亡は年に50~100件ほど起きており、民事訴訟は全国的にある。その中で、福島で“逮捕”というセンセーショナルな事件が起こった。既にぎりぎりの状態にあった産科の崩壊が、身近に、真綿で首を絞められるように感じられるようになってしまったのは、やはりこの事件が契機だったと思う。刑事で有罪ということは、前科者になるということ。産科は『10年やっていれば1人か2人は死ぬ』と言われている。そのような世界で、普通に仕事をしていて刑事事件として問われ、前科者になる可能性があるというのでは、産科医療の継続は困難である。どうしてこの事件を民事でなく刑事で扱ったのか、またこの事件によって、この福島県の産科医療がどうなったのかを考えてみたい」
多くの医師・医療関係者のほか、国会議員、一般市民など、幅広い参加者が全国から集まった。
また、もう1点の問題提起として、「報道などを通して、どうしても患者と医療が対立するように見られてしまっているが、本当はそうではなく、病気と闘う時は医療者と住民は手を結んで一緒にやっていくもの。地域医療を守るということも、やはり住民と医者が手を結んで一緒にやっていかないといけなければならない。そういうことを皆だんだん忘れていってしまったからこそ、このような事件や、これを契機に辞めていく医師が増えているのではないか」と述べた。
福島県の産科地方医療崩壊の実態
野村氏はまず、厚生労働省のデータによる医師数の変遷を資料として示し、2004年12月31日時点の産婦人科医の減り方よりも、2006年逮捕後の減り方が、福島県は全国に比べて圧倒的に著しいと指摘。また、全国的に医師数そのものは増え続けている一方で、福島県の伸び率が悪いことにも注意を促した。
続いて、施設数・標榜科の変化について、産婦人科の標榜科数が、逮捕前と現在では15.3%減少していることを提示。「圧倒的に減ってきているのが分かる」と述べた。
さらに、大野事件後分娩中止した病院が、10月に産婦人科の撤退を予定している病院を含めると、県内で実に12施設に上るとし、各地域の分娩可能施設も大幅に減少していることを提示。「分娩可能施設のなくなった南会津地方は、豪雪のときは4時間くらいかけて会津市へ行かなければならない」などの例を紹介し、「今日の判決が無罪だったことは良かった。しかし、失ってしまったものを戻していくことは難しい。住民の皆さんがどうやって残った産科、産科スタッフを守っていくか、それを考えていってほしい」と結んだ。
(*図表はすべて野村氏作成資料)
「非常に医療への配慮にあふれた判決」各立場から意見
8月20日の判決の直後に開かれたシンポジウム『福島大野事件が地域産科医療にもたらした影響を考える』では、呼びかけ人である産婦人科医・野村麻実氏(「福島県の産科標榜科数は15.3%減」を参照)に引き続き、公判の傍聴を続けたロハスメディア代表・川口恭氏、「東京女子医大事件」の被告となった医師・佐藤一樹氏など、7人のシンポジストがそれぞれの立場で意見を述べた。
◆ロハスメディア代表:川口恭氏
今日の判決を一言で言うと、非常に医療に対する配慮にあふれた判決だったと思う。問われたのは、業務上過失致死と医師法21条の2点。業務上過失致死の場合、予見可能性(事前にそういうことがあることが分かる)、回避可能性(回避できる手段がある)の二つが立証されると有罪となる。
今日の判決では、これらはあったものの、回避可能性が妥当であったか、単に可能性として可能か不可能かはともかく、相当かどうか医学的に検証しなければならない、と述べていた。そして、それが注意義務違反に当たるのかの論証をした。
検察側は「胎盤剥離の開始後、手で取れなかった時点で速やかに子宮摘出に移行すべき。それを怠った」と主張した。根拠は新潟医学大学教授の鑑定書と、一部の医学書だった。それに対し、弁護側の鑑定人2人と検察側の証人1人、計3人の医師は、誰もが「いったん剥離を開始したなら、中止して子宮摘出行うことはない。そんなことをしたら出血が止まらなくて危ない」と述べた。
裁判所は、どちらが正しいかという判断はしなかった。しかし、少なくとも、刑罰を課す基準となる医学的準則は、相当数の症例があるべきだ、つまり、そういう医療を普通に行っていることが明確でない限り、それを基準にして刑罰を課してはならない、と述べた。そこに込められたメッセージは、おそらく「医療者の皆さん安心して医療をやってください」ということだと思う。
一方で、医療と訴訟の問題を考える上で注意していただきたいのは、供述調書の問題である。被告人である加藤医師の供述調書には医学的、事実関係上おかしな部分が多くあったが、供述調書の任意性は認められ、証拠として採用された。万が一、同様の立場になった場合、絶対に安易に供述調書を作らせてはならないということは、鉄則だと思う。本当に自分に自信のあること以外は供述調書を起こさせない方が無難だ。判決では、医学的準則、医学的妥当性があるとは言えないことが無罪の根拠となったが、その部分の直前までの判決文では、ずっと検察側の主張を認めている。つまり、逆に言うと、最終的な医学的な配慮の部分がひっくり返ったら有罪になってしまうという、恐ろしい判決でもある。
◆和歌山県立医科大学放射線医学教室准教授:岸和史氏
2003年、患者への3次元放射線治療計画における指示書を技師が読み違えたことから、過剰照射する事故が起き、放射線技師4人とともに業務上過失致死容疑で書類送検を受けた。警察の厳しい取り調べを受け、私を有罪とする筋書きを示され、「認めたら許してやる」と言われた。事実と違うので同意せずにいると、「殺人罪の容疑に切り替える。そうしたらどうなるか分かっているか」と脅された。結果、私は妥協した。そうしないと許されないような状況だった。
指示の読み違えは、本当はシステムの問題であったが、「おまえのせいだ」と糾弾され、個人の責任となった。システムの問題を問うべきことについて、私個人や、ローテーションで来ていた技師までもが刑事責任を追及された。調査文書は非公開であり、専門家グループによる調査も当初拒否された。因果関係に関しては全く議論がないままの追及だった。私たちが受けるはずだった刑事罰が施行されても、それによってシステムエラーが改善されるわけではない。個人に責任を押し付けて解決を図るのは、まさに刑事国家のあり方で、そのような社会は作ってはならない。そうなってしまったのには、私たちの側にも何らかの問題、油断があったのかもしれない。
現場の状況は、現在もほとんど変わっていない。事故を生む背景となった問題点は、そのまま残っている。
◆飯田市立病院産婦人科部長:山崎輝行氏
長野県では、この4年間で産婦人科医が3割減少、同科高次病院数も4分の3に減った。
飯田市では2006年、3施設が分娩の取り扱いを中止したが、これらの施設は前年の総分娩数の約半分を担っていた。そこで、行政や医療関係者による「産科問題懇談会」を発足
(1)市立病院は連携により従来よりも多くの分娩受け入れが可能な体制を整える
(2)妊娠の初診は市立病院以外の医療機関を受診していただく、妊婦検診は市立病院と他の医療機関で連携して行い、市立病院の外来診療の負担軽減を図る
(3)産科共通カルテを作成し、省力化と情報の共有化を図る―の3点を実施した。
しばらくその体制で続けたが、その後、周辺の開業医の先生が辞めるようになり、連携先が減ってきた。そこで、助産師外来を大幅に拡充し、これと医師による外来との連携を図ることで対応することとした。この結果、市立病院の分娩件数大幅に増えた一方、2000g以下の新生児が減少する(集中的な管理が可能となったことが要因と見られる)など、一定の効果を上げた。
しかし、昨年5人いた医師のうち女性医師2名が辞めた。理由はリスクを負いたくない、手術・当直をしたくない、などだった。さらに、残ったうちの1人も「3人体制ならば」と退職を表明した。そこで、やむなく分娩制限をせざるを得なくなり、地域外、里帰り分娩をお断りすることとなった。
そのような状況下で、今年1月、舛添大臣が訪れたため、窮状を訴えた。報道の影響もあったのか、大学から医師が1人派遣されることとなった。退職を表明した医師も、週3日、ノーリスクの部分のみという条件で勤続が決まった。その後、分娩制限を一部解除、月当たりの分娩予約件数の目安の範囲で、里帰り出産を受け入れるようになった。
今後の課題としては、連携先がさらに減少していく中での地域協力体制の継続・維持、産婦人科医の増員、助産師の増員・積極的活用が挙げられる。
◆弁護士・医師:加治一毅氏
最近医療系の刑事事件では、無罪判決が続いている。医療の刑事事件は、年間に略式起訴を含め15-20件なされている。この3年を通じて考えると、4-50件の起訴のうち、4件が無罪であった。これは、一般的に刑事裁判では99.9%が有罪判決となっていることに鑑みれば、極めて高い確率と言える。
警察・検察が医療現場の事件に介入し始めているが、反面、彼等の中には医療の知識を有している人物がほとんどいないのが現状である。これが続くと、医療において、どこからが犯罪で、どこから医療従事者が責任を負うべきなのかが非常に曖昧になってくる。
医療という職業は、普通に働いていてもミスをすれば警察が介入してくる、特殊な職業。一般に、どのような職種でも、仕事でミスをすることは多少はある。しかし、ミスをするたびに、警察が来るのではないか、事情徴収されるのではないかと思うと、安心して仕事をすることはできない。そのような特殊な職業であるが故に、警察はどのような状況から介入し、またしないのかという線引きを明確にすることが、安心して働くためには必要であり、刑事司法を担う警察・検察も、これを認識すべきである。
◆綾瀬循環器病院心臓血管外科:佐藤一樹氏
大野病院事件の直接的・即時的影響は、まず「一人医長」を逮捕・拘留したため、同病院の産科が実質的廃止に追い込まれたこと、それにより近隣地区の地域産科医療が崩壊したことである。これは、医療、医師の人権が非常に軽んじられた証拠だと思う。間接的・波及的影響としては、医師が正当な治療行為により逮捕・起訴されたことにより、全国の産婦人科医療の崩壊が決定的に増幅したこと、いわゆる“立ち去り型サボタージュ”の拡大が挙げられる。
このような状況となった背景には、医師がそれまで医療だけをやっていることに誇りを持っていたことがある。そうではなく、社会を構成する一員としての自覚を持ち、意見を発していく必要があった。そこで、医師たちからの医療政策への意見発信が始まった。
医師側の主張、医療刑事訴訟への主な不満は次のような内容である。
1.過失の構成要件の類型化が不明瞭:「何をすると罪か」が事前に定まっていない
2.結果⇒遡及的結果回避義務の指摘:後出しジャンケン
3.恣意的証拠の取捨選択・客観的証拠文献の不同意:訴訟戦略上の「卑劣な証拠隠し」
4.刑事処分の再発防止は機能不全:萎縮医療の誘発
5.真の原因究明の阻害:医学発展の停滞
これらを背景に、「免責」を巡る議論・主張がなされるようになった。具体的内容としては、救急救命行為への限定、業務上過失致死罪への第3項新設など、様々な説が展開されている。
刑法には「許された危険」という考え方がある。医療においては、科学技術の発展に伴う危険な行為が存在するが、これは文明生活の維持に不可欠である。これを、否定すると、日常生活は麻痺し、文明は逆行する。そこで、これに関しては、行政上・民事上格別の考慮を払おうとする主張があるが、現時点ではこの「許された危険」についての刑事裁判における判例はない。
なお、一部の法学者は医師に順守が要求される行動基準を想定するよう求めている。各学会はガイドラインの策定を進めているが、これも実際の臨床は非常に多様であるため、ガイドラインに沿っていないからといって医師に責任が生じるかどうか、という問題を孕んでいる。
免責主張の問題点については、刑法を再検討する必要がある。今後医療界・法曹界が相互理解に基づいて友好的-敵対的な共働により、科学的認識を踏まえて議論することが望まれる。
現行法の範囲内において、現実的・切迫的視点から、以下の3点を主張したい。
1.捜査機関は、直接的・即時的に医療を崩壊させるな
2.正当な医療行為を行った医師を逮捕するな
3.正当な医療行為を行った医師を拘留するな
「検察は控訴すべきではない」と国会議員が発言
シンポジウム『福島大野事件が地域産科医療にもたらした影響を考える』第2部のフリーディスカッションでは、シンポジストの他に、全国から集まった医師、国会議員、地元の市会議員、高校教諭など、様々な立場の参加者からの発言があった。主なものを紹介する。
【国会議員コメント(発言順)】
◆民主党参議院議員・仙石由人氏
「医療」という行為が刑法上どのような評価を受けているのか、受けなければならないかが問われる。刑法35条では「正当行為」として「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」と定めている。医療行為はナマの事実としては傷害行為であるが、そもそも人間にとって必要であるので正当行為に当たり、犯罪に問われる筋合いのものではない。それを刑事事件として捜査するなど大問題である。われわれはこのようなことを許してはならない。
抽象的概念としての法律において、「ここから先は良い、悪い」というのは、誰が判断するかによっても違ってくる。法務省・検察庁には、今回の事件を教訓にして、起こすべからざることの事例を積み上げ、専門的観点からの深い洞察がなければやってはならないということを十分に認識するよう、申し出ていきたい。
◆自由民主党参議院議員・世耕弘成氏
今日の判決は高く評価する。判決が出るまでは、司法への介入になってはいけないので発言を控えていたが、判決は出た以上は、検察は控訴すべきではないということを、与党の政治家として申し上げたい。
事件がここまで複雑になった背景には、福島県が行った調査委員会が、患者と示談をするために、あたかも加藤医師の過失を認めた調査報告を作ってしまったことが原点として存在する。これを防ぐために、一日も早く、無過失保障制度を立ち上げなければならない。過失を認めた報告がなければ患者が納得できるような示談・保障に応じられないという現状は、早急に改めなければならない。この制度は、(産科医療については)来年1月には立ち上げることになっている。これを確実に運営していくことが非常に重要である。
また、遺族の方々にご納得いただき、一方、現場で働く医師が萎縮するようなことがないよう、これらを両立させるため、医療安全調査委員会を早急に立ち上げることが必要である。この中で免責の話も出ている。刑法、医師法21条としっかり向き合い、特例を明記した法律を作ることが求められる。
今回の問題には、現場の臨床の医師だけが関心を持っていた訳ではない。昨日、中学時代からの 友人である、IPS細胞の研究者・山中伸弥教授(京都大学)と話したが、判決に大変注目していた。研究が臨床段階に入り、何かが起こった際に、最終的に研究者まで責任が追求されることがあったら、日本の医学研究そのものが止まる、また、そのようなものを現場の先生も使わなくなってしまう、と心配していた。
先般、道路特定財源を一般財源化した。福田内閣が安心・安全を重視した政権であることを国民に理解してもらうため、ぜひこの財源の多くの部分を医療の建て直しに使ってほしい。これを首相にも提言していきたい。
◆民主党参議院議員・鈴木寛氏
日本の医療崩壊は二つのことが悪循環になっている。一つは医師不足、またその結果による過剰な勤務状況。もう一つは現場の医師が、刑事訴追、訴訟のリスクに日々さらされていること、それによる萎縮医療。これらがどんどん悪循環を起こし、泥沼のような2年半だった。しかし、今日はその一つの軸に歯止めが加えられた、日本の医療を立て直すための記念すべき日。
2年半前、医療の危機的状況について、国会議員はほとんど認識しておらず、むしろ医療費削減が国会の主力議論だった。しかし、今年2月に立ち上げた「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」には、現段階で、国会議員720人中150人が参加している。これが360人を超えた瞬間にこの国の医療は復活することを、心にとどめていただきたい。
現場の医師があまりにも多忙であるために、その実態すら国会や各省庁、メディアに伝わってこなかったという不幸が、日本の医療をここまで深刻にしてきた。しかし今や、医療現場が大変だということは、全国民的に共有できている。では、第二のステップ、何をどうしたら良いのかの具体論について、より精緻で真摯で真剣な議論を積み重ねていくことが重要。それぞれの人が、医師も含め、最終的には自分は患者、患者の家族なのだという原点に立って、個々の人間としてつながり合い、そのネットワークを通じて色々なことを話し合うことにより、相互間の情報の非対称性が埋まり、リテラシーが深まり、その結果おぼろげに色々な解が見つかっていく。
様々な立場を超えて日本の医療の在り方を模索し続ければ、必ず光明は見出せる。そのことを大野病院の事件を通して感じさせていただいた。今日集まっている人が、それぞれの現場に帰ってこれを深めてほしい。
◆民主党参議院議員・足立信也氏
厚生労働省の第三試案と民主党案を比較したインターネット上の1万人アンケート(「1万人アンケート!「民主党案」支持派が多数」参照)で、民主党案は3倍の支持を得た。良質な医療とは、医療を提供する側も受ける側も納得することだと思う。その納得をするためのシステムを作りたい。今回の事件の大きな要因はコミュニケーション不足、情報の行き違い。そこを埋めることが最も大事であり、そのギャップを埋める人が絶対に必要。
刑法211条の「業務上過失致死傷」については正面から議論すべき。われわれ医療者が自律的に処罰する仕組み、それ以前に原因究明をしっかりする仕組みを作らなければ、これを外すことはできない。
また、医師法19条に「求めがあった場合に診断書、検案書、出生証明書または死産証書を出さなければならな」とある。さらに、20条には「自ら診察しないでこれらを交付してはならない」とある。では、どういう場合に診断書を書き、どういう場合に検案書を書くのか、これはどこにも書いていない。21条には、それを明記すべき。診断書、検案書を書ける場合は、適切な検査に基づいてこれを書く、それが書けない場合は捜査で死因を究明する必要がある--そういう構成にすべきだ、というのがわれわれの案だ。これにより、今まで曖昧であった「異状」という概念がきちんと明文化された形として現れると考えている。
医療はする側と受ける側の共同作業であることは間違いない。それを支えるための法整備をしっかり行っていきたい。
【医師コメント(発言順)】
◆福島県立医大産婦人科教授・佐藤章氏
無罪判決が出てほっとしている。医学的にどうか、という点で、裁判官も一生懸命勉強していただいたようだ。外科系の先生方からもかなりのプレッシャーを受け、「負けたらお前責任をどう取るんだ」と言われていた。控訴期間があり、まだ最終的な結論は出ていないが、今のところほっとしたというのが正直なところ。
今後、このようなことが起こらないようにすることが極めて重要。現在はこの判例により、検察側はかなり医療分野に対して躊躇している。しかし、忘れてはならないのは、法律が変わらない限り、同様のことはすぐ起こるということ。われわれは、医療事故でこのように逮捕されるような法律を、刑事訴追の起きないような、医療行為が業務上過失致死に当てはまらないというくらいのものに変えていかなければ、この問題は解決しない。一生懸命取り組んでいくので、ご支援のほどよろしくお願いしたい。
◆北里大学医学部産婦人科教授・海野信也氏
医療の不確実性や医療者・患者間の情報の非対称性は、どうしても存在せざるを得ないことを前提としつつ、緩和の努力をしていかなければならない。しかし、今の医療現場は、その余裕を全く与えられていない。もちろん現場の努力は重要だが、それと共に、全体のシステムとして、もう少し余裕のある状況、人間らしい環境で仕事をし、治療し、また治療を受ける、という環境に、日本の医療を変えていくことが必要である。
産婦人科医不足は、大野病院事件以前から、既に危機的状況だった。その中でこの事件が起き、実際にはそれがきっかけとなって産婦人科医不足の問題が広く理解される経過となった。加藤先生がもし有罪になったら、われわれはただ加藤先生を犠牲にしただけなのではないか、と、今日も本当に心配していた。
大野病院事件を経験して感じたのは、分かってくださる方々はたくさんおられるということ。「周産期医療の崩壊を食い止める会」、日本産婦人科学会、産婦人科医会、日本医師会、その他多くの臨床学会、医療関連団体、皆同じ気持ちで進んできて、今日の無罪判決を迎えられた。医療界以外からも、多くの方々に我々の現状を分かっていただくことができた。分かっていただくことができるのだ、ということを信じることができた経験でもあった。これを糧に、今の崩壊している医療現場再建のため、皆で理解し合いながら進んでいきたい。
◆国立病院機構名古屋医療センター産婦人科・野村麻実氏(発起人:閉会のコメント)
準備段階において、判決の出る日にこの企画を開催することは、加藤医師に迷惑がかかるのではないか、裁判官への心証を害するのではないか、との懸案もあった。しかし、一方で、地元の妊婦さんから、「福島はやっぱり困ってるんです」という声もあった。そこで、判決結果はどうであれ、大野病院事件が萎縮医療を招いたことは間違いない、地元の妊婦さんは困っているに違いない、との思いから、このシンポジウムを実施した。
現在、大都市である名古屋ですら産婦人科医の人数は足りず、以前は2次病院で行っていたことも3次病院へ回ってくるようになっている。逮捕そのものが皆の首を絞めた。これは、われわれ皆が不勉強であったことが原因ではないか。司法や報道の問題、また産婦人科医自身もリスクについてきちんと触れて説明してこなかった。それぞれに、色々と反省すべき点がある。
「産科崩壊」---言うのは簡単な言葉である。しかし、産婦人科医たちは、皆ずっと好きで産婦人科をやってきた。今福島でがんばっている先生方も同じ思いだと思う。辞めていった先生方も、皆つらかったことと思う。
忙し過ぎて、疲れ果てて、患者さんのお話も十分に聞けないという状況、36時間労働を当たり前に3日に1回やるような状況を続けてきた。深夜の帝王切開には2人の産婦人科医が必要。もちろん小児科医、麻酔科医もいることが望ましいが、翌日のことを考えると2人だけで対応せざるを得ないこともある。なるべくなら医療レベルは落としたくないが、切羽詰った状況まできている。皆さまにご理解とご協力をお願いしたい。
どうか産科医療を温かい目で見守ってほしい。
【参考ニュース】
有言実行に驚きました(@_@;)・・・。
超党派議員、法相に“大野病院事件”の控訴断念を要請
読売新聞 2008年8月27日
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080827-OYT1T00260.htm
超党派の「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」の尾辻秀久会長(元厚労相)らが27日午前、保岡法相と法務省で会い、福島県立大野病院で起きた医療事故で業務上過失致死罪などに問われた産婦人科医に無罪判決が出た裁判での控訴を断念するよう要請した。
議連は「事件後、ハイリスクな医療では刑事訴追される不安がまんえんし、産科空白地帯が急速に拡大した。控訴がなされないようお願い申し上げる」とする要望書を法相に手渡した。保岡法相は「(控訴については)現場の判断に任せる」と述べた。
コメント