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なぜ産科医は減っているのか 医療安全と勤労時間・労基法 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
すっごく手抜きで申し訳ありません。
M3より。刈谷時間外訴訟の文章、M3からです(>▽<)!!!
子持ち産婦人科女医・当直民事訴訟奮闘記◆Vol.2
労働基準監督署なんて味方じゃない!
2012年1月24日 野村麻実(愛知県在住、産婦人科医)
http://www.m3.com/iryoIshin/article/147011/
労働基準法はこのような文章で始まります。
「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。(第1章第1条第1項)」
また民法では、「事業者が(略)労務の管理にあたって、労働者の生命および健康などを危険から保護するよう配慮する義務(民法第415条)」ともされています。
今でこそ勤務医の長時間労働による過労死は話題に上がるようになりましたが、多くの先生方も、過労による「自殺」や「突然死」を、同僚や先輩、研修医、部下など身近にたくさん経験されてきたことでしょう。
私はその原因が「当直」という制度に起因するものと思っていました。なぜなら、当直時間は法的に「労働時間」とはみなされないからです。厚労省労働基準局監督課が2005年4月に出した資料「医師の宿日直勤務と労働基準法」(厚労省のホームページ)を見てみましょう。「宿日直勤務者については、労働基準監督署長の許可を得た場合には、労働基準法上の労働時間、休憩、休日に関する規定は適用が除外される」とあります。労働時間から除外されるからこそ、病院は民法の定める「安全配慮義務」のうち「適正な労働時間管理」から逃れることができるのです。
しかし、同時に「医師の宿日直勤務と労働基準法 」では当直勤務の態様として、「常態としてほとんど労働する必要のない勤務」「原則として、通常の労働の継続は許可しない」とも併記されています。 しかし、実態はどうでしょうか。
産婦人科、いえ、産婦人科のみならず、救急外来、循環器内科、消化器内科、外科、脳外科、NICU、ICU、麻酔科など緊急の多い科は、昔からの「日勤」を主体とし、夜間労働を「当直」あるいは「時間外勤務」とする働き方にそぐわないと私は考えていました。「当直」は法令上でも「賃金の1日平均額の3分の1以上」しか支払いがなされず、時間外の呼び出しにもほとんどの病院でまともな賃金はつきません。
そればかりか、その時間でさえ病院側がきちんと管理しているのかといえば、「NO!」としか言いようのない実態です。緊急手術や緊急の検査、分娩。病院内に拘束されている時ばかりでなく、家にあってもいつ呼び出されるのか。いつも携帯電話と一緒に移動しなければなりません。夜間に起こされ、処置をし、先ほどした処置は妥当であったかなど考えをめぐらせながら仮眠を取り、食事中にもトイレ中にも容赦なくPHSは鳴り響きます。もちろん、当直中にお風呂になどは入れません。だから「割に合わない」科の医師が減っていくのだろう、と私は考えていました。
■刈谷豊田総合病院の場合と刈谷労働基準監督署の対応
さすがに契約上にない「時間外手当は給与の中に入っている宣言」を紙面で行った刈谷豊田総合病院は、法的にもどうかと思われたのでしょう。労働基準監督署から是正勧告が入ったようです。この内容については退職後であったため、「部外者であるから」という理由で教えてもらえませんでした。しかし、もう一つ私がどうしても是正してほしいため、最初から労働基準監督署の担当官に頼み込んでいた件がありました。それが、「時間外労務管理の不徹底の改善」および「当直とは言えない実態の『当直』の是正」だったのです。
日経メディカルオンラインの2009年3月11日「残業代、きちんともらってますか?」や、2009年4月1日「ストップ! サービス残業」などの記事を読んでいた私は、労働基準監督署に駆け込めば何でも解決してもらえるのだろうと予想していました。現実に関西医科大学の事件で当直が労働時間であることの司法判断がされた判例(最高裁のホームページ、PDF:135KB)を知っていましたし、厚労省が出した「医療機関の休日及び夜間勤務の適正化に係る当面の監督指導の進め方について(休日夜間の労働時間の算定法の記載有)」(2003年12月26日厚働省労働基準局監督課長通知、PDF:538KB)の存在も知っていました。厚労省は労働基準監督署を管轄する省庁なのですから、当然、是正命令が出されるものと思い込んでいたのです。
■突然の担当者替え
是正命令が出る直前だったと思います。私の良き理解者であった担当者が、「申し訳ないけれど上司の管轄になったので手が出せなくなりました」と言ってきました。そしてその担当者も、なんと半年も経たない間に配置換え。後から出てきた担当者は、「私には全然分からないから、とにかく署長と相談してみる」の一点張りです。
2010年の春ごろに、この担当官に出した文書の一部をご紹介します。
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刈谷労働基準監督署 ●●さま
いつもお世話になっております。 以下が昨年、提出させていただいた文書の骨子となっております。去年提出させていただいた後、担当が2度も変わり、問題の基準点がよく分からなくなった点については多少の考慮はしますが、民事上の遡及が2年で時効を迎えることから、この告発についての調査・解決が1年以上にも及びそうであることを深く憂慮し、相談から1年となった7月末までになんらかの署としての方針を打ち出していただけない場合には、今度は内容証明できる形での「刑事」告発文をお送りさせていただきます。 きちんとした対処を早急にお願いいたします。
1) 給与規定について
*)医師については、全員残業代が支払われてない。
病院が打ち出している「みなし残業時間50時間を含む」という規定は、初期の労働契約にないので無効
*)契約については、事前に取り決めが必要で、不利益変更については遡及できない。 (労働基準法第37条違反)…「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」
→解決したとみなします。
(略)
4)時間外労働・みなし管理職について
*)36協定を超えた時間外労働を行わせている
(平成20年3月31日、平成20年4月8日刈谷労働基準監督署受付書類による) (労働基準法第32条違反)・・・・「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」 管理職については、経営者と一体と見なせる要件を満たしていることが必要であり、
・出退勤の自由があること
・相応しい待遇
・経営者と同一と見なせる権限があること
が求められるが、同院の勤務医については、いずれの項目も満たしておらず到底、管理職とは看做せない。ゆえに、残業代、宿直について、労基法32条、37条の除外項目には相当しない。これは、研修医も含めて、同等である。
また、医師を含む医療従事者は労働基準法第38条に定める裁量労働制(企画型・専門業務型)の対象業務とはなっておらず、裁量労働制を採用することはできない。
みなし残業時間として、残業代を支払う場合においても、みなし残業時間を超えた部分についての支払義務を免れることはできないが、労働者に著しく不当な労働条件の改正について認められない。
労働基準法では、月の残業時間の上限として45時間、年間360時間を定めており、これを超える時間を働かせる場合においては、特別協定を定めることができるが、この場合においても、1年で6回しか援用できないため、年間を通じて45時間以上の残業をさせることは、労働基準法第32条違反に該当することとなる。
5)当直業務について
宿直業務においては、ほとんど勤務実態がないものとして、労働基準法第41条3項(労働基準法規則23条)に基づく、労働基準監督署の許可がいることと、実態が、通常業務の延長で無いことが必要である。
医師労働については、厚生労働省通達(2003年12月26日厚労省労働基準局監督課長通知、537.7KB)において、月のうち16日以上業務がある場合においては、一時間以上であれば宿直許可取り消しの基準が定められており、また実労働部分についての過不足のない時間外割増賃金の支払が指導されているところである。また長時間勤務による健康障害を防ぐため、病院自称「当直」夜間業務は、医師の交代勤務制によってまかなわれるのが望ましいと考える。
刈谷豊田総合病院では、宿直許可が実情に見合っていないばかりか、時間外の割増賃金についても適切に支払われていない。 時間外労働時間とは通常勤務外について設定されている平日16時45分以降から午前8時30分の15時間45分(25%割り増し時間:8時間45分、50%割り増し時間:7時間)であり、時間単価x21.44時間の支払がなされるべきである。尚時間外賃金を毎月の給与期日に支払わない方針を打ち出してきたというのも労働基準法に反している。(労働基準法第24条)
労働債権の時効は2年であることから、医師全員に対し、不適切に支払われなかった2年前から遡及して支払う義務があり、民事訴訟の場合同額の付加金を載せて支払うことも要求できる。
以上、労務管理の問題点を列挙しているが、労働基準法違反による刑事罰をも考慮した適切な労務管理への是正をご考慮頂きたい。
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当時のイライラとした気分が伝わってくるような刺々しい文章です。
■愛知県労働基準局への電話
しかし、それでも後任の担当官は動きませんでした。となると「上司を出せ!上司を!」となるのが人間の常となるもの。労働基準監督署は司法警察権という大きな公権力を持つ機関でもあることを知っていましたので、その動きを監視する部署が必ずあるはずだと思った私は、インターネットで「愛知県労働基準局 労働基準部監督課」が上位機関であることを知ります。
これまでの成り行きを滔々とお話しし、相談に乗ってもらい注意までしてもらいましたが、やはり担当官の態度は同じでした。再度の立入り調査は行われず、内容証明郵便で送った刑事告発状はやはり内容証明郵便で送り返され、「愛知県労働基準局 労働基準部監督課」に訴えるも担当官はのらりくらりと逃げ回るばかり。こうして刈谷豊田総合病院の「当直無法状態」は放置されることとなったのです。(続く)
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