(投稿:by 僻地の産科医)
週刊朝日 2008年5月30日号
表紙:ジャック・ニコルソン
発売日:2008年5月20日
2008年5月30日号
今週の週刊朝日です!
のんびりしてたら、どうやら今日までの発売のようで、
読みたい方は急いで書店に走ってくださいo(^-^)o ..。*♡
ではどうぞ!
緊急ワイド 崩壊!ニッポンの医療
道路厚遇、医療冷遇の福田政権、犠牲者は患者だ!
「医療レベル」は世界最高なのに
「医療環境」はサイテー
(週刊朝日 2008年5月30日号 p22-24)
この国の医療が悲鳴を上げている。医師不足、医療費抑制、患者の負担増……山積みの問題が、医療制度の“全壊”すら予感させる。その背景に見えてくるのは、命よりもカネを優先した国の姿勢だ。医療体制は最も大切なインフラの一つのはずだが、はたして医療崩壊を止める手だては残されているのだろうか。
日本の医療現場は、いつからこんなにガタガタになってしまったのか。
今冬、北海道北見市の北見赤十字病院で、内科の全医師6人のうち5人が、医師不足による過重労働などを理由に一度に退職してしまった。内科は全面閉鎖、入院・通院中の患者約500人は転院を余儀なくされるという事態が起きた。
この病院は北海道オホーツク管内で唯一、高度医療に対応できる「第3次救急医療機関」。もし同水準の病院を他に探すとなれば、距離にして160キロも離れた旭川市まで足を延ばさなくてはならない。
これはまさに、地方における医療崩壊の象徴的なケースだろう。新たな医師の確保は難しく、内科外来はいまだ閉鎖されたままだ。
そして医療崩壊はいまや、一地方だけの問題でなく、全国に波及している。
・長野県の赤十字病院が医師不足を理由に閉鎖
・静岡県で産婦人科医の撤退を派還元が申し入れた
これらは、今年になって新聞で報じられたものだが、医療現場が大きな危機にあることを感じさせられる。
こうした現状を、現場の医師はどうみているのか。済生会栗橋病院(埼玉県栗橋町)の本田宏副院長はこう話す。
「医療崩壊の背景には、医師数の絶対的な不足があります。そのため現場の医師には過度な負担がかかり、結果的に救急患者の受け入れ不能や、勤務医が病院を辞めてしまう『立ち去り型サボタージュ』が出てくるのです」
厚生労働省はこれまで、日本全体で医師数は増えており、現場の医師不足の原因は地域間や診療科間の偏在にあると主張してきた。しかし、本田副院長は厚労省の主張を真っ向から否定する。
「医師不足の原因が偏在だという国の主張はデタラメです。海外と比べると医師不足は明白です。医師を養成し、設備を整えるには医療費が必要ですが、これも他の先進各国と比べると、日本は世界一の高齢化社会にもかかわらず極端に少ないのです」
経済協力開発機構(OECD)の調査では、加盟30カ国の平均医師数は人口千人あたり3・1人で、日本は2人と先進諸国の中でも最低ランクだ(図参照)。日本の医師数は約26万人なので、OECD平均にならうとすれば、あと14万人が必要となる。都道府県ごとにみても(図参照)、最も医師が多い京都府ですら、先進国平均には遠く及ばないのだ。
また日本の医療費は、医師数と同様に増加傾向にあるのだが、やはり先進国と比べると少ない。ちなみに、05年度の医療費約33兆円のうち、国庫負担は約8兆3千億円だ。
一方で、世界保健機関(WHO)が00年に行った「健康達成度」調査では、平均寿命や費用負担の公平性などからみた結果、日本は世界1位とされている。少ない医師、少ない医療費にもかかわらず、国民情保険というシステムのもとで質の高い医療が提供されていたことになる。
国際的には高い評価を受けているにもかかわらず、なぜ医療崩壊と呼ばれる事態が起きているのか。
前出の本田副院長いわく、
「医師不足や医療費抑制は、1983年に厚生省の役人が唱えた『医療費亡国論』に端を発します。医師増による医療費増が日本の経済発展にはマイナスだとして、医学部の定員を削減する方向に舵を切ったのです」
医療費亡国論の趣旨はこうだ。医療費が伸び続ければ、税負担と社会保障負担が増え、日本社会の活力が失われる――。
この亡国論に基づき、医学部という「蛇口」を絞ったことにより、現場に供給される医師が減り、1人あたりにかかる負担が増えていった。
さらに医師の負担は別のところでも増加する。東京医科歯科大学大学院の川渕孝一教授(医療経済学)はこう指摘する。
「患者の消費者意識が急激に高まったのです。その結果、医療ミスもメディアで大きく取り上げられるようになりました」
その契機となった出来事として、川渕教授は、99年に横浜市立大学医学部附属病院で起きた事件を挙げる。肺手術をする患者に心臓手術、心臓手術をする患者に肺手術をするという前代未聞のミスが起き、執刀医や看護師計6人は罰金刑を受けた。
実際、手術ミスなどによる医療訴訟の提訴件数(最高裁調べ)は、99年に678件だったのが、5年後の04年には実に1・6倍の1110件にまで達している。
提訴件数の増加は、訴訟のリスクを避けるために難しい治療を積極的に試みない“萎縮医療”を生む原因になるという声もある。現場の医師は医師不足や訴訟リスクから肉体的にも精神的にも追いつめられた状況にある。とりわけ産婦人科、小児科、外科といった診療科では、なり手が少なくなり、一部の勤務医は、労働環境に恵まれ、断然収入のいい開業医に転向しだしている。
さらに川渕教授がこう話す。
「医師の絶対的不足に加え、現在の医師不足を決定づけたのは医局制度の崩壊です。そのきっかけは、04年に始まった新しい臨床研修制度と独立行政法人化でした」
以前は、大学の医局が人事権を握り、医師をどこの病院に派遣するかは教授の一存に委ねられていた。良くも悪くも、この「医局制度」によって全国各地にある大学の関連病院に医師が供給され、人員もある程度確保されていた。
しかし新制度では、研修医の選択肢が増え、自由に研修先を選べるようになった。高度な医療を学べる大きな病院に希望が集中し、研修を終えても医局に戻らないケースが増えた。川渕教授は言う。
「医師を確保したい大学は、それまで市中の病院に派遣していた医師を引き揚げ始めました。いわゆる“ドクターの貸し剥がし“です。大学病院からの派遣医によって支えられていた病院は立ちゆかなくなってしまったのです」
国立大学の法人化も、その“貸し剥がし”に拍車をかけた。
「独法化で、大学病院は収入の2%にあたる補助金をもカットされました。病院としてはそのカット分を埋めなくてはいけない。そこで医師を育てる費用を節約しようと考え、すでに一人前になって別の病院に出ていた医師を、大学に引き揚げたのです」(川渕教授)
小泉改革により病院経営は悪化
医療崩壊はこうして急速に拡大した。医事評論家の水野菜氏によれば、小泉政権の医療制度改革が火に油を注いだ。
「痛みを伴う改革」のもとで診療報酬の引き下げを続け、収入が目減りした病院は経営が悪化した。病院では「患者をどうやって集めるか」が重要なテーマになり、病院間の競争が加速した。その弊害だろう、一部の病院では診療報酬の低い長期入院者を断るところも現れた。
十分な治療を受けられなくなったのに加え、小泉改革では患者個人の自己負担も増やし、現役世代の保険料も上げた。それだけではない。そうして高齢者に負担増を強いる悪名高き「後期高齢者医療制度」を生み出したのだ。水野氏は言う。
「自己負担というのは、『為政者』からすれば楽だが、庶民にとっては深刻な問題です。医療費の抑制を進めた小泉内閣の5年あまりで、弱い立場の患者は自己負担増に苦しんできたのです。庶民の感情を理解せずに医療費削減を断行した英・サッチャー元首相の改革と同じです。サッチャーは途中で自らの非に気付いたが、日本はどうでしょうか」
もはや医療の死は、すぐそこまで迫っている。カネにも病院にも困らない政治家や官僚に、この国民の痛みがわかるのか。病院は都合が悪くなったときに逃げ込む場所ではないことだけは、肝に銘じてほしい。
明日は、下記のうちからいくつかをお届けしますo(^-^)o
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