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(投稿:by 僻地の産科医)
さて、こちらは刑事事件です。
そして、今話題の第三次試案とも大きな関わりがあります。
尚、14回目の最終公判についてはこちらを参照に!
↓
あと、こちらも見てください(>▽<)!!お願いします。
ボールペン作戦で「医師の刑事免責確立を」
キャリアブレイン 2008年5月19日
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/16094.html
福島県立大野病院事件◆Vol.12
安易な刑事介入を牽制する弁論を展開
「医療水準」の検証求め、立証責任を検察に課す
橋本佳子(m3.com編集長)
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080519_3.html
5月16日行われた福島県立大野病院事件の最終弁論(『「無罪」と最終弁論で弁護側が改めて主張』を参照)において弁護側は、医療事故と刑事事件として扱う以上、臨床医学の現実を踏まえ、かつ医学的見地に基づく立証の重要性を繰り返し強調した。この事件が医療界に与えた影響は大きく、昨今の“医療崩壊”の一因とされる中で、安易な刑事介入を牽制する弁護側の姿勢の現れだろう。
まず弁護側が指摘したのは、この事案の位置付けだ。「クーパーを使って胎盤剥離を無理に継続したことが大量出血を招き、それにより死亡した」という加藤克彦医師の裁量そのものが問われている事案であるとし、「薬の種類や量を間違えたり、誤って臓器や血管を切ったり、あるいは医療器具を体内に残置したというような明白な医療過誤事件ではない」とは性格が異なるとした。
したがって、「患者の死亡」という結果の重大性から、加藤医師の行為の是非を問うことはできず、「死亡に至る過程」を医学的見地から詳細に検討を行うことが不可欠だとした。具体的には、
(1)どの時点のいかなる行為に問題があるのか
(2)取り得る回避措置があったのか、あるとすればその具体的内容(回避可能性と結果回避義務の内容)
――について立証することが必要で、その責任は弁護側ではなく、検察側にあることを強調した。しかしながら、実際には検察は立証責任を果たさず、「立証責任がある事実については、その十分な論述を避けつつ、推論と断定を繰り返し、自らの主張が立証されたかのように述べ、一方で、弁護人の反証に対する論難に紙幅を費やした」と指摘した。
「医療水準」を多用し、証拠と証言で検証
次に挙げられるのは、「医療水準」という言葉を多用した点だ。前述のように、医師の裁量が問われる事案であれば、その当時の医療水準は何か、それに合致した医療を行っていたか、それを検証するのが重要であるという論理からだと推測される。「いうまでもなく、検察官は医師でも医療の専門家でもない」とし、「本件施術時点において、何が診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であるのかを慎重に見極めなければならない」とした。
例えば、検察が主張する「胎盤の剥離が困難になった時点で、剥離を中断して子宮摘出術に切り替えるべきだったが、それをしなかった過失がある」とする点。
これに対して、弁護側は、
(1)この裁判に提出された証拠の中には、1件も子宮摘出術に切り替えた症例はない
(2)この裁判に出廷した弁護側、検察側の証人のいずれも、胎盤剥離を開始したら完遂すると証言している
――などの点を挙げ、加藤医師の判断は「臨床医学の実践における医療水準にかなうものであり、術中の医療処置は、医師の裁量として合理的であり、妥当かつ相当」と述べた。
鑑定人の専門性も徹底的に問題視
その上、鑑定人や証人の専門性を重視し、さらには捜査官・検察官の医学的知識を問題視した点も散見された。この公判において、直接的な関係者以外で証言した医師は計5人。検察側2人、弁護側3人という内訳だ。
検察側の証人は、地元の福島県立医科大学の病理医(患者の死亡直後の病理検査や鑑定などを実施した病理医)と、腫瘍学が専門の大学教授(鑑定を実施)。一方、弁護側の証人は、胎盤病理を専門とする病理医1人(鑑定を実施)と、周産期医療の第一人者である大学教授2人だ。
今回の事件は、「胎盤の癒着部位と程度」が重要な争点であり、それを判断するために鑑定が行われた。弁護側が依頼した鑑定人は非常に経験が豊富(26年間で5万例を超す胎盤の病理診断を実施。うち癒着胎盤は24例)である一方、検察側が鑑定を依頼した病理医は癒着胎盤の経験は1例のみだった。
「(弁護側鑑定人の)病理鑑定の結果の信頼性、信用性は、検察側鑑定人のそれと比較して極めて高い」とした一方で、検察側の鑑定人については「自己の鑑定結果に固執しており、同医師の一連の鑑定は極めて信用性が低いと言わざるを得ない」「鑑定書および証言は、浅薄な知識経験に基づくずさんなもので、しかも数度にわたり変遷を繰り返しているのであって全く信用できないことは明らか」などと手厳しく批判した。
捜査官、検察官の医学的知識を問題しされたのは、例えば起訴前の加藤医師の供述調書の任意性との関連においてだ。取り調べは、捜査官と加藤医師との問答で行われるため、捜査官の医学的知識が不十分であれば、結果として調書も医学的常識に反するものになるとした。「被告人は、取り調べを受ける立場にあるから、捜査官が発問した内容について返答をするものであるけれども、発問をする捜査官の医療知識が不十分であると、その質問は本件事案の解明から的外れなものとならざるを得ない。このことは、本件調書中には、自然科学者である医師の被告人が供述したとは到底考えられない基礎的医学的知識の誤りが公然と存するなどの事実からして、被告人が任意に供述したものではないことが明らか」などと指摘した。
「医療事故の届け出制度を変えること自体は支持」
公判後の記者会見で、主任弁護人の平岩敬一氏は、「今回の逮捕・起訴は、産科医療だけではなく、外科、救急医療までにも大きな影響を与えた。はっきりと裁判所が無罪と言うことで、医療現場の混乱が収束し、不安を抱えたままで仕事をしなければならない事態が改善することを期待する」と述べた。
厚生労働省は現在、診療関連死の死因究明や再発防止などを行う「医療安全調査委員会」の設置に向けた検討を進めており、この4月の初めに「第三次試案」をまとめた(『21条改正で前進だが「警察への通知」残る』)。
この議論の契機となったのが、この福島県立大野病院事件だ。医師法21条の届け出、さらには前述のように医療に精通していない捜査官が取り調べを行うことが問題視されたからだ。
平岩氏は、「微妙な問題」と前置きした上で、「今回の事件は、まず起訴が誤っていたと思う。専門家の意見をきちんと聞かなかったからだ。聞いていれば、起訴はなかったのだろう。こうした意味からすれば、医療の素人の警察に届け出する現在の制度はやはり誤りだと思っている。今検討されているように、医療の専門家で構成する調査委員会に届け出を改めること自体は正しい方向性だ。21条が改正されて、制度が大きく変わること自体は支持したい。ただ今、様々な学会がシビアな意見を出している。それは制度を変えるのだったら、最善のものにしたいという意向からだろう」と述べ、制度の細部はまだ検討の余地があるとしながらも、制度を変更する方向性は支持した。
大野病院事件公判が結審
死因究明制度めぐる議論への影響は
-求められる医療安全対策の行方-
Japan Medicine 2008/05/23 ニュースの深層
http://
現在、議論となっている診療関連死の原因究明制度を考える上で、その発端となったといえる福島県立大野病院事件の第1審公判が16日、結審した。
帝王切開中の胎盤剥離を継続したことが原因で、妊婦が出血多量により死亡したのを「基本的注意義務違反」などとした検察側は禁固1年、罰金10万円を求刑。それに対し、弁護側は「標準的な医療行為」と無罪を主張、真っ向から対立している。
両者の主張を司法はどのように判断するのか。そして、事件の教訓を基に、どのような死因究明・再発防止の仕組みをつくり上げることができるのだろうか。
◎「家族にわかっていただきたいが・・・」沈痛の面持ちで加藤被告
「もっといい方法はなかったのかと思うが、どうしても思い浮かばない。家族に分かっていただきたいが、なかなか受け入れていただくのは難しいだろう」-。
事件で業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた執刀医の加藤克彦被告の最終陳述。自らの潔白を声高に主張することなく、遺族への謝罪と執刀医として自責にさいななまされている現状を静かな口調で語る、傷心した医師の姿がそこにはあった。
閉廷後の記者会見で、被告弁護人の平岩敬一弁護士は、「医療の専門的知識に欠ける警察への届出を義務付けている現状は誤り。その部分が改善されれば、今回のような事件は起こらないと思う」と延べ、死因究明制度創設に向けた厚生労働省の第3次試案に賛同する意向を表明した。
◎死因究明制度の関連法案提出は微妙な情勢
厚労省が4月に示した第3次試案は、過失があたことが明らかな場合など、一定の基準に該当する医療死亡事故を、新たに立ち上げる医療安全調査委員会(仮称)に届け出る仕組みを打ち出している。ただ、この試案に基づく関連法案の今国会への提出は微妙な情勢だ。制度創設をめぐり、警察庁の米田壮刑事局長は4月4日の衆院厚生労働委員会で、第3次試案に基づく調査委の枠組みについて、「刑法上の業務上過失はそのまま。患者や遺族からの訴えがあれば捜査せざるを得ない」との見解を表明。
こうした発言は、インターネット掲示板などで話題を呼び、「調査委は骨抜きになる」「厚労省の権限の増大」という憶測も含めた議論が過熱している。病院段他や学会も、第3次試案に関する賛否がまとまっていない。一方、医療過誤の遺族団体は5月14日に第3次試案は「医療側への大幅な譲歩」と主張し、関連法案の早期国会審議開始を求めて会見した。この中で、ある団体代表者は「第3次試案に反対しているのは、一部のインターネット好きな医師だけ」などと批判を繰り広げ、賛否の分かれる医療界をけん制した。
◎複雑な医療事件の証拠判断能力は
大野病院事件の公判でもう一つの重要なのは、高度な専門性を要する医療行為の中で起きた事件の過失の有無を証明するための証言、証拠を判断する難しさである。膨大な量の証拠、証言の妥当性を主張するために、検察側の論告は半日、弁護側の最終弁論は1日がかりに及んだ。弁護側の最終弁論では、被告の取調べの過程などを通じた検察側の専門性の欠如を指摘する場面が多かった。
この状況を鑑みた上で、さまざまな課題を抱えた死因究明制度の創設を急ぐべきか。それとも、医療事故の刑事免責に固執し、当面は現行法制度の維持を受け入れるべきか。医療界はもう一度原点である事件を振り返り、医療安全のあり方を考察すべきだろう。
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