(関連目次)→医療事故安全調査委員会 各学会の反応
(投稿:by 僻地の産科医)
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社団法人兵庫県医師会
会長 西村亮一
「医療の安全の確保に向けた医療事故
による死亡の原因究明・再発防止等の
在り方に関する試案−第三次試案−」
に対する意見について
平成20年5月9日
1.はじめに
通常このようなパブリックコメントについては、短期間に期限を設定して、殆ど法案が固まった中での「通過儀礼」と化すことが多い中にあって、あくまでも、「試案」として、広く意見を求めようとされる姿勢自体は評価します。これに対し、実際多くの貴重な意見が既に提起・公開されており、安易な「集約」による法文化を戒め、以下の本会意見も含めて、それらを更に十分斟酌した対応を願うものです。
依然として課題を多く残したこの「試案」レベルでの包括的賛否や貴省への委任を決めることはできない筈であり、さもなければ「試案」とは言えません。
今回の試案に至る契機となった医療現場への不当な刑事介入が、本格的な「医療崩壊」の引き金を引いたことは紛れもなく、その根拠とされている医師法第21条なり、刑法の過失致死罪等適用の問題については、それ自体の是非と必要な改正の検討が、法務刑事当局側からも具体的に示されなければならず、以下の「医療安全調査委員会」等の設置との取引や曖昧な口約束で「謙抑的に」と済まされる問題ではありません。そのような法改正や解釈の明文化がまず前提となります。
その上で、あくまでもその標記に相応しく「医療事故死」の原因究明と医療安全への対応が、担当者も真実を語れ、また患者家族の側から見ても公正になされる方策として、提案の当該委員会の設置等が前向きになされることを希望するものです。
2.医療安全調査委員会(仮称)について
本会では既に「第二次試案」の段階で、当該委員会設置について、第一に、その設置における中立性、第二に、その審議及び報告の中立性を求めてきたものです。今回の試案は一部それに見合った修正もありますが、基本的な課題を残しています。それが、既に指摘されているような厚労省の権限強化や社保庁職員の天下り先拡大で終わるようなことであっては決してならないことを、まず指摘しておきます。
[委員会の設置](6)〜(15)
(6)(8)において、「国の組織」としながらも、それを厚労省設置とするか否かについて、両論併記となっています。後に出てくる「行政処分」の所轄官庁たる厚労省が設置運用することは明らかに中立性を損なうものとして、本会は反対します。
また、国家機関として所謂専門家を集めた委員会が下す判断や決定は、その後の言わば規範となって、それ以外は不十分か何らかのエラーとされ、後の民事事件等とされたときに、担当医側には極めて不利な証拠として突きつけられることが考えられます。個別臨床では理想モデルはむしろ多くないことが理解されていません。
(7)医療関係者の責任追及を目的としたものではない、と規定していても、外部介入の結果として、それに「公的資料」を提供するのであれば同じことになります。従って、設置予算等は行政的にバックアップするとしても、その中立性を担保する構成と運用につき、さらに十分な検討を必要とすると考えます。
その際の中立性とは、当事者を遠ざけるのではなく、率直で十分な証言等の機会が与えられ、あくまでも現場でのひとつひとつ違った条件の下での判断が的確になされる保証を指すものです。関係職能代表者が関わるとしても、あらかじめ、いずれかの立場に立ったもの同士の交渉や取引の場に決してなってはならないのです。
その設置にあたっては、WHOが2005年に公表している「医療安全に関する設計図」(WHO Guideline for Adverse Event Reporting and Learning System )を基本とすべきとの意見を本会も支持するものです。
[医療死亡事故の届出](16)〜(24)
まず、(16)本件表題にある「医療事故による死亡」なのか「医療(過程での)死亡事故」なのかといった定義と使用方法すら曖昧となっており、(17)その届出基準を前案より明確にしたというものの、(図表)「誤った医療を行ったことが明らか」から分岐するその判断基準は必ずしも明らかではなく、また、医療機関側の判断にて「届出不要」と判断しても、結局次項(25)の[遺族からの調査依頼]があれば委員会調査にかかるわけであり、対象事例は際限なく拡がる可能性を持っています。
また、(18)届出先が管轄大臣でその大臣が指示して初めて委員会が作動するような構造は、その迅速・円滑な対応を阻害するものでしかありませんし、その大臣の権限強化に過ぎないとの批判は免れません。(19)さらに、医師法21条の改正ではなく、その届出事例のみ例外と規定されるとすれば、結局、殆どの事例を報告届出させることになるのではないでしょうか。
全国的な医療安全施策に資する原因究明という本来の目的に合致した事例に絞り込むプロセスが明確にされなければ、届出も限定されませんし、処理不能の状態になることは明らかです。それは関係者すべてにとって不幸であり、対応する職員の職場確保をしているにすぎません。
[地方委員会による調査](27)〜(31)
これも、前述のとおりのWHOガイドラインに準じた中立性担保を前提とした調査として計画実施されなければなりません。そのためには、誰がどのような責任と人員・予算で、どの程度の処理を前提とするのかとの制度設計自体が明確にされなければ、上記のとおり膨大な届出を想定した場合、全ては絵に描いた餅か、むしろ、現場での処理を遅延・阻害する要因にすらなりかねません。さらに、その調査報告書についても、処分等と完全に切り離されたものでなければ、その客観性・中立性は担保されません。また、学術的専門的な報告書と患者家族向けの説明書を混同した(28)ものでは、いずれも満足させられません。
[院内事故調査委員会と地方委員会との連携](32)〜(36)
既に、全国医学部長病院長会議も声明されているように、大学病院にあっては、過去の教訓から院内の該当委員会が殆ど設置運用され、実際上の成果を上げているとのことで、このような現場サイドからの自主的で患者家族とも合意された調査と報告がなされる場合、あらためて地方委員会等が介入しない等の連携を優先すべきです。つまり、地方委員会の元に院内委員会が設置・指導されたりするものではないことを明確にしなければなりません。
[中央に設置する委員会による再発防止のための提言等](37)(38)
このような全国の事例を集約して制度改革に結びつける機能は必要ですが、それが単なる現場レベルでの「再発防止策」の提言ではなく、次節にも述べられている「システムエラー」の観点を、背景となる医療環境・医療政策にまで幅広く捉えて、政府や関係機関に提言できる、またそれは尊重されるものと規定されるべきです。
[捜査機関への通知](39)(40)
どのように「悪質な事例」と限定したとしても、当該委員会からの直接の通知制度がある以上は、何度も触れてきた中立性を否定するもので、認められません。明らかな犯罪行為によるものであれば、もとより当事者によって適時告訴等がなされれば良いことであり、調査の結果としてそれが明らかとなった場合も同じです。
医療行為における事例での隠蔽など真相究明阻害行為があれば、それはこの委員会調査への妨害として別途処理すべきことです。真相究明を任務とする本調査委員会にとっては、繰り返し例はその真相の根幹をなす場合の指摘と再発防止への提言に結びつけ、明らかな故意は犯罪として別扱いすべきで、「重大な過失」についても、「医学的な判断であり、法的評価を行うものではない」とする以上、捜査通知に結びつけるのは矛盾しています。「重大な過失」がどのような状況でなされたかこそが真相究明の大きな課題でありこそすれ、「重大な過失」として通知すれば足りるとすることは、本末転倒で任務放棄とも言えます。
公開の報告書と、必要な場合の患者家族への説明等が適切になされれば、その後の判断等には関与しないのが、委員会の本来のあり方と思われます。
またこのような調査事案について、その報告がなされる前に強制捜査等がなされれば、真相究明を阻害することはいうまでもなく、また、直接の通知が無いからとして、これを無視した捜査が後からなされるのも問題です。いずれにしても、捜査側の判別等については、通知ではなく本委員会報告を十分踏まえることを担保としたものに、その関係が明文的に整理されるべきです。
3.医療安全調査委員会以外での対応について
「民事手続、行政処分、刑事手続については、委員会とは別に行われるものである。」としながら、前項の刑事捜査への通知制度をシステム化するのでは、独立とは言えず、更にこの節で、民事対応や行政処分ともこの委員会を実質的に結びつける展開がなされており、結局この委員会が絶大な権限をもつ危険性が高いものです。
[遺族と医療機関との関係](41)〜(45)
委員会調査とその報告書が、(43)「遺族への説明や示談の資料として活用され」「早期の紛争解決、遺族の救済につながることが期待される」とされていますが、逆に、現場での十分な説明等により紛争となっていない事例にあっても、その報告書で問題点が一部でも指摘されれば、遺族としては再度その責任を問う誘因となり、紛争を惹起することも考えられます。ましてや、それが「国の組織」として権威づけられ、専門家の認定として利用される場合、民事訴訟だけではなく、刑事告訴や改定が迫る検察審査会等への遺族側の強力な証拠とされる可能性も高いと考えられます。
このように死因究明と再発防止・改善点の追求という委員会と報告の目的と、その責任追及は別としながら、無前提に責任追求に資することになれば、その後の委員会への当事者の関わりと真相究明への協力に重大な制約となります。従って、調査着手はもとより、その報告書のあり方も十分吟味されなければならず、遺族側・非専門家への説明は更に注意深く準備されるべきです。単に専門用語を易しく読み替えれば済むレベルの問題ではありません。
委員に選出されるであろう専門家達が最先端の理想モデルから現場のアレコレを批判的に取り上げるような形と、あくまでも標準的なレベルからの逸脱では意味が全く違うこと、ひいては「死亡=何らかのエラー」といった考え方ではなく、生命・医療の本来的な不確実性まで、隠蔽ではなく理解を得るものでなくてはなりません。
いきなりの告訴等ではなく、本委員会に調査委託を勧める以上、それに十分応え相互に納得できる公正・中立な内容を提起しなければなりません。
(44)(45)その上でなお紛争となった場合の処理について、ADR等に触れてありますが、既に日医にあっても医師賠償責任保険等の長い取組の歴史と蓄積があることには触れておらず、今回の委員会設置に併せて、全てを上から再編設定するなどは本件試案の領域を逸脱しており、改めて関係官庁・機関全体で検討すべき事項と考えます。
[行政処分](46)〜(49)
本委員会が目的とする再発防止への提言が具体的にどのように実施されるのかといったプロセスは全く明示されないまま、この行政処分となっており、結局再発防止は、一部の刑事通報とこれら行政処分に帰することと受け止められます。
個人への処分は抑制し、システムエラーを重視した医療機関への処分が強調され、一歩前進とも受け止められています。しかし、冒頭より述べているように進行する「医療崩壊」に曝される医療機関側に対する命令や処分で直ちに再発防止に繋がる改善が得られるほど余裕がなくなってきていることこそが、事故の本当の原因とすれば、そのようなシステムエラーの観点は、むしろ、現今の医療制度そのものまで見直すことを要求しています。
このような安易な処分と医療機関恫喝では何らの進歩も無いと思われ、委員会の規定とは全く別なものとして処分等は切り離し、より前向きな改善プロセスを提起すべきです。現場を硬直させる安易な医療機関処分規定導入には反対します。
4.おわりに
以上のとおり、全編にわたってその問題点を指摘してきましたが、肝心の捜査機関との関係性などが別紙となっており、また、その解釈も、法務刑事当局と十分すり合わせがなされているとしながらも、その後の国会委員会審議の中では、確たる文書確認もなされていないことが明らかにされてきています。
厚労省や日医は騙されているのかとの声も聞こえる中、厚労省だけでリード出来る問題でもないことを十分踏まえるべきです。
(50)(51)では、更に広く国民的議論を求め、2−3年の準備期間を置くとしていますが、貴省や法務刑事当局ともしっかり詰めてきたとされる日医の担当役員が、この試案でいかなければ、明日にでも福島大野事件の再発があるかの如き発言で日医内でのとりまとめを何故か急がれているのは不可解です。
一部報道で日医内の直近アンケートで8割が賛成などの表現には語弊があり、その他の学会意見も含めて「賛成」の中にも多数の疑問や留保点があるものであって、全面的賛同はむしろ少ないことを強調しておきたいと思います。関係学会や現場第一線の勤務医グループ等より、この第三次試案よりも遙かに具体的で有意義な提案がなされてきています。下案段階で、これ程全国から意見の集まった法制度はむしろ稀ともいえる状況を活かすべきです。
あくまでも、死を不可避とする現場医療がこれ以上追い詰められることなく、患者家族との信頼関係のもとで、いうところの「安心・安全な医療」が確保されるよう、2000億円削減といった枠組みに縛られた低医療費政策を根本的に改める中での諸制度の改善を進めるべきです。
本会の一意見も参考とされ、拙速な法制化によって本末転倒とならないよう更に十分な検討を重ねられることを切に希望するものです。
以上
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