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(投稿:by 僻地の産科医)
本日、大野事件の裁判です!!!
■新連載医療の現場 ①医師不足は本当か■
きつい仕事で感謝もされず
訴訟沙汰ではなり手がいない!
産婦人科医が減少する本当の理由
(財界ふくしま 2008.2 P30-37)
http://www.zaikai21.co.jp/zaifuku/index.html
このところ医師不足に関する問題がかまびすしい。発端は2004年12月に本県で起こった県立大野病院の出産後における医療過誤事件。 2006年2月に担当医師が業務上過失致死と医師法違反で逮捕、起訴されると、「これでは医師のなり手が少なくなり、医師不足に拍車がかかる」と医療界は一斉に反発、改めて医療現場での「医師不足」問題が大きく喧伝されるようになった。「確かに医師不足だが、それは特定の診療科目と僻地だけ。厚生労働省が言うような一般論ではない。医療の現実を直視して、厳しい実態を理解してほしい」という声が医師の間に上がっている。本誌は隔月連載で「医療問題の実態」をレポートしていく。
県立大野病院医療過誤事件の波紋
平成16年12月17日に県立大野病院で発生した医療過誤事件は18年2月10日、福島県警(富岡警察署)が担当の産婦人科医師を業務上過失致死と医師法違反で逮捕され、現在、福島地裁で公判中だ。
事件の内容は16年12月の同日、帝正切開児娩出後の母体癒着胎盤剥離特に起きた大量出血のため患者が亡くなった、というものである。県では17年1月に医療事紋調査委員会を設置して原因を調査した結果、何年3月に医療ミスを認め、担当医師と病院長に懲戒処分を下していた。
逮捕理由については本誌でも2006年7月号と12月号でも触れているので言及しないが、「逮捕、起訴されて刑事事件になった」ことへの波紋は大きかった。
「報告書を読む限り癒着胎盤は予知の難しい症例。産科医師がもう1人いれば何とかなったかも知れないが、1人しかいない。これを手術ミスと見るのか。民事裁判になるのはしようがないにしても、逮捕は絶対におかしい」(福島市内の産科医)
「報告だって県にはしてある,問題は県から警察へ報告がなかったと。そもそも、診療体制が不備ですよ。お産はいつあるか分からないそれだけでなく開業の産科医院は実質産婆さんみたいなもんです。難しいのは中核病院に回している。だから、病院が24時間対応するなら医師は最低でも2人は必要です。それが大野病院では1人しかいなかった、それで医師が悪いと逮捕されるのはおかしい」(郡山市の内科医)
という”批判“が続出したのであった。獨協大学の寺野彰学長などは「検察・警察のフライングであり捜査ミス」とまで言い切ったのである。
なぜそこまで批判するのか。内科医の1人がいう。
「厚生労働省は『医師は不足していない、偏在しているだけだ』といっていますが、認識不足だと思います。産婦人科の特に産科医不足は甚だしい。大野病院での逮捕は、これから医者になろうという医者の卵たちに悪い影響を与える。
そもそも医療は100%絶対完全ということはない。例えば1000例の症例をやった医者がいてもすべて100点満点の医療をすることは出来ない。1つくらい70点のものもあるんです。大野病院の担当医だって年に200人のお産をやっていたのでしょう。それでこの事件1つで逮捕です。刑事事件では下手をすれば医師免許が剥奪されてしまう。それでは誰だって産科医になろうという気特ちにはならないでしょう。刑事事件になったことは産科医師不足にますます拍車をかけることになると思います」
と、危機感を訴えるのである。
厚生労働省は「医師過剰」対策をやってきた
旧厚生省は昭和45年から60年を目標に「人口10万人あたりの医師の数を150人」にすべく医科大学の定員を増やしてきた。その結果、年間8000人の医師が毎年誕生するようになり、目標は58年には達成された。
そこで同省は59年に設置した「将来の医師需給に関する検討委員会」で将来の医師需結バランスを検討した結果、平改37年には全医師の1割が過剰になるとの将来推測を受けて同7年を目途に「医師の新規参入を10%削減する」ことを決めた。しかし、当初の見込みの削減が目標に達しなかったため。5年の「医師需給の見直し等に関する検討委員会」で“将来の意思過剰の適正化”が提言された経緯がある。
その後も介護保険制度の創設なが加新たな要素が加わったものの、9年に「医師数を制限する」閣議決定が行われたことで「医師の需給に関ずる検討会」を設置して検討したが、「地域的にみて医師の配置に不均衡がみられるものの、医師の過剰問題がより一層顕在化し始める」という報告書がまとめられた。
しかし、近年、特定の地域や診療科目での医師不足を指摘する声が強まったことで、17年に厚生労働省は新たな「医師の需給に関する検討会」(座長・矢崎義雄独立行政法人国立病院機構理事長)を設置した。その結果が18年7月に報告された。そのかいつまんだ内容が前述した内科医が指摘した内容なのである。
同省のまとめたデータ(表①)を見れば、確かに戦後から今日までの医師の数は一貫して増えている。
昭和40年に11万人たった医師は平成11年には26万人。10万人あたりの医師の数でも昭相50年に118人だったものが平成12年には201人となった。
最近の医師国家試験の合格者数かみても厚生労働省が指摘するように8000人弱で推移している。だが、報告書の通りに「医師は不足していない」かというと、そうでもないようだ。
「医師の合格者は団塊の世代が医師になった特でも年間4000人ぐらいだったのがいまは8000人の医師が誕生している。数は十分だと思われるでしょうが、しかし、内容が問題なんですよ」
というのはある外科医の1人だ。
「昔は1~2割くらいだったがいまは合格者の3~4割が女性だということです。女性は医師になっても適齢期が来ると結婚する。子供を出産すれば、育児と主婦業に追われますからどうしても医療の現場から離れてしまう」
実際、ある病院の非常勤医師を勤める女医は、
「女性は真面目ですから医師国家試験の勉強を真面目に取り組むので、合格率が年々高くなっています。いまでは4割(表②参照。19年は38・1%の占有率だった)くらいは女性でしょう。私も結婚して子供がいますから、どうしても育児や主婦業で一日を通して勤務することが出来ません。午前中だけどか時間を区切って仕事することになります」と語る。
だが、半日でも医療の現場にいる女性はまだいい。完全に家庭に入ってしまう女医も多いという。
「毎年8000人といっても実際に医師として計算出来るのは5000人くらいと思った方がいい」と前述の外科医は厚生労働省の意見に疑問を呈するのである。
産科小児科は「3K」科目で訴訟リスクも高い
「問題はそうした中で、最近は産科や外科、小児科といった特定の診療科目の医者が減っていることですよ。原因はいずれも時間が不規則で”死亡“の危険が伴う。あまつさえ、裁判を起こされるから、リスクが多く、志望する医者がいなくなる」
とある医師はいう。前述した女医も最近の医師の考え方について説明する。
「昔は医者も体育会系のノリで、先輩などがら『俺の所に来いよ』といわれれば外科などに進んだものです。ちなみに産科も外科です。でもいまは、スーパーローテーションといって、医大卒後に研修医として様々な診療科目を回ります。そこできつい、厳しいところと楽なところを休験します。消化器科や産科、外科はすぐに呼ばれるのが分かる。外科はかつて、医療界の花形、かっこいいところでしたが最近はそう思われなくなった。
最近は男性医師も。“女性化”していまして、クオリティー・オブ・ライフを求める傾向にある。余暇を楽しみたいのですから、産科や外科、小児科は避ける傾向にあります。楽で、命に関わらず、お金が儲かるところに流れます。人気なのは皮膚科、眼科、豊胸などの形成外科ですね。女性は元々血が流れるような科目には行きません」
医療機関の診療時間は昼間だが、急患や出産は昼間と決まっていない。
夜でも深夜でも、早朝でもやってくる。小児かも同様だ。子供の急病は休日、夜間を問わない,むしろ、子供が病気を発症するのは「夜」が多く、大人に対するような検査も出来ず、リスクも高い。急患で来られれば医師の自由時間はない。しかも、手術などで死亡すれば、遺族が民事裁判を起こす傾向にある。(表③)
「仕事がハードで、しかも昔は治療すれば風邪であっても感謝されたものでしたが、最近はそういうこともない。やるのが当たり前ですから。それで夜遅くたたき起こされ、リスクも多く、認められるどころか訴えられたら、やってられない、ということでしょうね」と本音を漏らす。
ある大手医療機関の経営者も同様だ。
「2004年から新しい研修医制度が始まり、民間病院でも研修出来ますから大都会の病院で研修する医師が増え、大学に医者がいなくなった。すると従来、大学から派遣してもらっていた病院は医者がもらえなくなって困っているという現実があります。
もう1つは、いままで2人で診ていたのが開業したり、ほかの病院に移ったりして1人になって、負担がその医者に来てしまう。負荷が重くなればその分忙しくなり、責任も重くなってという悪環境になって、医者が数的にいなくなってしまう。そういった現象があると思います。
少子化で子供が少ないから将来の収入見通しが悪いとか、産科、小胆科は訴えられやすいということもあって、学生の時からそれを選ばないという傾向があるみたいですね。
あとは女性の医者が多いので女医の場合はどうしても眼科とか皮膚科を選びやすい。それから結婚して出産があって働き盛りの時に子育てで家庭に入ってしまう。外科とか心臓循環器という、ヘビーで手術を長路間受け特つというドクターは少ない。医者そのものは何千人といてもです」と語る。
着実に増加している医療訴訟、高い産科の訴訟
ではリスクの1つ、医療訴訟の実態はどうか。最高裁判所が公表している医事関係訴訟新規受理件数(表③)では平成3年には356件だった。15年からは約1000件と3倍に増えている。いまや我が国では毎日3件の医療訴訟がどこかで発生していることになる。
表①は医事関係訴訟事件の診療科目別既済件数だが、内科を筆頭に各診療科目に広がっている。だが16年の産婦人科の既済件数157件で、全体の15%を占める。この年の産婦人科医師数は約1万人。約25万7000人の医師数で見ると産婦人科はわずか4.1%である。それを考えるといかに産婦人科関係の訴訟が多いかが分かるだろう。
しかも、婦人科で裁判沙汰になることは「ない」とはいえないものの、あったとしても少ないだろう。大多数は産科の訴訟件数だろうと思料出来る。
ある産婦人科医師がいう。
「世界の周産期死亡率を見てください。日本の周産期死亡率は低いはずです」という。
表⑤は診療科目別の医師数の推移だが産婦人科の医師が減少しているのが分かるだろう。皮膚科、形成外科、眼科が増えているのも分かる。
表⑥は先進各国の周産期死亡率である。周産期死亡率は1000人当たりの年間の妊娠22週以降の死産数と早期新生児死亡を年間の出生数(22週以降の死産数を含む)で割ったもので、出産現場における医療技術の物差しでもある。
それで見ると我が国の周産期死亡率は昭和45年に21・7と中位だったものが平成17年には3・3となり、世界でトップレベルとなった。しかし、ゼロではない。また、妊産婦の死亡は完全に防げないという。
厚生労働省「妊産婦死亡の防止に関する研究」班は平成3~4年に妊産婦死亡例の実態調査をしている,この2半開で230例の死亡があり、もっとも多いのが出血性ショックが74例で、適切な対応があれば助かる可能性のあったものは36%あった。だが、全体の43%は救命不可能と判断された。
「いくら医療技術が進んでも、100%絶対完全ということはない。お産だって皆さんは“安全”のように思われているでしょうが、いまも昔も危険なことにかわりはないんです」
そこのところを認識して欲しい、とこの医師は指摘する。
「お産は100%安全ではない」
昨年8月28日から29日にかけて、奈良県橿原市で妊娠24過の妊婦が救急車で搬送されたが9ヵ所の病院から受け入札を断られ、死産した。1昨年にも同じ奈良県大淀町の町立大淀病院で、出産率に意識を失った妊婦に対して転院先を探した19病院から拒否される事態があったばかりだった。橿原市の妊婦の事例では、3回の受入れ要請のあった奈良県立医大はその後、当日夜間の過酷な勤務状況をホームページに掲載した。
当夜は2人の医師で緊急帝王切開手術や大量出血、破水のための緊急入院患者など6人の急患への対応処置を行っている模様を役悪隊とのやりとりも含めて時間ごとに詳細に説明している。ここでその詳細を紹介するスペースはないが、妊婦のたらい回しも問題だが、それ以上に過酷な勤務実態もまた驚きで、いまの寂しい医療現場の現実を赤裸々にしている。
奈良県の事態を受けて、総務省消防庁と厚生労働省は妊婦の搬送受け入れ拒否の実態調査に乗り出した。10月26日に発表されたところによると、2004年から2006年までの3年間に全国で5849件の受け入れ拒否があり、2回以上の拒否は1452件もあった。18年だけでみると東京都が528件で最も多く、次いで神奈川県の484件、大阪府の282件と続く。
拒否の理由は「人と設備が揃わない」が26・6%、「手術や患者対応中」が17・2%、「専門外」11・7%となっている。
「大都市が多いのは地域に医療機関が多いからです。ほかにもあるからと断りやすい。地方ですと救急病院の指定などがあり、監督官庁の目もあるので断りにくいということもありますね」
と前出の医師。そして、
「普通、病院は夜になると当直の医者だけになりますから、人手がいない。しかも、深夜に救急車で連ばれて来る患者さんというのは症状が重いということになりますから、それに見合った医者がいればいいけれど、いない可能性の方が高い。受け入れてリスクを背負うよりはと断ることになります」
と説明するのである。
また、妊婦側の問題も指摘する。
「普通、妊婦さんはかかりつけの産科医院で胎児の成長や母体の状態を把握します。産科医院では何かあれば、提携している大きな病院に連絡して入院させる。ところが、救急車でお産に行く妊婦さんは普段、産婦人科にかかっていないケースが多い。病院では状態が分からないから診られないと断るケースもある。そういう妊婦さんはまた、出産科を支払わずに踏み倒す人が多いんですよ」と、実態を明かす。
産科医師増加に誘導策が必要だ
大野病院事件は医療界が抱える様々な問題を浮き上がらせることになった。それは事件の舞台となった産科はじめ危険を件う「特定科目の医師不足」である。
産科に限って言えば、厚生労働省の「医師の需給に関する検討会」は報告書で、分娩に関与する常勤医師は8000人という日本産婦人科学会の調査結果を記している。
また、同省の「臨床研修に関する調査(中間報告)」では進路を決めている人間の「5%は産婦人科」を志望しているとしているが、同時に、「志望者の7割が女性」であることも明らかにしている。そして、
「出生数当たりの産婦人科医師は検はいで推移しているが医師の減少傾向は続いているため、地域によっては妊婦の利使性が損なわれることが想定される」
としている。
そのため、女医が働きやすい環境の整備、医療施設は産婦人科医師が従事する魅力の向上を説いてはいる。だが、これまで見たように、問題は「産婦人科」医師ではなくて、「産科」医師の不足である。
中同報告で志望傾向は「産婦人科」といっているが、実態はリスクの少ない「婦人科」なのではないのか。しかも、何かとハンディを特っている女性が7割を占め、現場の医師らが語るように、本当に戦力になるかどうかは分からない。本県でも地方の病院から産科医師の撤退が明らかになっている。
いわき市では呉羽総合病院、福島労災病院、松村総合病院の産婦人科が休診。周産期センターの指定病院の市立総合磐城共立病院も昨年、東北大学医学部から産婦人科医の撤退話が出て、「いわき市での出産に赤信号」が点滅するところだった。
相双地方ではくだんの大野病院が、「担当医師が休職中」ということで、産婦人科そのものが休診になってしまった。お産は他の地区に行くしか無くなってしまった。
お産が出来なくなるのは病院からの医師の撤退だけではない。医師の高齢化に伴い産科医院が廃業してしまうという現実もある。
喜多方市では先月、鳴瀬莞爾鳴瀬病院理事長・院長が死亡した。鳴瀬院長は長年、地域の産科医師として活躍してきた。だが、同氏の死亡で喜多方地方での産科医院は山田産婦人科のみとなってしまった。
他に産婦人科医師がいないわけではない,しかし、そうした医院は一産科」から撤退して、安全で楽々「婦人科」のみを営業しているというのが実態だ。
いまや、出産は限られた地域でないと出来ないという事態になりつつある。すべては産科医師不足が原因だ。だから、単純に「産婦人科」医師を増やせばいいというものではない。同様に、女性医師を現場に戻せばいいという問題でもない。
厚生労働省は全国知事会の要請で地方の医大の定員を増やすことに同意したが、それで産科医師が増えるという保障はない。産科医を増やすには何らかの誘導策が必要だろう。「産科医師を増やすためにも、医療報酬の点数を厚くするなどして何らかの形でバランスを取る必要がある」と医療関係者は語る。それも1つの誘導策だ。
子供は常に将来の国を担っていく人材である。産科医師はその子供たちの誕生に直接関わっていく。医師の数を医療費抑制の議論だけではなく、国民への医療サービスで考えてもいいのではないか。
>安全で楽々「婦人科」のみを営業
おいおい。
投稿情報: ssd | 2008年1 月30日 (水) 17:30
同じく。おいおい。(-_-;)。。。。
ま、いいんですけれどね。。。
投稿情報: 僻地の産科医 | 2008年1 月30日 (水) 21:34
産科医だけでも刑事免責にしないと駄目ですね。
投稿情報: pooh | 2008年2 月 5日 (火) 01:48