(関連目次)→産科医療の現実 医療安全と勤労時間・労基法
(投稿:by 僻地の産科医)
いつもありがとうございますo(^-^)o!!!
もとCBニュースの熊田記者です。
実のところ、(下)の方がめっちゃ面白いです(>▽<)!!!!
というわけで、こちらを参考になさってください。
今日の夜は昨日の参議院厚生労働委員会での、
「病院での当直・時間外業務」に関しての質問です!!
【参考】
なぜ愛育病院は「総合周産期母子医療センター」返上を申し出たか(下)
ロハス・メディカルニュース 2009年4月10日
(1)http://lohasmedical.jp/news/2009/04/10100047.php
(2)http://lohasmedical.jp/news/2009/04/10100047.php?page=2
(3)http://lohasmedical.jp/news/2009/04/10100047.php?page=3
なぜ愛育病院は
「総合周産期母子医療センター」返上を申し出たか
(上)
熊田梨恵
ロハス・メディカルニュース 2009年4月9日
(1)http://lohasmedical.jp/news/2009/04/09223131.php
(2)http://lohasmedical.jp/news/2009/04/09223131.php?page=2
(3)http://lohasmedical.jp/news/2009/04/09223131.php?page=3
3月末にメディアを賑わせた恩賜財団母子愛育会・愛育病院(東京都港区・中林正雄院長)の「総合周産期母子医療センター」指定返上騒ぎ。労働基準法違反に対する労基署の是正勧告に端を発しているとは言え、唐突さに驚きを隠せない医療関係者がほとんどだった。だが取材を進めてみると、単なる偶発の騒ぎでは済まされない事情が見え隠れする。
現場へ届かない補助金
事の発端は、愛育病院が今年1月20日、所管の三田労働基準監督署から医師の時間外労働について36協定を結んでいなかったなど労働基準法違反に対する是正勧告を受けたことだ。他病院に比べて労働条件に恵まれた同病院が是正勧告を受けたことで、周産期医療界に動揺が走った。
しかしこれ自体は特筆すべきものではなかったとの説がある。関東圏の労働基準監督署の職員は「病院が労働基準法違反の状態であるなんて周知のこと。いますぐそれが改善されないということはこちらも分かっているが、見逃しているわけにはいかない。だから、あくまで『指導』という形で、『今後の改善を求める』という意味をもって立ち入り調査をし、是正勧告をする。今まではなんとなくそうして『大人の解決』を図ることですんでいたので、今回愛育病院がこんなに騒がれているのがよく分からない。『総合』の指定返上が絡んでいるからかもしれないし、愛育病院への是正勧告の情報が外部に漏れたということ自体、何かの思惑あってのことかもしれない」と話す。
現に、3月13日には東京都渋谷区の日本赤十字社医療センター(幕内雅敏院長)も、36協定を締結していなかったことや時間外労働時間に対する割増賃金を払っていなかったことなどを理由に、労働基準法違反で是正勧告を受けている。こちらは東京都が3月末に鳴り物入りで始めた、救命処置が必要な重症な妊婦を受け入れる「スーパー総合周産期センター」の1つ。もっと大騒ぎになってもおかしくなかったが、指定返上の動きなどは起きていない。
そもそも、周産期医療の分野が、「医師の不足、偏在」と「過重労働」という、片方の解決を求めればもう片方が崩れるという"諸刃の剣"の問題を抱え続けているのは周知の事実だ。横浜市の聖隷横浜病院(300床)の産婦人科で働く30代の小笠原加奈子医師は、「わたしたちは医局に入り、上司から『医師に労働基準法は適用されない』と言われ、その通りに働いていた。36協定などどこの病院も結んでいない」と語る。
医師による滅私奉公の労働で保たれてきたともいえる今の医療界。しかし、医療費削減や医師の不足・偏在、訴訟リスクに対する懸念など、さまざまな要因から近年"医療崩壊"が進んだ。当直をはじめとする過重な労働で1999年に過労自殺した小児科医の中原利郎氏のような医療者の過労死も起こり、労働環境の是正を求める声が現場から上がり始めた。
過酷な労働環境を強いられている勤務医にとって、労基署の立ち入り調査や是正勧告はいわば"伝家の宝刀"。しかし、医師や看護師の不足・偏在が深刻な中で、直ちに労働基準法を遵守することは、現状の医療提供体制のバランスを崩し、医療崩壊を加速させることにもつながりかねない。
医師や看護師の労働問題に詳しい松丸正弁護士(過労死弁護団全国連絡会議代表幹事)は、「日本の医療現場は、医療と医療従事者のどちらが先に壊れてしまうか、というほどの矛盾をはらんでいる状態」と指摘する。
このため、違法状態には目をつぶって少しずつ労働条件を改善していこうという取り組みが一般的だ。日本産科婦人科学会産婦人科医療提供体制検討委員会の海野信也委員長は、「まずは実態を把握することが大事で、学会では産婦人科勤務医の在院時間調査などを行ってきた。目指す待遇改善も分ってきたところだったので、勤務管理を考える段階に移ろうとしていたところ」と話す。同学会は昨年秋に、産婦人科勤務医の在院時間調査を舛添要一厚生労働相に提出するなど、周産期医療行政の質の向上とともに、労働環境の改善も求めていた。また、同学会や、日本産婦人科医会産婦人科医は、勤務医の労働環境の改善をするため、労働環境についての調査を行い、会員内で情報を共有することで改善しようとするなどの努力も行ってきた。
だから労基署の方も、予定調和的に是正勧告したとの声があるのは先ほど紹介した通りだ。だが、愛育病院は「大人の解決」を選ばなかった。
愛育病院が是正勧告を受けた内容は、
▽医師の時間外労働について36協定が締結されていなかった
▽職員の時間外労働と休日労働が法定基準を超えていた
▽時間外勤務の割増賃金の未払い―の3点。
これを受けて同病院は、「労働基準法を遵守すると、常勤医がすべての当直に加わることができず、非常勤医2人で当直することもあるため、総合周産期母子医療センターの体制としてどうか」(中林院長)と考えたことなどを理由として、3月24日に東京都に対して総合周産期母子医療センターの指定返上を打診。あわてた東京都や厚生労働省が病院側と協議した。
このとき、厚労省の外口崇医政局長が中林院長に対し、職員代表との合意の上で時間外労働に関する「特別な定め」について労基署と相談してはどうかと助言した。中林院長は、「労使協定の特別条項を使ってクリアしたらどうかというアドバイスをいただいたが、時間外労働が100時間とかになるとそれでは『ザル法』。80時間では過労死ラインといわれる。米国では60時間ぐらいなら容認しようという考えもあるので、それぐらいなら何とかなるのでは」と話す。
愛育病院の産婦人科で4月の勤務に組まれたのは12人。中林院長によると、このうち、4人の女性医師が妊娠中や子育て中で当直ができないという。また、部長クラスになるとオンコール体制となるため、実際に当直ができるのは6人。労基署の指導に従って当直表を組むと非常勤2人の体制になる日が10日ほどあった。中林院長は、「総合」センターを続けることについて「東京都は2人の医師がそろっていればいいと言う。周産期医療協議会の岡井崇会長が皆さんと相談し、『愛育にお願いしよう』と言っていただけるなら、続けてやっていける」と、中林院長は総合の指定を続けることには前向きな意向だ。
何が何だかよく分からない話だが、「愛育が『総合』を続けることには何のメリットもない。むしろ返上したくて仕方なかっただけ」と指摘する同病院関係者もいる。中林院長によると、「総合」指定を受けていることによる補助金は年間約3000万円で、2007年度の分娩件数は約1750件。「現状の体制で許されているならば、(総合の指定が)あった方がいい。ただ、いざとなれば日赤医療センターもあるので、『絶対に』というわけではないと思っていた。法律違反をしている病院という後ろ指を指されたくないし、『総合』を降りたとしても、コーディネータとしての機能などこの地区で起きたことについては引き受け、同じ役割を果たしていくつもり」(中林院長)。
現状の体制で許されないとなれば、補助金を帳消しにするほどの人件費増が見込まれる。しかも、過重労働は産科だけの問題ではない。新生児科も同様に厳しい状況だ。4月には常勤が2人減って5人体制となり、1人の新生児科医が月に7回の当直をこなさないといけない状況になる。非常勤医もいない状態だという。中林院長も新生児科については「特例条項が80時間ぐらいになっても仕方がないと思う」と話す。これまでの残業時間も、産科よりも新生児科の方が長いという。
「愛育は産科と小児科しかないから、補助金が要らないなんて思い切ったことが言える」との声も産科医の間から聞こえる。「総合病院では、補助金をアテにして予算が組まれている。他科にも影響が出ることになって、簡単に返上なんてできない。本当に厳しいのは日赤だ」
日赤医療センターは、東京都の「スーパー総合周産期センター」になって年間5千万円ほどの補助金が約束されている。同センターの産科医は24人。ただ、これには当直を経験したことがない初期研修医も含まれており、同センター関係者は「3人当直なのに、当直できるのは18人ぐらいしかいない。今年度中には3人が退職し、転科する医師もいる。代わりの医師も来るが、当直ができない医師もいるため、実質的に戦力は落ちる」と内情を明かす。加えて、同センターは新生児科にも医師の欠員が1人出ており、現在もホームページ上に募集案内が出ている。「労働基準法を遵守するような体制を保っていられるとは、とても思えない」。同センターに勤務する医師たちには、補助金や是正勧告が自分たちの労働環境改善にはつながらないことに、動揺とあきらめとが入り混じる。
現在までのところ、日赤医療センターは「大人の解決」を選び、愛育病院も予定調和の世界に戻って事態は沈静化したように見える。しかし今回の問題はこれでは終わらない、本番はこれからだ、との指摘がある。今まで医療界が所与の条件と捉えてきた厚労行政の在り方に大きな地殻変動が生じており、これまでの常識が通用しなくなるというのだ。
[解説]「周産期」指定返上問題
過重労働医療の危機 診療科別に計画配置必要
読売新聞 2009年4月14日
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090414-OYT8T00234.htm?from=os2
総合周産期母子医療センターの愛育病院(東京都港区)が、労働基準監督署の是正勧告により夜間の常勤医確保が困難として、指定返上を都に打診した。
【要約】
◇愛育病院は医師の夜間勤務が「時間外労働」と見なされ、是正勧告を受けた。
◇産科・救急医不足が背景にあり、抜本的解決には、医師の計画配置が必要だ。
愛育病院によると、労基署から3月、産科医、新生児担当医の夜間勤務が、労働基準法で定める労働時間を超えているなどとして、指導・是正勧告を受けた。
医療機関では慣習的に、夜間勤務は労働時間に当たらない「宿直」扱いにしていることが多い。定時の見回り程度の仕事で睡眠も取れるのが建前だ。しかし、急患を常時受け入れている同病院の夜間勤務は、睡眠などは取れないのが実態であり、労基法上の「時間外労働」にあたると見なされた。労働時間に含めなければならず、日勤の25%増の割増賃金を支払う必要がある。
総合周産期母子医療センターは産科医が24時間いることが条件だが、同病院では労基署の指導に従った場合、夜間帯も常勤医が常に勤務することは困難と判断。都に指定の返上を打診した。都からは「夜間は非常勤医でも問題ない」として、総合センター継続の要請を受けており、今月下旬には結論が出される見通し。しかし、今回の問題は愛育病院だけの問題にとどまらない。全国周産期医療連絡協議会が昨年、全国75か所の総合センターに行った調査では、97%の施設が、同病院と同様に、夜間勤務を「宿直」扱いとしていた。皇室関係のご出産でも知られる同病院は、比較的医師数も待遇も恵まれた病院であるにもかかわらず、労基署から是正勧告を受けたことが、医療現場には余計にショックを与えた。
背景には、分娩に携わる産婦人科医の絶対的な不足がある。厚生労働省によると、2006年までの10年間で、全体の医師数は15%増えているのに対し、産科・産婦人科医の数は約1万1300人から約1万人へと11%も減少している。
さらに、働き盛りの20歳代の産婦人科医の7割、30歳代の5割が女性だが、女性医師の約半数は、自分の出産を機に分娩を扱わなくなることも、産科救急医の不足に拍車をかけている。
過重労働は現場の疲弊を招き、医師の健康のみならず医療の安全も損なうことにもつながる。杏林大の岡本博照講師(公衆衛生学)が4年前、東京都と大阪府の6か所の救命救急センターの勤務医を調査したところ、平均当直回数は月10回、休日は月に2日だけ。月に1日も休みを取らず、22回も当直勤務をこなしていた医師もおり、労基法とはかけ離れた実態が明らかになった。休日が3日以下の医師は、免疫機能が低下し眠気も強いなど健康上の問題もわかり、岡本講師は「診療内容にも大きな影響を及ぼしかねない」と指摘する。
愛育病院では、夜間専門の非常勤医師を雇い、現在の当直体制は維持する方針。だが、夜間の非常勤医師は、昼間は別の病院で働いており、病院を昼夜で移るだけで、医師の過重労働の抜本的な解決策にはならない。
杏林大高度救命救急センターの島崎修次教授は「労基法を守るなら、救命救急センターには今の1・5倍以上の医師が必要だ。医師確保が難しい中で、労基法の順守だけを求められても現場では解決のしようがない」と話す。
読売新聞が昨年10月公表した医療改革提言では、医師を増やすとともに、地域や診療科ごとに定員を設け、計画的に専門医を養成することを提案している。過酷な勤務実態を改善するには、産科や救急など激務の診療科に適正に医師を配置する仕組みが必要だ。
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