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(投稿:by 僻地の産科医)
頑張ってまとめようと思ってたら、
キャリアブレインから出てましたo(^-^)o ..。*♡
大野事件から三次試案を振り返る―医療制度研究会
キャリアブレイン 2008/08/11
http://news.cabrain.net/article/newsId/17603.html
現場の医療者らが医療問題について考えるNPO「医療制度研究会」は8月9日に夏季研修会を開催。「大野病院事件から第三次試案大綱までを振り返る」をテーマに、産婦人科医やテレビ番組制作者、弁護士がそれぞれの立場から講演した。
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【福島県立大野病院事件】
福島県立大野病院事件は、2004年12月、帝王切開手術中の女性を、子宮に癒着した胎盤のはく離による大量出血で失血死させたとして、当時の産婦人科医長、加藤克彦被告が業務上過失致死などの罪に問われて06年に逮捕・起訴された事件。今年8月20日に判決が言い渡される。公判では、出血後もはく離を続けた判断の妥当性などが争点となり、弁護側は加藤被告の無罪を主張している。現場の医師からは、「産婦人科医が一生に一度、遭遇するかしないかと言われるまれな症例で、医学的にみても治療に誤りはなかった」との声が上がっている。訴訟リスクを懸念する医師らが臨床現場を離れ、重症患者を引き受けなくなる委縮医療を招いているとの指摘もある。
■「大野病院事件が何を残した」
野村麻実・名古屋医療センター産婦人科医師
野村氏は「産科医療崩壊の現場から―大野病院事件によって浮き彫りにされた問題点」と題して講演。事件発生から加藤被告が逮捕されるまでの流れとして、「医師法21条による(異状死の)届け出がされていない。遺族からの告訴がされていない」と指摘した。このため、死因究明制度の第三次試案や法案大綱案が、医師法21条の改正に着眼していることを「大きな誤解」とした。また、「業務上過失致死傷罪が(告訴されることが公訴の前提となる)親告罪でないために、警察が望めばいつでも介入できることも問題」と述べた。
このほか、医療事故死などの捜査手法について、「業務上過失致死罪の逮捕基準があいまいで、自白偏重になっている。自白調書が欲しいために逮捕・拘留する『人質司法』と言われ、それも問題」と述べた。
大野病院事件の争点整理として、①胎盤と子宮の癒着を認識した時点で胎盤のはく離を中止すべきだったか(癒着部位やその程度、出血の程度や予見可能性、死亡との因果関係、クーパー(手術用ハサミ)を使用してはく離したことの妥当性)②医師法21条違反に当たるか③被告の供述の任意性―を挙げた。このうち①に関して(「癒着部位やその程度」以外)は、「医師の裁量権の問題。その場で医師がどう判断し、どう対応するかは素人が考えて判決を出す問題ではない。それが争点の中心的な問題になっている。それを刑事で裁くことに問題がある」との見方を示した。
野村氏は「刑事訴追の問題点は、個人を罰するという方法しかなく、検事が問題とする点についてのみ議論が続けられること」と指摘。大野病院事件でも、麻酔科などの問題は議論されていないと訴えた。また、裁判の場では遺族感情は慰撫(いぶ)されないと主張した上で、「医療と裁判は相性がよくない」と述べた。
このほか、福島県内では事件後に13施設(休止予定も含む)が分娩の取り扱いをやめていることなどを説明し、事件の影響で県内の産科医療の崩壊が進みつつあると訴えた。
■「医療者を代表した声が発信される団体を」
真々田弘・日本電波ニュース社報道部
救急医療に関するドキュメンタリー番組の制作などを手掛ける真々田氏は、「現場を見ることが取材に対する姿勢」と語った上で、これまでの活動を紹介した。
真々田氏は、テレビ局のプロデューサーから、「医療が旬になってきたから取材してみないか」と声を掛けられたことをきっかけに、07年6月に6人の内科医が一斉退職した大阪府の病院を半年間取材した。取材の過程で、医師の不足や過重労働の問題などを理解した。真々田氏は、「(この病院の)事務長も状況を変えたいと思っていたが、医者を守るために救急外来を制限しようとしても住民や議会が敵に回った。毎年経営を改善しても、市からの繰越金が年々減っていた。市長が怒鳴り込んで院長を叱る声が患者にも聞こえてくる。これでは医療者も逃げてしまうと思った」と、取材の感想を述べた。
真々田氏によると、取材を続けるうちに制作スタッフは医療者の現状を理解していった。視聴者目線ではなく、医療者側の立場で番組を作ろうと意識が変わり、テレビ局のスタッフも番組の放送直前になって「医療と裁判は相性が悪い」と理解した。
当初は視聴者からの批判を懸念していたが、予想外に反応が良かったという。真々田氏は「きちんと伝えれば分かってくれるのだと思った。『こんなに医者が頑張っていると知らなかった。もっと伝えてほしい』との感想があった」と紹介した。
真々田氏は、取材を続けるうちに感じた思いを、次のように語った。
「5、6年前に比べ、潮目が変わっている。視聴者は『自分たちが医療を受けられなくなるかもしれない』と皮膚感覚で感じているから、こういう番組が受け入れられるようになってきた。医療者が発する言葉を視聴者が待っている。医療をどう守っていくかの提言を番組として出したが、困っている。取材をする中で、個々の医者が頑張っている姿しか見えず、医療者の集団が見えてこないからだ。日本医師会も学会も勤務医の声を代弁していない。誰の声を聞けばいいのか。集団としてのまとまりのなさに、ある種情けなさを感じる。日雇い派遣(の業界では、)制度を見直させている核となる人間の数は1000人いないかもしれないが、声を上げて政治を動かしている。26万いる医師たちは何をしてきたのかと思わざるを得ない。医療が悪くなっていることを伝えてこなかったわたしたちは『マスゴミ』と呼ばれても仕方がないと責任を痛感する。では医療者は何をしてきたか。現場で毎日が厳しくなり、医者が足りなくなっていると、医療界全体として発言してきたのか。医療を今後、どんなものにしてほしいか、医療界が知恵を集めて提言してきたことがあったか。
4月12日の超党派議連のシンポジウムで、ある医師が『何をしてきたと言われたら、医者は医療をしていた』と言った。『うまいことを言う』と思ったが、一種の逃げ口上だ。マスコミがそう言われたら、『1日24時間、番組に穴を開けないために必死だった』と答えるのと一緒。しかし、それでは責任を果たせない。
今がチャンス。メディアも変わりつつある。医師のつらく苦しい現場が開かれれば、わたしたちは入る。特に今は視聴者が求めているから発信できる。医療者は総意や知恵を集め、何らかのアクションを起こしてほしい。わたしたちはそれを支えていけると思っている」
■事故調は厚労省の権限を強化する
井上清成・井上法律弁護士事務所
医療法務弁護士グループ代表や病院顧問などを務める井上氏は、死因究明制度について、第二次試案の段階から、「きれいな物言いで作られているが、法律家から見たら『裏』があると分かる。だが、医師には分からない。デメリットの部分が言われておらず、医療にかかわる法律家たちは指摘しないのかと頭にきた」と述べ、医療者が議論できる前提となる情報開示がなされていない点を問題視。その後公表された第三次試案についても、「責任追及」のスタンスが基本的に変わっていないと指摘。責任追及について、「例えば、民事で医療過誤の損害賠償請求がされたとする。ある医者の医療行為がおかしいと(患者が)訴えたが、見込み違いで、患者も正当な医療だと認めた。だが、医者が悪いという前提に立っているために、理屈が立たなくなっても『次はこれ(が悪い)』と出してくる。これが裁判や訴訟で、検察はどこまででもやるし、公訴を取り下げることもない」と述べた。
法案大綱案について、民主党案と比較すると
▽医師法21条の拡大強化 ▽医師の黙秘権の剥奪
▽行政処分権限の拡大強化 ▽現行の業務過失致死罪の追認
▽医療の行為規範化
―などの問題が起こるとした。「(異状死を)届ければ行政処分がいっぱいできる。届け出なかったら医師法21条が働くと読むのが普通」と述べた上で、「届けない場合が事故隠しであることを前提に(厚労省は)構想を練っているのではないか。そのつもりだったら(通常の死亡は届け出ないと考える医療者と)話がかみ合わないので、下手をすると医師法21条の拡大強化につながる」と指摘した。また、「医師法21条は大した問題ではなく、本丸は刑事犯に処せられる業務上過失致死傷罪」として、医師法21条と、業務上過失致死傷罪を切り離して考えるよう促した。また、制度が出来上がってしまえば、業務上過失致死傷罪の適用を医療界が認めたと世間は受け止めるとの見方を示した。
井上氏は、「病院長と勤務医の間にくさびを打ち込むのにちょうどよく、行政処分権限の拡大強化につながる。厚労省がうまくコントロールできるようになる」と述べ、新制度が創設された場合、厚労省が最も得をすることになるとの見方を示した。
また、スウェーデンの無過失保障制度を視察した際に、「患者保険機構」のCEOを務める法律家から、「無過失保障制度を導入し、スウェーデンでは医療過誤訴訟を根絶やしにしたが、そんな制度を日本に導入しても弁護士は損するから意味がないのでは」と指摘されたと述べた。このほか、09年にスタートする産科の無過失補償制度と、死因究明制度の第三次試案について、「違いを見つけ出すのが難しいほど似ている」とも述べた。
医療再生への道探る―医療制度研究会
キャリアブレイン 2008/08/11
http://news.cabrain.net/article/newsId/17602.html
医療従事者らでつくるNPO法人(特定非営利活動法人)「医療制度研究会」(理事長・中澤堅次栃木県済生会宇都宮病院院長)は8月9日、東京都内で「医療崩壊から再生への模索」をテーマにパネルディスカッションを開催。全国から医療関係者約120人が参加した。
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パネルディスカッションでは、本田宏埼玉県済生会栗橋病院副院長、松原要一鶴岡市立荘内病院院長、森田茂穂帝京大医学部麻酔科教授の3人が持論を展開した。
本田氏は、医師不足と医療事故の関係を過去にさかのぼって説明。「日本の医師の数は26万人だが、OECD(経済協力開発機構)加盟国の平均に合わせるなら38万人が必要」と、医師増員の必要性を説いた。その一方で、「心配なのは学生と研修医で、これだけ現場が崩壊しているのを見て意欲を失わないか。医者でも自分の子どもに医者の道を歩ませたいと考えるだろうか」と語った。
また、「医療界が大同団結する必要があり、医療崩壊を食い止めるのは、国民皆の社会的責任。このままでは医療ばかりか、日本が崩壊してしまう」と訴えた。
松原氏は、「地域医療崩壊を防ぐための地方自治体病院の模索」をテーマに、院長を務める鶴岡市立荘内病院(山形県)の現況を報告した。
同院は2003年7月の新病院の移転・開院を契機に、電子カルテを中心とした統合医療情報システムを導入。各部門がそれぞれIT化に取り組み、情報の共有で院内の業務を軽減したという。従来の事務作業を徹底的に見直すことで、職員が本来の仕事に集中しやすい環境を整え、事務の業務委託も進めた。
同院は、鶴岡市南部の救急医療体制をカバーし、救急患者をすべて受け入れるなど、入院と救急医療へのシフトを進めている。オンコール体制の中で、当直は年9回程度と過重労働にならないようにしている。ただ、今のところは職員不足に対応できているとするが、危機感は消えないという。
松原氏は「医療は本来地域のもの。地域全体を考えた医療が必要で、地域の各医療機関が連携し、共同で行うべきもの」と説いた。
森田氏は、日本と米国の医療事故を比較。米国で医療事故が起きた場合、民事事件として扱われることが多いが、日本では刑事事件にまで至るケースが増えていることについて、「医療界として自立的な懲戒の仕組みがうまく働かず、公的権威に依存する傾向などが後押ししてきた結果」とみている。
また、「医療の現場は多様性に富み、限られた時間の中で対応し、未知の部分を進むが、後になってよい方法が見えてくることもある。法的な判断は法律と過去の判例から比較・検討する視点を持っており、性格が異なる」と説明。一度判断が下されると、判例として将来もその効果が持続することも指摘した。
その上で、「互いに性格の異なる法曹界と医療界が見識を交え、連携していくことが重要で、世界に目を向けて医療関連産業を育成できる可能性もある」との見解を示した。
質疑応答では、会場から「日本の医療はもっと世界で通用するのでは」との意見が出た。これに対し、森田氏は「米国の医療と比べ、日本が劣っているということはない。医療関連産業の育成など新たなモデルができれば、国益につながると思う」とコメント。本田氏は「医療で国際貢献すればいいのではないか。日本が高齢化にどう対応するか、世界も注目している」と述べた。
医師増員、医療者はどう考える?
キャリアブレイン 2008年8月11日
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/17615.html
医学部の定員増に関して国が具体的に動き始める中、医療者らでつくるNPO「医療制度研究会」でも、医師増員の方法についての議論が出た。既存の大学での養成、メディカルスクール、臨床研修の在り方など、現場の困惑はまだまだ続きそうだ。8月9日に東京都内で行われた研究会のフリーディスカッションでの、医師増員に関する発言要旨を紹介する。
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■正規分布外れる医師は除くべき
森田茂穂・帝京大医学部麻酔科教授 米国の医療が日本の医療より優れているというのは全くの誤解。やり方によっては、日本の医療は世界のトップになれるだろう。われわれはもっと自信を持つべきだ。そのためにも、±3SD(標準偏差)以上となるような、正規分布から外れる一部の医師は除いていかなければならない。その努力をするためにも、医師の増員が必要。医師が充足している状態にしておいて、「切る」ということだ。
■医学部が一番大変
松原要一・鶴岡市立荘内病院院長 これだけ医療が崩壊しつつあり、一度崩壊してしまえば駄目になる。今は医師を増やすチャンスだ。医師を増やすには、お金と学校が要る。それには住民が意思表示をしなければならないから、わたしたちが情報提供することが大事。国民が「医者を増やさないと大変だ」と認識すれば、国は動く。
皆、医師増には賛成だと思う。でもどうやって増やすのか。この前(地元の)山形大、新潟大に行ってがくぜんとした。文部科学省は定員を増やしていいと言うが、予算が全然ない。教室を造り替えるだけで予算がなくなる。文部教官になるには6か月や1年かかるから、やめた後にすぐ補充できず、足りていない。先日、嘉山孝正先生(山形大医学部長)が「大学は医学部の定員を増やす覚悟はある」と(6月20日の全国医学部長病院長会議の記者会見で)発言し、いろんなインターネットブログが「何の覚悟だ」と言っていた。これは、わたしなりに考えると、「お金もない。教室も増やさないといけない。文部教官もいない。でもこれだけ医師が足りないのだからしょうがない。われわれは苦労して大変かもしれないけど、医学部定員を増やそう」という覚悟だと思うのだが、それが分からない人が多い。
閣議決定で医師(養成数)を増やすことになった。本当に充足するには50年や100年かかると思うが、見込みはできたわけだ。今、一番大変なのは大学医学だ。ここにも目を向け、具体的に何をするかだ。
■歯学部、薬学部にも受験資格を
野村麻実・名古屋医療センター産婦人科医師 働く大学院生に賃金を払うようにという通知が(文科省から)6月に出たので、改善されていくと思う。だが、産婦人科は人手不足の状態だ。やぶ医者でもいいからお産を扱ってくれないとやっていけない状況なので、今から医学部定員を増やしてもらっても、産婦人科はつぶれてしまうだろう。医師の増員に関しては、これまでも看護師の活用や、歯学部の人に麻酔を扱わせることなどいろいろ意見が出ている。私案だが、歯学部や薬学部の人にプログラムが足りないところだけ補講を受けさせ、医師が増えるまでの6年間、医師免許の受験資格を与えるようにすれば、来年度から医師が増える可能性もあると思う。
■臨床研修現場でスタッフ不足
会場からの発言 東邦大の医学生だ。医師増員に関する時間だけが問題視されるが、医師になるまでの過程が問題とされていないことが学生にとっては気になる。臨床研修制度を受けても、実習病院のスタッフが足りない状態では効果がないのでは。対策があるのだろうか。
■メディカルスクールで増員を
本田宏・埼玉県済生会栗橋病院副院長 今までは医療界が何もやらなかったから、医療費もスタッフも不足している。医師だけが少なくて看護師がいっぱいいてもいけない。人やお金を導入しながらやっていかないと、崩壊が加速する。大学教員を増やすのが大変だからやめようと言うのはどうか。すべて見直しながらやっていかないといけない。
医師増員の方法はいろいろあって議論が大変になるが、「メディカルスクール構想」がある。わたしは四病院団体協議会のメディカルスクール委員会で委員をやっているが、メディカルスクールは、4年間のうちの最初の2年間が座学で、残りの2年間が臨床研修になるシステム。既存の大学に人とお金は投入すべきだが、キャパシティーがある。欧州、韓国もメディカルスクールに移行しようとしており、(日本の医学教育のように)高卒を教育するのでなく、「本当に医師になりたい」と言う人を学士入学で育てようとするのが世界の趨勢(すうせい)。今の大学だけでなく、メディカルスクールをつくり、聖路加病院や済生会グループなど、理事長教育がしっかりできるところとタイアップして増員していくという手もある。
今は、患者さんから見て「どうか」と思う医師でも、いなければ病院がやっていけない状態だから、(医師間の)競争が必要。わたしがいつも言う「医師を増やす」ということにはその意味もある。医師が増えて万が一余っても、キューバもやっているように(医師派遣などで)国際貢献すればいい。
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