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(投稿:by 僻地の産科医)
〜妊娠中の喫煙,マリファナ,アルコール〜
母親はやめても父親はやめず
Medical Tribune 2008年8月7日(VOL.41 NO.32) p.66
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〔米ワシントン州シアトル〕ワシントン大学(UW,シアトル)社会福祉事業学部社会発展研究グループの Jennifer Bailey,Karl Hillの両博士らは,数ある公衆衛生キャンペーンの成果もむなしく,驚くほど多くの女性が妊娠中もたばこ,マリファナ,アルコールなどの依存性物質の摂取を継続し,その摂取量も出産後2年以内に妊娠前の状態に戻るとBirth(2008; 35: 50-59)に発表した。
父親につられて母親も喫煙を再開
パートナーが妊娠中の男性ではアルコール・薬物摂取パターンはさらにひどいものであった。男性は,通常これらのキャンペーンの対象ではないものの,飲酒量や喫煙量,マリファナ使用量はパートナーの妊娠前,妊娠中,出産後でほとんど変化していなかった。しかし,男性のアルコール・薬物使用は妊娠中の女性のアルコール・薬物使用の中断を困難にし,出産後に喫煙または飲酒を再開させる原因となる。
Bailey博士は「出産後の数か月は母親に介入するのに最も重要な時期である。例えば,多くの人は既に苦労して禁煙しており,6か月以上一服もしていない。そこで,母親が禁煙を継続できるように支援する必要がある。しかし,父親が喫煙や飲酒を続けていれば,母親も喫煙や飲酒を再開する可能性が高い」と指摘している。
今回の研究では,妊娠期間を含む 3年間の母親と父親のアルコール・薬物使用について月ごとに調べた。妊娠中および前後のアルコール・薬物使用は,胎児性アルコール症候群,認知的および問題行動と障害,喘息,乳幼児突然死症候群など胎児や乳児にさまざまなリスクをもたらす。
今回の研究では,以下の点が明らかになった。
(1)女性喫煙者の77%,マリファナ常用女性の50%が妊娠中のいずれかの時点でこれらを使用していた
(2)女性喫煙者の38%,マリファナ常用者の24%が妊娠期間を通じてこれらを使用していた
(3)女性の場合,たばこ,マリファナの使用者および飲酒者の割合は妊娠中に低下していたが,産後6か月間にその割合は再び増加していた
(4)妊婦の喫煙率,飲酒率,マリファナ使用率を月ごとに調べたところ,それぞれ21%,2〜3%,8〜9%で一定していた
予防的介入の必要性示す
今回の研究データは,シアトル在住の小児808人を追跡したSeattle Social Development Projectから得られたもので,対象小児は現在若年成人である。登録者には3年ごとに聞き取り調査を行ったが,今回の研究では登録者が21〜24歳時のデータを対象とした。
聞き取り調査では,月ごとの飲酒(2時間に5杯以上),たばこ,マリファナ使用回数について尋ねた。また,出産を含めたライフイベントに関しても質問した。この期間中,女性131人と男性77人から計244人の子供が生まれていた。
マリファナ使用率は喫煙率に匹敵するほど高いという驚くべき結果だった。Hill博士らはその一因として,被験者が高リスクで低所得の都市層サンプルであることが考えられるとしている。
さらに,同博士らは「この知見は,公衆衛生上のメッセージに加えて予防的介入がさらに必要であることを強調するものである」と述べている。
Bailey博士は「妊娠中の女性は乳児にとって最善の方法を望むので通常,飲酒や喫煙を控える。しかし,出産後は飲酒を制限し,たばこやマリファナをやめようという動機が失われることがある」としている。
Hill博士は「親たちに手を差し伸べる方法は2つある。妊婦にかかわる医療従事者は父親と母親の双方に喫煙,飲酒,マリファナ使用について話す必要がある。妊娠は彼らと話し合うことのできる公衆衛生上の大切な機会であるが,父親と話すことはないため,父親がアルコールや薬物の乱用を改めないことが今回の研究から明らかになった。しかし,父親の行動も重要であり,アルコールや薬物の使用量を減らすべきである」と述べている。
さらに,同博士は「これらの薬物使用に関する社会的規範に対する社会の見方を変える必要もある。かなり一般的な問題であるにもかかわらず,現在,妊娠中のマリファナ使用に関する議論は十分になされていない」と付け加えている。
この研究は米国立薬物乱用研究所(NIDA)の助成を受けた。
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