(関連目次)→医療政策 目次 自宅介護について考える
(投稿:by 僻地の産科医)
今週号の週刊東洋経済です(>▽<)♪
2008年8月2日特大号(2008年7月28日発売)
結構、力の入った特集です!!!どうぞ ..。*♡
総検証 ニッポンの老後
医療、介護、住まい、年金…不安大国の真実
75歳以上の後期高齢者は2025年に2000万人を突破。
老後の生活は安心なのか徹底検証する。
(週刊東洋経済 2008.8.2号 p34-37)
退院は8月3日です。1日も『遅らすことはできません』
東京都内に住む佐藤真紀子さん(仮名、50)は、母親のキミさん(同、87)が入院するリハビリテーション病院からこう言い渡された。
今年1月11日、自宅で具合が悪くなったキミさんは、総合病院で診察を受けた後、そのまま入院した。脳梗塞だった。
幸い、病状は軽く、入院から5日目には、病室から1階ロビーまで下りていき、シルバーカーを押して歩く練習を開始した。そして2月6日にはリハビリ病院に転院した。
8月3日はリハビリ病院への入院からほぼ180目になる。180目を超えると、脳卒中のリハビリは、診療報酬に算定することができなくなり、自費扱いになってしまう。
真紀子さんは父親の富吉さん(同、91)を担当するケアマネジャーに老人保健施設を探してもらっているが、目星をつけたリハビリが充実している施設からは「いつ入れるかは何とも言えません」との返事が返ってくるばかりだ。
真紀子さんは現在の病院に不満はない。リハビリは週に6日、マンツーマンでしっかり行う。6月末には車いすも使わずに部屋を行き来できるようになっていた。ところが、まもなく突然の終わりがやってくる。
今までのような密度の濃いリハビリは無理でも、老健施設が見つかればリハビリを続けることはできる。しかし、見つからずに自宅に戻るようだと、足腰の衰えが心配だ。
自宅では7年前に脳梗塞で倒れた要介護2の富吉さんに加えて、キミさんの介護が必要になる。富吉さんを病院に連れていくときに、キミさんを見てくれるヘルパーがいてくれればいいが、身体介護を伴わない、見守りや家事援助だけのヘルパーはなかなか見つからないと聞く。
「中学2年生の娘の塾からのお迎えも必要。そのときは家を離れなければなりません。主人は夜遅い日が多く、母が自宅に戻ってきたときに、きちんと受け止めてやれるのか、自信がありません」(真紀子さん)。
世界で例がない急速な高齢化が進む日本。真紀子さん一家はその象徴だ。そして2006年の診療報酬改定で設けられた脳卒中リハビリテーションの「180日ルール」など、国の医療政策の影響をまともに被っている。かつてであれば、家庭の事情も勘案して、リハビリ病院がキミさんをしばらく入院させておくこともできたが、今はかなわない。また、老健施設も待機者が多く、すぐ入所ができないのも最近の傾向だ。
そしてこのような状況は、今後さらに厳しさを増すはずだ。
医師不足は公式に承認
介護労働者は「不足なし」
国立社会保障・人口問題研究所によれば、団塊の世代が75歳以上になる25年時点での後期高齢者人口は2100万人を超す。現在の1300万人からさらに800万人も増加する計算だ。そして世帯主が75歳以上の世帯は、全世帯の2割を上回る1085万世帯に上る見通しだ(グラフ)。認知症の発症の可能性が極めて高い90歳以上の人目は、08年の2・6倍の336万人に増加する。
そのときに、医療・介護体制は大丈夫なのか。厚生労働省は、06年医療制度改革の中で、「医療費適正化計画」の一環として、療養病床の大幅削減計画(38万床→15万床)を打ち出した。また、25年時点での在宅での看取り率を現在の倍の40%まで引き上げるとし、在宅医療を強化する方針を打ち出した。が、それから2年が過ぎたものの、在宅医療は期待ほど広がらず、介護保険対象の有料老人ホームも、自治体の規制強化で、建設にブレーキがかかっている。
自宅で最期まで療養するのは多くの人にとっての望みだ。しかし、現実には困難であることを、厚労省が04年に行ったアンケート調査(表)は物語っている。
「介護してくれる家族に負担がかかる」「症状が急変したときの対応に不安がある」「訪問看護体制が整っていない」「症状急変時すぐに入院できるか不安」など、医療・介護体制がネックになっているのだ。
それならば、医師や介護職員を増やすべきだが、厚労省が医師不足を初めて公式に認めたのは昨年のこと。今年6月の「経済財政改革に関する基本方針(骨太の方針08)」で、医学部定員を「早急に過去最大程度まで増員するとともに、さらに今後の必要な医師養成について検討する」との記述が盛り込まれた。
限界にきた医療・介護現場
日本は米国並みの福祉小国
しかし、厚労省は病床数は過剰との見解を変えていない。療養病床削減の旗は降ろしておらず、むしろ新たな診療報酬設定で早期退院を促すなど、平均在院日数短縮を強力に推進中だ。42p以降で詳報するが、脳卒中の後遺症や認知症患者が早期退院のターゲットにされている。
問題はそうした政策に成算があるのかだ。深刻な人手不足が指摘される介護サービス。厚労省は介護労働者の需要の見通しについて、「14年で138万~156万人程度と、年間4万~6万人の増加が見込まれる。一方、年間7万人の供給は可能。介護労働者については、将来的にも人手不足は発生しないと見込まれる」(同省社会・援護局)との06年当時の見解を変えていない。
だが、このような見通しに現実味はあるのか。76P以降で詳述するように、介護現場は人手不足で疲弊が著しく、まさに崩壊寸前だ。
驚くべき事実がある。今まで私たちは、日本を「中福祉国」だと思い込んできたが、上グラフからは「世界トップクラスの高齢化率でありながら、アメリカとさほど変わらない社会保障の規模で運営されてきたという事実」(権丈善一・慶応義塾大学教授)が読み取れる。そして政府は、将来の超高齢社会をも小福祉で乗り越えようとしている。だが、この方針は国民に安らかな老後を保障するのか。特集では、「小さすぎる福祉国家」の実態解明を試みた。
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