(関連目次)→医療政策 目次 高齢者の医療について考える
(投稿:by 僻地の産科医)
今週号の週刊東洋経済です(>▽<)♪
2008年8月2日特大号(2008年7月28日発売)
結構、力の入った特集です!!!どうぞ ..。*♡
お昼の記事の続きですo(^-^)o !
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医療費抑制が本格始動
「後期高齢者」の受難
高齢者医療費の抑制を狙った新たな保険制度と診療報酬が4月にスタートした。
厚生労働省が狙う在宅復帰戦略は、高齢者に安心をもたらすのか。早くも悲鳴が聞こえ始めた。
(週刊東洋経済 2008.8.2号 p38-41)
医師のサボタージュが続発
神通力失った診療報酬誘導
主治医に6000円、リビングウィルに2000円………新たな診療報酬に医師がソッポを向く理由。
75以上の高齢者約1300万人および65~74歳の重度障害者約130万人をひとまとめにした後期高齢者医療制度(長寿医療制度)が4月1日にスタートした。
「住み慣れた自宅で自分らしい生活を送りたい方には、きめ細かい訪問診療を提供します」
「急に病状が悪化した場合でも、あなたの病状をよくわかっている病院に入院できます」
そして「希望すれば、あなたの選んだ担当医が継続して支えてくれます」と厚生労働省はPRした。
いわく、「個々人にふさわしい治療計画を立て、生活を重視した丁寧な医療を提供します。飲み合わせの悪い服薬も防げます」。
厚労省はポスターやホームページで繰り返しアピールした。
「ご安心ください。今までと同じ医療を受けることができます」
ところが、医療団体の中から「高齢者いじめの制度だ」「自由に医療機関を選べなくなる」(茨城県医師会)といった声が持ち上がり、一騒動になっている。
「地域医療に混乱も」
過半の医師会が問題視
反対の急先鋒である茨城県医師会は、原中勝征会長を中心に全県で反対運動を展開。7月までに20万筆の署名を集めるとともに、月内に厚生労働省に提出する構えだ。
一方、後期高齢者医療制度には賛同する都道府県医師会の中でも、後期高齢者を対象とした診療報酬に対しては、「地域の医療のあり方に混乱をもたらす可能性が高いので慎重な対応を」(大阪府医師会)と会員に警告を発するところが少なくない(医師会の動きは表)。
その結果として、厚労省が4月の診療報酬改定で新たに導入した「後期高齢者診療科」の算定を、診療所が“サボタージュ”する動きが顕在化した。同診療報酬請求のために必要な社会保険事務所への届け出では、「青森県ゼロ」「秋田県2」「高知県14」など、ほとんどの診療所が非協力とする県が続出。全国ベースでの届け出数(5月1日現在)も9478件と、内科を主たる診療科目に標榜する診療所の25%にとどまっている。
届け出はしたものの、診療報酬の請求をしない(=不算定)方針の診療所も少なくない。東京都葛飾区の大山高令・大山クリニック院長は、「届け出はしたが算定はしない」とする一人だ。
後期高齢者医療制度は
医師も理解していない
後期高齢者診療料は75歳以上の入院以外の患者で、糖尿病、高脂血症など13の疾患を主な病名(主病)とする患者に対して、月に1回、600点(=6000円)の診療報酬を算定するというものだ。「担当医」は算定する患者一人ひとりに診療計画書を作り、治療や検査の年間スケジュール、ほかの病院での受診状況、その日の診察や検査の結果などを記入する。そして患者に診療計画書を提供しなければならない。
言うなれば「主治医」「かかりつけ医」の証しでもある。
大山医師が「算定しない」とする理由の一つは診療報酬の低さだ。
同報酬の中には、血液や尿などのさまざまな検査やX線などの画像診断、傷の手当てなどの処置が含まれる。コストが報酬の範囲内に収まれば問題はないが、「患者さんによっては必要な検査や画像診断ができなくなるおそれがある」と大山院長は指摘する。
熊本市内で胃腸科の診療所を営む医師は、「この診療報酬を算定してしまうと、ほかのクリニックを受診するときに検査などで制約が生じかねない」と語る。というのも、同診療報酬では「主病」を一つに限定したうえで、その診療を行う一つの医療機関だけしか算定できないためだ。
同じ主病で別の診療所が同診療料を請求したりすると、後期高齢者医療制度を運営する都道府県広域連合からチェックが入り、請求が認められない可能性もある。
高齢者の場合、たくさんの医療機関にかかる場合が多いため、担当医には交通整理役が求められる。そしてそのための報酬である以上、「複数の医療機関での重複算定は認めない」(森光敬子・保険局医療課課長補佐)というのが厚労省の姿勢だ。
かかりつけ医のための
診療報酬誘導にそっぽ
一方、この診療報酬を積極的に活用している医師もいる。東京都目黒区で開業する清水恵一郎・阿部医院院長(写真の人物、日本臨床内科医会常任理事)がその一人だ。
阿部医院では通院する後期高齢者約230人のうち、約190人から、従来の出来高払いから同診療報酬に切り替える了承をもらい、診療に当たっている。
初診や、来院して3ヵ月以内の患者は状態をよく見極める必要があるため、従来どおりの出来高払いで対応する。その一方で、それ以上の通院歴がある患者に関しては、病状の変化が激しい人を除き、多くの人に包括払いの後期高齢者診療料に切り替えてもらった。
清水院長は今年2~3月に新たな診療報酬ができることや、その特徴や留意点を、患者一人ひとりに時間をかけて説明していった。その努力が実って4月には177人が切り替わり、6月末までで必要な患者への対応をほぼ終えた。
清水院長は同診療報酬を、冷静かつ複眼的な視点で分析している。
「かかりつけ医を評価するというのならば、その発想はすばらしい。ただ、管理の手間がかかるわりには点数自体は粗末だ。高齢者への医療費抑制の考え方が如実に出ている。とはいっても、制約条件の中で最大限の努力をしてこそ、厚労省に対して現場の実情を伝えることができる。もし2年後の改定で、頭ごなしに診療報酬を下げるようなことがあれば、現場の努力は水の泡だ」
清水院長は担当医制の効果として、「服薬の重複が減っている可能性」を挙げる。その一方で、「高齢者が通う診療所の数が減少しているかはわからない」としている。
しかし、清水院長のように、医療行政に批判的な視点を持ちつつも、新たな診療報酬を正面から受け止めて取り組む医師は減っている。
「今回ほど、診療報酬がボイコットされたりサボタージュされた例を知らない。今までは羊のようにおとなしかった医師会が声を上げるようになった。そして現場の医師が厚労省の言うことを聞かなくなっている」(清水院長)。
都内のある医師会の地域支部が会員向けに行った、後期高齢者医療制度に関するアンケートの調査結果が手元にある。調査時期は4月下旬~5月初めで回答数は19件と多くない。しかし、そこでは後期高齢者医療制度および後期高齢者向け診療報酬に対する開業医の不信感がはっきりと見て取れる。
同医療制度の開始について、「問題あり」が15件に上ったのに対して、「問題なし」はわずか1件、「やむをえない」は3件たった。
「問題あり」の理由としては「医師もよく理解していない。患者に聞かれてもよくわからない」「かかりつけ医の発想は医療機関の連携を破壊する」「在宅看取りは家庭を破壊する」「事務的順序、説明が十分でない」など、多岐にわたった。
また、高齢者担当医については、「反対」14件に対して「賛成」ゼロ件、「やむをえない」2件。
反対の理由としては、「高齢者1人につき主病は一つであるべきとの考え方には納得できない」「主治医制は賛成だが、患者のフリーアクセスの権利は尊重すべき」などが挙がっている。
厚労省は後期高齢者診療料は「フリーアクセスの制限につながるものではない」と言うが、現場からはすでに懸念が持ち上がっている。その証左が、同診療料に対する県医師会の冷淡な対応にほかならない。
「早く死ねというのか」
終末期相談支援料の顛末
開業医が厚労省に不信を抱く理由はほかにもある。外来診療のいわゆる「5分ルール」の導入は、医師の怒りに油を注いだ。
5分ルールとは、診療報酬の「外来管理加算」(1回52点=520円)を算定する条件を、患者が診察室に入ってから出るまでの間に医師が患者に「おおむね5分を超えて」直接診療に当たっている場合に限定したことを指す。4月の診療報酬改定で盛り込まれたが、「現場を無視したルールだ」(大阪市内の整形外科診療所の院長)などと評判がよくない。
「診察時間は5分超」に
「現場を無視」の批判
また、同ルールをめぐっては、開業医の団体である全国保険医団体連合会(保団連、住江憲勇会長)が、「厚労省は時間外診療に開する実態調査のデータを不正流用して、診療報酬改定の際に外来管理加算の時間要件を決定した。その結果、算定が2割以上も減少し、小児科や内科などに大きな影響が出ている」と指摘。保団連の指摘を否定する厚労省との間で、対立が続いている。
厚労省は「後期高齢者終末期相談支援科」でもミソをつけた。これは、死が間近な高齢者から、人工呼吸器などの延命治療に関するリビングウイル(希望事項)を聞き取り、書面にサインをさせたうえで、実際に患者が死亡した場合に、200点(=2000円)の報酬を得られるというもの。「高齢者の死を助長するものだ」と医師のみならず野党からも強い批判を浴び、7月1日以降、「凍結」になった。
後期高齢者医療制度に詳しい寺尾正之・保団進事務局次長は、「脳卒中後遺症患者や認知症患者の退院促進を含めて、今回の診療報酬改定はお年寄りにとって極めて厳しい内容になっている」と指摘する。
厚労省は回復期リハビリテーション病棟の入院基本科で、ほかの病院ではなく自宅や有料老人ホームなどへ帰した患者の割合が60%以上である場合には、プラス10点(=100円)をつけた。これは「成果主義」といわれるが、「回復見込みが薄い患者さんの入院が敬遠されるおそれがある」と寺尾氏は指摘する。
厚労省の言う「今までと同じ医療」を、お年寄りはいつまで受けることができるのか―。診療報酬改定への医師の反発を「単なるエゴ」と切って捨てることはできないだろう。
後期高齢者医療制度には断固反対
親子を断ち切り、皆保険を崩壊させる
はらなか・かつゆき〇1940年生まれ。日本大学医学部卒業。
東京大学助教授などを経て、91年から大圃病院理事長・院長。
2004年から茨城県医師会長
後期高齢者医療制度は、制度そのものが間違いだ。 75歳になった途端に、今まで加入していた健康保険から追い出すなど、言語同断だ。また、扶養関係があるのに別の保険に切り離すのは、まさに親子の絆を断ち切るものだ。このままいくと、子どもが親の面倒を見る義務もなくなり、国民皆保険制度も維持できなくなるのではないか。
茨城県医師会では、組織として後期高齢者医療制度に反対してきた。反対の方針は3月下旬に機関決定した。署名活動では20万筆の目標を立て、ほば達成した。7月中には厚生労働省に届けたい。また、診療報酬については、これまでどおり出来高払いでやっていこうということで、趣旨に賛同する会員の皆さんには、包括払いの後期高齢者診療料を算定しないようにと呼びかけている。終末期相談支援料については、決して取らないようにと伝えている。そして医師会主催により各地で開催されている県民フォーラムでは、県民の皆様に後期高齢者医療制度に対する考え方をご説明している。
後期高齢者医療制度の根底には、医療費削減の狙いがある。 75歳で線引きする科学的根拠はないが、体の衰えが出てくる年齢で切り離すことにより、医療費を縮めようとしている。年寄りに「早く死ね」という制度にほかならない。
後期高齢者医療制度は必要な制度
包括払いの診療報酬は慎重な対応を
なんば・しゅんじ〇1940年生まれ。
市立堺病院勤務などを経て、大阪市内に難波医院開設。
2004年4月から現職。
08年3月まで、日本医師会で「高齢者の診療報酬体系検討委員会委員長」を務めた。
後期高齢者医療制度は、①破綻寸前の国民健康保険の救済、②医療費全体のパイを増やす、という点で、どうしても導入が必要な制度だった。老人保健制度が続いていたら、ほとんどの国保が成り立だなくなったことだろう。
日本医師会は、10年ほど前の坪井栄孝会長時代に75歳以上を対象とした新たな医療制度を提案。その考え方は後期高齢者医療制度につながっていった。
保険証の未着など、スタート時の対応がまずかったが、「必要な医療が受けられなくなる」などとメディアが誤った情報を流した責任も重い。お年寄りの怒りの元をたどっていくと、制度と診療報酬の話がごっちゃになっている。
診療報酬については、「1つでも包括払いの報酬を入れるべき」との財務省サイドの意向が反映された。厚生労働省が積極的に入れたということではない。
大阪府医師会は、包括払いの後期高齢者診療料については、「届け出や算定には慎重に対応してほしい」という通達を、会員向けに出した。ほかの診療所と患者さんの奪い合いのようなトラブルを起こさないでやっていただきたいという意味だ。今のところ、トラブルの情報は聞いていない。届け出が少ないのは、診療報酬の仕組みがわかりにくく、診療所の先生方が戸惑っているからではないか。
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