(関連目次)→なぜ産科医は減っているのか 産科医療の現実 目次
(投稿:by 僻地の産科医)
産婦人科の実際
2008年04月号(57巻 04号)
特集は「妊娠中に発見された悪性腫瘍の取扱い」
産婦人科の実際は、
■連載:産婦人科医師不足の問題点と対策
をやっていて、いつも参考になります。
では、どうぞo(^-^)o ..。*♡
産婦人科医師不足と周産期救急搬送
中井章人
(産婦人科の実際 Vol.57 No.4 2008 p705-714)
10年前に比較し全国の産婦人科医は7~8%減少し,女性医師の占める割合が増加している。しかし,自身の出産,育児により女性医師の34%が分娩取り扱いをやめ,18%が産婦人科から離職している。その結果,20年前には5,884施設あった分娩施設は半数に減少し,勤務医の就労環境は悪化の一途をたどっている。こうした医師,施設の減少は全国の周産期救急搬送体制に影を落としている。特に首都圏や近畿圏など,政令指定都市を含む自治体で患者収容に至るまでの電話照会回数,収容時間が著明に増加し,緊急な対策が求められている。
はじめに
全国の産婦人科医師を取り巻く環境は悪化の一途をたどっている。この傾向は周産期領域において顕著で,多くの医師は過酷な就労状況,低賃金,さらには訴訟リスクに曝されている。しかし,こうしたなかでわが国の周産期医療は長年世界一の水準を堅持してきた。
本校では全国の産婦人科医師救の推移と周産期救急搬送の実態を示し,医師不足の要因を解析するとともに全国の救急搬送にかかわる問題を解説する。
Ⅰ.全国産婦人科医師数の動向
1.産婦人科医師数推移
厚生労働省の調査によれば,10年前に比較し全国の医師数は15%以上増加しているにもかかわらず,産婦人科医は7~8%(約800人)減少している。また,日本産科婦人科学会員のうち41歳以下の会員では女性の占める割合が男性を上回る[本連載第1回(56巻7号)p 1099図3参照]。この女性医師の増加は実労働医師数のさらなる減少をもたらしている。すなわち妊娠,出産,育児に伴う休業である。
2. 医師不足の要因
医師不足の要因には医学生,あるいは臨床研修医の産婦人科専攻者減少と現役産婦人科医師の高齢化に加え,早期離職者の増加が挙げられる。
実際,全国の大学病院調査(日本産科婦人科学会調査,日医総研解析2007年)では,入局16年目までに,男性医師の17.4%が分娩取り扱いをやめ,9.6%が産婦人科から離職している(図1)。
しかし,同調査によれば分娩取り扱いからの離脱,産婦人科からの離職は女性医師で顕著で,それぞれ34%,17.8%と男性医師の約2倍近くに達している(図2)。その主たる要因は女性医師自身の出産,育児である。また,地域別,男女別の離職率には地域格差が存在するが(図3,4),その要因に関しては十分な調査が行われておらず,今後の検討課題になろう。
Ⅱ.全国分娩施設数の推移と勤務医師の就労状況
1.分娩施設数の推移
医師数の減少は分娩取り扱い施設の減少も招いている。厚生労働省の調査によれば,1985年には5,884施設あった分娩施設は1O年で3,991施設に減少し,2005年の調査では2,938施設にまで減少した(図5)。しかし,こうした行政の把握している施設数と実際の施設数には乖離があり,正確な施設数の把握にはさらなる調査が必要になる。
2.勤務医就労状況
日本産婦人科医会の病院勤務医師の就労状況全国調査(2007年)では,施設数の減少にもかかわらず,産婦人科医師の当直回数は平均月6.3回で,8年前に比較し,約30%増加していた(図6)。
こうした状況に対し,当直翌日の勤務緩和を行っている施設はわずか7.5%にすぎず,9%程度の施設で当直料の増額があるにとどまっている(表1,2)。
また,分娩手当金の支給は約10%の施設に限られ,ハイリスク分娩管理料,妊産婦共同管理科を医師へ還元している施設は,1%に満たない状況であった(表3)。
過酷な就労環境は医師の疲弊を助長し,勤務医の離職を促進するだけでなく,若手医師の産婦人科専攻を妨げる大きな要因となっている。
Ⅲ.周産期救急搬送の現状
医師,施設の不足は全国の周産期救急搬送体制に影を落としている。総務省消防庁企画室,厚生労働省医政局指導課による産科・周産期傷病者搬送の実態調査(2007年10月)を表4に示す。施設間搬送を除き,救急隊が覚知から産婦人科施設収容に至るまでの電話照会回数,および覚知から収容までの時間が自治体などに示されている。
電話照会回数および収容までの時間は,首都圏や近畿圏など,政令指定都市を含む自治体で著明に増加している(表5)。
また,同調査で受け入れに至らなかった理由を分析すると,政令指定都市を含む自治体とその他の自治体では大きく異なる結果となる(表6)。前者では処置困難,手術・患者対応中,満床などが主たる理由で,後者では専門外,医師不足となっていた。
こうした結果は,政令指定都市を含む自治体とその他の自治体に異なる対策が必要になることを示している(表7)。
すなわち,政令都市を含む自治体では,照会回数減少のためのコントロールセンター(コーディネーター)の設置とNICU増床,後方ベッドの確保が優先課題となる。一方,その他の自治体では各施設の診療機能の把握・支援と医師確保が優先課題となる。
Ⅳ.今後の展望
産婦人科医療崩壊はすなわち医師不足ということができる。若手医師,学生は研修先の勤務医師に接し,専門科目を選考する。従って,女性医師を含む勤務医師の処遇改善が優先されるべき課題となる。勤務医師の処遇改善により,産婦人科選考希望者が増加すれば,現在われわれが抱える多くの問題を解消し,やがては地域に根差す開業医師の支援,増員につながるものと考える。行政が掲げる集約化は,現時点で様々な地域性を抱えるすべての地方に適合するものではない。全国民が安心,安全な医療を受け続けるためには,今しばらく現行の1次,2次施設を含めた周産期システムの維持が必要になろう。現状打開に向けた今後の対策を思いつくままに示す(表8)。心肺蘇生に代表されるごとく,重症患者を取り扱う上で肝心なことは優先順位と一つ一つの確実な処置である。
数多くの有益な医科学論文を掲載してきた伝統ある産婦人科医学誌「産婦人科の実際」が,こうした問題を特集しなければならないことは,まさに憂慮すべき事態である。様々な施策により産婦人科が再び隆盛を取り戻し,数多くの新しい見知が誌面に溢れることを切望するものである。
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