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(投稿:by 僻地の産科医)
というわけでシンポの続きですo(^-^)o ..。*♡
遺族側「医療者と患者はパートナー」 死因究明制度でシンポ(1)
死因究明制度でシンポ(5)
ディスカッション
熊田梨恵
キャリアブレイン 2008/06/20
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/16649.html
【シンポジウムの関連記事】
死因究明制度シンポ(1)遺族側「医療者と患者はパートナー」
死因究明制度シンポ(2)弁護士側「刑事裁判では真相究明できない」
死因究明制度シンポ(3)医療者側「正当な医療に刑事免責を」
死因究明制度シンポ(4)国会議員「原因究明と再発防止は両立しない」
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<ディスカッション>
帝京大医学部附属病院副院長・森田茂穂氏(司会)
「刑事弁護の実例をお聞かせ下さい」
■日本は黙秘権が通用しない
後藤貞人弁護士
「医療事故関係を例に取ると、一番しんどいのは、医師に的を絞って警察や検察が調べを始めた時。取り調べが始まると、来る日も来る日も朝から晩まで同じことばかり聞かれるわけだ。その負担は非常に大きい。『黙秘権を行使しなさい』と言われても、日本では黙秘権は(通用し)ない。憲法に規定されているが、黙秘権はない。『黙秘権を行使します』と言うと、『黙秘するのは君の権利だ。ところで君、もう一度聞くけども』となる。これを5、6時間もやられる。わが国で黙秘権を行使できるのは、強靭(きょうじん)な精神力を持ったごく一握りの人。わたしは33年間刑事弁護をしているが、わたしの依頼人で黙秘ができた人は3人だけ。やくざは全滅だった」
医療問題弁護団・安原幸彦弁護士
「医療安全調査委員会(医療安全調)と『責任追及』は分離されるべき。『責任追及すべきでない』という意見があるが、責任追及を目的とした責任追及をしろ、とは言わない。しかし『責任判定』にはつなげるべきではないか。医療安全調の機能には死因究明があったが、もう一つは医学的評価だったはず。この事実究明と医学評価が、責任判定の大きな資料になるため、それが活用されていくのが医療安全調の一つの在り方では。必ずしも責任追及につながるのではなく、むしろ本来あるべきではない責任追及から医療機関を解放する機能を果たす。調査受任で『この医療機関に問題はない』と解明してそれを報告することが、被害者に有益だと言った。責任判定につなげることは、責任追及につながるだけでなく、責任解放と責任追及の両面がある。そのことに事実究明と医学評価が生かされていくのでは。『責任と切り離す』という議論だけが先行すべきではない」
■刑事との切り離し、厚労省は考えたのか
日本産科婦人科学会・岡井崇理事
「原因究明して、術式が間違いだったということがあれば、それは正さねばならない。医師、専門職として直すべきところはきっちりやるべきで、そのペナルティーは厳しくていい。場合によって『君の手術はひどいから勉強し直してきなさい。専門医の資格は一時期停止します』ということはやらねばならない。しかし、すぐに刑事罰というのはおかしい。医療安全調は刑事と切り離してほしいと既に主張している。
厚生労働省の岡本浩二大臣官房参事官に聞きたい。医師法21条があるために、どうしても(刑事罰は)残しておかねばならないと思っていた。『原因究明はこっちでして、警察の捜査はこっちでします』となると問題が解決しないので、(医療安全調と警察は)つないでおかねばならない(と思っていた)。事例を厳しく絞り、問題の部分だけ刑事に持って行くようにすることに(厚労省が)苦労していると解釈していた。だから『そこの絞り方を厳しく、悪質なものに限ってください』と主張していた。しかし、鈴木寛参院議員と話していると、『そんなことやらなくていい。切り離せる。民主党は案を出している』と言う。厚労省はそのことについて検討していたのか」
■今の仕組み上、こういうこと
岡本浩二氏
「(今の指摘は)頂いている意見の中で多い、『刑事手続きとの関係をどうする』というもの。医師法21条というものがもともとあり、当然変えられない。その中で、医療関連のものについては新しい仕組み(医療安全調)に届け出る。その判断について、今まで捜査当局が行っていたものを、医療者が自ら判断するということ。それがこの仕組みの大事なところ。
その中で、『どうしても医療界の中で、刑事手続き上、避けられない』というものに限って通知する。これが基本的な考え方。今の仕組み上、こういうことになる」
■刑事免責は一定の根拠あり
後藤貞人氏
「安原先生が言うことに正しいところがある。きょうの話を聞くとよく分かるが、医療行為について刑事免責にすべきかどうか。『刑事免責すべき』という意見には一定の根拠がある。例えば、配管工が赤と白を間違って、家の配管がめちゃくちゃになったら、これもすごい過失。一方で、医師がメスを間違ったら人が死んだ。なぜ過失『配管間違い罪』はなく、過失『致死』があるのか。それはやはり失われた公益があまりにも大きいから。しかし、われわれ弁護士は間違って弁護過誤をして、懲役や死刑になる(依頼)人がいる。しかし、そういう高度なプロフェッションでありながら、『過失弁護過誤致死刑罪』なんてない。その対比で言うと、医師も免責されるべきでは。弁護士が免責されるなら、ということは大いにあり得る。しかし、現在『免責すべき』という意見は国民に受け入れられる余地は小さい。
(医療者が)心配されておられる、警察のよく分からない科学的・医学的判定基準で逮捕・拘置・起訴されるというとんでもないことがある。大野病院(事件)があるので、そこは賛成する。医療安全調で医学的・科学的な判断基準で、『これはセーフですよ』と言えばそれ以上進まない、という考えもあり得る。しかし、そうする場合には、医療安全調が最高の科学的・医学的なスタッフとお金をつぎ込んで(それを達成)できるのか、という問題もある。(だから)やっぱり元に戻って『原則として刑事免責、免責でなければ少なくとも医療安全調は刑事に結び付いていかない』という機構を設けて、安心して(医療者を)事実の調査に協力させる方が正しいのでは。どちらが正しいとは思わないが、きょうの話をみていると、皆さんで共有した上で、患者と医療者側が探っていくしかないのでは」
森田茂穂氏
「米国で免責制度があるが、『免責するから(事故に関する)資料を出せ』ということで、わたしたちが考える免責とは違う」
■医療安全調で無理なら、警察はなおさら無理
後藤貞人氏
「厚生労働省の第三次試案を基にした法案大綱案では、『疑いがある場合に通報せよ』となっている。これはおかしい。つまり、最高の調査機関で医学的・科学的に判断して、『これは分からない』と言った後に、今度は訳の分からない警察に通報して、『調べてください』ということになるのでは。そこに根本的な問題がある。警察に行くのはおかしい」
■なぜ警察ざたと考える
医療の良心を守る市民の会・永井裕之代表
「免責については、院内事故調査を自らしっかりやったら『免責』と同じことになってくると思う。なぜ医者が医療安全調をつくることが『より委縮医療、警察ざたになる』と言うのか、その論理が分からない。本当にしっかり調べてわれわれ遺族も納得すれば、警察ざたにはならない。
一番の問題は医療安全調について、国民的、被害者的に見たときに、中立・公正なものにできるかということで、すごく疑問を感じている。今までうそやごまかしが多い。全国医学部長病院長会議の嘉山孝正先生は『ない』とおっしゃったが、大学病院も結構ある。そういう実態を本当に知り、自浄作用をつくるために、この医療安全調を早くつくるべき。小さく生んで、制度も改革していったらいい。その意味では、自分たちのところで(院内事故調査を)しっかりやりながら、医療安全調から、院内事故調を助けてもらうとかいろんなやり方がある。よろしくお願いしたい」
自治医科大麻酔科学・集中治療医学講座、瀬尾憲正主任教授(座長)
「安岡さんの責任追及と責任判定の違いがある。例えば、KCL(塩化カリウムの投与)の間違い。これは誰がみても責任追及。責任判定の場合はKCLかどうか区別が付かないことが問題。そう責任判定していただければいい。つまりKCLを入れるかどうかについては責任を取る。一方で、『KCLがKCLである』ということが明らかにできないことにも責任がある。それを直さないと。いつまでたっても(KCLを)入れた人を罰していたのでは直らない。責任判定とはそういうことだと思う」
■刑事裁判自体が危機的
大野病院事件弁護団・安福謙二弁護士
「8月20日の(大野病院事件の)判決を控え、発言を控えないと、というプレッシャーがある。
具体的事件を担当してつくづく感じるのは、黙秘権は憲法に定められた権利で、不利益事実の供述は強制されない。ところが日本の取り調べは、強制しないどころか、強制に近い状態で行われている。日本の社会では、医療だけでなく刑事事件全部がそういう状態で動いている。例えば、わたし自身が経験した、最高裁で、逆転で破棄無罪を頂いた事件だ。最高裁が判決の中で何と言ったか。『(検察が)起訴すること自体に問題があった』と、そこまで最高裁は判決に書いてくれたのだが、そのようなとんでもない事件ですら、高裁は一審の判決を破棄して実刑有罪判決を出している。これが日本の裁判の実態。わたしは弁護人としてあえて言うが、刑事裁判を信用していない。弁護人がそういう気持ちになっているのは少なくない。たまたま医師たちが、自分たちだけがそういう目に遭っているという感情になっているのかもしれない。しかし、日本の刑事裁判は極めて危機的。それがたまたま『医療』という形で関心を持ったということを、あえて申し上げる。
日本で自白調書を一切書かず、取り調べに対して黙秘権を行使して通る人がいる。国会議員だ。エアポートで身体検査を受ける時は、国会議員になりたい、取り調べを受けなくて済むかなと思う。ある事件で(警察から)『依頼者を守るために答えないと言うなら、逮捕するぞ』と脅かされたことがあるが、『弁護士と国会議員からは無理やり供述を取らない』と言われた。(しかし)わたしに言わせると、あらゆる国民が取り調べで供述を強制されない、任意の取り調べでないといけない。せめて全面可視化が当たり前にならねば。しかし、法務省や検察庁が何と言っているか。『密室でないと真実の答えが出てこない』と。ばか抜かせだ。おまえら、公開法廷で、尋問してちゃんとした答えが取れないのか、そんな能力がないのか、と検事たちに言いたい。われわれはむしろ公開法廷で、反対尋問で必死になって崩している。
■医療者の自己規律が医療救う原点
医師の刑事責任追及については限定的であるべきだと思うが、ただ、医療側はもっと自己規律をして、自分たちの仲間に厳しい態度を取り、その実績を見せないと、患者さんや遺族からは『限度があるね』と、そういう声が上がってくると思う。原告代理人として医療機関に強い怒りを持ったことは少なくない。自らを正してください。それが日本の医療を救う原点だ。いつもそういう思いだ」
森田茂穂氏
「問題を作ったのは医療者。自浄作用、自律作用を十分示せていないのも医療者。われわれはもう少し頑張らないといけないという感想を持った。多様な意見があるが、共通点もあるのではないか」
■ ■ ■
きょうまで5回にわたり、日本麻酔科学会による死因究明制度についてのシンポジウムの詳報をお届けした。厚労省の第三次試案に基づく法案大綱案が出た今のタイミングで、各方面から出そろったこの議論は、多くの人に届けねばならないと思わされる内容であり、すべてを記事にした。さまざまな主張が出たが、この「方程式」の解がどこに落ち着くかは、国民にとって新たな選択肢も出てきた今、議論が深まることによる世論の高まりが左右すると思う。さらに、厚労省も再度パブリックコメントを募集しており、国が国民の意見をどこまで真摯(しんし)に受け止めるかにも期待したい。国の一方的なリードによる従来型の政策決定ではなく、国民による議論でこうした方程式が現れたことは大きな進展だと感じざるを得ないし、森田氏が最後に指摘した「共通点」も見える。しかし、この問題を知る人は国民のほんの一握りにすぎないという現実もある。この連載を読むことで、死因究明制度についての選択・行動の際の一助になれば幸いだ。(熊田梨恵)
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