(関連目次)→ADRと第三者機関 目次 各学会の反応
(投稿:by 僻地の産科医)
夜には大淀事件きよさま編2をお送りできると思います!
最近記事が多すぎて追いつきません(;;)。
◆医療維新
厚労省第三次試案を検証◆Vol.1
国家的「鑑定」制度の創設で「責任追及」へ
井上清成(弁護士)
2008年04月30日 m3.com
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080430_1.html
1.「再発防止」を「責任追及」で達成する仕組み
厚生労働省が2008 年4月に公表した「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案―第三次試案」は、昨年10月の第二次試案に比べて詳細なものである。そのため、以前は曖昧であった法的リスク、つまり同試案の法制化と新制度の創設が、法律面で医療制度にどんな影響を及ぼすかが明らかになってきた。
そもそも第三次試案で意図していることは、全国家的規模の医療事故「鑑定」制度の創設であり、強制的な医療事故「情報収集」システムの構築であると思う。また、「原因究明」とは、簡単に言えば「鑑定」のことである。第三次試案では、「医療安全調査委員会の目的は、原因究明と再発防止であり、医療関係者の責任追及を目的としたものではない」と明記した。しかし、「再発防止」を、網羅的な「行政処分」をはじめとする諸々の「責任追及」によって達成しようとしていると解釈できる仕組みになっている。
2.調査報告書は「鑑定書」なのか
医療事故の調査報告書は、必ず「評価」や「判断」をしなければならないものではない。「分析・検討」と「今後の医療の安全の向上のために取り得る方策」の案出で足りるはずである。 単純な例で言えば、薬剤取り違えの場合、評価・判断するのであれば、「医療者のはなはだしい不注意である」などと結論付けるが、分析・検討であれば、「容器が似ているのが間違いやすい原因である」などと医療者の過失の有無は判断しない。
確かに調査報告書の「評価」や「判断」は、それ自体が直接、「医療関係者の責任追及を目的としたものではない」と言い得る。しかし、翻ってみると、そもそも医療事故を「評価」「判断」して、その医療者の有責性の有無について「結論」を出す必要はない。「医療の安全の確保」が真の目的ならば、分析・検討、研究して改善策を見い出せば、必要十分だからである。
一般的に、刑事裁判でも民事裁判でも行政処分でも、それら裁断を下すためには責任原因を認定しなければならない。その責任原因の証拠資料として、専門的な医学鑑定が必要であり、だからこそ責任の有無を断じた「鑑定書」が作成される。調査報告書は、医療事故の結論としての「評価」や「判断」に重点を置いているので、まさに「鑑定書」そのものであろう。
3.「鑑定書」の機能は「責任追及」
「鑑定書」は、「責任追及」の証拠資料のために作成されるものである。医療安全調査委員会の活動が「調査報告書」の作成に向けられたものであることからすると、鑑定書作りこそが目的だと見ざるを得ない。第三次試案では、調査委員会は「故意や・重大な過失や悪質な事例は、捜査機関に通知を行う」「第三者による客観的な評価結果として遺族への説明や示談の際の資料として活用されることが想定される」などとなっている。たとえ直接的には「医療関係者の責任追及を目的としたものではない」としても、その機能、そしてその結果は、刑事・民事・行政の責任追及になってしまうのである。
4.医療安全確保策は「責任追及型」と「研究改善型」に大別
医療安全確保の方策には、大きく分けて2つの型があると思う。1つは責任追及型であり、もう1つは研究改善型である。これまで見てきたように、厚労省の第三次試案は、そのうち、責任追及型の医療安全確保策を選択したと言える。
ところで、2つの型は、その主たる対象が異なる。責任追及型は、無謀な医療や怠惰な医療を主な対象とし、かつそのような対象に効果的であろう。過度な営利目的あるいは過度な名誉追求目的などで反倫理的なくらいに強引・無謀な医療をする場合、反対に医療への意欲や士気がなさすぎて反倫理的なくらいに怠惰な場合である。それらの場合には、厳罰に処するくらいの方が適切だし、またそうでもしなければ効き目がない。恐らく厚労省は、それらのケースを医療事故の典型モデルに考えたのであろう。
しかしながら、現実の大多数、いやほとんどの医療は、こうした反倫理的ケースではない。反倫理的なケースは、それこそ極めて稀なケースである。にもかかわらず、ほとんどの通常の医療にまで責任追及型の医療安全確保策の対象にしてしまうと、医療者がの皆が萎縮してしまう。だからこそ第三次試案は、昨今の厳しい環境下の公的医療を萎縮させ、そして破壊さえしかねない法的リスクをはらんでいる。
通常の医療から起こった事故に関しては、丁寧に検討・研究し、そこから改善策を見い出していく研究改善型が適切であろう。それも、できれば自律的なものが望ましい。
井上 清成(いのうえ きよなり)氏
1981年東京大卒。81年弁護士登録(東京弁護士会所属)。89年井上法律事務所開設、2004年医療法務弁護士グループ代表。病院顧問、病院代理人を務める傍ら、医療法務に関する講演会、個別病院の研修会、論文執筆などの活動に従事。現在、日本医事新報に「病院法務部奮闘日誌」を、MMJに「医療の法律処方箋」を連載中。
コメント