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(投稿:by 僻地の産科医)
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医療維新
厚労省第三次試案を検証◆Vol.2
強制的「情報収集」制度の創設で「責任追及」へ
井上清成(弁護士)
2008年05月08日 m3.com
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080508_1.html
1.医師法第21条との比較
(1) 犯罪通報目的から広く事故通報目的へ
医師法第21条の異状死の届け出は、もともと犯罪の疑いのある死亡例を警察に通報することが目的であった。それが診療関連の業務上過失致死罪(刑法第211条1項前段)の疑いの死亡例の届け出にまで拡張解釈されてしまったことにより、特に都立広尾病院事件以降(事件は1999年に発生、2004年の最高裁判決で元院長が医師法第21条違反で有罪に)、問題が噴出したのである。そこで、この問題を解決すべく、厚生労働省において新制度の創設の議論が始まったはずであった。
しかし、第三次試案が求める届け出制度は、刑事手続のみならず、民事手続や行政処分にも利用し得るものに広がってしまう。全般的な責任追及に直ちにつながりかねない医療死亡事故通報制度になってしまった。
もちろん、法形式上は、医療事故の原因究明などを行う新組織である医療安全調査委員会は、調査報告書の公表をもってその役目は終わることとされている。しかし、刑事手続や民事手続、行政処分とは別個の制度であるという建前は、あくまでも法的形式のみにすぎない。調査報告書には死亡原因などの評価結果が、医療関係者以外の人が理解しやすいよう十分に配慮された形で記載されており、それを警察や行政、患者遺族がそのまま利用できる仕組みになっている。実質的には、刑事・民事・行政のすべての責任の追及につながるものである。
つまり、医師法第21条以上に、医師への責任追及機能が拡大されてしまった。
(2) 異状死届け出は適用除外なのか補充適用なのか
第三次試案では「医師法第21条を改正し、医療機関が届出を行った場合にあっては、医師法第21条に基づく異状死の届出は不要とする」と明記されている。確かに、医師法第21条自体の改正には踏み切らねばならない。しかし、改正の仕方によっては全く反対の結果を招き得る。
医療死亡事故の届け出を行った場合だけでなく、医療死亡事故の届け出を行わなかった場合も、医師法21条の適用を除外しなければならない。仮に両者ともに適用除外にしなかったとすると、医療死亡事故の届け出を行った場合は医療安全調査委員会に委ねられ、医療死亡事故の届け出を行わなかった場合には医師法第21条を補充的に適用することになってしまうからである。万が一、後者だとしたら、むしろ改悪と評せざるを得ない。
(3) 届出範囲は異状死の届け出と同じか拡大か
第三次試案が定める医療死亡事故の届出範囲は、異状死の届け出と比べて狭くなっていないことだけは明らかである。ただ、医師法第21条の「異状」と第三次試案の「予期しない医療起因性」とが同じなのか、それとも後者が拡大しているのかは、判然としない。 いずれにしても、「異状」の場合と同様、過度に広汎(網羅的)にすぎることに問題がある。法技術的には、第三次試案は医療死亡事故の届け出範囲を、医療者の過失と患者の死亡との因果関係の有無から規定しており、法的責任追及のための法概念を根幹に据えて構想したところに、決定的な欠陥があるように思う。「医療安全」を構想するための届出制度であるにもかかわらず、「医学的」な概念ではなく、「法的」な概念から構想してしまったのである。
(4) 制裁は直接刑事罰から行政処分プラス間接刑事罰へ
届出義務に違反した場合は、現行では直接の刑事罰が科される。第三次試案によると、制裁は直接には改善命令等の行政処分である。 しかし、いまだ明示されてはいないが、行政処分の不履行には刑事罰が想定されているであろうから、間接の刑事罰もあると言えよう。つまり、直接の刑事罰だけから、行政処分プラス間接の刑事罰になった。この制裁については、軽減されたと見るか加重されたと見るか、評価が分かれるところであろう。ただ、いずれにしても、届け出が「強制的」であることだけは間違いない。
(5) 回答は強制ではないが任意でもない
医師法第21条で異状死の届け出をした医師が警察から事情聴取を受ける際、もしも容疑者であったとしたら黙秘権が保障されていた。黙秘権の保障とは、黙秘によって何らの不利益を一切受けることがないということである。
ところが、医療安全調査委員会の質問に対する回答に関しては、黙秘権が保障されていない。第三次試案は、「地方委員会は、……医療従事者等の関係者からの聞き取り調査等を行う権限を付与する。ただし、医療従事者等の関係者が、地方委員会からの質問に答えることは強制されない」と明示した。回答を強制されないことは当然である。もしも回答が強制されたら、それは拷問であって絶対に許されない。質問に対する回答拒否には、もしかすると個人に対する刑事罰もしくは行政罰・行政処分がある可能性がある。少なくとも現時点ではっきりしていることは、質問への不協力は、医療安全確保のための医療機関内の体制の不備として、改善命令など医療機関への行政処分の対象となることであろう。つまり、回答は強制ではないが任意でもない。医師法第21条より、むしろ後退してしまったとも評し得よう。
2. 医師法21条問題は今もって不明瞭
以上、厚労省の第三次試案と医師法第21条との比較を行った。医師法第21条に関連する問題は、医療界の最大の関心事である。にもかかわらず、第三次試案はこの重要問題に対して、真正面から説明していない。第二次試案が法技術的にも未熟だったのと比べると、第三次試案は法技術的に(悪い意味で)洗練されすぎてしまった。つまり、現行の実務水準を維持しつつ、医師法第21条を中途半端に改正しようとしたことなどから、かえって分かりにくくなってしまったのである。
医療界がもしも法的な錯誤に陥ったまま賛否を表してしまったら、取り返しがつかない。厚労省は、法技術的な洗練された表現に逃げないで、医療関係者に十分に分かる通常の用語もしくは医学的な用語を使って、丁寧に誤解なきように、まず説明し直すべきであろう。
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