(関連目次)→加齢と妊娠リスク 目次
生殖医療に関すること 代理母問題など 目次
.............................................................ぽち→
(投稿:by 僻地の産科医)
今日は不妊治療患者さんのお話をしようと思います。
私の今いる病院は体外受精を行っているような
高度な不妊治療を行っている施設ではありません。
【おススメブログo(^-^)o..。*♡】
話題になっています。
「自宅出産の悲劇で母親死亡」オーストラリア
ふぃっしゅ in the water 2012-02-01
http://d.hatena.ne.jp/fish-b/20120201/1328049251
最初、ふらっと「不妊治療…?」といらっしゃる
不妊患者さんにとっては入口のような
検査も技術力も持ち合わせない、
普通の産婦人科です。
一番困るのは、
「もう、ステップアップして
体外受精のやっているような
専門病院で診てもらわないと!」
という方に引導を渡すとき。
あるいは一番最初から、
「これはここでは無理!」
という患者さんに出会ったとき。
それでこの論文をあげてみました。
「産婦人科の実際」特集は「これからの糖代謝
異常妊娠の管理」ですが、
私には特集以外の論文が
興味深かったですo(^-^)o..。*♡
帝王切開の論文もそのうち。
/
/
/
不妊治療終結に関する情報提供の在り方
40歳以上の不妊患者を対象に
東京慈恵会医科大学産婦人科
杉本公平 加藤淳子 高橋絵理 川口里恵 拝野貴之
橋本朋子 林 博 大浦訓章 田中忠夫
(産婦人科の実際 Vo|.60 No.6 2011 p917-922)
不妊治療の終結点が見出せなくなっている40歳以上の不妊患者に対して不妊治療終結に関する情報提供の在り方についてアンケート調査を行った。情報の提供時期は不妊治療開始前,あるいはART開始前が適切であると考えられたが,その内容に関しては明確な結論は出なかった。治療終結に関するカウンセリングは医師に求める患者が多かったが,医師が治療終結に関するカウンセリングを行うには時間的制約などから困難であり,今後は不妊患者ケアとしてスピリチュアル・ケアやグリーフ・ケアなどの手法が応用されることが期待される。
/
はじめに
2010年のノーベル医学・生理学賞にケンブリッジ大学の名誉教授であるロバート・G・エドワーズ博士が選出された。エドワーズ博士が世界初の体外受精を成功させて以来30年以上が経過し,日本国内には500施設以上のART施設が林立しており,施行されている治療周期数も含めて世界最大規模のレベルに到達しているといっても過言ではない。日本産科婦人科学会の生殖・内分泌委員会が2007年度分より全国の登録施設からデータを収集して治療成績を公表している。この治療成績からもやはり40歳以上のART成績は満足できるものとはいえず,われわれ不妊治療に従事する者にとっての大きな壁となって立ちはだかっている感は否めない。また, 40歳という年齢は患者が治療終結を検討する上での大きなターニングポイントにもなっているとわれわれは報告した1)。 40歳未満の患者は治療を終結する年齢を40歳ととらえている傾向があり, 40歳以上の患者は治療の終結点を見出せなくなっている傾向がある。 40歳以上の不妊患者に対する治療終結に関する情報提供の在り方が検討される必要がある。
.
1.目 的
不妊患者が治療終結を検討する上での情報提供の在り方,すなわち,誰が,どのようなタイミングで,どのような情報を提供するのかについて検討する。
2. 対 象
2010年3月に東京慈恵会医科大学附属病院総合母子健康医療センター不妊外来を受診した40歳以上の不妊患者41名を対象とした。
3.方 法
不妊治療終結の在り方』に関する下記のアンケートを作成した。対象である40歳以上の不妊患者に対してアンケート調査を行い, 40歳以上の不妊患者が考える治療終結の在り方について検討した。
.
1) アンケート内容
1.患者背景
・患者年齢
・実質不妊期間
・治療期間と治療内容
・妊娠分娩歴
2.不妊患者が考える治療終結点
・終結年齢
・終結治療回数
情報提示:
【40歳以上ART患者の治療成績からみる治療の限界点】
1)年齢
出産された患者さんでは治療時点で『44歳』が最高齢でした。
妊娠された患者さんでは治療時点で『44歳』が最高齢でした。
2)治療回数
出産された患者さんでは『8周期目』の治療で初めて妊娠された方が最も遅い妊娠でした。
妊娠された患者さんでは『9周期目』の治療ではじめて妊娠された方が最も遅い妊娠でした。ただしこの方は流産されました。
3)卵巣機能不全
(ここでは月経3日目頃の血液中のFSH値を指標としています。 FSHが高いほど卵巣機能は悪いとされています。)
出産された患者さんでは17.6(IU/L)が最も高値でした。
妊娠された患者さんでは22.2(IU/L)が最も高値でした。
3.治療終結指標の変化の有無
4.不妊治療終結の在り方
・不妊治療の終結に関連する情報を与えるタイミング
・不妊治療の終結について検討する場合にカウンセリングを行う相手
/
4. 結 果
36人から回答が得られた(回収率87.8%)。
1)結果1-患者背景(表1)
平均年齢は41.5±1.5歳であり,平均実質不妊期間は44.9±36.0ヵ月,平均治療期間は22±20.5ヵ月であった。 ART にまで治療が進んでいる者は14人,経産歴のある者が6人であった。
2)結果2-不妊患者が考える治療終結点
治療終結する年齢は2009年の検討と同様に一つの年齢に集中する傾向はなく,42歳から45歳までの間に平均的に分散していた(図1)。治療を終結する年齢と現在の年齢との差を,治療を終結するまでの期間と考えて検討してみたところ,回答のあった26人中21人,すなわち80%以上の患者が1年あるいは2年で治療を終結することを考えていることがわかった(図2)。
また,治療を終結する治療回数については2009年に行った検討と同様に半数以上の患者が『回答なし』であった(図3)。
3) 結果3―治療終結指標の変化の有無
当院における40歳以上のART成績を提示し,改めて治療終結の指標が変化するかどうかについて質問をした。年齢について29人が『変化しない』と答えた。『変化した』と答えたものは3人であり,その内容は三者三様であった。無回答が4人であった。治療回数については『変化した』という回答は1人もいなかった(図4)。
4)
結果4-不妊治療終結の在り方
不妊 治療の終結に関連する情報を提供するタイミングとしては治療開始前が15人で最も多く,ART開始前が12人と続いていた。 ARTを開始して数回後という回答もあったが,いずれも1人, 2人と少数であった(図5)。
不妊治療の終結について検討する場合にカウンセリングを行う相手として適切な相手は,『医師』が29人と全体の80%に上った。不妊カウンセラーは18人と全体の50%であった(図6)。
/
5.考 察
近年の生殖医療にかかわる学会で『40歳以上の………』というフレーズを含んでいる演題がしばしば見受けられる。生殖医療が目覚ましく発展しているにもかかわらず, 40歳以上の高齢不妊患者の治療成績を劇的に向上させる手立てが見当たらなく,そのような背景が治療の終結について議論する雰囲気を醸成しつつあるように思われる。以前の報告でわれわれは40歳以上の不妊患者は治療の終結点を見出せずに苦しんでおり,治療終結に関する情報提供の在り方について検討すべきであると報告した1)。今回の研究ではその情報提供の在り方,つまり,具体的に誰が,どのようなタイミングで。どのような内容の情報を提供すべきかについて検討した。
治療終結の年齢については2009年に行った検討と同様に一定の傾向はなかったが,アンケートを行った時点での年齢との差を治療終結までの期間として考えると80%以上の患者が治療を終結するまであと1年ないし2年と考えていることがわかった1)。つまり,40歳以上の不妊患者は近い未来に治療を終結することになるであろうと漠然と考えているものと推察される。治療回数については以前の報告同様に半数以上が『回答なし』であり,治療終結の指標ととらえられていないものと考えられた。
このような背景のもとで治療終結の指標となるデータを提示して,患者の考える治療の終結年齢,終結回数がどのように変化するのか検討してみた。しかし,結果は36人中29人,約80%の患者が終結の指標は変化しないと回答した。治療終結を考える上で,治療の『限界点』に関する内容の情報提供は意義が少ないと考えられた。
情報提供のタイミングとしては『不妊治療開始前』,『ART開始前』が多く,治療の節目であらかじめ情報提供を受けておきたいという患者の考えが反映されているものと考えられる。コメントでも『詳細なデータがほしい』という意見が多くみられており,データの提示そのものは治療終結に影響を与えないかもしれないが,とにかく詳しく情報を知っておきたいという患者の焦りにも似た心理状態が垣間みえるように思われる。
不妊治療の終結についてカウンセリングを行う相手として適切な相手は『医師』が29人と全体の80%に上っており,不妊カウンセラーと回答した18人を上回っていた。この結果は多くの医師にとっては耳の痛い結果なのではないだろうか。日常の多忙な診療業務に加えて治療終結のカウンセリングまで行うことは極めて困難であるとほとんどの医師は感じるのではないだろうか。この困難な問題を解決していく上で参考になりそうな興味深いコメントがアンケートのコメント欄にいくつかあったので,それをもとに考察してみる。
一つは『メンタルケアがあれば治療終結も自然に出てくる』という内容であった。情報を提供することよりも精神的に支えられていること,適切な精神的援助を受けていることが治療終結を決定する上で重要なのかもしれない。以前不妊患者に対する対応についての検討を報告したなかで『注射のときなどのささいなアタッチメントを大切にする』ことや『治療内容について再確認する』ことといったささやかな患者ケアが患者から高く評価されていた2)。長い時間を割いてカウンセリングを行わなくても,日常診療で適切なケアを積み重ねて患者を精神的に支援していくことが治療終結にとって有用になりうるのかもしれないと考えられた。
もう一つのコメントは『治療終結は医師にお任せする』というものである。『不安感』,『抑うつ感』が不妊患者の心理的特性とされているが3)~5)不妊患者は治療を終結することができない心理状態なのかもしれない。インフォームドコンセントという観点からすると『治療終結は医師にお任せする』ことは容認できない考え方かもしれない。しかし,最近注目を集めつつあるスピリチュアル・ケアという観点では『委ねる』ことも自律した決定の一つとしてとらえている6)。インフォームドコンセントという概念に拘泥せず,スピリチュアル・ケアの考え方を適応するなど,より多くの視点で不妊患者ケアをとらえていくことも治療終結というテーマを考えていく上で有用であるのかもしれない。
また,不妊治療の終結は一つの『喪失体験』であるという考え方は周知されるようになってきているが,そういう観点から近年徐々に注目を集めているグリーフ・ケアの手法も不妊患者ケアに適応されていくべきであると考える7)~10)
このようなメンタルケアを医師が要求されることについて多くの医師は『新たな分野をまた一から学び始めなければならないのか』と負担を感じるかもしれないが,日常の診療のなかで多くの悩みを抱いている不妊患者の診療をしているうちにわれわれはおのずとある程度のメンタルケアを身につけているものと筆者は考えている。筆者自身がグリーフ・ケアやスピリチュアル・ケアについては学習している途上であるが,特別新たな学問を始めたという感覚は持っていなく,少し誇張した表現かもしれないが,不妊患者ケアという大きなジグソーパズルのなかの最後の1ピースをみつけたという感覚である。
/
おわりに
以上, 40歳以上の不妊治療の終結に関する情報提供の在り方という問題について今回の検討結果とグリーフ・ケアやスピリチュアル・ケアといった最近注目を集めている患者ケアの手法を交えながら考察してきた。情報の提供時期は不妊治療開始前,あるいはART開始前が適切であると考えられたが,提供する情報の内容に関しては明確な結論は出なかった。治療終結に関するカウンセリングは医師に求める患者が最も多いものの,医師に長時間の個別のカウンセリングなどを行うことは現実的には困難であると考えられる。グリーフ・ケアやスピリチュアル・ケアなどに基づき,医師が日常診療で行える適切な患者ケアの手法が確立されることが,40歳以上の不妊患者が治療終結を決定する上で有用になりうるかもしれないと考えられた。
最近のコメント