(関連目次)→医師のモチベーションの問題
(投稿:by 僻地の産科医)
コストカットの現場で/2 救急医も研修医も足りない
毎日新聞 2009年4月1日
http://mainichi.jp/select/science/crisis/news/20090401ddm002040030000c.html
◇宿直「もう限界」…退職
3人の研修医には3日に1度ずつ、宿直してもらっていた。2人に減ったからといって、さすがに2日に1度にはできない。「もう持ちません」。鳥取大病院救命救急センターの八木啓一・前センター長は06年度末、病院側に伝えた。
当直は、センター常勤医と研修医の2人体制。だが、06年度からは研修医の減少分を7人の常勤医で穴埋めする状況になっていた。八木さんは医学部の教授も務めていた。ともにセンターで働く准教授と2人で、学生の教育や実習を年45コマ以上担当。土日は救急隊や開業医向けの講習などにも追われる。
医師不足は他の診療科も同様だ。同病院では06年2月以降、宿直をやめてオンコール体制(緊急時は自宅待機の医師を呼び出す)への移行が進んでいる。現在は21科のうち精神科など6科が宿直を廃止し、胸部外科など3科も一部の日しか宿直しない。このためセンターの宿直の負担が増す悪循環に陥った。
それでも何とかセンターの運営を続けた。08年12月には常勤医が1人減り、八木さんは自身の宿直を月1回から4回に増やすことで乗り切ろうとした。だが、50代半ばの体には負担が大きい。夕方には動けないほど疲れ果てていることもしばしば。「続けるのは無理」と感じ、今年3月末にセンターの他の3人とともに退職した。鳥取大は4月以降、各科からの派遣医師でセンターを維持するが、前途は険しい。「放り出して辞めるのはひどい、という声も分かる。本当に申し訳ないが、退職という形で訴えないと、この状況は変わらないと思った」
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宿直について、労働基準法に基づく通知は「病室の定時巡回など軽度・短時間の業務で、十分な睡眠時間が確保されなければならない」とする。
だが、次々と患者が搬送され、日中と変わらない激務の「宿直」をする勤務医は多い。労基法を守ろうとすれば、宿直を廃止せざるを得ない病院が続出するのは必至で、解決策の一つは交代制勤務を導入することだ。
医師8人で3交代制勤務を敷く市立広島市民病院救急診療部。08年度は約5300件の救急搬送を受け入れたが、医師は4週間で8日の休みがとれ、残業はほぼない。同部は初期診療が中心で、入院した患者は各科の宿直医が対応する。内藤博司部長は「交代制勤務ができるのは、病院全体の協力があるから」と話す。
しかし、同病院は例外的な存在だ。06年度から2交代制勤務を導入した和歌山県立医科大病院救命救急センターの篠崎正博センター長は「いつまで維持できるか分からない」と不安を漏らす。所属医師約15人に加え、各科から約10人の応援を受けている。だが08年度、派遣の難しい科が出始めた。研修医の応援でしのいでいるが、10年度以降の体制は未定という。
篠崎センター長は訴える。「救急は赤字だと言うが、必要な費用は診療報酬で賄えるようにしてほしい。職員を増やし、労働環境が改善されれば、救急をやりたい人も増えるはずだ」
医師疲弊「仮眠もできぬ」 危機の二次救急輪番制 広島ルポ
中国新聞 2009年4月1日
http://www.chugoku-np.co.jp/Health/An200904010249.html
重症患者を夜間や休日に受け入れる広島市の二次救急病院の輪番制が、崩壊の危機にさらされている。当直医師は日中の診察や手術に引き続く長時間勤務を強いられ、軽症患者の増加への対応に追われる。二次救急体制の維持の「瀬戸際」に立つ現場を訪ねた。
▽連続30時間勤務も 不当なクレームも悩み
腕を骨折した幼児の診察中に、看護師が新たな救急車の到着を告げた。午後八時すぎのシムラ病院(中区舟入町)。外科部長の井上秀樹医師(43)は、エックス線撮影を待つよう母親に言い残して診察室を出る。待合室に寄って、別の親子に「もうちょっと待ってね」。搬送されてきた女性が待つ救急処置室へ急いだ。
断続的に電話
午後六時から翌午前八時までに井上医師が処置した患者は六人。うち五人が午後八時台に集中した。午前二時、腕のしびれを訴える男性からの電話に応えた。井上医師は「来院や救急隊や患者からの電話が断続的にあり、ほとんど仮眠できない」と明かす。この夜は、二次救急の本来の役割ではない軽症患者が五人を占めた。井上医師は「ブト」に刺された患者を深夜に診た経験もある。「それでも、夜にけがを負った患者を診るのは苦にならない」と使命感をみせる。
多忙を理由に日中に受診せず、輪番病院に来る患者が目立つ。いわゆる「コンビニ受診」が二次救急の患者数を押し上げている。広島市内では二〇〇七年度に二次救急病院が受け入れた患者は、十年前と比べ25・9%増の五万五千六百八人に達した。同病院の種村一磨理事長は「このままでは重症患者への対応の遅れを招く恐れもある」と訴える。
現場では急患より先に診察を要求したり、必要のない検査を求めたりする患者からの理不尽なクレームも目立つという。種村理事長は「クレームやコンビニ受診が医師をつぶす」と危機感を抱く。
参加減を懸念
当直を終えた井上医師は翌日も午前中、外来診察をした。午後からは入院患者を診て、帰宅の途についたのは午後三時。勤務は連続二十八時間に達した。手術日は三十時間を超えることもある。
「救急は不採算部門のうえ、医師不足で救急担当を確保できない」と種村理事長。広島市内で輪番制に参加する病院は四月から一つ減り二十七病院となった。「今後も輪番制から抜ける病院がありそうだ」と危惧(きぐ)する。
輪番病院の経営者たちは小規模な医院などが交代で時間外に軽症患者に対応するシステムの整備を求めている。行政、医療機関、市民が協力し、医師がベストな状態で診療できる体制づくりが急務となっている。
●クリック 広島市の二次救急輪番制
夜間や休日に入院や手術が必要な重症患者を診る二次救急の輪番制は4月から27病院が対応する。ピークだった1998年度の32病院から大幅に減った。各病院の参加頻度も年々減っており、整形外科は初めて必要な病院数の下限を割り込んだ。
軽い病気でも… 5割「病院に」
読売新聞 2009/04/03
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/shizuoka/news/20090402-OYT8T01230.htm
医師不足解消 患者の意識改革不可欠
軽い病気の時でも、最寄りの診療所ではなく高度な設備のある病院で診てもらいたいと考える県民が半数を超えていることが、県の「保健医療に関する調査」でわかった。患者の「病院志向」は病院勤務医の過重負担をもたらし、医師が病院に定着しない大きな要因になっていると指摘されている。医師不足の緩和・解消には患者側の意識改革も欠かせないことが改めて浮き彫りになった。調査は県医療室が今年1~2月に、県内在住の20歳以上の男女2000人を対象に郵送で行い、1207人(60・3%)から有効回答があった。
軽い病気にかかったと思う場合、「病院に行く」と答えた人が53・6%に上ったのに対し、「診療所」とした人は25・1%にとどまった。2003年度に行った前回調査では診療所と答えた県民が60%、1998年度の前々回も58・4%あったが、今回は半分以下に減った。
20~40歳代で「病院に行く」と答えたのは4割程度だったが、高齢者で女性ほど、「病院に行く」と回答した割合が高かった。一方で、「医療機関には行かない」は前回、前々回はいずれも3%前後だったが、今回は18・6%に達し、特に男性の20~40歳代、女性の20歳代では3割近くに上った。
病気になった際に決まって受診するかかりつけ医は、今回の調査では39・6%が「いない」と答え、前回に比べ12・5ポイント減少した。地域で入院できる医療機関の状況を把握しているかどうかについても、「わからない」が41・6%に上り、前回比27・6ポイントも増加した。
県医療室は「診療科の休診が相次ぎ、近くに医療機関があっても、実際に入院できるか不安に思う人が多いようだ」と分析している。また、県医師会の篠原彰副会長は「『軽症は診療所、重症は病院』との呼びかけが思いの外浸透していない。医師不足や医療費の高騰などで医療への不信が高まっているのかもしれない」と懸念している。
長期療養が必要な場合、自宅での療養を望むかどうか尋ねたところ、「望まない」が49・2%(前回比8ポイント増)で、「望む」の46・9%(同8・1ポイント減)を上回った。望まない理由(複数回答)としては、「家族に負担がかかる」が87・5%で最も多く、次に多い「症状が急変した時の対応が不安」の53・2%を大きく引き離した。
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