(関連目次)→医療安全と勤労時間・労基法
(投稿:by 僻地の産科医)
私の周囲の反応は、
「宅直に関して頑張って上告して欲しいね!!」
というものです(>▽<)!
今、もう一件頑張っていらっしゃるとのこと。
頑張るって難しいことですけれど、本当に尊敬です ..。*♡
【参考記事】
労基法「パンドラの箱」は2004年から開き始めた?
ロハス・メディカルニュース 2009年4月22日
http://lohasmedical.jp/news/2009/04/22135204.php
「宿直」扱いは違法
奈良地裁が時間外手当支払い求める
「日本の医療のあり方に一石を投じた判決」
と県担当局長
m3.com 2009年4月23日
橋本佳子編集長
http://www.m3.com/iryoIshin/article/95777/
「正直、予想外の判決だった。時間外手当の支払いを求められることは想定していたが、メリハリ、つまり各宿日直の勤務実態を見て、時間外手当を付ける日と付けない日が詳細に判断されると考えていた」
奈良県福祉部健康安全局長の武末文男氏は4月22日の奈良地裁の判決について、こうコメントした。その上で「本判決は、全国で問題となっている勤務医の長時間労働や、従来から医師が職業倫理的に取り組んでいた診療への応召や主治医制などを、日本の医療制度として今後どのように位置づけるか、日本の医療のあり方に一石を投じた判決」(武末氏)とつけ加えた。奈良地方裁判所で4月22日、判決が言い渡された。
この裁判では、奈良県立奈良病院の産婦人科医2人が、未払いだった「時間外・休日労働に対する割増賃金」(以下、時間外手当)の支給を求めていた。判決では、A医師に736万8598円、B医師に802万8137円を支払うよう、奈良県に命じた。
原告代理人弁護士の藤本卓司氏は、「判決では、宿日直勤務については、実際に診療に従事した時間だけではなく、待機時間を含めてすべて時間外手当の支払い対象とすべきと判断された。宅直(オンコール)勤務分の手当の支払いは認められなかったのは不満だが、最も主張していたのは宿日直の問題だったので、6-7割は勝訴したと見ていい」と判決を高く評価。「県立奈良病院だけが特殊なわけではなく、全国の多くの病院で同じような実態がある。今回の判決により、労務管理体制の根本から見直すことが必要になる。公立病院では予算の問題などもある。高いレベルで政治的決断し、産婦人科医などの医師不足の状態を改善する措置を講じなければいけないだろう」(藤本氏)。
現時点では、原告、被告である県ともに、控訴か否かは決定していない。両者の判決の受け止め方は「予想外」「画期的」と対照的だが、共通する部分がある。それは、本判決が県立奈良病院の問題だけにとどまらず、その影響は大きいという認識だ。奈良県福祉部健康安全局長の武末文男氏は、「日本の医療制度のありようが問われているものと、今回の判決を重く受け止めている」と語る。
宿日直勤務時間のうち、通常勤務は24%
2人の産婦人科医が提訴したのは2006年12月4日(提訴の経緯は、「時間外手当支払いを求めて提訴したわけ」を参照)。支払いを求めたのは、2004年と2005年の2年分の時間外手当。当時、奈良病院では、宿日直については1回2万円の手当が支払われていたのみ(後述のように、その後、手当てを一部見直し)。宅直についての待機料などはなかった。
A医師は2年間で、宿日直155日、宅直120日をこなしていた。B医師が宿日直158日、宅直126日。これらが時間外勤務に該当し、未払いの時間外手当として請求したのはA医師4427万9189円、B医師4804万9566円。
今回の判決で認められたのは、2004年10月26日以降の宿日直に対する時間外手当。それ以前の分については、消滅時効期間が経過しているからだ。
判決の論旨は明確で、
(1)就業規則上は「宿日直」の扱いだが、実態は異なり、労働基準法41条3号の規定の適用除外の範囲を超える(「宿日直」に当たらず、時間外手当の支払い対象となる)
(2)救急患者や分娩などへの対応など、実際に診療に従事した以外の待機時間も、病院の指揮命令系統下にあることから、時間外手当の支払い対象になる、というものだ。
判決では、(1)について、2002年3月19日の通知(厚生労働省労働基準局長通達基発第0319007号)を引用し、宿日直とは「構内巡視、文書・電話の収受または非常事態に備えるもの等であって、常態としてほとんど労働する必要がない勤務」とした。県が2007年6月から9カ月間について調査したところ、通常勤務(救急外来患者への処置全般および入院患者にかかる手術室を利用しての緊急手術など)の時間は、宿日直勤務時間の24%だった。
(2)について県側は、「時間外手当を支払う対象となる労働時間は、社会通念上の一定の線引きの下に、必要と判断される所要時間と考えるべき」と主張していたが、判決では「宿日直勤務の開始から終了までの間」と判断された。
結局、2004年10月26日から2005年12月31日までの間で、A医師が認められた時間外の労働時間は、宿直1372時間30分、日直271時間15分、B医師は宿直1418時間15分、日直297時間30分。時間外手当の算定基礎額は、月額給料に、調整手当、初任給調整手当、月額特殊勤務手当を加えた額とされた。
産婦人科医らの請求額と実際に判決で認められた額に差があるのは、算定基礎額に加算できなかった手当がある、消滅時効期間が経過した分があるという事情に加えて、宅直分の支払いが認められなかった、という理由からだ。
。
原告代理人の藤本卓司氏(左)は、判決後の記者会見で「医師の宿日直問題について直接正面から判断をした判決は恐らく始めて」とコメント。
自主的なオンコールは手当ての対象外
宅直について、判決では、まず時間外手当の支払う対象になるか否かは、宅直勤務時間が「労働者が使用者の指揮命令系統下に置かれている時間」に当たるか否かによるとした。その上で、
(1)産婦人科医の自主的な取り決めである
(2)奈良病院の内規では、宅直制度について定められていない
(3)産婦人科医が宅直の当番を決めたが、それは奈良病院に届けられていない
(4)宿日直医師が宅直医師に連絡を取り、応援要請をしており、奈良病院が命令した根拠はない
とし、「指揮命令系統下に置かれているとは認められない」と判断した。
当時、奈良病院の産婦人科は5人で、宿直は1人体制だった。「帝王切開手術のほか、夜間の救急外来への対応などがあり、1人で対応するのは不可能。本来なら2人体制で宿直をすべきところなのに、それを補うために医師たちが自主的に宅直をやっていた。したがって、この宅直分も時間外手当の対象とすべき」(藤本氏)などと主張していた。
しかし、「他科でも宿日直は1人体制だったが、宅直医師は置いてない。産婦人科のみが救急外来が多い証拠もない」などとされ、主張は認められなかった。2人の産婦人科医は弁護士を通じて、「産婦人科の医療現場で、かなりの確率で発生する緊急事態に対応するためには、医師その他のスタッフの待機が必要。そのためにはコストがかかることを、今回の裁判を契機として真剣に考えていただきたい」とのコメントを公表している。なお、2006年と2007年の分についても、未払いの時間外手当の支払いを求めて、別途提訴しており、宅直分の支払いについても争っている。
求めるのは「お金」ではなく、労働環境の改善
県立奈良病院では、(1)2007年6月から、宿日直勤務のうち通常勤務を行った分については超過勤務手当を支給、(2)2008年4月から、超過勤務手当に加え、分娩にかかわる業務や勤務時間外に呼び出しを受けて救急業務を行った場合には、特殊勤務手当を支給するなど、提訴当時は定額の宿日直手当のみだったことと比べれば、待遇改善をしている。
とはいえ、今回の判決は、こうした改善でも十分ではなく、「宿日直」扱いではなく、「時間外勤務」として扱い、待機時間も含めて時間外手当の支払い対象とすべき、という判決だ。
もっとも、宿日直をめぐる問題は、単に手当の支払いだけでは解決せず、医師の勤務形態そのものの議論に踏み込まざるを得ない問題だ。法定労働時間を超える場合、「36協定」を結べば時間外労働が可能だが、「宿日直」扱いの時間は労働時間としてカウントされない。「宿日直時間をすべて勤務時間として認定すると、時間外労働の時間数は膨大になる。これを管理者として医師に指示することができるのか」(武末氏)ということにもなる。したがって、交代制勤務などの導入が必要になるが、主治医制などがネックになる上、そもそも医師不足で交代勤務を組むことができない実態がある。
しかし、2人の産婦人科医が最も主張していたのは金銭的な面でなく、勤務環境の改善であり、「そもそも多額の時間外手当が発生すること自体、問題」と従来から指摘していた。この宿日直問題は、各病院単独では解決が難しい面もあるのは事実。武末氏は、「日本の医療制度のありよう自身が問われているものと、今回の判決を重く受け止めている」と話す。
4月14日の参議院の厚生労働委員会で、民主党の梅村聡氏は、勤務医の宿直問題を取り上げ、「宿日直の問題を議論をすると、“パンドラの箱”を開けることになるかもしれないが、勇気を持って開けてほしい」と舛添要一・厚生労働大臣に迫った(「“パンドラの箱を開けろ!”、勤務医の宿日直問題で国会質問」を参照)。今回の判決は、司法が“パンドラの箱”を開けることを迫ったものだ。
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