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(投稿:by 僻地の産科医)
勤務医とともに戦い、日本の医療を変革する
【第50回】今村聡さん(日本医師会常任理事)
熊田梨恵
キャリアブレイン 2009/02/21
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/20709.html
「小松秀樹医師よ、ともに戦おう。医療崩壊を打開するため、勤務医と協働したい」-。こう語るのは、東京都板橋区の開業医で、現在は日本医師会常任理事も務める今村聡氏だ。医療崩壊が叫ばれる中、これまで、医師の意見を代表する組織として活動を続けてきた日医に対しては、「開業医の利益しか考えていない」「一部の役員が勝手に意思決定している」など、多くの不満の声も聞かれる。また、長崎県の諫早医師会や茨城県医師会など独自の活動を進める地区医師会や、「日本医師会三分の計」を唱える勤務医の小松秀樹医師など、日医の在り方を問う動きも活発化している。「勤務医にはぜひ、日医という組織の新しい血となって、組織を活性化させてほしい」と語る今村氏に、日医をめぐるさまざまな疑問点を聞いた。
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医師の自律守らねば、医療が崩壊する―小松秀樹氏
―先生は今年1月、「小松秀樹医師よ、ともに戦おう―日本医師会常任理事からの提言」という論文を中央公論に寄稿されました。小松医師の論文【編注】に対して、どのような意図があったのでしょうか。
【編注】小松氏が中央公論に寄稿した論文「公益法人制度改革がもたらす日本医師会の終焉-医療問題に対応できる新医師組織を」(2008年9月)=2008年12月に施行された公益法人制度改革関連三法に関連した日医に対する論評。日医は公益社団法人には移行できないとして、その理由に、▽代議員制度を取れない▽会長選挙は一般法に反し、キャビネット制は一般法の精神に反する▽日本医師連盟と並存できない▽勤務医を「第二身分」にとどめることは不可能-などを挙げている。このほか、日医常任理事が中医協委員に入ったことにより、診療報酬が入院医療費よりも外来医療費に重点配分されていると指摘するなど、日医に関するさまざまな問題点を挙げている。日医では医療崩壊に対応できないとして、新しい「公」の組織を求めている。
小松先生の論文については、日医の中でも話題になり、その対応についてさまざまな意見がありました。しかし、小松先生の意見は、傾聴に値する部分はあるものの、誤解に基づく部分も多くありました。
日医の中でも役員や事務局など一生懸命仕事に取り組んでいる人々がいます。小松先生は地区医師会の方の発言を引用されていましたが、わたしがもし地区医師会の中だけにいて日医のことをよく知らずに小松先生と話していたら、同じことを言ったかもしれません。日医についてはステレオタイプな見方がされることが多く、一部は事実ですが、かなりの部分が誤解に基づくものだと思います。そもそも開業医自身が日医を分かっているかというと、必ずしもそうではありません。
そのため、「勤務医や開業医、国民皆に正確な情報を持っていただきたい」との思いから投稿し、診療報酬に関すること、日本医師連盟との関係、公益法人としての適性などについて述べました。
■新組織を作るのは非効率
―小松医師は、公益法人制度改革を契機に、日医は公益法人としての存続は不可能として、「日本医師会三分の計」という考えを公表するなど、日医に代わる新しい「公」の団体をつくることを求めています。
今から新しい組織をつくるということは、決して効率的ではありません。組織を維持するには、時間や財源、事務局など、膨大なエネルギーが必要になります。また、新しい団体ができることによって多くの医療団体が乱立し、それぞれが自己主張するために利害を調整できず、結局医療費を抑制しようとする側にとって都合のいいことになってしまわないかと危惧(きぐ)しています。
だからこそ、今ある日医という組織を上手に活用することが必要です。組織は長期間改革がないままだと劣化してエネルギーがなくなっていきます。既存の組織に新しい血を入れて、組織を活性化することが必要です。
国民から見れば、「この医療崩壊で大変な時に、医師が団結できていない」と見えているでしょう。ですから、ぜひとも勤務医には日医に加入していただいて、一緒に医療を良くすることを考えていただければと思っています。
―ただ、勤務医にも日医に加入してもらうためには、日医が魅力的な団体に見える必要がありますし、実際にそうでないといけないと思います。実際のところ、先程「ステレオタイプ」と言われた通り、外から見ていると、どうしても日医には不透明なイメージがあるように感じます。
わたし自身も、16年間の勤務医生活の時は日医に興味もなかったですし、開業しても5年ぐらいは、「医師会は会費だけは取るが、何をやっているんだろう」と思っていました。もちろん日医の役員名なども知りませんし、日医から送付される媒体にもあまり真剣に目を通していませんでした。
しかし、その後に当番で地区医師会の役員に就任し、医師会活動の多様性と重要性を知ったわけです。その時まで、自分に医師会の中で何ができるかということが分かっていませんでした。日医では出身校は問われませんし、一介のサラリーマンの息子が医師になり、勤務医を経て開業医になり、そしてこのような仕事をしていることを考えると、非常に許容度が広い組織だと思います。
また、役員会で新たな取り組みを提案すると、「じゃあやってみてください」と受け入れられますし、わたしが担当している「勤務医の健康支援プロジェクト委員会」「死亡時画像診断(Ai)の委員会」など、「こんなこともやっているのか」という仕事もあります。自分が何をしようとするかという意志の問題で、やろうと思ったら変えていける組織です。大きな組織だからすぐに実行とはいきませんが、議論ができます。日医が実際に何をしているかを知らないまま、「日医が何もやらない」というのは、非生産的な議論だと思っています。
■医師会の「ブランド力」構築を
―しかし、「中に入ってでなければ見えない」というのはどうでしょうか。日医に加入したいと思うだけの魅力が、外から見ても分かるようにしておくことも必要だと思います。
「医師会に入会しているならいい先生だね」と言われるような、医師会の「ブランド力」が必要だと思っています。
わたしが地区医師会の役員をしていたころも、開かれた医師会、ブランド力のある医師会を目指して活動していました。当時、認知症の相談医システムを提案し、後任の先生が実現してくれました。相談医になるためには、必ず4回の研修が必要で、1年に1度の更新研修を受ける必要があります。住民や行政から見て質が担保されていることによって、地域での医師会の信用が高まります。よく医師の「差別化だ」という議論もありますが、多くの先生がとても積極的に参加していただきました。
ただ、地域にはそれぞれの実情があるので、全国一律でこのような取り組みを実施することは困難ですね。日医会員の魅力としては、医師賠償責任保険や医師年金、認定産業医や認定健康スポーツ医の講習会に安価で参加できることなど、いろいろとあるのですが、興味を持ってアクセスしてもらわないと、そのメリットが分からないというジレンマもあります。日医も情報の発信に一層努力しなければと思っています。
―「ブランド力」という意味からすると、今回の事故調問題では、かなり日医のブランドやイメージが損なわれた印象を受けています。ある日医の常任理事は、「(事故調問題の)担当理事がよく打ち合わせをしないまま突っ走ってしまった」と公言されていました。
直接の担当ではないので、その問題については詳細をコメントすることは控えますが、進め方の手法については、担当の先生の熱意が前面に出ていた部分もあるかもしれません。
福島県立大野病院事件の判決も出て、しばらく司法界が謙抑的に対応するという話ならいいですが、日本の司法や警察は根本的には変わらないのではないでしょうか。刑事訴訟法自体も変えられるわけではありません。担当理事としては、刑事事件として起訴されることで、医師が人格否定されるような状況に追い込まれ、誰も守ってくれないという状況に追い込まれることだけは避けたいという思いだったのだと思います。百パーセント完全な仕組みはないし、各論はいろいろあるのだから、今できることをやりましょうということだったと思います。
ただ、現場の意見を聞くというプロセスについて、順序が逆になっていたという点は問題があったかもしれません。理事会でも「都道府県医師会の意見を聞いた方がいいですよ」とか、いろんな投げ掛けや議論がありました。ただ、迅速に物事に対応していくためにも、日医は担当理事にある程度、業務の執行に裁量を与えています。また、事故調以外にも多くの重要な仕事を抱えています。いずれにしても、プロセスについてはもっと慎重にやるべきだったという反省はあると思いますが、日医に来て感じるのは、厚労省、国会議員、医療関係団体、メディア、国民等、ステークホルダーが極めて多く、政策の実現には困難を伴うことが多いという点です。
■各医師会間のコミュニケーションも課題
―その一方で、「郡市医師会の声を上げよう」として、長崎県の諫早医師会のような活気ある医師会も出てきました。同医師会の出した事故調に関するアンケート結果は、日医が出した意見とは異なるものでした【編注】。このほかにも茨城県医師会など、独自の活動を見せる医師会が出てきました。外からは「医師会は一体どうなっているんだ」と見えているのではないでしょうか。
【編注】日医は昨年4月、都道府県医師会の約8割が、厚生労働省が創設を検討している死因究明制度の第三次試案に賛成しているとする意見を表明していた。これに疑問を持った諫早医師会(長崎県諫早市)は昨年夏、全国の郡市医師会に対してアンケート調査を実施。「日本医師会や都道府県医師会から質問されたことはない」と答えた郡市医師会が約9割あり、厚労省案に対する正式な見解がまとまっていない郡市医師会が9割を超えていた。
おっしゃる通り、医師会は一枚岩ではないように思われるかもしれません。しかし、郡市区医師会、都道府県医師会、日本医師会はそれぞれが独立した社団法人ですので、それぞれが独自の考え方を持ち、行動することはやむを得ない点もあります。ただその考えや行動が、正しい情報から判断されているかどうかが問題だと思っています。
医師会には避けられない構造上の問題があります。医師会は、郡市区医師会、都道府県医師会、日医という3層構造になっています。この3つのコミュニケーションがうまくいっていればいいのですが、必ずしもスムーズでない場合もあります。わたしは会員と直接コミュニケーションできるのが一番だと考えていますが、日医が都道府県医師会を飛び越えて郡市区医師会にメッセージを発信するというのは、都道府県医師会の役割上、難しい点もあります。今後は、都道府県医師会の主体性を尊重した上で、郡市区医師会や会員との直接のコミュニケーションについて検討していかなければなりません。
こうした構造は、勤務医とのコミュニケーションにも影響します。郡市区医師会と都道府県医師会の間、また日医と都道府県医師会の間の情報伝達がスムーズでなければ、日医から発信する情報が会員に伝わらないこともあります。会員にすら伝わりにくいのですから、非会員の勤務医へはなおさらでしょう。郡市区医師会から日医、また日医から勤務医の距離をいかに短くするかは、大きな課題だと思います。郡市区医師会は地域医療を担っていく上で、医療連携など密接に勤務医と関係を構築することができます。開業医と勤務医の顔が見える関係から、勤務医の日医に対する理解につながればと思います。
―協働を考えようとしても、勤務医からは「日医は開業医の利益しか考えていない」という声が上がっています。先日も、あるシンポジウムで大学病院の教授が日医の常任理事に、「日医に期待できない」と投げ掛けていました。
もともと、わたしは勤務医と開業医という対立構造で考えていません。医師のキャリアパスの一環でたまたま開業した医師と、そのまま勤務医を続ける医師がいるだけだと思っています。ただ、今の勤務医と開業医はそれぞれに別のイメージを抱いているところがあると思います。開業医が今の病院医療の変化のプロセスを分かっていないと、「おれだって勤務医をやっていた。今の勤務医は何をぜいたく言うんだ」と言う人もいます。わたしも自分が勤務医をしていたころでも大変でしたから、今の勤務医は相当ストレスフルだと思います。また、親が開業医をしているという勤務医の方には、「おれたちはこんなに大変なのに」と思う方もいると思いますが、親の世代の開業医と現在の新規の開業医とはまた状況が違います。お互いが相手側の立場に立って「自分がこっち側にいたらどうだろう」と考えるような余裕が、今の勤務医にはないと思います。
日医や都道府県医師会も、どうやって勤務医の労働環境を改善しようかと、真剣に対策を考えており、「勤務医の健康支援プロジェクト」もその一環です。「日医は開業医の代表」ということは、過去においては百パーセント否定できないと思いますが、今の日医は決してそんなことはありません。勤務医、開業医のそれぞれの現場、それ全体が日本の医療だと思います。そこだけはよく理解していただければと思います。わたしは「現場」を考えることで勤務医の方々と協働していきたいと思っています。
―具体的に、勤務医と開業医が手を結ぶには、どういう道筋が考えられますか。
医師は専門的な職種ですから、自分の専門分野を習得することが一番の目的になります。そのため一般的には、勤務医は日本の医療や社会保障などを広い視野で見ることが少ないと感じています。医療崩壊の主因は社会保障費削減だとは考えていると思いますが、対応についてはもう一歩踏み込めないのでしょう。しかし、激務に追われ時間もない中では、やむを得ないと思います。もっと労働環境が改善すれば、そういう部分にも目を向ける余裕が出てきて、積極的に医師会への理解も出てくると思います。ただ、財源や制度を決めるのは立法府、つまり国会議員であるので、医師の意見を反映させるためには、結局のところ投票行動になります。医師会は、以前は医師会推薦候補に100万票を出せたのに、今は20万票前後しか出なくて、力がなくなったといわれたりします。従って勤務医には政治に興味を持ってもらい、さらに医師会推薦候補に投票していただきたいと思っていますが、残念ながらそれ以前に医師会への理解がない状況ですからね。
「日医が勤務医の就労環境の改善に努力することで、勤務医に広い視野で医療にかかわっていただく時間的・精神的余裕ができ、結果として医師会活動に参加していただくことができるようになる」というのが、ご質問への答えになるのでしょうか。
―日医が不透明だということの一つに、代議員制も指摘されています。直接選挙を求める声もあるようです。
日医の代議員会でも、そのような提案がされることがあります。都道府県レベルでは、会員全員による直接選挙で会長を選任している県が3つあります。しかし、16万5000人の投票システムについては簡単ではありません。経費、集計法の問題などさまざまな課題があります。
勤務医の意見を反映させるためには、郡市区医師会員や都道府県医師会の代議員に勤務医を選出することが重要です。代議員に勤務医枠が明確にあるわけではないですが、長年の慣習で医師会の執行部が代議員を決めていて、勤務医が選任されにくいという声をよく聞きます。確かに実態としてはそのような医師会が多数あると思います。しかし、この問題は「鶏が先か、卵が先か」の議論で、勤務医の先生も医師会活動に興味を持って参加されてこなかったこともあると思います。「忙しい」「医師会なんて」と否定的にならず、会員の勤務医は医師会の総会に参加して意見を発信していただきたいと思います。
■「何ができるか」を一緒に考えたい
―確かに、理論上はそうしたシステムにはなっています。しかし、実際のところ、「日医が遠く、現場の医師の声が聞かれていない」という声を聞くことが多いです。
日本社会全体として、多くの場面で「何もやってくれない」という発想が多いように感じております。これは、医療界に限らない、社会全般の問題だと思います。
わたしの場合、現在は日医で活動していますが、もともとは地域で医師会が住民に対して何ができ、また自分がその医師会で何ができるかということを考えていました。「何をしてくれる」ではなくて、自分たちが医師会の中で何ができるかということを考えることが重要だと思います。ただ、日医も努力は必要です。情報発信にはもっと工夫も必要でしょうし、また現場の声を直接聞く機会を増やさなくてはいけないと思っています。まずは医師会に興味を持っていただき、医師会雑誌や日医ニュース、医師会のホームページ等にアクセスしてみていただければと思います。
―日医の変革を求める声が高まり、今年中には総選挙も行われます。今、日医はさまざまな意味で岐路に立たされているのではないかと感じています。
いろいろな問題があるとはいえ、日医は日本の中での最大の医師組織です。日医会員16万5000人を無視して何か新しいことを実施するというのは容易ではないでしょう。現在の日医にも多くの勤務医が加入され、改革を求めている有望な医師が、開業医や勤務医を問わず多くいます。対峙(たいじ)すべき相手をしっかりと見据え、国民のための医療制度を守らねばなりません。この医療崩壊を打開するためにも、既にある、この日医という組織をぜひ活用していただきたいと思います。勤務医の方には日医に加入していただき、何ができるかを一緒に考えてほしいと思っています。ぜひ、ともに戦いましょう。
【略歴】
1977年 秋田大医学部卒業
77年 三井記念病院研修医
79年 神奈川県立こども医療センター医員
87年 浜松医科大講師
91年 今村医院開業
97年 板橋区医師会理事
99年 同医師会副会長
2004年 東京都医師会理事
06年より現職
>新組織を作るのは非効率
確かにその通りだと思います。団塊の世代が死ぬまでに時間がないですし。
かといって今、ナニができるでしょう・・・?
投稿情報: げ〜げ〜 | 2009年2 月24日 (火) 01:12