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(投稿:by 僻地の産科医)
「現場からの医療改革推進協議会」の第3回シンポジウムが行われました。
たしかに無関心層のとり込みというのが一番の課題なのかもしれません!
「面白かった」を実行につなげられるか
熊田梨恵
キャリアブレイン 2008年11月16日
http://www.cabrain.net/news/article/newsId/19176.html
現場の医師やコメディカル、国会議員に官僚、企業のトップやジャーナリストなど、個性的なメンバーによる破天荒な報告が続いた「現場からの医療改革推進協議会」の第3回シンポジウム。薬事改革から患者と医療者の協同、医師の自律まで幅広いテーマで議論されたものの、会場からの質問は「勝手知ったる」面々からで、違う立場の来場者からの発言はほとんどなかった。シンポジウム終了後は「面白かった」の感想が飛び交ったが、果たして実行につなげられるか。自民党の橋本岳衆院議員らが述べた「無関心の層」に呼び掛けて合意を得ていくためにも、「言いたいことを言って終わり」にしない今後の活動に期待したい。ここでは、議論の最終テーマだった「医師自律」での発言内容と、橋本議員らの問い掛けをお届けする。
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医療者や弁護士、国会議員や企業の役員など個性豊かなメンバーで構成される「現場からの医療改革推進協議会」は年に一度、シンポジウムを開催しており、今年で3回目を迎えた。今回も「医師自律」をはじめ、「医療改革」「薬事改革」「臨床研究」「患者と医療者の協同医療」など幅広いテーマで議論が行われた。
「医療改革」では、厚生労働省改革推進室の村重直子氏が、同省が検討中の死因究明制度について、「自分が医療事故に遭い、警察に通報される確率もゼロと言える人たちが、医療事故調の法案作成を裏で支えている」と発言。「薬事改革」では、「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」の委員を務める小野俊介氏(東大大学院薬学系研究科医薬品評価科学講座准教授)が、同検討委が議論している医薬品行政を担う新しい組織について、「新組織への移行・制度変更に伴うコストの論点が隠されている」と述べ、厚労省が重要な問題を置き去りにしていると指摘した。このほか、東京都立墨東病院内科医長の濱木珠恵氏が同院の過酷な労働環境について、丹波新聞記者の足立智和氏が兵庫県丹波の地域医療の現状について報告した。
さまざまな報告があり、会場からも積極的に発言が出されたものの、発言者はほとんどが登壇者や協議会発起人の関係者。事務局によると、今回は患者側弁護士など、登壇者とは違う立場の参加者も多かったというが、こうした人たちからの発言はほとんどなかった。シンポジウム終了後に参加者に聞いてみると、「ほかでは聞けない面白い内容で、エキサイティングだった」との感想があった一方で、「消化不良を起こした。結局のところ、何が言いたかったのか分からない」とは、インターネットを見て参加したという埼玉県の40歳代の女性。
ただ、医療界でこれだけ多様な人脈や行動力を内包しているネットワークも珍しい。後半に議論された「医師自律」のテーマでは、臨床医の立場から積極的に医師の自律や、日本医師会の“3分割”を主張している小松秀樹氏(虎の門病院泌尿器科部長)と、日医の常任理事も務める内田健夫氏(内田医院院長)が並んで登壇した。国立がんセンター中央病院長の土屋了介氏や、東京都世田谷区で「若手医師の会」をつくった神津仁氏(神津内科クリニック院長)らも登壇。医療界のトップが医師の自律についてきちんとした場を設けて具体性のある議論をすることは画期的とも言える。
小松氏が主張するように「ほかの医師にも議論に参加してもらい、あと2、3年のうちに、できるところから少しずつやっていく」ため、この議論は今後の土台になると思われる。
ただ、こうした議論が「言って終わり」になる恐れもある。「患者と医療者の協働関係」をテーマにした議論で、民主党の梅村さとし参院議員と橋本議員が、こうした議論を国民の合意へと近づけていくために、「医療に無関心な層に興味を持ってもらわなければいけない」と投げ掛けた。
ここでは、「医師自律」の議論の内容と、梅村、橋本両議員の発言を紹介する。
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【医師自律】
土屋氏
自律は自分で自分の行為を規制することで、外部からの制限に対して、自身の立った規範に従って行動すること。個々の医師は頑張っているが、医師全体として本当に役割を果たしてきたかというと、今までも議論があるところだ。治験や医療事故調、専門医、救急の問題について、「厚労省が悪い」とよくいわれるが、自律の観点から言うと、厚労省ではなく医師が総体として自立していないのが根本的に悪い。医師が自律して、政策立案を含めて医師全体として統一した建設的な意見をつくることが必要だが、それがないのでやむを得ず厚労省の医系技官がつくっているという解釈ができる。一番の典型が医療事故調。19学会が第三者機関をつくるべきと要望した。しかし、「自分たちでつくりたいから厚労省に応援してほしい」という要求ではなかった。厚労省からしたら、「つくってくれと言ったからつくった。それで問題とは何事だ」ということで、同情すら覚える。「われわれ医師自体が自律し、規範を持って行動することで患者を守っていこうという観点で、この事故調をつくりたい」と言っていくことが自律。さまざまな(臨床研究に関する内容が悪い)ガイドラインを厚労省が作ったと責める前に、われわれが作らねばならない。専門医制度もそうで、各学会がちゃんとやっていない。医師がまとまるよう社会から突き上げてもらいたいと思うくらいだ。今回の産科や救急の問題などについても、医師の自律というテーマはさまざまな問題の根源にあるものだと思う。
鈴木寛民主党参院議員(司会)
医師の自律、自主的懲戒という話をしたが、それができるのかどうなのか。その判断について大きく分かれている。医療界がそうした自律をどれぐらいのテンポで、どの程度つくり出せるのか。その可能性をきちっと詰めていきたい。
小松氏
自律は土屋先生の言った通りで、医者の方がだらしない。それは痛感していて、何とかならないかということだが、あまり人に頼ってはいけない。県の医師会のある方が、公益法人制度改革のことを気にしていたので勉強した。すると、これは日本の公益法人の考え方を変えようという百数十年ぶりの大改革で、あるべき論から出ている素晴らしいものだった。今あるもので“変なもの”には差をつけましょう、利益増進に寄与するものは公益法人にしましょうというもの。今年12月1日に施行されて、5年の間に(公益社団法人か一般社団法人に)移行する。これはチャンス。公益のための民の活動、それを団体としてできて初めて、自律も医者のコントロールもできる。学会が自立しているかというと、多くは学会員の自律というよりは、大学の教室の自律だった。学会、日医、病院団体などそれぞれでなく、一緒にやらないと駄目。世の中変わってきているのだから、考え方をがらっと変え、それにのっとったものをつくる。日本の社会の次の時代へのステップになる。それを医療界がやるからいい。
■日医と都道府県・郡市医師会
鈴木氏
12月から公益法人制度改革がスタートする。今あるすべての法人は世の中でのありようを、社会の構成メンバーとして一から考えることになる。今まで日本には、社会の構成メンバーは個人と国との2つしかなかった。EU(欧州連合)憲法では市民団体や労働団体など中間団体を憲法上に明記し、その団体が新しい「公」を担っている。
内田氏 (【編注】内田氏はシンポジウム冒頭、今回は個人としての参加であり、発言内容は日医でコンセンサスを得たものではないと断っている。)
国内に医師が25-27万人おり、医師会は16万4000人。開業医と勤務医はそれぞれ8万人ぐらい。(小松氏の発言について)今改革すべきと受け止めたが、患者を守ることに立てば医師を守ることになり、対立概念ではないと思っている。医師会は当然、公益性を目指す医師の集団であるという原点からスタートすると、公益法人取得を目指すと考える。(公益法人の)認定を受けるには、さまざまなハードルがある。学校や病院などを経営しているところもあるので、きちっと調整しながら取り組みを進めるということでやっている。
会場発言 満岡渉・諫早市医師会理事(長崎県)
先程、海野信也先生(北里大産科婦人科教授)が(シンポジウムの中で)「自分たちから情報発信しないと何も変わらない」と、自律を言うためには情報を出すことが大事だと言われた。諫早医師会は日医が事故調について、「都道府県医師会の大半が(厚労省案に)賛成している」と言ったから、それはちょっと違うのではと思ってアンケートした。すると、郡市医師会の7割ぐらいが「聞いたことがない」「賛成した覚えはない」「日医や都道府県医師会から賛成するかと聞かれたこともない」ということだった。だから正直に発表した。こういう情報を自ら出すことが最終的に事実につながる。しかし、そういうことも本来あるべき手続きを無視して現場から何か言ったように非難される部分も多少ある。アンケートはインターネットでしか公開していなかったから、「紙にも残せ」と(会長から)言われたので、「長崎県医師会報」にアンケートの顛末(てんまつ)を書き、日医が政権交代も近いと思うこの時期にどういう道を選ぶべきかということも書いたら、県医師会の不興を買ったようで、没になった。以前に「勤務医を守れ」という文章を書いたが、これも没だった。外部からの意見を封殺するような団体では長く持たない。医療崩壊につながるような制度をつくることはやめてほしいというだけだ。
神津氏
次の医師会を担うような若い世代の会をつくりたいと思った。われわれは開業した時に、医師会や世の中のことを何も知らない。開業時に銀行にお金を借りに行き、「5年たったらこれだけの収入がある」と言っても、「担保はあるか」と聞かれ、「ありません」と言うと断られた。開業するのにどれだけのお金をどこで調達すればいいのかも知らない。同じことを次の世代もやっていたら10-20年後も同じと思った。若い先生は何も知らず、この人たちは“ウーパールーパー”だと思った。一生稚魚のままで、“成人の魚”にならない。尊敬する永井友二郎先生が「実地医家のための会」をつくられ、CCUができた当時に、心筋梗塞の患者をどこに運べば助かるかを自主的に研究され、循環器専門の先生にバトンタッチすれば救命率が高いと実証した。そういうことをやっている人は多いが、大学にフィードバックされず、一方通行でマイナスだ。欧米ではフィードバックしている。英国のGPの半数は大学の教授で、国が地域の優秀な開業医に臨床教育するように命令した。国の見識が問われている。
【編注】永井友二郎氏 1941年千葉医科大卒業後、海軍軍医中尉、成田赤十字病院内科医長などを経て、57年に永井医院を開業。「実地医家のための会」「日本プライマリ・ケア学会」などの立ち上げにかかわる。88年に日医最高優功賞受賞。
■開業医、勤務医双方からの提案を
鈴木氏
これまでの医療政策形成過程の特徴は、日医がいろんな意味で大きな影響力を与えていたことが厳然たる事実。開業医の方々の情報について、日医が厚労省に協力し、20世紀後半の医療制度ができてきた。しかし、ふたを開けてみると、このところの医療崩壊は、病院勤務医の実態について霞が関や永田町にほとんど情報提供されていなかったことも一端にある。わたしが「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」をつくるまでは勤務医実態は伝わらず、まして提案もなかなかなかった。病院勤務医の実態を政策現場も共有し、提案を取り入れながら、双方の現場からの情報や意見が提供されて議論が熟すことによって、患者や納税者が入る、という状況を政策現場につくり出すことが必要。開業医と勤務医という分類は、今やあまり生産的でなくなりつつある。「医者対患者」「開業医対勤務医」も不毛。モンスターペイシェントやモンスタードクターもいる。医師がどう自律するかを示し、どうやって社会からの信頼や尊敬を回復していくかは急務。その上で、今の医療現場の大変厳しい状況について、世の中に発信・提案していただく。こういう政策形成プロセスをどうつくるかを議論していきたい。医療コミュニティーの在り方について、公益法人制度改革はいい機会。日本医学会に法人格がなく、日医の中にあるというのも普通に考えるとちょっとびっくりする。「日本医学会」という名前を聞けば学会の“総本山”と思うが、独立した法人格がないというのも、議論してしかるべき。弁護士会のように加入を法定している会もあり、ここまでいくというオプションもある。木之元先生から見ると、医療界の組織論問題はどうか。
木之元直樹氏(弁護士)
われわれ弁護士は、強制加入団体の弁護士会に入らないと仕事ができない。弁護士会への入会が許可され、日弁連に登録して初めて仕事ができる。誤解されているようだが、弁護士会は日本で唯一、監督官庁のない職業集団で、法務省などから監督されているわけではない。弁護士が変な弁護士の懲戒処分を懲戒委員会の中でやる。戒告や除名、退会命令など厳しいものもある。日弁連で発行している機関誌「自由と正義」の後ろの方のページには、今月誰がどういう理由で懲戒処分を受けたと載っている。「こんなことやったんだな」と、情報共有になっている。弁護士会も懲戒処分の機能について見直そうと、弁護士倫理を確立するための研修制度の充実などいろいろな動きがある。懲戒申し立てにもいろいろあり、正当と思われないものも多々あって、振り分けをする。とんでもない弁護士がいるのも事実だが、独自に捜査をしているわけではなく、現状は申し立てを受けたものに真摯(しんし)に対処して、それなりの処分を出している。処分に不服があれば、不服審査を申し立てて再審査し、それでも不服であれば裁判ということもある。弁護士会はそれなりにやってきたと思う。弁護士会には思想・信条を言えば、さまざまな考えを持った人がいる。医療側や患者側などもあるが、法廷で闘ってもプライベートでは酒を飲んで話したりする。心情的に相いれないという方も等しく加入し、懲戒制度の下にまとまっている。人数は2、3万人と少なく、今後弁護士の数が増えたときに、会全体として懲戒制度を維持できるのかというのは未知数。ドクターが自律的懲戒制度を取り入れられる余地はないかと常に思っている。医師会が強制加入団体になり切れていないのはどのあたりか。そこをきちんと議論し、弁護士会なりとディスカッションしていいものになればと思う。
■「われわれ患者」から「医師自律」聞きたい
会場発言 黒岩祐治・フジテレビ解説委員、「報道2001」キャスター
一番聞きたい議論からどんどん離れているので、聞きたいことを聞く。小松先生の言う自律的処分制度があればいいとつくづく思った上で、あえてお伺いする。医師と患者の対立を蒸し返すつもりはないが、極論から極論に行こうとしているように見える。かつては権威主義的医療といわれ、患者はお任せするしかない状況で、それに対してうっ屈した思いがあった。たまたま一つの事件(福島県立大野病院事件)があって、医療の現場でこんなことが起きていたと知った。話が大きく盛り上がった延長線上で、「医療版事故調をつくろう。患者の駆け込み寺をつくるべき」となってきた。そして厚労省の試案がどんどんできて、議論を積み重ねてここまで来た。すると、「これが出来上がったら医療が崩壊する」と突然いわれると、わたしの立場から患者にどう説明すればいいのか分からない。「駆け込み寺をつくったら医療が崩壊する。医者が自律的にやるから大丈夫」と言うが、医者の自律的なやり方とはどういうものなのか。「医者に任せておけば大丈夫。おれたちがやるから」といわれても、その担保は何だ。それがわれわれの駆け込み寺になるのか言ってもらわないと、患者からしたらとてもじゃないが納得できない。医師自らがここでうみを出し切る、新しいことをやっていくということを見せてもらわないと納得できない。
小松氏
これには長い議論があった。「こうやったらできる。やるべきだからできる」という考えがそもそも無理。「こうやったら大丈夫」とは申し上げられない。「こうやるべき」と、現状を無視してやると制度を壊す。それを十分考えながらやっていきましょうということ。現状も取り締まりがないわけではないので、とりあえずやっていく。「こうやったらすべて解決」というものは存在しないし、それをやったら危ない。弁護士会(の懲戒処分の制度)を参考にした試案を弁護士の友人に作ってもらったものもあるが、たいていメリット、デメリットがある。厚労省も大きなことをやるとたいてい失敗しているが、人間の予測能力には及ばないことが起きる。ステークホルダー間の意見の強さの違いで決めるには、ちょっと危な過ぎる。大きく変えないで少しずつやっていく。医者が言うべきことは刑事免責を求めることではない。こうやったらうまくいくという保証はない。未来を保障するのは、うそつきか大ぼら吹きだ。「こうなるから絶対大丈夫」という説得の仕方そのものが無理。
海野氏
事故について真相究明するということと、自律性というのは別の議論。今の流れ(厚労省案)は論外だと思っているが、真相究明しないといけない。患者も含めて一般の方々が納得いく仕組みをつくっていかないといけないというコンセンサスはある。具体的にだが、どのようにということで議論している。われわれ専門家としては、その(医療事故にかかわった)人たちがやったことをもう一度評価するということで、より生産的なやり方でやっていきたい。そのためにはそういう仕組みをわれわれの中でつくっていかなければならない。真相究明を棚上げして、「おれたちにやらせろ」という議論ではない。
土屋氏
事故調を医者だけでやるということが、医師の自律という意味ではない。事故調の議論に医師が統一見解を出せないような医師集団が情けないということ。医師の見解をまとめられないと自立した集団にならない。医師以外が入ってはいけないという議論ではない。個々の問題を積み上げていかないといけない。東京都立広尾病院の問題(1999年に起きた点滴への誤薬注入による医療過誤事件)が現場で解決しているかというとそうではない。永井裕之さん(被害者の悦子さんの夫)は、まだ都立広尾病院には出入り禁止だという。現場で解決していないということだ。こうした問題について医師側がどう解釈し、どう対処するか。一個一個のことを現場で解決し、積み重ねていくことが重要。そういうことがいまだにできていない。それができて初めて自律した医師の集団になるのでは。
木之元氏
弁護士だから部外者かもしれないが、こういう議論の時に医師と患者の対決図式は不毛だと思う。裁判をやっていて、考えが偏っているかもしれないが、医師の集団にもいろいろある。黒岩さんは「われわれ患者は」と発言されたが、こういった議論をする時の「われわれ患者」の「患者」はどういったイメージを考えたらいいのか。「声なき声」というものの「声」を聞いているかということ。医療が悪いとか、医療が隠ぺい体質を持っているという現実は否定しないが、それが大多数の国民のコンセンサスであるかのようにマスコミが報道していることはないか。わたしも子どもがいて、小児科にしょっちゅう行く。先生の発言に納得いかないことがあるが、「われわれ患者」ということでいっしょくたにされることに違和感を覚えることは多い。「われわれ患者」とはどういうイメージか。
黒岩氏
それははっきりしていて、患者や家族としての患者体験。これでいいのかなと思う体験がある。友人と話してもすぐ出る。それを踏まえての「われわれ」。医師と対立して解決するとは思っていない。双方の信頼関係を構築するということが一番大事。そのときにどこをどう歩み寄っていくのかということが必要。開業医・勤務医の対立構図が不毛というのは理解するが、どうも納得できないところがある。最近勤務医がぽっと病院からいなくなるという開業のほとんどはビルクリニック。夕方5時になると鍵を閉めて帰ってしまう。
神津氏
そんなことはない。
黒岩氏
昔の地元の名士といわれる開業の先生は引き付けを起こしたら助けてくれるなど、夜間救急医療の担い手でもあった。ぽっと開業するビルクリニックを見ると、夜間の医師の数はどこに行ってしまったのだろうと。ただの“不足”以上の“不足”が出てくる。医師は国家資格を持っているという重みがある。それは国民の財産なのだから、せっかく東大医学部を卒業した人がマッキンゼーに行ってしまうというのは大問題。われわれの財産をどう有効活用するかという時に、開業医と勤務医の問題はあらためて考えるべきだと思う。
■日本はサイレントマジョリティーが「NO」と言わない
鈴木氏
今までの医師コミュニティーが良かったとは誰も思っていない。反省すべき点はあった。自浄作用が今まで効かなかったのか、議論してきた。延長線上の改革でいけるのか。日本の医療界、消費者や国民もほとんどがまともで、ちゃんとやっている人はやっている。だが、一部のモンスタードクターやペイシェント、ペアレンツがいる。ただ、日本のコミュニティーは、サイレントノーマルマジョリティーがそれに対してノーと言わない。米国だったら、株主総会でモンスター株主に「あなたがわがままを言うと、全体が困る」と言う。しかし日本はそれがなく、執行部にお任せしている。日本の医療政策の執行部は厚労省。日本全体を改めていかないと、庶民社会から市民社会にならない。世の中で一番、社会的能力、責任、権威、正当性を付与されている医療コミュニティーが、これをできるのかというチャレンジだ。医療界でできなかったら、ほかではできない、この国に未来はないと思う。おかしいことをおかしいと認め、「こう変えます」というマニフェストは、医療界のリーダーから出さないと。それも出せないなら、最後は法律や何かでやるしかない。そういう整理をどう見極めるか。
■医師の総体、どうつくる
会場発言 久保隆彦・国立成育医療センター産科医長
20年ほど大学で教えていて学生を見ていると、この人たちが医者になって大丈夫かという人が増えてきたのは間違いなく、危惧(きぐ)している。きょうの話で、(医師の総体として)公益法人がいいかというと分からない。公益法人は参加資格がすべてオープンなシステムだから誰でも入れる。医者の総体にするということについて具体的に聞きたい。
鈴木氏
今は医師の総体がない。自律処分をやろうにも、パフォーマンスを問うにも、問う主体がない。その主体をどうするかということだが。
土屋氏
医師の総体をつくるというのは歴史的に見ても難しい。弁護士会のように、大枠は法で規制するしかないというのが感想。
内田氏
日医で強制加入という話も出て、実際には無理というのが大勢だったが、どういう経緯だったかは思い出せない。強制加入にすべきかどうかという議論は、全体でコントロールするという点ではやりやすいものになるかもしれないが、弁護士会もそれぞれ問題を抱えているように思うし、その制度でいいのかというのは今後の課題で検討させてほしい。
小松氏
内田先生と同じ意見で、慌ててやらない方がいい。医者の中に議論に参加していない人がたくさんいる。もっと議論に参加して、自分の問題であるという覚悟を突き付けないといけない。急にやらない方がいい。この3、4年の間で決着を付けた方がいい。
海野氏
先程、現場から情報開示などをして厚労省を支援していくという話をした。厚労省は本当に(現場の実情を)知らない。担当の人たちは知っているつもりではいるが、本当に分かっていないので、あの人たちにお任せしますとは到底いかない。3、4年はあっという間。学会、医師会など医師団体はたくさんあり、草の根のネットワークもある。そういうところで明確な方向性で話を進めないと、到底間に合わない。
久保氏
医学生教育から必要。医学生がこういう議論をほとんど知らない。だから(東大医学部)5年生が20数人マッキンゼーに(就職活動に)行くんだろうと思う。そこから議論をスタートしないと、われわれから議論しても遅過ぎる。
鈴木氏
医学教育もしないといけないが、今のコミュニティー改革も同時にしないと、そんなに待っていられない。5年以内に組織論は一定の方向を出さないと。先程、海野先生の話があったが、厚生官僚が無能なのではなくて、他の省庁でも10年前から起こっていること。金融、ITでも同じようなことがあって、行政対象が複雑化し、テクノクラートがルールメイキングすることは崩壊した。これが医療に10年遅れでやって来ているということ。役人はオーソライズなどはできても、ドラフティングは無理。先進各国でもそういう状況。どの業界もある時期に相当シビアな議論を徹底的にやって、ガバナンスが出来上がっている。ここで小松先生に「日本医師会三分の計」について聞きたい。
小松氏
活動内容を見ると日医自体は公益法人になるのは認可されない。専門家に聞いても、ちょっと無理と言われる。日医が開業の先生の経済的メリットについて、一番(比率として)高くやっているように見えてきたが、郡市医師会は地域のことなどをよくやっている。一般社団法人になるとしたら、もう少しそういう公益の部分と分けた方がいい。日医は、活動内容を分けた方が今までの活動をやりやすい。開業医と勤務医はけんかする必要はないが、明らかにやっている内容や利害が違う。まとまってやろうとすると、強いものが勝つので開業医が勝つというが、武見敬三さんの前までは、日医の会長は東大教授ばかりで勤務医が強かったし、そのころはそれなりに主張した。お互いに違いを納得しながらやるなら、それは公益のところでやる。そして開業医の部分、勤務医の部分があるというのが三分の計。
■勤務医と開業医の溝はどうなった
内田氏
開業医はもともと全員勤務医経験がある。勤務医が大変な状況にあるというのは、開業医にもコンセンサスがある。現場で苦労している先生にお金を回すシステムにしないと、診療報酬改定でも、ただ病院(全体としての報酬)に行ってしまうだけという認識は持っている。一方で、勤務医を辞めれば開業医は楽というのも、現実と違う。開業医が担う一次救急も現状で進んできているので、すみ分けをきちっとしないといけない。町医者の先生が昔にやっていた24時間対応は、患者の要求に通用しなくなってきている。その役割分担はちゃんとやろうと話している。医師会は開業医の立場だけで話しているのではない。
海野氏
病院で働いている現場の医者は全くそう思っていない。日医を当てにするようなことは全くしていない。わたしが医師会員に入っているのは、入らないといけないからという現実があるからということは重々理解してもらいたい。
内田氏
勤務医の若い先生は、ものすごく忙しい現場に追われていて、医師会がどういう情報を発信し、どういうことをやっているかを知らない。そういうところにアクセスしてくる時間の余裕もないのが現実。医師会からそういう方に情報を伝えないといけないという努力が足りないところはある。
海野氏
話がすれ違っている。この問題は、現実にある労働内容や収入の違い。開業して楽になるとは思っていないが、病院の状況があまりに悪く、居たたまれなくなって辞めていくということ。開業したいという選択じゃなく、単純に病院を逃げ出している。病院経営者からもらえる給料が少なく、労働環境が悪く、法令違反の状態で運用され続けている。これまでのシステム全体がそうなっている現実があり、そのシステムの中に日医があるなら、現場の医師は到底支持できない。
内田氏
日医でも労働について調査している。データもあるので提言をしている。
会場発言 村重氏
個人の意見ということで聞いていただきたい。勤務医と開業医の対立・区別というようなものは、今の議論に出ていたような現場の医師の心の中の文化のようなものもあるが、診療報酬体系によってつくられているという視点も、違う角度から持っていただきたい。米国や欧州では開業医や病院勤務医というふうに、こんなに区別されていない。開業しながら大学の助教授をしていたり、病院で一緒にティーチングや診療にもかかわっていたりと循環している。OECD(経済協力開発機構)やWHO(世界保健機関)のデータなどでも、医師数というデータはあっても、開業医や勤務医という区別はない。その区別をつくっているのは診療報酬体系。病院が大変だから開業医が夜間救急をしたいと思っても、できない状況をつくっているのは診療報酬体系という構造だということを、情報として知っておいていただきたい。
会場発言 松井彰彦・東大経済学部教授
診療報酬体系の話が出たが、(医療界が)他の分野と徹底的に違うのは、価格体系が固定・統制されていて、そこでいわゆる競争のメカニズムが働かないこと。だから産婦人科医が少なくなって大変になってしまい、臨界点を超えると給料も上がらず誰も入ってくるインセンティブがなく、ある地区ではガタガタと崩れる、ということが今の体制のままではどうしても起こる。その基本的な部分を真剣に考えないと。「ほかの分野で10年前にやられてきたから、今後ここでも同じように考えていかないと」というのではうまくいかない。医療は国民に必要で、米国のようにお金を払える人だけでなく、日本は全国津々浦々で受けられないといけないという規範や理念がある。その下でどういった体系をつくっていくべきか、価格統制という側面の抱える問題も見据えながら問題を考えないといけない。
■30万人組織が機能するか
会場発言 上昌広氏(東大医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門特任准教授)
組織論をするときに、サイズは大きい問題。医師は30万人いる。日本の職能集団で、30万人以上のものでワークしているものがあるか。日教組や農協などの組織の問題は、幹部が決めたことに構成員が納得していないこと。理事会で決めたことが現場の意見を代表していない。医療事故調査委員会の制度は、日医は賛成と言った。厚労省案と民主党案について国民が議論すればいいが、インターネット上でのある調査によると、意見が分かれている。これでは立法化なんてそもそも無理。多様だからまとまらない。何をしないといけないかというと、徹底的な情報開示。黒岩さんの話については、患者にとって日医ではなく、地元のお医者さんに関係がある。郡市医師会がワークするのは患者と接するから。30万人がワークするなんて絵に描いたもちで、世界にも例がない。インターネットでも郵送でもいいので、構成員の意見が割れているなら割れていると直接国民に伝わる仕組みが必要。そういう情報を出していけば、職能集団は変わってくる。かつては医局で教授が「おまえはなっとらん。修行してこい」と、相当厳しい処分を行っていたが、情報開示が全くなかったので「白い巨塔」といわれた。現在はそういう仕組みは取れないので、情報開示しかない。インターネットジャーナリズムができたのはこの1、2年。厚労省案に反対というネット上のアンケートまで出てきた。諸外国の団体も、運用できているかという細部の議論をしないといけない。今は30万人の医師会となったとしても、今後もっと増えて50万人になったらどういうソリューションがあるかという議論も必要。
会場発言 三村まり子・GE Healthcare執行役員法務本部長、弁護士
弁護士自治の話と、医師会の中で処分をどうするかということと、刑事処分をどうするかという話がごっちゃになっている気がする。弁護士は弁護士会の中で処分しているといわれている。その通りだが、どうしているかというと、今の日本は司法、行政、立法というつくりになっている。弁護士は司法で、規範を作る国家の司法の役割を担っているから、行政からその資格は奪われないということだけ。弁護士会の自治ということで弁護士資格を停止するかどうかというだけ。弁護士が職業上で文書改ざんや横領、証券取引法違反などをやれば当然刑事罰。弁護士自治と処分ということは違う角度の話。
鈴木氏
大事なポイントだ。大野病院事件では、司法の自律性によって医療側から見ると的確な判決が出た。医師の過剰勤務などによる医療崩壊は止まらないが、業務上過失の訴追懸念による立ち去り減少は少し治まっているだろうと。(厚労省の)第三次試案は混乱を招く議論をしていて、医療事故調をつくると刑事処分の体系がさも変わるような説明を厚労省がしたかと思ったら、条文を読むとそんなことはない。それをめぐる理解で医療界が混乱した。
会場発言 高久史麿・自治医科大学長
先程まで鹿児島に行っていた。鹿児島は離島が多いので、島の医療が問題になっていた。いろんな問題があるが、離島医療について聞くと、全部とは言わないが、医師と患者に強い信頼関係、あるべき医療がある。いろんな議論があるが、すべてのドクターが加入するようなものをつくる必要があると思う。会費を安くして入りやすいようにして。(鈴木氏の日本医学会に関する発言について)日本医学会の会長をしているが、同学会は日医の中で(日医内の組織として)決められている。大騒ぎになるとメディアが喜ぶので、(今後の在り方は)公益法人制度改革の中で医師会と議論していきたい。
海野氏
内田先生、先程は熱くなって申し訳なかった。現場ではできることを歯を食いしばってやっていこうと思う。一般の方にもこういう現状があると分かってほしい。伝えていく努力をしていかないといけない。
木之元氏
医療側の立場で弁護士をやっているが、プライベートでは患者で、皮膚科や小児科、耳鼻科にかかる。多くは先生に感謝して医療を受けているが、時として説明が足りないこともあるので、お医者さんに話して疑問を解消するようにしている。医療を受けるときは一対一でやっている。自分にとっていい医療とは何か、子どもの健康を考えながら親としてもやっているというプライベートがあるので、そういう制度をある一部で決められることによって破壊してほしくないという気持ちがある。お医者さんに感謝している側の気持ちも反映させて議論してほしい。
土屋氏
だんだん問題点が明らかになり、理解も深まった。会場の中ではそうだが、外に伝わらない。30万人いる医師の中での、ほんの微々たる集団。1億3000万人から見ればごみ粒程度。これが国民全体の認識になるよう変えないといけない。
神津氏
世界中で日本ほど診察料が安い国はない。診療報酬で医師が医師らしい技術を使うところに報酬を付けてもらい、加算などでごまかさないようにしてほしい。あすから患者さんを一生懸命診たい。
内田氏
医師会の話が随分出たが、日医は医療政策に関して政治や行政とのカウンターパートナーと思っている。医師会がどういう立場で発言するかは、医療の現場に立脚した発言でないといけない。そういう意味でいろんな意見を聞いた。
小松氏
知恵を出せばいいと思う。大々的な処分でなくても、過去よりも医者に対する厳しさは強くなっているし、辞めざるを得ない人は結構いる。そういうものを少し後押しする方法が必要で、全体像をもうちょっと明らかにしてやる方がいい。診療報酬の不正請求に関するチェックが行われているから、それを使えば大々的にでなくてもそれなりにできる。やれるところからやるのが重要だ。
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【患者と医療者の協同医療】
■どうやって世間にアプローチするか
梅村議員
阪大の第二内科にいて、今年7月の参院選で大阪選挙区で当選した。患者と医療職の溝を埋めるということで、地元でさまざまな活動をしている。わたしの秘書は、芸能人のやしきたかじんさんの元マネジャーだった。兵庫県尼崎市で医療シンポジウムをやった。地元で働くドクターと対談し、脳外科のドクターが2人しか夜中の手術ができないなど、救急の現状についての悲痛の叫びだった。参加者は700人来て、わたしたちや医師会、医療職の間では大成功だったという評価。しかし、わたしの秘書はこの話を聞いて、「この集会の何が面白いのか」と言った。わたしたちが大成功だと思った集会や訴えが、一般の目から見て、「何が面白かった」と言われ、とてもショックだった。きょうの会も満足度が高いし、大切なポイントが多い。だが、医療職や政治家という立場の当事者が発する言葉は、一般の社会との共通言語ではない可能性が非常に高い。この会に提案したい。全国でもいろんなシンポジウムがある。ではこれを世間にどうプロデュースするか。極端に言えば、芸能人やスポーツ選手、博報堂や電通を使ってもいい。これをどうやって次、こちらから世間にアプローチさせていくのか。殻を破って出て行くのか。これを一緒に考えていくことだと思う。
■無関心層にどう訴えるか
橋本議員
医療問題がいわれ、産科の立て直しが必要というのはそうだと思う。制度改正をするには予算の裏付けが必要で、どこかから取ってくる。無駄を削るのが大事だが、ある人は「無駄」と思っても、ある人は思っていないので、どう説得するかになる。大きなお金が掛かるということになると、最終的には納税するかどうかを納税者、国民に聞くことになる。当事者間の溝は、努力すればどうにかなる。だが一番大事なことは、無関心な人がたくさんいるということをどうにかしないといけないということ。その人が有権者であり納税者であり、保険料を払っている。どうやって関心のない人に関心を持ってもらうかということを考えないといけない。
治験とは生活には欠かせない医薬品、その全てが多くの方の協力によって生まれました。医薬品開発の最終過程では、臨床試験と呼ばれる人を対象とした試験が義務付けられおり、この試験には多くの方の協力が欠かせません。国から新薬としての承認許可を得る際に資料の提出が義務付けられています。その情報収集のために行われる臨床試験のことを「治験」と呼び、開発中の薬の人での有効性(効き目)や安全性(副作用)などを確認します。なお、治験は人を対象とするため、倫理面や安全面に最大限の配慮をして実施されています。
http://www.mvn.jp/html/chiken_toha.htm
投稿情報: 治験 | 2008年11 月20日 (木) 16:12